第三十三話:砂塵のレイダーズ 中編その6
【第三十三話:砂塵のレイダーズ 中編 その6】
港町クシュナール 北門付近
セツナたちがルカを発見したその頃、ルディウスたちは砂漠の陰影の中に潜んだルシーダたちの一団を確認し、城壁の内部で臨戦態勢を密かに整えていた。
ルディウスが城壁の陰から見張りの報告にあった集団を肉眼で捉えた。
砂と同じ色の布をまとい、顔も陰に紛れるような暗い色の布で覆っている。
「あれか…よく隠れている。
もし通常の監視体制であれば彼らに気づくことはまず無理だろう。
オーエン。潜伏している人数はおそらく25名程度だ」
「なに、今後来る2万に比べたらこんな数、抑えられない方が問題でしょう。
もちろん生け捕りにできるよう努力はしますが、少々手荒なことになりますよ」
「無理言ってすまない。感謝する」
「お…どうやらあいつ等が動きだしたようですね。
感謝はこの件が終わったら兵士たちに言ってやってください」
するとオーエンが部下たちにハンドサインで指示を出した。
北門には従来であれば城壁上の所定の位置には衛兵を立たせるのだが、安全面を考慮してこの時だけはカカシだ。
加えて、北門の内部付近にある建物の陰や、積まれたままの荷物の裏などに、こん棒や盾などの非殺傷武器を装備した兵士を待機させている。
「さて、どう来るか…」
ルディウスが見ていると、ルシーダたちの一部が北門の上に立たせたカカシに向かって弓矢を放った。
矢が刺さると同時に、城壁の裏に屈んでいた兵士が、カカシに括り付けた縄を引っ張って仰向けに倒す。
城門上の兵士の影が見えなくなったと同時に、砂漠の陰影の中に潜んでいた仲間が一斉に壁際の陰に走り込んで張り付く。
そしてガタイの良い二人が手首を互いに組んで腕で足場を作ると、そこを目掛けて小柄な者がその手の甲に駆け上がり、腕の力も借りて一気に城壁の上まで飛翔した。
「(なんと!?)」
ルディウスが思わず驚く。
城壁の上に音少なく着地した女は、周囲を確認する。
雲が月を覆っているため、よく見えないが、所定の場所以外の監視所に人影はなく、眼下には町の明かりがポツポツと見えている。
以前に何度か潜伏した時と変わりのない静かな夜だ。
異常なしと見るな否や、素早く北門の裏側へと飛び降り、扉にかけられたロックを解除した。
しばらくすると北門がギギギ…と開門し、城壁沿いに張り付いていた者たちが一斉に入ってきた。
盗賊団全員が城門をくぐり中に入ったことを確認したオーエンがハンドサインを兵士に送る。
すると上空に照明魔法が複数灯った。
「なに!?」
盗賊団全員が打ち上げられた照明魔法を見上げたその時、
「そこまでだ!!盗賊団ども!!」
オーエンの号令と共に、潜んでいた兵士が一斉に姿を現す。
一瞬にして取り囲まれるルシーダたち。
「くっ!待ち伏せか!!」
ルシーダが双剣を抜いて身構える。
北門側にも兵士が回り込み、逃げ道を塞いだため、ルシーダたちは円陣を組むしかなかった。
「投降しろ!」とオーエンが呼びかける。
「それはできない相談だね!!
お前たち!覚悟はいいかい!突っ込むよ!」
ルシーダは言うが早いか、一斉に盾を構えた兵士たちへと切りかかるのだった。
港町クシュナール 北の砂漠地帯 風鳴きの渓谷 砂塵のガーベイジ野営地
一方、ルカは当初ほど泣いてはいないものの、依然としてロビンに抱かれたまま、ショック状態で地面の一点を見つめたまま動かない。
視線の先には、マリアンを含め、ソマンに刺殺された5人の遺体が地面に転がっている。
セツナが遺体の一つに近づいて、その状況から何が起こっていたのか推察しはじめる。
「この遺体は外傷が少ない。
アーマーの隙間を狙って心臓目掛けて一突きされている…
相当な手練れに襲われたんだろうな。
レイダーそっちはどう?」
「こっちの遺体も同じだ。
この傷口だとスティレットだろう…
暗殺を得意にするヤツが好んで使うやつだ」
レイダーはそういうと周囲を見回すと、地面に転がった一振りの刺突武器を発見する。
「あった。きっとそこに転がっている武器でやられたんだ。
でもその手練れの姿が見えないな…逃げたのか?」
するとルカが地面の黒く焦げた蓄積物を見ながら小さな声でこう言った。
「それは…俺が…召喚魔法で捉えて燃やしてやった…」
ロビンがルカの視線を追って地面の黒く焦げた場所を見て言う。
「そうか。
一人でよく返り討ちに出来たじゃねぇか」
するとルカが灰を睨みつけながら言った。
「こいつは、子供を人質に取ってやがった」
そして何かを思い出したようにロビンに向かって言う。
「そうだ!母親たちを!レイダーズたちを助けなくちゃ!」
「そりゃどういう事だ?どこの誰を助けりゃいいんだ?」
そこでルカは、今まさにガーベイジたちがクシュナールに攻め込んでいる事、
そして今後アデル・バウロが率いる別の部隊がクシュナール制圧を目論んでいる事、
アデルがガーベイジたちの子供を人質に取って戦闘や略奪を強いている事を伝えた。
港町クシュナール 北門付近
時を同じくして、北門ではルシーダたちの必死の抵抗が続いていた。
しかし、多勢に無勢、包囲状態から抜け出す事も叶わず、ルシーダが歯を食いしばった。
「なんだいこれは…なぜみんな手に殺傷武器を持ってないんだい?
気持ち悪いね…」
すると丁度そこに、セツナからルディウスに伝達魔法が届いた。
「…なに。わかった…」
ルディウスは静かにそう答えると、ルシーダに向けてこう言った。
「ソマンはマリアンたちの手によって討たれた!」
「何!?どこでその名前を!!」
「残念だが、マリアンと一緒にいた5名はソマンと相打ちにより戦死した。
これ以上の抵抗は…」
ルディウスは無意味だと言いかけて言葉をのんだ。
するとルシーダが言う。
「こっちにだって意地があるんでね!
はいそうですかって終わりにはできないんだよ!」
するとルディウスが言った。
「それは子供たちのためという事だな!」
ルディウスの投げかけに動揺するルシーダたち。
「なっ…なんでそれを知っている!!」
するとルディウスがルシーダに向けて言う。
「私の仲間が、ガーベイジの野営地で、ソマンとマリアンたちの死闘を見届けた。
そのマリアンが死に際にこう言ったそうだ。
子供を、アイリを助け出してほしいと…」
ルディウスの言葉にルシーダたちに動揺が走る。
「アイリってマリアンの…」「アイリを助けるだって?」
すると仲間の中にいたマーラが地面にペタンと座り込んで泣き出した。
「マリアン…そんな…さっきまで一緒に…」
すると他の仲間たちからも咽り泣く声が響いた。
ルシーダがルディウスに向かって言う。
「そんな言葉を投げかけられたって、私たちの運命は変わりゃしないんだよ!
みんな言葉に惑わされんじゃないよ!!」
するとルディウスがこう言った。
「アデル・バウロに捕らわれた子供たちを我々が救い出す!」
「なんだって!?」
「アデルから子供たちを助け出し、お前たちのもとに返す」
「そ…その言葉を信じる理由はないよ!」
するとルディウスが感情的にこう言い放った。
「仲間の死を無駄にするのか。
ソマンの密告はお前たちの仲間がその命を持って阻止した。
あとはお前たちが、どう行動するかだけではないのか?」
「何が言いたい!」
「投降せよ。悪いようにはしない。」
ルディウスのその言葉に、戸惑っていたよすだったが、
一人、また一人とガーベイジの仲間の手から次々と武器を地面に落とす音が聞こえてきた。
ルシーダだけは最後まで迷っていた。
「(何か裏があるに決まっている。
代償を求めない善意なんてありゃしないからね…)」
するとマーラがルシーダに言った。
「もう止めよう」
「なんでだい!?」
「マリアンが!…でないとこのままじゃマリアンの犠牲が無駄になっちゃう…」
「…マリアン…くっ…クソがぁぁぁ!!」
ルシーダは地面に座り込むと叫ぶのだった。
こうして砂塵のガーベイジの奇襲は失敗に終わり、ルシーダたちは拘束されたのだった。
事前に奇襲を予知していた事も功を奏し、双方合わせて死傷者0という結果であった。




