第三十二話:砂塵のレイダーズ 中編その5
【第三十二話:砂塵のレイダーズ 中編 その5】
港町クシュナール 北の砂漠地帯 風鳴きの渓谷 砂塵のガーベイジ野営地
野営地ではルシーダが戻って来ていた。
「お前たち!今すぐクシュナールを奇襲するよ!
(もっとも奇襲にすらならないだろうけどね…やるしなかい)」
「マリアン!それにマーラはいるかい?」
するとマーラがルシーダの元に駆けてきた。
「なんです姉さん。」
「捉えていたヤツはどうした?」
するとマーラを追いかけて戻って来たマリアンが遠くから大声で言う。
「それはソマンに殺されたから、さっき遺体を捨てて来たところさ!」
するとマーラが何かを言いかけた。
それを見逃さなかったルシーダが聞く。
「マーラ。何か言いたそうだね」
するとマーラがこう言った。
「あ…あいつの持っていたパンはあたし等が食べちまったからもう残って無いからね」
マーラがマリアンの方をチラッと見る。
「ふん。そんな事かい?くだらないね。好きにしな。
そんな事より例の短剣はどうした?」
すると別の仲間が短剣をルシーダに手渡す。
「確かにコイツだ。これで召喚士の脅威は無くなったね…
そろそろ深夜だ。今日は雲も多い、奇襲するなら今しかないよ!」
するとソマンがニタニタしながら言う。
「俺はここでお前たちの雄姿を見守る事にするよ」
ルシーダはソマンを睨みつけると吐き捨てるように言う。
「好きにしな!お前なんていなくても私らで何とかするさ!」
するとマリアンが言った。
「ま…待ってくれ!この人数で奇襲をするのは無理だ!」
「なに!?お前、今更何を言っているんだい!」
「本隊が来るのを待って…」
「臆病者が!私らには自分の命より大事なものがあんだろうが!!」
ソマンがニヤリと笑う。
「マリアン!貴様は来なくていい!士気が下がる!
他に、この期に及んで、怖気づいた臆病者はいるかい?」
すると数名がマリアンの近くに歩み寄る。
「っち!そいつ等は置いてゆく!他の者たちは私と一緒に着いて来な!!」
ルシーダはそう言うと、マーラたちを引き連れて慌ただしく野営地を出て行った。
しばらくすると、それまでの慌ただしさは消え、野営地に焚かれた篝火の煙の臭いと、静寂が周囲に立ち込めた。
後に残されたマリアンたちは悔しい表情を浮かべながら、去ってゆく仲間に思いをはせる。
するとソマンが笑いながらマリアンたちに言った。
「お前たちは馬鹿だな。
命令違反だ…これで全員死ぬ…」
「それはどういう事だい!
ちゃんとルシーダたちは向かっただろうが!」
するとソマンが小馬鹿にした表情でこう言った。
「おや?あんたらはアデル様の命令の意図を判っちゃないようだね」
「なに!?」
「アデルの命令は“全員“だよ?
あんたら今、どこに居る?ん?ここはクシュナールか?
一人でも欠けた時点で命令違反だ」
ソマンが両手に暗殺用の刺突武器を構えながらこう言った。
「あんたらのせいで皆死ぬ。アイツ等も、子供も…」
マリアンたちは武器を抜いてソマンに対峙した。
「そうはさせないよ!ソマン!
子供たちも、私らの未来も終わりにさせやしないよ!!」
港町クシュナール 北の砂漠地帯 風鳴きの渓谷 特徴的な岩付近
一方セツナたちはフィールの後を追いかけて巨石群手前の特徴的な岩まで歩みを進めていた。
「ロビン待ってくれ!」セツナが先頭を走るロビンを止める。
「あ?どうしたセツナ」
「フィールがルカを発見した。生きてるぞ」
セツナの言葉に一行に安堵の声が漏れる。
「よかったわ」「無事だったか…安心したぜ」
「でもちょっと待って!ルカが何か地面に書いている。
何か手紙を置いて何処かへ向かうようだ」
するとロビンがヤキモキしながら言う。
「あいつ…なーにやってんだ。早く戻ってこい」
「今、フィールが旋回している辺りだ!行こう!!」
そう言うとセツナたちは巨石群の正面を迂回して側面の入り口から内部へと入っていった。
それから数分後…
巨石群の正面からルシーダたちの一団がトビ砂ネズミに跨って現れた。
ルシーダたちは特徴的な岩の横をすり抜けると、雲の影や砂漠の影を縫うように通り抜けながらクシュナールへの奇襲を開始した。
港町クシュナール 北の砂漠地帯 風鳴きの渓谷 巨石群内
一方セツナたちはルカが地面に書いた矢印の先に落ちていた手紙を発見した。
「これ、ポスカ・ハルデロからの手紙じゃない?」ユアラが拾い上げる。
すると手紙の裏に自分たちに宛てた言葉がつづられていた。
『どこかのおっさんとその仲間たちへ。
俺は今のところ無事だ。
どうやら俺にも御大将の悪い癖が出たらしい。
俺は彼女たちと共に、財団の新しい施設に入居する人たちを探しに出かける。
正直、命がけの候補者探しになりそうだ。
俺の居場所はフィールが知っているんだろ?
頼りにしていいだろうか。
もし俺が死んでもそれは俺の意志だから気にするな。
追伸:子供をもつ親って、案外強いんだな。
出来る事なら誰も傷つかずに済んだら良いけど。
甘いよな俺。』
ロビンが手紙の内容を聞いて言う。
「御大将の癖って事は、あいつ人助けをするつもりって事か?」
レイダーが付け加える。
「新たな孤児院ってそんな計画はないぜ?」
するとセツナが言う。
「きっと、ルカは子供たちを救うために行動しているんだ」
「でも誰の子供だ?」とレイダー。
ユアラが手紙の末尾を指差してこう言う。
「きっと、ルカをさらった人たちの事よ!
ほら、追伸で親の事について書いてあるし」
するとロビンが言う。
「ルカをさらった連中は子供の親たちで、何かの理由でルカをさらったって事か?」
「でもルカの性格からして、自分をさらった連中に簡単に同調するとは思えないよな?」とレイダー。
するとセツナが手紙を読み直してこう言った。
「この文章だけでは判りづらいけどおそらく…
ルカがルディウスと同じ考えで行動するって事は、子供たちは何かの事情で危機に瀕していて、その親たちは子供たちを救うか、人質に取られているために、今回の行動に出ていると考えられるかもしれない…」とセツナ。
するとセツナが耳に手を当てて伝達魔法でルディウスに話しかける。
「ルディウス。事情が変わった。
どうやらルカは連中と行動を共にしている可能性が高い」
それを見てロビンが苦笑する。
「なんでぇ。ルディウス。あんな事言っていても、しっかり手を打ってやがる」
するとルディウスから返答が来る。
「ルカが彼らと行動しているかは判らんが、今こちらでも夜陰に紛れて接近する集団を確認した。」
「ルディウス。どうやらその集団は子供たちを盾にされ、今回の行動に出ているみたいなんだ」
「事情は理解した。
相手の出方にもよるが、できるだけ生け捕りにするよう兵士に徹底しよう」
伝達魔法を終えるとセツナが言う。
「急ごう!間に合わなくなる前に。
フィール!周辺を確認してくれ!」
港町クシュナール 北の砂漠地帯 風鳴きの渓谷 砂塵のガーベイジ野営地
マリアンたちは総勢5人。
彼女たちが一斉にソマンへと切り掛った。
しかし、ソマンはまるで風に揺れる柳のようにヒラリと彼らの攻撃をかわすと、マリアンに刺突武器を突き込んだ。
ガチチ!!と火花が散り、ソマンの攻撃を受け流すマリアン。
「アンタの事は一度ぶん殴ってやりたかったのさ!」
「…」
するとソマンは無言でマリアンのみぞおちに膝蹴りを打ち込む。
ズスン!という鈍い音と共に、大柄なマリアンの身体が吹き飛ぶ。
その間隙をついて両脇から二人が同時にソマンの首を狙い剣を振りかぶる。
しかしソマンはそれを詠んでいた。
身を小さく屈めると、ソマンの頭上で二人の剣が交錯する。
ソマンは屈んだ姿勢のまま両手を広げると、二人の心臓目掛けて刺突武器をスッと突き込んだ。
「うぐっ!」「はっ!」
刺された二人は刺された胸を抑えて1歩後ずさると膝から崩れ落ちた。
「てんめぇ…ゆるさねぇ!!」マリアンと残った2人がソマンを三方向から囲む。
するとその時だった。
『力の根源たる火の女神スラティマよ。我が祈りに応えよ!』
ルカの詠唱が谷間に響いた。
見ると、ルカが魔法陣から立ちのぼった火柱の中でソマンを睨みつけていた。
「貴様!殺したはず!!」
ソマンは言うが早いか投げナイフをルカに向かって投げた。
しかしそれはマリアンの剣が弾いた。
「そうはいかないよ!」
ソマンの気がそれた隙をついて、背後の二人がソマンに剣を振り下ろす。
「死ねえ!!」「せや!!」
ガキュン!という金属の擦れる音が渓谷内に響く。
ソマンはまるで攻撃の手を詠んでいるかのように迷いなく左手を動かすと、持っていた刺突剣を頭上にかざし二人の攻撃を受け止める。
ソマンは流れるようにその場で身を捩って回転させると、もう一方の手に持っていた刺突剣をシュルっと逆手に持ち替え、立て続けにザシュ!ザシュ!!っとブレストアーマーの隙間から二人の心臓目掛けて突き込む。
グラリと倒れる二人。
しかしそこをマリアンは見逃さなかった。
ソマンの背後から剣を一閃した。
その剣はソマンの左肩を捉えた。
左肩が刺突剣を持った腕ごと宙を舞う。
「き、貴様ら!!」
ソマンは深手を負ってもな残った右手で、近づいたマリアンの脇腹に刺突剣を突き刺した。
「やれ!!!」マリアンがソマンに抱き付いたまま声を発した。
しかしルカはここに来て一瞬迷ってしまった。
「(これではマリアンも巻き込んでしまう…)」
その一瞬の躊躇をソマンは見逃さなかった。
刺突剣を軽く引き抜くと、角度を変えて、マリアンの心臓目掛けて再度、強く突き込む。
「ぐは!」マリアンが吐血する。
しかしマリアンはがっしりとソマンをホールドする。
「離せ!このガーベイジ(廃却物)が!!」
するとルカの続唱が響いた。
『彼の者をその手に抱け』
ルカの詠唱と共に女神の手が二人を包み始める。
マリアンは掴まれる寸前に力なく地面に崩れるように倒れ伏す。
次の瞬間、女神の手がソマンを掴んだ。
ソマンは見えない力で拘束されても尚、詠唱を止めようと刺突武器をルカに向かって投げつけようとする。
しかし投げ切る前に腕が女神の指先に触れ、一瞬で腕を灰に変えた。
刺突武器の狙いが大きく反れ、ルカの手前の地面に投げ出された。
「ぎゃああああ!!!」
女神の手の中で炎に巻かれたソマンは悲鳴と共に立ったまま炭化すると、ボロボロと崩れてゆく。
ルカはソマンの死を見届けると召喚魔法を解除してマリアンに駆け寄った!
「おい!!死ぬな!!」
ルカがマリアンを抱きかかえると、マリアンが吐血しながら言う。
「…子供を…アイリを…」
「判った!しゃべるな!今止血する!!」
するとルカの腕をギュッと握るマリアン。
そして目を見開いて霞んだ目でルカを凝視しながら声を絞りだした。
「…ああ、アイリ…よかった…」
マリアンの表情が一気に柔らかい笑顔に変わる。
「おい!!子供を残…」
ルカの腕を握っていたマリアンの手から力が抜ける。
ルカは言いかけた言葉を飲み込んだ。
そのままどこか別の方向に視線を向けるマリアンを抱き締めてルカは狼狽した。
「嘘だ…こんな…こんな事あっていいのかよ…」
しかしマリアンはルカの腕の中でその呼吸が消えた。
「うわあああ!!!」
ルカの悲痛に満ちた声が響く。
するとそこへセツナたちが駆けてきた。
「ルカ!!」「大丈夫か!」「怪我は!?」
真っ先に駆け寄ったロビンがルカを抱き締める。
するとルカがロビンの胸に顔を埋めて叫んだ。
「助けられなかった!!俺が…うわぁぁぁ!!」
ロビンは周囲の状況を見て悟ったようだ。
何も言わずにルカの悲痛な叫び事、分厚い胸で抱き締めるのだった。




