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第三十一話:砂塵のレイダーズ 中編その4

【第三十一話:砂塵のレイダーズ 中編 その4】

港町クシュナール 北の砂漠地帯 風鳴きの渓谷 砂塵のガーベイジ野営地

 ソマンはたった一投のナイフでルカを地面に沈めると、音もなくどこかへと立ち去った。


胸に刺さったナイフを手で押さえたまま仰向けに倒れたルカの周囲には血が広がっており、火の女神の魔法陣の残り火が地面にチラチラと揺れている。


するとルカを蹴り飛ばした大柄な女がルカへと歩み寄って言う。


「こいつ、孤児院が何とか言ってなかったか?」


「なんかこのパンが孤児院の子たちが作ったとか言っていたようだったね」


大柄な女はルカを見て何かに気づいたようだ。


「とにかくソマンの命令だ。面倒だがこの死体を運ぶよ」


大柄な女はそういうと、ルカを肩に担ぐ。


すると肩を伝わってルカの心臓の鼓動が聞こえてきた。


投げナイフは外衣の内側に着こんでいたチェーンアーマーが受け止めていた。


ルカは、ナイフを避けきれず、仰け反った姿勢のまま仰向けに倒れたので、後頭部を強打していた。


そこは日中に大柄な女に殴られた部分でもあったため出血し気を失ったようだ。


「(運が良いのか悪いのか判らないヤツだ…)」


するとルカの懐から手紙がヒラリと落下しながら滑空する。


手紙は滑空すると、近くに立っていた小柄な仲間の足元へと滑り落ちる。


「ん?これは?」小柄な仲間が拾い上げる。


「あぁ、そういえば最初にこいつ等のパーティーに接触した時、何やら騒いでたな」


すると周囲の仲間が手紙に興味を惹かれたのかこう言う。


「それ何が書いてあるの?マーラ代読を頼むわ!」


すると、大柄な女が止める。


「それは後回しだ。先にこっちを片付けるよ。

マーラ!私についてきな」


するとマーラと呼ばれた女が言う。


「えっ。死体処理ならサンドワームの巣に捨てに行くだけでしょ?

マリアンだけで行きなさいよ」


「うっせ!いいからマーラも来いてんだよ!その手紙も持ってこい」


こうして大柄な女マリアンと、小柄な女マーラは連れ立って、死体処理に使用している砂漠の方へと歩いて行った。


 周囲にソマンの姿も、マーラ以外の仲間の姿も無いことを確認すると、マリアンがルカを地べたに寝かせながらマーラに言った。


「マーラ。こいつに回復魔法をかけてやれ」


「えっ!死んでなかったの?!」


「どうやらこの出血は頭部からのようだ。傷を見てやってくれ」


「わかったわ。でもまた暴れたらどうするの?」


「その時はまた殴り倒すまでさ」


傷が魔法によって縫合され、しばらくするとルカが目を覚ました。


「あれ?ここは…俺は何を…いっ!!」


ルカは不意に襲ってきた後頭部の激痛に顔をしかめながら、周囲を見回す。


すると、自分を蹴り飛ばした大柄な女に目がとまった。


「お…お前!さっきの!」


するとマリアンが「大きな声を出すな!」と慌ててルカの口を塞いで体を抑え込む。


「し!静かにしろ。暴れんな!」


するとマーラがルカに言う。


「こんな所をソマンに見つかったら今度こそ殺されるわ!」


その言葉にルカは肩の力を抜くと、静かになった。


「よし。手を放すから騒ぐなよ」


マリアンがゆっくりルカの口元から手を放す。


そしてルカにこう聞いた。


「お前、パンは孤児院の子供が作ったって言ってたよな。

それはどういう意味だ?」


するとルカが言う。


「そのままの意味さ。

俺がポスカ・ハルデロで保護した子供たちが作ったパンだ」


「子供たちを保護してるってなんだ?

まさか強制労働させてんのか!?」とマリアン。


するとルカが慌てて否定する。


「強制労働なんかさせるもんか!

ワケあって、今は孤児院を運営しているんだ」


するとマーラがルカの手紙を開いて「嘘は言って無さそうよ」と言う。


「あ!それ返せ!」とルカ。


するとマリアンが手紙を奪ってこう言った。


「なんだい?そのワケってのは?正直に話したら返してやる」


するとルカは面倒くさそうに説明した。


「俺はポスカ・ハルデロでスリをしていた。

孤児院で保護した子供たちも俺と同じ身の上のやつらばかりさ。

ポスカ・ハルデロで、俺と一緒にいたパーティーが、俺たちスリ集団の元締めを倒して、スリの組織は解体された。

でも元締めが捕まって組織が解体されたからって、子供たちの境遇はそう簡単に変わりはしねぇ。

だから俺が元締め共に掛かっていた賞金をつぎ込んで孤児院を作って、子供たちに生活基盤を提供したのさ。

お前たちがさっき食べたパンは、その子供たちが今後の生活の足しにするために考えた、最初の商品だ。

ま、今となっては食べた感想は子供たちに書けそうにないがな…」


ルカの皮肉ったその言葉に、マリアンとマーラは黙ってしまった。


ルカはマリアンの手から手紙を奪い返すとこう質問した。


「それはそうと、なんで俺を狙った。

狙うなら行商人の馬車を襲撃するほうが見返りは良いはずだぜ」


するとマリアンが言う。


「これまではそうしてきた。でも今回は狙いが違う…」


「マリアン!」


マーラがマリアンを慌てて止める。


「いいんだマーラ。どうせコイツに話しても今更、事態は変わりやしないさ」


するとマリアンがルカに言った。


「私らはこれからクシュナールを襲撃するのさ」


マリアンの言葉にルカが聞き返す。


「あの人数で襲撃するのか?」


「そのつもりだ。だから少しでも戦力を削ぐ必要があった。

お前の召喚魔法は無視できない脅威だったからねぇ」


「脅威って…そもそも戦力差がありすぎるだろ…」


するとマリアンの表情が急に曇る。


「選択の余地はないのさ。

無理だろうが無謀だろうがやる事に違いはないさ」


するとルカが鋭い目でマリアンを見てこう言う。


「その顔…俺もよく知っている。

諦めの顔だ…

その顔をする時は、自分の大切なモノと引き換えに自分自身が窮地に追い込まれた時にする、絶望の淵に立った人の表情だ」


するとマリアンがため息をついて重い口を開いた。


「さすがは同じ環境にいた人間ってところだね…

私たちは、表向きは有名な盗賊団を名乗っちゃいるが、今回は捨て駒扱いなのさ。

本隊はアデル・バウロが率いる別の部隊がクシュナールを制圧するだろう。

私たちは強襲偵察を行い、クシュナールの戦力を把握するのが今回の私らの役割さ」


するとルカが苦笑しながら言う。


「…こんなバカげた作戦にどんな意味があるんだ?

お前らは確実に死ぬぞ」


するとマーラが腹立たしけに言う。


「そんな事言われなくてもわかっているわよ!

でもやるしかないんだ!」


するとマリアンが諦めた表情で言う。


「私たちは、子供を人質にとられてるんだ…」


その言葉にルカがマリアンに聞いた。


「子供が人質?!どういう事だ?」


「…もし私たちが命令に背けば、アデルの監視下に置かれている子供たちが殺されるんだよ」


するとルカが呆れたように言う。


「汚ねぇ…やり口はどこも一緒だな。

で?子供たちの身の安全と引き換えに、お前たちは捨て駒にされるのかよ。

それで納得できるのか?」


「当然、納得はできないさ。

でもそれは私たちが汚い血の生き残りだからさ…」マリアンが吐き捨てる。


するとマーラがため息交じりに言う。


「一度、私たちの親世代は子供だった私たちを助け出そうとしたのよ。

前のボスはゼヴァ・アルビスという誰もが慕う女傑だったわ。

一斉発起した仲間は800名を超えていたと思うわ。

でも数で押し切られ失敗した。

ゼヴァは公開処刑され、それ以外の仲間も見せしめとして次々と殺されたわ。

私らはその時の子供たちの生き残りでね。

私たちは、アデルの慈悲で今はこうして生きているのよ」


ルカは絶句した。


「それでそんな無謀な作戦をこれからするのか?死ぬと判っていて。

もっと良い立ち回り方もあるんじゃないのか?

子供を助け出すとか」とルカ。


「知った口をきくんじゃないよ!」


マーラが言い放つ。


「そんな簡単じゃない!

さっき話したよね。失敗したって。

その結果を知りたい?

あの時ね、フラット公国の兵士と結託して打ち負かしたアデルは、敗戦したゼヴァ・アルビスの勢力に選択肢を与えたのよ。

子供が犠牲になるか、親であるゼヴァたちが犠牲になるかを迫ったのよ。

その結果、私たちはゼヴァたちの、母親たちの命と引き換えに生きながらえた!

でもね、反乱分子の子供はアデルたちの保護は受けられなかった。

私らは砂漠に放り出され、補給も無いまま、盗賊団として生活してきたんだ。

さっきアンタを殺そうとしたソマンだって、アデルから送られたお目付け役なのさ!

逃げられやしないんだよ」


「そんな…そんな理不尽が通ってたまるかよ。

残された子供はどうなる!」


「アンタ本当に解っちゃいないね!

私らはここで死ぬだろうさ!

でもね、それがあの子たちに母親として残してやれる唯一のものなんだよ」


するとマリアンが大きな背中を振るわせて泣き出した。


「…子供たちに罪はない。

どんなにレイプ野郎の間にできた子であってもかわいいんだ。

子供に会いたいなぁ…」


「どこまでも腐ってやがる」


ルカは怒りに握った手を震わせる。


そしてルカが静かに聞く。


「その子供たちはどこで監視されているんだ?」


「聞いてどうするんだ?」


「助け出す。」


「それは…無理だ。

アデルのバックにはフラット公国の連中が付いている。

アデルを攻撃したら最後、フラット公国が復讐しに来る」


するとルカが言う。


「子供たちを助け出してから考えるとかじゃダメなのか?」


するとマーラが言う。


「あんた理想論ばかりで、現実が見えてないようだね。

私らは子供たちのためにここで死ぬ。

私らの親がしてくれたようにね!

子供を危険な賭けに使う気はないからね!」


マーラはそう言うと仲間の元へと帰ってしまった。


ルカが一人残ったマリアンに聞く。


「俺は誰かに流されるまま、自分の死に場所もろくに決められずに死ぬより、抗って死ぬ道を選ぶ性格だが…

ま、お前らがそれを望むのなら好きにすればいい」


「…失敗したら皆死ぬ。私も子供も…でも私らが成功すれば…」


「残念だが、今のお前たちじゃ、どちらの未来も掴めやしないよ…」


「…じゃあ、どうすればいい?どうしたら助かる?」


「助かる?助かる気もないヤツを、どうやって助けりゃいいんだよ?」


するとマリアンが沈黙した。


そして唇をキュっと結んで、絞り出すように言った。


「…それでも、助けてくれ」


「あ?」


「…できる事なら何でも協力する…子供たちを助けたいんだ」


マリアンの言葉にルカは決意をした。


「なら、子供たちがどこに居るのか教えてくれよ」


こうしてルカはマリアンから子供たちの居場所や戦力について聞いた。


「後は、おっさんたちにこれをどう伝えるかだが…」


するとルカは上空を飛翔するフィールの影を確認した。


そこで自分の懐からポスカ・ハルデロから送られてきた大切な手紙を出した。


そこの裏にルカはこう書き込んだ。


『どこかのおっさんとその仲間たちへ。


俺は今のところ無事だ。


どうやら俺にも御大将ルディウスの悪い癖が出たらしい。


俺は彼女たちと共に、財団の新しい施設に入居する人たちを探しに出かける。


正直、命がけの候補者探しになりそうだ。


俺の居場所はフィールが知っているんだろ?


頼りにしていいだろうか。


もし俺が死んでもそれは俺の意志だから気にするな。


追伸:子供をもつ親って、案外強いんだな。


出来る事なら誰も傷つかずに済んだら良いけど。


甘いよな俺。』


ルカは手紙を地面に置くと、フィールに見えるよう矢印を地面に書き込み、マリアンの後を追って仲間の元へと戻っていった。


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