第三十話:砂塵のレイダーズ 中編 その3
【第三十話:砂塵のレイダーズ 中編 その3】
港町クシュナール 北門付近
セツナたちは波止場の積み荷置き場を後にすると、ルカを救出するべく、宿屋で装備をかっさらうように掴んでフィールの誘導で北門へと走り出した。
一方ルシーダは、セツナと別れると、仲間の元に戻るため北門をくぐろうとした。
すると兵士たちがルシーダを止めた。
「お嬢さん!外は危険です。門を閉じるので離れてください!!」
兵士の一人が、ルシーダの目の前で慌ただしく門を閉じようとしている。
「待って!お願い。通して!」
ルシーダが言う。しかし
「戦軍神官殿の命により、クシュナールは封鎖されます。
危ないから下がって!」と兵士に羽交い絞めにされた。
「(っち。か弱い町娘なんかになるんじゃなかったよ!)何があったんです?」
すると兵士がこう言った。
「口外するなと言われています」
「私の家族が外に居るんです!危険があるなら知らせないと!」とルシーダ。
「すまないが、それでも外へは出せない。
これからフラット公国がここに攻めて来るかもしれないんだ。
我慢してくれ…もし家族がいるなら我々が探しに行こう。
どこにいるんだ?」
「(仮面王が動く!?早すぎやしないかい?約束の期限までまだ2日。仮にアデル・バウロの本陣が動いたとしても、占領には1日以上はどう頑張っても要するってのに…まさか!?子供たちは!?)いえ…もう大丈夫です」
ルシーダはそう言うと北門を離れてフラフラと歩きだすと、街角の隅にトスっともたれ掛かった。
「(まさか…私等が遅かったばっかりに子供たちが…ソマンのヤロウ…)」
すると北門が何やら騒がしい。
見るとセツナたちが兵士と話している。
「なんで通せないの?」とユアラ。
「だから、戦軍神官殿の命令で、封鎖されたんですよ」と兵士が言う。
するとロビンが兵士に聞き返す。
「戦軍神官?それってぇと…ルディウスの事かい?」
「なっ…(なんで呼び捨て!?)そうだルディウス様の命令だ。
だから通せんのだ!」
するとセツナが言う。
「そうだ。ルカの事ルディウスは知らないんだ!今すぐ会いに行こう!」
「(なんだこいつら、馴れ馴れしい奴らめ…)そんな簡単に戦軍神官殿に会えるわけがなかろう。冗談は良いから早く帰れ!」
兵士がうっとおしそうにセツナたちをあしらった。
セツナはフィールを呼び戻しつつ、ルディウスのいる、商工会議所に向かおうとすると、ルシーダが近づいてきた。
ルシーダはわざと胸元を少し開いて、こぼれそうな胸を強調しながら声をかけた。
「あら。さっきはごめんなさいね。女の子は無事?ルカ君だっけ?」
するとユアラが冷たく言う。
「急いでいるので。それじゃ!」
「(っち。男どもだけならこれでいけるのに…)ちょっと待って!…ください」
「なによ」
「実は私もあの門を抜けて家族を連れ戻さなきゃいけないのよ。
でも門衛が融通きかなくて困ってるのよ」
するとロビンが言う。
「町の外に家族って、もうそろそろ夕暮れだぜ?大丈夫なのかよ」
「(チャンス!)そうなのよ!心配だから迎えに行こうとしたのだけど…」
するとあの出来事いらい沈黙していたレイダーが口を開いた。
「…なら俺たちと一緒に出ればいいんじゃね?」
するとセツナも言う。
「そうだね。家族がどこに居るのかは知らないけど、さっきの奴らも近くに潜んでいるだろうし、もし方向が一緒なら途中まで護衛できるし」
「(あっは~青いねぇ…男どもはバカだね。でもこれで門を抜けられる算段ができたね)助かるわ。私一人じゃ怖いもの」
するとユアラが言い放つ。
「私は反対です!!
どこの誰かも判らない人の護衛だなんて。
そもそも、もしかしたらアイツ等の仲間かもしれないじゃない!」
「そりゃ…まぁ」とレイダーが頭をかく。
するとルシーダがユアラに言う。
「私の名前は…ティア。
お嬢ちゃん。私は偶然あの場に居合わせただけよ。
それに、あの連中は本当に怖いのよ」
それを聞いてもなおユアラの疑念の目はルシーダに注がれる。
「(っち。これだから女の感は危険なんだ)ねぇ旦那方。協力してくださらない?」
するとロビンがルシーダを観察しながらこう言った。
「…今は時間が惜しい。とりあえずルディウスに会いに行こう」
「そうだね。ユアラ…今はルカの救出が最優先だ。だろ?」とセツナ。
「…んーもう判ったわ!行きましょ」
こうしてルシーダを同行させてルディウスの元に向かう一行。
途中、ロビンがセツナに耳打ちした。
「(気をつけろ。おそらくあの女、手練れだぞ)」
「(えっ。なんで判るのさ)」
「(ほれ、最初に会った時、俺がアイツの肩を握ったろ?
町娘にしちゃ、筋肉質だったんだ。
ありゃあ、訓練された剣士の筋肉の着き方だ。
それに重心移動のブレが気持ち悪いほど少ない。
おそらく体術もかじってるにちげぇねぇ)」
「(わかった。後でユアラとレイダーにも伝えよう)」
港町クシュナール 商工会議所
セツナたちがルディウスのいる商工会議所につく頃には、太陽が砂漠の海にうっすらと残る程度だった。
仮の執務室となっているためか、建物の出入り口には衛兵の姿があった。
ロビンが衛兵に声をかける。
「ルディウスはまだ中にいるかい?」
「ハ!おられます」
「そんじゃ入るぜ!」
「どうぞ!」
北門の衛兵と比べ、こちらの兵士はあっさりとロビンたちを中へと入れる。
「(な…なんですんなり入れるんだい?!戦軍神官といやぁ、聖騎士団のトップと同列なんだよ!?)」
セツナたちのただものじゃない雰囲気に、危機感を覚えたルシーダ。
「私はここで待つわ」
ルシーダは冷静さを装いながらセツナたちを出入口で見送ることにした。
「フィールもここで待っていてくれ」とセツナ。
すると上空にいたフィールがスーっと商工会議所前の道に降り立つと、ルシーダの真横に着地する。
「うわ!!」「ひっ!!」
思わぬフィールの登場に兵士とルシーダが声をあけた。
執務室の前まで来るとロビンが呼ぶ。
「ルディウス。話がある。ちょっといいか?」
すると室内から声が聞こえた。
「かまわん。入ってくれ」
部屋に入ると、所狭しと書類が重なっている。
部屋の中央では地図を見ながらルディウスと、オーエンが何やら神妙な面持ちで話をしていた。
「ロビン。丁度良いところに来た。私も相談したい事があったのだ」
するとレイダーが慌てて言う。
「聞いてくれ!ルカがさらわれた!」
突然の爆弾発言に、流石のルディウスが思わず自分の耳を疑う。
「えっ…なに!? ルカに何があった!?」
そこでこれまでの経緯をルディウスに話す。
「状況は理解した。それでルカは今どこにいるんだ?セツナ」とルディウス。
「フィールの偵察では、地の神殿の近くの巨石群に連中と一緒にいる」
「わかった。すぐに北門の門衛にセツナたちを通すように言おう」
そしてルディウスが傍らにいた兵士に指示を出す。
すると兵士たちが北門の門衛に伝えに駆けだしてゆく。
ロビンがルディウスに聞く。
「ルディウスも行くだろ?」
しかしルディウスは少し悩んだ。
「今は同行できない」
「何でだ!ルカが心配じゃねぇのか?」ロビンが吠える。
「事態が深刻なのは判っている。
しかし、今はこのクシュナールの民を護る責務もあるのだ」
「クシュナールの民も大事だろうよ。
だがよ!一緒に旅する仲間はもっと大事じゃねぇのか!」
「…すまん。私は…」
「あー!判ったよ!行かねえってなら、時間の無駄だ!行こうぜ!皆!」
ロビンはそう言うなり部屋を出てゆく。
するとレイダーも、ユアラも無言でロビンの後を追って部屋を出て行った。
セツナがルディウスに言う。
「ルディウスの気持ち、今の俺なら判るよ。
信頼しているから任せたんだよね。
行ってくるから、クシュナールの人たちの事は任せるよ」
「気持ちを汲んでくれてありがたい…」
執務室のルディウスを一人残して、セツナも皆の後を追って部屋を出てゆく。
セツナが部屋を出ると、オーエンがルディウスに言う。
「仲間なら判ってくれますよ」
「ああ、そうだな…」
外に出ると、ティア(ルシーダ)の姿はすでに無かった。
レイダーが衛兵に聞く。
「あれ彼女は?」
「なんでもトカゲは苦手だとかで…」
するとユアラが言った。
「やっぱりね。きっと逃げたのよ」
「その事だけんどよ…」ロビンが彼女に触れた時の違和感を二人に伝えた。
するとそこにセツナが遅れて出てきた。
「遅いぞ!」とロビン。
「ごめん!急ごう!!」
港町クシュナール 北門
その頃、北門にはルシーダ姿があった。
門衛にルシーダが言う。
「もう、あの話は聞いているかい?」
「あの話っていうのは?」
「ルディウスにこの門を通行できる許可が下りたって話だよ」
「ああ、それは伺っています」
「なら、通しておくれ」
「いや、あなたは誰なんです?」
「(じれったいねぇ…)」
ルシーダはセツナたちの会話から何となくだが同じパーティーである事を理解していた。
「あたしはこう見えて、ルディウスたちと同じパーティーなんだよ」
「えっ?ああ、そうでしたか」
門衛はそう言うと、門を開けさせた。
「後から他の仲間が来るだろうけど、私一人で良いってルディウスが言っていたからね」
「えぇ!そうなんですか?」
「もう夜だし、物騒だからさっさと閉めちゃいな」
「えぇ。もちろん、そうします」
しばらくするとセツナたちが北門に到着する。
「ルディウスの話はもう聞いているよな」とロビンが門衛に話しかける。
「はい。伺っています」
「なら、早く開けてくれ」
「えっ?」
「ん?なんだ?俺たちを通すって話になっているんじゃねぇのか?」
「いや、さっき同じパーティーの方が先に出られて…他の人たちは別に必要ないと…」
兵士が混乱している。
するとユアラが言う。
「やっぱり!!」
レイダーが悔しそうに「…あのやろう」と両手の拳をガツンと突き合わせる。
するとセツナが門衛に言う。
「今すぐここを開けてくれ!彼女が危ないんだ!」
すると兵士はさっきの人の事だと勘違いした。
「あっ…はい!今すぐ!!」
衛兵が門を開けると、セツナたちは巨石群へ向けて駆け出す。
セツナがすぐさま詠唱する。
『纏え!(疾風の加護よ、我らを速めよ)』
風の支援魔法がセツナたちを覆う。
「フィール。先に行って様子を確認してくれ!」
すると上空を旋回していたフィールが、巨石群の方向へ飛翔してゆく。
「後を追おう!!」
セツナたちはフィールの後を追うのだった。




