第二十七話:砂塵のレイダーズ 前編
【第二十七話:砂塵のレイダーズ 前編】
ルカは回復士とユアラの献身、そしてサラマンダー戦で出た大量の氷による冷却処置が功を奏し、2日で調子を取りもどした。
「完・全・復・活!! 俺!!」
宿屋を出るなりルカが皆の前で身体全身を使って元気アピールをする。
それを見てセツナが言う。
「一時はどうなるかと思ったけど、その雰囲気だと大丈夫そうだね!」
「ありがと!皆!」
「おうよ!あんま、心配かけさせんな」とロビン。
するとユアラがルカに船長からの預かりものを手渡す。
「ルカ。これ、船長から預かっていた短剣」
ルカは短剣を受け取ると太陽に短剣をかざす。
するとうっすらと向こうが透けて見える。
「おお!スゲーこれ。
綺麗な模様がなんだかかっこいいな!」
そしてルカが短剣を逆手に握ると、シュ!ピュ!とシャドー剣技を披露する。
「そこまで重くないし、扱いやすい。良い短剣だな」とルカ。
するとユアラが補足説明する。
「その短剣、船長が言うには、魔法を補助する魔法剣らしいわ」
「へぇ…どれどれ…」
すると早速ルカが手を地面にかざして詠唱姿勢に入る。
ロビンが止めに入る。
「待て待て。ここで召喚して大丈夫なのかよ!?」
するとルカが言う。
「大丈夫、指先だけだって。
部分召喚するだけだからよ!」
するとルカが詠唱を開始する。
『英知の根源たる水の女神ツリョーセよ。我が声に応えよ。』
すると短剣が青く輝いたかと思うと、
ルカの足元に青白い光と共に魔法陣がフワリと浮かび上がる。
そしてその魔法陣から濁りが一切ない透明な水がボコボコと湧き出ると、
一瞬にして水の柱がセツナたちを水中に沈め、女神の姿に変貌した。
宿屋の目の前で詠唱したので、魔法陣から噴き出した湧き水に巻き上げられて、宿屋の壁に突き出た看板と、日除け用に張られたホロが上空に高々と吹っ飛ぶ。
するとルカが感動しながら言う。
「おお!この短剣持って詠唱すると、以前より負担なく召喚できる!!
でも、イメージよりだいぶ威力出たな…指先だけの部分召喚で良かったのに…」
それを聞いてルディウスが驚いたように言う。
「ほぅ…この地で水の女神を完全召喚したか…興味深い」
レイダーが慌ててルカに言う。
「すぐ解除だ。宿屋の店主が出て来るぞ!」
「あ、やべ…」
『ツリョーセよ戻りたまえ』
すると水でできた女神が一瞬にして崩壊し周囲に滝のようにザバン!!と流れてゆく。
召喚解除で発生した激流で流されかけるセツナたち。
「わっ!」「マジかよ!」「キャ!」「ぬわ!」「…ふむ…」「ブルル!!」
表の物音を聞きつけてドアから出ようとした宿屋の店主が、解除した激流に押されて、ドアごと店内に押し流される。
押し流される事は無かったものの、ずぶ濡れになるセツナたち一行。
地面には不自然な水溜まりが至る所に出来ている。
すると宿屋の店主の声が室内から響いた。
「なにしてくれてんだテメぇらあぁぁ!!」
レイダーが慌てて言う。
「いけね!宿屋の店主に何言われるかわからねぇ。とんずらするぞ!」
「え…お、おう!」ルカが慌てて市場の方へと駆け出す。
セツナたちもルカの後を追ってその場を離れた。
思わぬ水浴びをした後に、炎天下の街の中を走ると爽快だ。
ロビンがルカに言う。
「おい。どこまで走るんだ?」
「えっ…決めてねぇ!とにかく走れ~」
ルカを追って走るうち、クシュナールの門前の広場まで来た一行。
すると門前に神官と兵士が待ち構えていた。
「一同、止まれ!!」
するとルカが急制動して素直に止まる。
「なんだ?俺たちに用か?」とルカ。
すると神官が歩み出てこう言った。
「地の神殿での一件。
私とて節穴ではない。
戦軍神官のルディウス殿はいるか?」
するとルディウスが歩み出る。
「私だが?」
「おお。ルディウス殿…ん?なぜずぶ濡れで?」
「まぁ…暑さ対策…だな」とルディウス。
「そ…そうでしたか。
それよりも、我々の地の神殿の一件、どうか上層部への報告はご容赦願いたい」
神官はそう言うなり深々と頭を下げる。
するとルディウスが神官に言う。
「私に貴方とマルセル商会との間で行われていた氷の売買、
そして、その売買によって封印していたサラマンダーが解き放たれた事を黙認せよと?」
「…恐れながら…」
「神官殿…私は地の神殿の荒れ様を見た。
まるで打ち捨てられて居るかのような荒廃だった」
「そ…それは…」
「その上、私に片棒を担げとは…」
ルディウスの侮蔑に満ちた視線が神官を貫く。
すると神官が豹変して兵士たちに言う。
「この者たちを拘束しろ!!」
しかし神官の声が虚しく響いただけだった。
兵士は戸惑いながらも、神官の命令に従おうとはしなかった。
兵士が互いに顔を見合わせると、一人が振るえる声で神官にこう告げた。
「…我々はこれ以上、神官殿に関わるつもりはありません…」
兵士たちはルディウスたちをチラッと見てさらに言う。
「それに…彼らは…サラマンダーから町を救った英雄です」
それを見てルディウスが頷き、兵士たちに言う。
「兵士たち…戦軍神官としてここに命じる。
この神官を拘束し、幽閉せよ」
すると兵士が即座に神官に近寄る。
「待て!なぜだ!お前たちにだって分け前を…」
「戦軍神官の命令だ。拘束させていただく!」
神官は兵士にあっと言う間に地面に組み伏せられた。
神官が叫ぶ。
「私がいなければ、この街の魔煙は枯渇するぞ!すぐに拘束を解きたまえ!!」
するとルディウスが神官を睨んで言う。
「案ずる事はない。
君の代わりとして、速やかに別の神官をこの地に送ろう。
そして君にはこちらも聞きたい事がある」
ルディウスの冷たい視線とその言葉に、神官の身体から一気に力が抜け黙り込む。
すると兵士の一人がルディウスの前に片膝をついて言う。
「申し訳ございません!
まさかこんな事態になるとは…
この一件、我々も罰を受ける覚悟はできております」
するとルディウスも兵士と同じ視線になるよう膝をついてこう言った。
「君は忠実に任務を遂行していただけだ。
時として組織は簡単に狂う。
しかし君は最後に自分の正しいと思った行動をした。
私は、君のような者がこの地に居てくれたことを神に感謝しよう」
こうして、クシュナールの神官は拘束され、後に別の神官によって地の神殿の復興がされる事となった。
後に真相が明らかとなったのだが、神官は、一般人が立ち入る事を禁じていた聖域に立ち入らせるばかりか、自由に出入りさせ、封印のための氷を切り出させては、私腹を肥やしてした事が発覚した。
地下3階に鎮座していた吸魔石は幸いサラマンダーの直接の干渉を避けたが、氷漬けになっており、掘削作業が急がれている。
ルディウスは、クシュナールの人々のため、代わりの神官が到着するまでの間、日々の糧となる魔煙の分配の役割を買って出た。
本来であれば、吸魔石に触れるほど近くに空の吸魔石を近づけて分配するのだが、距離が遠いため、時間を要した。
しかしクシュナールの人々は、日ごろから逆境の中での生活を送っていたためか、我慢強く、ルディウスの献身に感謝の言葉を述べつつ、特に暴動になる事もなかった。
一方、氷漬けになったサラマンダーは、住民たちの手で解体され、高熱に耐える表皮は装備の材料、一部のツメや心臓はその希少性から商人が買い取り、一部は食料へと変わった。
ユアラがフィールにサラマンダーの肉を差し出す。
「ほら。特別なお肉だよ~」
それを横目で見ていたロビンがセツナに言う。
「おい飼い主…フィールにあんなもん食わせて大丈夫なのか?」
「ん~…実は判らないんだよね…でもユアラがどうしてもあげたいって言うからさ」
「あー…ユアラはそういうところあるよな…言い出したら聞かねぇよな」
「あ!食べた!!よ~しよし。良い子ですね~」とユアラが肉にがっつくフィールの頭をなでる。
するとフィールの背中にサラマンダーと同じ炎がボッと湧き出た。
「あっつ!!」ユアラが思わず手を退ける。
「ほーらみろ。なんだかフィールがおかしくなったぞ」とロビンが慌てる。
するとフィールは、自身の背中の炎を首を回して確認すると、
まるで何事も無かったかのように、また肉を食べ始める。
フィールは背中の炎をコントロールできるらしく、フッと炎を消してみせた。
それを見たセツナが言う。
「フィールに跨るのが怖くなってきた」
するとユアラがフィールに言う。
「あら。フィールはお利巧なのね~
ちゃんと自分で炎を操れるようになったの!偉いわ」
そしてセツナに言う。
「フィールってすごいわ!食べた物から能力を引き出せるみたい!」とケラケラと笑う。
「ユアラ。手は大丈夫だった?」
「一瞬だったから大丈夫。ありがと」
「フィールってそんな能力を持ってたんだね」
するとユアラがニンマリしながら言う。
「もし水龍系の魔物を食べさせたらどうなるのかな!」
それを聞いてロビンが慌てて言う。
「フィールにゲテモノ食わすな。腹壊したらどうする」
するとユアラが「そーよね…」とだけ返すと、またサラマンダーの肉をフィールの鼻先に突き出した。
それを見たロビンがセツナに耳打ちする。
「おい。飼い主…
注意すべきはユアラだ。
おめぇ彼氏なんだからちゃんと見張っとけよな」
「えぇ…!?」
セツナは思わず後ずさるのだった。
一方ルカはレイダーと共に、郊外の砂漠で数十メートル先の岩を敵に見立てて、
魔法の練習をしていた。
首から吸魔石を下げ、意識を集中するべく目を瞑るレイダー。
「(集中しろ!俺!)」
レイダーが目を見開いて詠唱する。
『焼き尽くせ。貪欲なる炎よ、彼の髄まですすり燃やし清めよ』
するとレイダーの手元から炎が噴き出した。
しかしその炎は手元から離れる間もなく大気に散る。
「うわっち!!」レイダーが自分の出した炎魔法で手を焼きかける。
「アツっ。難しいな、セツナたちどうやってあんなの撃ってるんだ!?」とレイダー。
すると隣でルカが言う。
「んなもん感覚だよ。こうギュッと集中して、そんでバシッと飛ばして、ボン!!だよ」
「…擬音ばかりで全然イメージわかねぇ…」
するとルカが「やってみるから見ていて」と詠唱を始めた。
レイダーが地面に座りこみ、ルカの詠唱を眺める。
ルカの手には魔法剣が握られている。
『焼き尽くせ。貪欲なる炎よ、彼の髄まですすり燃やし清めよ』
するとルカの手元から火炎弾が飛んだ。
しかしその弾は的を大きく外し、さらに後方の砂山に刺さると、砂山を溶解させた。
「…あれ?おかしいな」とルカ。
するとレイダーが笑いながら言う。
「ハハハっ。人の事言えないじゃんか!」
ルカはムッとして言う。
「俺は魔法より召喚が得意なんだ!見てろ!!」
そう言うと今度は召喚魔法を詠唱しはじめた。
『力の根源たる火の女神スラティマよ。我が祈りに応えよ』
するとルカの短剣が赤みを帯びるように輝き始め、同時に魔法陣が足元に浮き出る。
そして爆炎がルカを包み込んだ。
「熱っ!!」近くで見ていたレイダーがその火柱の熱を感じて慌てる。
「ルカ!も…燃えてるって!!」
するとルカは涼しい顔をしてレイダーに言う。
「俺は大丈夫。あ、レイダーは離れていてね。こいつは触れると焼け死ぬよ」
ルカはさらに集中すると火柱が炎の女神へと変貌する。
女神の手には弓が握られていた。
ルカが短剣を弓に見立てて引く仕草をすると、その動きに合わせて女神も弓を引き絞る。
するとそれまで無かった弓に一筋の矢がみるみるうちに出現した。
ルカは狙いを遠く、海の方向へと向けると詠唱する。
『放て。悪しきものを灰に帰す、殲滅の炎となれ』
ルカは引き絞った指を離す素振りを見せると、女神の手から矢が海面に向かって放たれた。
ヒュン!!という鋭い音を残して矢が衝撃波を放ちながら飛んで行く。
その矢を追いかけてドン!という衝撃音がレイダーたちを襲う。
「うわ!」思わずレイダーが耳を塞ぐ。
矢は海面に突き刺さると海水を瞬時に沸き立たせ、ボムン!!と水蒸気爆発を誘発した。
衝撃で抉られた海面が大きなうねりとなって周囲へと広がってゆく。
着弾地点に立ち上る水柱と白いキノコ雲。
周囲にはドーナツ状に水蒸気の雲が沸き起こり、衝撃で飛び散った海水が霧状になり、虹を形成した。
「ね!ほらできた」とルカが笑う。
「わ…笑えねぇよ!!」とレイダーが震える。
ルカは『スラティマよ戻りたまえ』と詠唱すると、
それまで魔法陣から立ち上っていた火柱がフッと消えた。
レイダーが思わず聞く。
「ルカ。その魔法どこで覚えたんだ?!」
するとルカが困った顔になって言う。
「んー…わかんない!気づいたら出来てたから」
レイダーは思った。
「(この子、実は天才じゃね?)」
「ルカ。とにかくその召喚は場所を選んでくれ」とレイダー。
「え。なんで?」
「俺、ここ最近で学んだんだ…
魔法は要領と使用場所を護って使わないと、酷い目に遭うんだ。
それとその短剣…もう少しうまく扱ってくれ。
今のままだと詠唱した瞬間、自分たちが巻き込まれっちまう」
「この短剣、扱いが難しいんだ。
気を付けるけど…ほら現に、今の魔法でも被害は出てないし…」
すると海岸がにわかに騒がしくなる。
「津波だ!高台に上がれ!!」という声が風にのって小さく漏れ聞こえてくる。
どうやらルカの魔法で吹き飛ばされた海面が、津波に変わったらしい。
「やば!町に戻るぞ!ルカ」とレイダーが慌てて駆けだす。
「あ、待ってくれ!置いてかないで~」とルカが後を追って走り出した。
ルカとレイダーの様子を遠く砂漠の丘から観察していた一団があった。
口元を布で覆い、目には砂塵避けのゴーグルをしている。
服装はマントで覆っているので装備は判らない。
ボスらしき人物が片目に親指と人差し指で輪っかを作って覗き込む。
それは望遠魔法の一つだ。
町の方へと走り去ってゆくルカの装備に目をやる。
「そうか…あの短剣が…」
すると背後から男が声をかける。
「ルシーダ姉さん。さっきの爆発音はなんだったんです?」
するとマントを翻してルシーダと呼ばれた女が命令を発した。
「予定変更だ。クシュナールを奇襲するのは中止するよ。
それよりお前たち、ちょっといいお宝が手に入りそうだよ」
ルシーダはそう言うと、傍らに待機させていたトビ砂ネズミに跨った。
すると傍らの男が言う。
「ええ!?例のサラマンダーの騒動に乗じてクシュナールに突っ込むんじゃないんですかい?」
「別にお前たちから今日の食いぶちを奪おうだなんて言っちゃいないよ!
ちゃんと稼がせるさ…でもね、
お前たちもさっきの召喚魔法を見ただろ!
下手に突っ込んで、あんな魔法撃たれてみろ、一瞬で蒸発しちまうよ。
それとも死にたいのかい?」
「いや…それは…」
「だろう?
それより私に考えがある…
そうさね…一度潜入してみるのもいいねぇ…
まずはあの男に近づこうかね…」
ルシーダと呼ばれた女は薄気味悪い笑みをマスクごしにすると手を振り上げる。
するとそれに呼応して砂漠の中に伏せていた手下たちが、一斉にトビ砂ネズミたちを引き起こした。
その数は総勢30名。
この砂漠地域では名の知れた窃盗団の一団だった。




