表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/32

第二十六話:灼熱の蜥蜴 後編

地の神殿から這い出たサラマンダー イメージ

挿絵(By みてみん)

【第二十六話:灼熱の蜥蜴 後編】

港町クシュナール北西 地の神殿内

 セツナたちは地下3階に通じる階段を降り始めた。


先ほどの階段と比べて明らかに豪華だ。


その階段には赤地に金の刺繍が施された絨毯が敷かれており、石柱が両脇に立てられ、照明用の魔石が埋め込まれている。


しかし相変わらず魔石に光はない。


周囲を眺めていたセツナが言う。


「この通路、他と違って豪華に見えるね」


するとルディウスが絨毯の足跡を眺めながら言う。


「ここから先は吸魔石の安置所に続いている。

いわば神官が通る専用通路だ…が、踏み荒らされているな」


階段を下ってゆくと、徐々に空気が熱を帯びてくる。


先頭を歩くロビンが腕の甲で首元に滴る汗を拭いながら言う。


「急に暑くなってきやがったな。

さっきから、熱風ちゅうか、湿気ってのか…とにかく前方から吹いて来て暑苦しいったらありゃしねぇ」


するとレイダーも汗で胸板に張り付いた下着を指で引きはがしながら言う。


「地下ってこんなに暑くなるのおかしくないか?

この先で温泉でも湧いていても俺は驚かないぜ」


ちょうどそんな会話をしていると、ロビンが開けた部屋に足を踏み入れる。


セツナが部屋を見回しながら言う。


「これは…吸魔石の部屋?」


その部屋の中央には黒い吸魔石が鎮座しており、壁際には用水路が敷かれているが、水はごく少量だ、水はさらに奥から流れてこの部屋に入り、部屋の隅の奈落へと落ちている。


「なーるほど。この吸魔石がこの周辺一帯を魔煙の噴出を防いでいるってわけだ」


レイダーが吸魔石に触れる。


「アっつ!この吸魔石スゲー熱いぞ」


するとルディウスが吸魔石にそっと触れて言う。


「…どうやら吸魔石自体は正常に機能しているようだが、この暑さといい、水路の水の少なさといい、この奥に熱源となる何かが潜んでいるというのは間違いないようだ」


するとセツナがルディウスに聞く。


「この暑さじゃ氷壁なんてもう解けているはずだよね。

でもなんで、ギルドのお姉さんも、マルセル商会の人も皆一様に氷壁があると言っているのだろう?」


「そうだな。私もそれが引っかかっている。

もしかしたら、氷壁のように見える、別の何かがあるのかもしれないな。

しかし真実は行ってみなければ判るまい。幸いマルセル商会の話ではもう少しでその氷壁に着くというのだから警戒しつつ先を急ぐとしよう」


すると足元でジャキ!と金属の乾いた音が響く。


床を見ると剣や槍が散乱している。


その先を見ると、白骨した冒険者たちの骨が転がっていた。


「こりゃぁ…例の連中だな」とロビンが地面にしゃがみ込んで確認する。


「きっとさっき戦った炎麟たちに食われたのだろう」とルディウス。


レイダーが白骨した遺体を見ながら言う。


「うげぇ…もし負けていたら、俺たちもこうなっていたわけだ…

なぁルディウス。供養はどうする?」


「供養は…今はできないだろう。

…まずこの状況を解明するのが先だ」


ルディウスたちはさらに奥へと歩みを進めた。


吸魔石の部屋を抜けると、途中から洞窟へと変わってゆく。


洞窟の壁は水滴でびっしょりで、その水が洞窟の両脇に掘られた溝にしたたり落ち、溝の底を伝うように流れてゆく。


奥へと進むほど熱風と熱気がセツナたちを包み込む。


すると暗闇の奥に、照明魔法の光に反射して、青白い光を放つ氷壁がうっすらと姿を現した。


ルディウスが照明魔法の光を強くする。


周囲が照らされ、300メートルほど先に、キラキラと青白い光を放つ氷壁が洞窟を覆い尽くしていた。


「あれが氷壁?」セツナが目をしかめる。


歩み寄って近くで見ると、青白い光を放つ氷壁の高さはビル3階建てほどの高さがあり、横幅も100メートルはある。


するとレイダーが言う。


「地下の大洞窟にこんな氷壁が…って、セツナの言うとおり溶けてないのはおかしいよな?」


するとロビンがある事に気づいた。


「こりゃ…氷壁じゃねぇ…封印だ」


氷壁の両脇には水源から流れ込んだ地下水が勢いよく当たっているが、その水は洞窟の地面に到達する前に水蒸気に変わり白い煙が立ち込めていた。


するとセツナが氷壁の中に爬虫類の目のようなものがあるのに気付いた。


「皆!あれ!」


セツナが指差した部分をよく見ると、ドラゴンのような瞳が青白い光の中に見えた。


ルディウスがそれを見て緊張した声で言う。


「これは…炎麟のリザードマンの母種、サラマンダーだ…」


「サラマンダー?!なんでこんな奴が地下にいるんだよ!」とレイダー。


するとルディウスが何かを思い出して言う。


「失念していた…

今から三千数百年ほど前、この地域を支配していた異種族があったと、亡き父から聞いたことがある。

それが先ほど我々が遭遇した炎麟のリザードマンだ。

しかしその栄華も、この地に爆発的に増えた人類によって淘汰され、駆逐されたと聞いていた。

炎麟のリザードマンは炎属性の爬虫類の上位種から生まれる可能性があるが、まさかこんな場所で、サラマンダーによって復活していたとは…」


するとロビンが言う。


「じゃあ、こいつはその子孫って事か?」


「いや…おそらく原初だ。

先人の誰かがここに封印し、力を削いでいたのだろう」


するとレイダーが慌てて言う。


「じゃ!今さら、こんな事になってんだ?」


するとセツナが言う。


「おそらく、氷…だよね。

本来であればこの空間に氷が敷き詰められ、ああやって地下の水を当て続ける事で、サラマンダーの熱を下げて眠らせ、封印していたんだと思う」


するとルディウスが言う。


「おそらくそうだ。

封印のために表に地の神殿を立て、神殿内部に氷漬けにして安置していたのだ。

しかしここ数年のうちに、氷の高額取引に目がくらんだ商人がこれを嗅ぎつけ、その氷を削り出し、売り捌いてゆくうちに、サラマンダーの封印が解けて目覚めてしまったのだろう」


するとロビンが慌てて言う。


「おい。じゃあ、呑気に歴史を語ってる場合じゃないんじゃないか?

見てみろ、氷なんて一片たりとも残っちゃいねぇ

ここにいちゃヤバくねぇか?」


すると、背後からマルセル商会の男たちが合流した。


「旦那方!ご苦労さまでした。

おお!まだこんなに氷壁が残ってら!

おい!切り出すぞ!!」


それを見てロビンが慌てて止める。


「待て!そりゃ、封印だ!!」


「旦那もお人が悪い。折半って話じゃねぇですかい。

冗談は作業が終わったらにしてくだせぇ」


そう言うと、男たちはロビンの制止を振り切って、氷壁へと駆け寄り、すかさず持っていたゴツイ機材を青白い氷壁に向かってぶち当てた。


コゥーン…コゥーン…というまるで音叉を叩いたような甲高い音が洞窟内部に響く。


そしてその音は洞窟に反響し増幅していった。


反響した音によって氷壁が共振・共鳴したように思えたその時だった。


ピシ…バキっ…と乾いた音と共に氷壁に大きなヒビが入った。


そして一瞬の静寂の後、バリバリ!!と音を立てて氷壁がガラスの破片のように洞窟の床に崩れ落ちた。


氷壁を叩いていた男たちが、砕けた青白い結晶を拾い上げる。


「あ?こりゃなんです?」と男が言いかけた時だった。


封印が解かれたサラマンダーの身体から一気に炎が吹き出し、熱風が男たちを包み込んだ。


その瞬間、男の体は炎に呑まれ、悲鳴を上げる間もなく赤く溶解し地面に溶け流れる。


サラマンダーは一見すると赤いイグアナのような様相であったが、全身の至る所から炎が漏れており、特にトサカのように、そそり立った、たてがみからは炎がチラチラと燃え揺らいでいる。


サラマンダーの視線がセツナたちへと向けられる。


「まずい!火炎ブレスが来るぞ!出口まで走れ!!」ルディウスが叫ぶ。


セツナが詠唱する。


『纏え!(疾風の加護よ、我らを速めよ)』


風の支援魔法がルディウスたちを覆う。


するとロビンがサラマンダーに向けて詠唱する。


『押し留めよ。雄々しき大地よ、我らに不屈の加護を』


すると地面が瞬く間に隆起し巨大な壁を形成した。


丁度そこに向けて、サラマンダーの高熱のブレスが降り注がれた。


ロビンの機転によってブレスに巻かれずに済んだセツナたちは素早く洞窟に駆け込む。


するとロビンが後方に向かって同じ魔法を放ち、洞窟の入口を封鎖する。


封鎖された洞窟入口にサラマンダーのブレスが当たり洞窟の側壁を駆け上った。


「間一髪ってとこか?」とロビンが息を切らしながら言う。


するとセツナが遮断した壁を指差して言う。


「いや!壁が保たない!破られる!」


見ると遮断した壁が赤みを帯びている。


「走れ!!」とレイダー。


ロビンはさらにもう一度詠唱し、洞窟を塞いだ。


地下2階に戻ると、そのまま地上への階段に向けて駆ける。


セツナたちが1階への階段を上り始めた頃、暗闇の中、2階の中央の床が赤く火照りだした。


すると床がまるで溶鉱炉の鉄のように真っ赤になって、次の瞬間、ドロリと3階へと流れ落ちる。


赤く溶け落ちた床の穴の中からサラマンダーの鼻先がヌっと姿を現す。


「駆け上がれ!!早く!」


セツナたちは1階に辿りつくと、そのまま神殿の外に走り、城壁の外へと転がり出る。


しばらくすると、地の神殿がズググっと沈み込んだかと思うと、代わりにサラマンダーの鼻先が地下から突き出し、地上へと這い出てきてしまった。


「どうするよ!?」とロビン。


するとセツナが言う。


「あれで動きを止める!」


「あれ?」


「トリニティ・アブソリュート」


レイダーが叫ぶ。


「何でもいい!やれ!!」


その言葉に3人はアイコンタクトを送りあうと、今にも城壁から這い出しそうに、頭を高く持ち上げて周囲を見回すサラマンダーに向けて、手をかざした。


『消し飛ばせ。暴風の怒りよ』ロビン


『打ち着けよ。淀みなき降雨よ』セツナ


二人の詠唱が重なると、サラマンダーの周囲の風が渦を巻きはじめる。


そして風の渦は上空に到達すると、雲が沸き上がり、黒雲を形成すると雨を降らせ始めた。


しかしここでセツナは水の魔法がイメージより弱いことに気づき、吸魔石に視線を向ける。


すると魔煙が尽きかけてきていた。


「(まずい…水魔法の魔煙の消費が…)」


セツナはすぐさま吸魔石を手でつかむと、意識を集中しはじめる。


セツナが顔をしかめながら、自身のトラウマをほじくり返す。


すると後悔の念と共に、吸魔石の中にボコボコと魔煙が湧き出てすぐさま真っ黒に変色する。


そしてセツナとロビンは声を合わせて詠唱した。


『心なき彼の敵を散らし、咎と共に洗い流せ』


ロビンとセツナの詠唱が響く。


その詠唱により、さらに威力を増した風は嵐に変化した。


暴風によって白い帯となった雨粒がサラマンダーの表皮を激しく叩く。


すると白い水蒸気が逆巻き大気に溶けはじめる。


並みの魔物であれば、激しい水と風により凍えるはずだが、サラマンダーは涼しい顔で動じておらず、まるでにわか雨を凌いでいるような落ち着きが感じられる。


サラマンダーの視線がセツナたちへと向けられる。


そこにルディウスの詠唱が共鳴する。


『立ち上れ。雄々しき大気よ、冷徹なる矢を放て』


すると雨雲が急速に変化し、積乱雲を形成し始め、雨が雹へと変化する。


その積乱雲は遥か上空へと立ち上ると雷雲となり、クシュナールの空から太陽を奪った。


すると人の拳ほどの雹が次々とサラマンダーの体にぶち当たり、そこで初めてサラマンダーは痛みに身をよじった。


間髪入れずに3人の合唱魔法の声が響く。


『戦慄せよ。冷徹なる大気の鉄槌よ、心すら凍る恐怖の音を響かせよ!』


その直後、上空から強烈な寒気を伴ったダウンバーストがサラマンダーを襲う。


ズダン!!とサラマンダーの上空から真っ白な空気の塊が降り注いだ。


周囲の水分が冷気に反応してダイヤモンドダストが発生する。


すると白い冷気を全身に被ったサラマンダーの動きが一気に鈍くなる。


サラマンダーが身を捩るが、捩った姿勢のまま、全身を頭の先から尻尾の先まで白い霧が覆い始める。


サラマンダーの至る所から噴き出していた炎や、たてがみの炎が瞬く間に消え、体の色が鈍く黒い色へと変色してゆく。


サラマンダーの霜の降りた表皮は次第に分厚い氷で覆われ、セツナの方を見上げたまま凍結した。


こうしてサラマンダーはその生命活動を完全に停止した。


絶対零度の寒気は、液化窒素の如く地の神殿内部に充満すると、まるでコップに溜まった水が、表面張力の限界を超えて崩壊したかのように、地の神殿を覆う城壁を乗り越えて一気に流れ下る。


白い空気の帯はユラユラと漂いがら城壁を伝うと、触れるものすべてを瞬く間に凍り付かせてゆく。


地の神殿からサラマンダーが這い出た時に、溶鉱炉のように燃えていた穴にも白い空気が侵入し、一瞬で黒い岩へと変貌させ、霜を落とす。


それは綺麗で、そして冷酷な白い悪魔のようだった。


それを見たレイダーが叫ぶ。


「何だかわからんが、アレに触れたらまずい!高台に上れ!!」


レイダーの号令と同時に、セツナたちは詠唱姿勢を解いて、比較的小高い砂山の上に駆け上がる。


すると、セツナたちの足元を、砂丘の谷間に沿って白い悪魔がゆっくりと流れてゆき、熱いはずの砂漠に霜が降りる。


しばらくすると雨が終息しはじめた。


荒々しく逆巻いていた竜巻も次第に大きくなってゆき、最後は大気に溶けるように消えた。


そのころには、地面を這っていた白い悪魔も蒸発しその姿を消していった。


後に残ったのは、砂漠地帯ではまずお目にかかれない、巨大な積乱雲と雷鳴、そしてピクリとも動かなくなったサラマンダーの死骸だけだった。


セツナが動かなくなったサラマンダーを見て言う。


「成功…したのか?」


「どうやら成功のようだな」とルディウスが胸をなでおろす。


するとレイダーが地の神殿を眺めながら言う。


「でもこれ、どうするよ?

地の神殿が氷漬けになっちまったぜ?」


地の神殿を見ると、城壁から内部の陥没した穴まで、全てが氷で覆われ、キラキラと輝いている。

するとロビンが城壁の中にある物を見つけて言った。



「ん?お?あの氷なら持ち返るのにちょうど良いサイズじゃねぇか?」


ロビンが指差した方を見ると、サラマンダーが這い出た穴から、地下水が噴出し、白い悪魔に触れたので凍り付いて固まっていた。


するとルディウスが苦笑しながら言った。


「怪我の功名…といったところでしょうか。

氷が解けないうちに、いくつか切って持ち帰りましょう。

神殿自体の修復は、この地域の神官が管理を怠っていたという事で…

サラマンダーの処理と合わせて、現地の神官に任せるとしましょう」


ルディウスのその言葉に一同は思った。


「ルディウス。時々理不尽な事を言うよな…」


こうしてセツナたちはどうにか氷を手に入れ、ユアラとルカの待つ、宿屋へと戻るのだった。


 宿屋に帰ると早速、氷でルカを冷やしつつ、薬を投与する。


「うぅ…氷が気持ちいい…」とルカ。


ユアラがセツナの様子を見て言う。


「無事みたいね」


するとユアラが笑顔でこう言った。


「あ!さっき私、凄いものを見たのよ!

地の神殿の方角から大きな雲がムクムクと沸いたかと思ったら、ドーン!!って落雷みたいな凄まじい音が響いてきて突然の事でびっくりしたわ。

あれはセツナにも見せたかったわ!」


するとルカもベッドに寝そべったまま言う。


「私も見たーい…」


するとそれを聞いていたロビンがセツナにコソっと言う。


「おい、今度は一番前の特等席で拝ませてやれ」


「うん。そうしよう」


セツナは少しだけ悪い顔をするのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ