第二十五話:灼熱の蜥蜴 前編
【第二十五話:灼熱の蜥蜴 前編】
港町クシュナール北西 1キロ 砂漠
セツナたちは町の郊外の砂漠の中にある地の神殿を目指して歩いていた。
するとセツナがルディウスに質問する。
「さっき、合唱魔法は相性が重要だって言っていたけど。
例えば、フォーグマ洞窟で合唱魔法をユアラと2人で撃ったじゃない。
合唱というのであれば、3人とか5人とかで撃つとどうなるのかな?」
するとルディウスが笑いながら言う。
「ほほぅ…中々興味深い発想をする。
理論上は可能だろう…が、これまでそれを試したのを見た事はないな」
するとレイダーが言う。
「それなら、いっそ試してみりゃいいじゃん。
俺はできないけど…」
「ま。なんでも挑戦する事は大事だからな!!」ロビン。
「そうか…
判ったどんな魔法ができそうか考えてみるよ。
ちなみにロビンとルディウスは何の魔法ができるの?」とセツナ。
するとロビンが言う。
「俺は、地と風くらいだな。ルディウスはどうだ?」
「私か?私は一通り全て扱える。
特に神からの洗礼を受けた後は、神官魔法として空が使えるようになったな。
セツナ。何か良いアイディアが出そうかい?」とルディウス。
二人の魔法適正を聞いてセツナがウーンと唸ってこう言った。
「できるかどうか、判らないけど少し試したい事があるんだ…」
するとロビンが言う。
「そりゃ楽しみだ!合唱魔法を撃つときは言ってくれ。協力するぜ!」
港町クシュナール北西 1.8キロ 地の神殿
地の神殿は砂漠の中に聳え立っていた。
砂岩のブロックを積んで作られた城壁は、海から吹く風によって体積した砂山の中に半分埋もれるようにたたずんでいる。
その城壁の四隅には、高い塔があり、円筒型の塔は先端にゆくほど細くなっている。
セツナたちは半分だけ開かれた城壁の扉をくぐり神殿内部へと足を踏み入れた。
中央には、中東のモスクを思わせる石造りの白い神殿が鎮座している。
その周囲には、おそらく本来水が貯められていたであろう堀が、模様のように地面を巡っている。
神殿の扉は開かれており、その中は薄暗い。
その扉の片隅に、神殿内に入った冒険者の持ち物と思われる、づた袋やショルダーバッグが纏まって置かれていた。
よく見ると、冒険者のパーティーごとに、まとまっているようだ。点在している。
それを見たルディウスが言う。
「どうやら、どのパーティーも、ここで荷物を置いて、軽装で中に入ったようだな」
するとレイダーが「ちょっと失礼しますよ~」と言いながら近くのショルダーの中身を確認する。
「ルディウス。このバッグには食料と水が手つかずで入ってるぜ」
するとセツナやロビンも、別パーティーの荷物を確認しに行く。
「こっちもだ。食料は手つかず。でも水はないみたいだ」とセツナ。
「こいつの荷物には食料はねぇが、水を置いて行ってるぞ」とロビン。
セツナが言う。
「これ。おかしくない?この暑さで水すら置いてダンジョンに入るなんてさ」
するとロビンがギルドでのスタッフの事を思い出して言う。
「ギルドの姉ちゃんも言っていたが、本来なら一日で行って帰って来られるダンジョンだ。
そうなれば武器だけ引っ提げて中に入るって考えもあるのだろう…が、誰も戻って来ないってのは…危険な匂いがしてくるな」
すると、セツナたちを追ってきたマルセル商会の連中が大きな運搬用機材を下ろしながら言う。
「ここは暑い。早く入りやしょうぜ!」
ルディウスが武器を構え直しながら全員に言う。
「予想していなかった事態に陥ったのかもしれない。
警戒しつつ、中に入るとしよう」
港町クシュナール北西 地の神殿内
神殿内は薄暗く、空気の流れが悪いせいか、熱気が充満していた。
「うーわ。あっついなここ」とレイダー。
ルディウスが神殿の異常な荒れ様を見て言う。
「ここの神殿の管理はどうしているのだ」と困惑している。
奥に進むと、右奥に地下に通じる幅の広い階段が見えて来た。
マルセル商会の男たちの一人が言う。
「ここです。ここから入って、地下3階までいくと、洞窟へと繋がってます」
階段の幅は馬車が通れるほどの広さがあり、傾斜も緩やかだ。
マルセル商会の男が言う。
「俺たちはこの階段にレールを設置してから後を追いかけますんで、先に進んでいてくだせぇ」
「わかった。ではいこうか」とルディウス。
「そんじゃま、俺が先頭だな!」
ロビンが盾とグラディウスを持って歩きだす。
よく見ると盾が大きくて新しいものに変わっていた。
歩きながらセツナが言う。
「その盾どこで?」
「お?これか?この前の船長から貰った新品よォ~。
こう構えるとな、全身を盾の内側に隠せるんだぜ」
ロビンは若干屈んだ姿勢で盾を構えた。
レイダーが余りに大きな盾を見てロビンに質問した。
「そのサイズじゃ、グラディウスだと攻撃しづらいんじゃないか?」
「そこはレイダー。おめぇさんの出番だぜ」
「なーるほど」
地下空間が余りにも暗いので、ルディウスがロビンを引き留める。
「ロビン。足元がだいぶ暗い…照明魔法を出すので少し待ってくれ」
ルディウスはそう言うと詠唱する。
『灯せ。焦熱の光となり、我らを導け』
すると、光の玉がフワっと指先から飛び、周囲を照らした。
「おお、ルディウス。助かるぜ」とロビン。
石作りの階段はなだらかに真っすぐ暗闇へと消えており、両側の壁には、光を放つ魔石が一定間隔で埋め込まれているが、光を放つ気配はない。
セツナが言う。
「こんな場所ならフィールを連れてくればよかった」
するとロビンが言う。
「ま、フィールにこの環境は厳しいだろうな。
今頃、セツナの部屋で休んでいるだろうよ」
30メートルは下っただろうか。
階段の上の方からはレールを敷くためのコーン…コーン…という作業の音が聞こえてくる。
すると先頭を進むロビンの足音が急に反響しだした。
階段の下を見ると左側の壁が途中から横一線に綺麗に無くなり広い空間が広がっている。
その場所まで下がりセツナが真横を見ると、そこには地下神殿の天井が照らされていた。
階段の縁から下は絶壁状態だ。
地下神殿の高さは5階建ての公団住宅がすっぽり入るほどの高さがあった。
下るにつれ、それまで暑かった空気がひんやりとしてきた。
コツン、カツンとセツナたちの足音が暗い神殿に響く。
地下2階の神殿の床に降り立つと、足元は薄茶色の砂で覆われ、先行している冒険者の足跡が複数あった。
「この足跡を見る限り、戻ってきた様子はねぇな」とロビン。
するとレイダーが両手で口元を囲って叫ぶ。
「おーい!!誰かいないか!!」(おーい!誰かいないか!おーい…)
音が木霊するが、返事はかえってこない。
するとルディウスが言う。
「目的の場所は地下3階より下の洞窟だ。
もし彼らが進んでいたとしたら、このフロアでは声が届かないだろう」
すると後からマルセル商会の男が追い付いて声をかけた。
「旦那がた、地下3階の階段はこの階段のある壁のちょうど対角線の位置、この部屋の端にあるんでさぁ」
「随分詳しいな」とレイダー。
するとその男が言う。
「俺たちは以前からここで地下の氷壁を切り出しては、売っていたんでさぁ。
でも、ここ半月くれぇ前に、洞窟から炎麟のリザードマンが沸いてきて、それ以来、氷壁には近寄ってねぇ。
このままじゃ俺たちはくいっぱぐれる。
で、ギルドに討伐依頼をしたんですが、未だに誰も戻って来やしねぇ…」
するとルディウスが男に聞く。
「その半月前、何か異変はなかったか?炎麟のリザードマンが沸くような何か…」
するとその男が少し考えてからこう言った。
「こりゃぁ、あんまり関係ねぇとは思うんですが、仲間の一人が氷壁の奥に赤黒い影を見たって言ってやした。
なんでもそいつと目が合ったとか何とか…」
するとセツナが聞く。
「おじさん。その事はギルドに報告したの?」
「えっ…いや。
そいつ普段から酒を飲んでいるようなヤツだったんで、また変な事言ってらぁって笑って済ませてたもんで…」
「言ってないんだ…」とセツナが顔を強張らせる。
レイダーが言う。
「これ。もしかすると、魔物の仕業じゃないか?」
「魔物ってどんな?」とセツナ。
「そりゃ…魔物だよ」とレイダー。
するとルディウスが言う。
「炎麟のリザードマンは従来、群れで動く、比較的人に近い生態系をもつ魔物だ。
その場合、より上位の種族がそれらを率いている事が多い。
地の神殿という立地条件下なので、まさかと思いたいが、上位の魔物が奥にいるのであれば、それを討伐しなければ、この先も際限なく沸いてくるだろう」
「群れのボス的な魔物がいるって事かよ!?」とロビン。
それを聞いてマルセル商会の男が慌てて言う。
「ま…まぁ、討伐依頼は出してんだ、先に向かった冒険者もいる。
旦那方も気をつけて進んでくだせぇ。
それじゃ作業に戻りますわ」
男はそう言いつつ、階段を逃げるように駆け上がっていった。
レイダーが言う。
「面倒な事になってきたな」
「怖いけど…でも、今は進むしかない」とセツナ。
「んだな!ルカのためだもんな。進もうぜ!!」とロビンが歩きだした。
地下2階はテニスコート4面はあるかという広い部屋だった。
元々礼拝用の空間というよりは、倉庫の役割があったようで、至る所に空の木箱が転がっている。
レイダーが木箱の中をチラッと確認する。
「中身は…ちぇ…何にもないのか」
しかし木箱の表には氷の模様と、火気厳禁の文字が擦れて見える。
「ここは氷を切り出したものを木箱に詰める場所だったのかもな…全部空だ」とレイダー。
セツナが言う。
「これだけあるって事は、相当の量の氷が切り出されたって事だよね」
「まぁ。こんな暑い地域での氷となりゃ、高値で売れるわな」とロビン。
するとルディウスが足を止める。
「少し休憩しよう」
レイダーが空の木箱をひっくり返して椅子代わりにして座る。
そして神殿の床に座り込み上を見上げるとこう言った。
「なんだかすげーよな。地下にこんな空間が広がってるんだぜ」
セツナも言う。
「ほんとこの場所広いよね。
でも地の神殿というのに、それらしい物がないけど…」
その言葉にルディウスが言う。
「この神殿の場合、我々の今いる地下2階より下、地下3階に吸魔石が安置されているのだろう」
するとレイダーが周囲をゆっくり見回して言う。
「でもよ…クレス・ヴェイガルドは地表から突き出ていて、だいぶ巨大な吸魔石だったぜ?
そんな巨大な吸魔石なら、頭がかどっかに突き出ていても良くないか?」
するとルディウスが言う。
「吸魔石はその地域の魔煙を抑制する為の要石なのは理解しているだろう。
その吸魔石の大きさや、安置する個数によって、効果の範囲が変わるのだ」
「ってこたぁよ…クレス・ヴェイガルドの周辺地域は相当魔煙が沸きやすい地域って事になるんか?」とロビン。
「そこは解釈によって異なるが、吸魔石の効果範囲は、吸魔石を中心に球状に広がっていると考えてほしい。
同じサイズの吸魔石であっても、深い場所に安置すれば、地中の魔煙を多く吸収し、地表に安置すれば、地表の魔煙を多く吸収するのだ」
するとレイダーが言う。
「んー…なんかピンとこないけど、地域によって魔煙の噴出量や出かたが異なるから、それに合わせて吸魔石の安置の位置を変更しているって事でいいのか?」
「その解釈で良いだろう。
この雰囲気だと、この地の神殿の吸魔石は小さく、だいぶ深い位置に安置している事から、地中にごく少量の魔煙が噴き出す地域なのだろう」
するとロビンが自信ありげにこう言う。
「おっし!よ~く判った!
俺には理解できんという事がな!」
「そりゃどうなんだ?!魔法撃つ者としては…」とレイダー。
するとセツナが言う。
「魔法で思い出したんだけど、合唱魔法を少し考えてみたんだ。
メモを渡すからできそうか見て欲しい」
セツナはそう言うとロビンとルディウスに詠唱の文言と、その狙いを書き込んだメモを渡す。
ロビンがメモを見て言う。
「おま…セツナの文字、細けぇな。もっと大きく書いてくれ!」
「ほう…」とルディウス。
「面白い発想だ。風と炎と水を掛け合わせて雷を発生させる…か」とルディウスが感心する。
「そう!どれも詠唱に必要な魔煙の消費は少ないけど、合唱できれば別の現象を誘発して強力な魔法に変化するんじゃないかなって思ってさ!どうかな?」
するとロビンがクスっと笑いながら言う。
「でもこれ…最後に3人で言う詠唱、ちょっとばっかし、こそばゆいな」
ルディウスが言う。
「轟け。天理の雷よ、ここに戦慄を奏でよ…か。
詠唱としては、悪くはない。
試してみる価値はあるだろう」
するとレイダーが3人を眺めながら言う。
「なんだか楽しそうじゃねぇか…俺も魔法を学ぼうかな…」
すると急にロビンが立ちあがて、ソワソワしはじめた。
「お、ワリぃ、おれちょっとしょんべん…」
いうなりロビンが少し離れた神殿の支柱の影に急ぎ足で引っ込む。
ルディウスが呆れながら言う。
「ここまで内部が荒れているとはいえ、神殿内での排泄とは世も末だな」
しばらくするとしょんべんの音が神殿内に響く。
レイダーが苦笑しながら言う。
「プライバシーの欠片もありゃしない」
するとその直後だった。
ロビンの「うお!!」という驚いた声が響いた。
そしてタタタタっとロビンが駆けて来るなりこう叫んだ。
「出やがった!炎麟だ!!」
「なに?!」と一同。
するとロビンを追いかけて槍を手に持った赤い鱗のリザードマンが2匹暗闇から姿を現した。
ルディウスが素早く照明魔法の光を強める。
するとさらに後に20匹以上の炎麟のリザードマンが槍を手にこちらに走ってきていた。
「こいつら足音がしてないぞ!!」とレイダー。
レイダーはそう言いながら、ロビンに装備を手渡す。
セツナはロビンを援護するべく、身を躍らせると、一気に2匹との間合いを詰め、一匹を一突きにし、もう一匹の槍を石突きでパン!と弾いて、脳天目掛けて槍を振り下ろした。
そして走り迫る炎麟に向けて素早く手をかざすと
『貫け。(激流の牙よ、愚者の命も共に削れ)』と水属性魔法を詠唱する。
それは過去にレッドドラゴンに向けて放った一撃だ。
しかしビームのように伸びた水撃は5メートルも行かないうちに中空で何か硬い物に当たったかのように四散し霧状になってしまった。
「くっ!こんなに違うのか!」とセツナ。
それを見てルディウスが言う。
「セツナ!水魔法はここでは効果が薄い!風で頼む!」
ロビンが聞く。
「地は…?」
「これ以上、神殿を荒らすのか?」とルディウス。
「だよな…」するとロビンが詠唱する。
『切り裂け。烈風の刃よ、愚か者を刻め』
すると風の刃がセツナの脇を通り抜け、一番手前に走り込んで来た1体を真っ二つにすると上空へと飛び去り大気に消える。
レイダーも応戦しつつ、
「こんな事なら魔法を練習しとくんだったぜ!」
と言いながら、セツナに接近してきた炎麟に向けて剣技をお見舞いする。
ルディウスが言う。
「あまり突っ込むな。囲まれるぞ!」
ルディウスが支援魔法を詠唱する。
『戦慄せよ。勝利の凱歌よ、我らに畏怖なる力を』
するとセツナの身体が一気に軽くなる感覚になった。
そこに炎麟の鋭い突きがセツナを襲う。
しかし、支援魔法を付与されたセツナの動きは異常なほど俊敏だった。
突き込んだ槍先を回避すると同時に、セツナは片手でパシ!と握り動きを止めると、持っていた短槍で炎麟の首に突き入れる。
するとルディウスの背後から別の炎麟が音もなく近づいてきていた。
セツナはそれを見るな否や、片手をかざして
『切り裂け。(烈風の刃よ、愚か者を刻め)』と詠唱し、
ルディウスに向かって来ていた2匹を同時に風の刃の餌食にした。
「ここでは囲まれる!壁際に寄ってそのまま、下の階に飛び込む」とルディウス。
するとレイダーが言う。
「それ上の階じゃないのかよ?」
するとルディウスが言う。
「上に行く階段ではマルセル商会が作業している、できるだけ敵を引き付けろ!」
「あいよ!」とロビンが2匹目を切り伏せて返事する。
そしてロビンが盾を打ち鳴らしながら挑発する。
「こっちだトカゲ野郎!!」
するとヘイトがロビンに向く。
炎麟はロビンに向けて火炎弾を放出した。
大盾にズガン!パコン!と火炎弾が降り注ぐ。
「おぅおぅもっと来い!!」とロビンが凌ぐ。
「ロビンを中心に中央突破を図る!右から仕掛けろレイダー」
「任せろ!」
レイダーは言うな否や、炎麟の集中攻撃を受けているロビンの背面をすり抜けて、右手側に飛び出すと、地面を素早くキックし身を翻し、火炎弾を吹く炎麟の足元へと滑り込む。
それと同時にレイダーは炎麟たちの膝に次々と剣を振り抜いてゆく。
ヒュヒュヒュン!と風の音が響き、炎麟たちの足が切断された。
「足元が甘いんだよ」とレイダー。
支えを失った炎麟たちが地面に転がる。
包囲の一部に穴が開いたのを見てルディウスが叫ぶ。
「今だ!壁まで走れ!」
ルディウスの号令で床に転がった炎麟の脇をすり抜け、壁まで走る抜けるセツナたち。
炎麟の包囲を抜けたセツナたちは地下3階につづく階段に向かって走るが、まだだいぶ距離がある。
加えて、後ろからはまだ無数の炎麟が押し寄せて来ていた。
「何匹潜んでいやがる!!」とロビン。
するとセツナが言う。
「合唱魔法を!!」
「なに!?ここでか?」とロビン。
「やってみよう」とルディウス。
するとレイダーが言う。
「時間稼ぐぜ!」
レイダーはそう言うと、足を止めて炎麟の前に立ちふさがった。
すると3人はアイコンタクトをすると立ち止まって。
向かって来る炎麟に向け手をかざし、呼吸を合わせて同時に詠唱姿勢に入る。
レイダーが手前で先行して突っ込んできた炎麟を数匹切り伏せつ叫ぶ。
「やれ!!」
『消し飛ばせ!暴風よ。』ロビン
『焼き尽くせ! 貪欲なる炎よ。』セツナ
二人の詠唱が重なった。
『心なき敵の髄まで燃やし散らせ』セツナ&ロビン
ロビンとセツナが合唱魔法を詠唱する。
すると、炎麟の周囲に巨大な炎の竜巻が瞬く間に発生した。
ゴー!!という風の吹き荒ぶ音と共に、炎を纏った竜巻が立ち上がり、レイダーの目前に迫った炎麟たちを、次々と引き戻すようにその渦の中に引きずり込む。
するとルディウスが間髪入れずに詠唱を重ねた。
『呑み込め。 滔々と流れる水よ、卑しき敵を水底に沈めよ』
すると三人の詠唱が重なり合い、魔法が増幅する。
炎を纏った竜巻が水魔法の力を得て、ドス黒い雲へと変貌しながらバリバリと放電し始める。
黒雲の中では、竜巻に巻き上げられた炎麟たちの影が、閃光のたびに一瞬浮かび上がっては闇へ溶ける。
レイダーは少しだけ後ろに下がって身構えた。
そして3人同時に詠唱する。
『轟け。天理の雷よ、ここに戦慄を奏でよ!』セツナたちの声が響いた。
と、次の瞬間。黒煙の中央から眩い閃光と共に炎麟たちの影が一瞬映り、ズダドゥーン!!という耳をつんざく爆音が神殿全体を振動させた!
レイダーが撃ち降ろされた雷撃の風圧を受けて後方に吹っ飛ぶ。
黒雲はさらに2度の閃光とドドーン!!という雷鳴を轟かせた。
しばらくすると、渦巻く黒雲が解け始め、大気の中にバチバチっと小さく放電しながら、大気へと溶けて消えた。
一瞬にして静寂に変わる神殿内。
「やれたのか?」とセツナ。
すると床に転がっていたレイダーが身を起こす。
「レイダー!!大丈夫か!?」
3人が駆け寄る。
するとレイダーが言う。
「痺れた…あと、耳が遠い…」
レイダーの腕を引っ張り立たせると、4人は黒雲の晴れた場所を確認しに行く。
周囲からはシューという音と、焼け焦げた匂いが漂い、黒く焦げた床には炎麟たちの黒々とした遺骸が無数に転がっている。
落雷したと思われる3か所には、床が抉られ破片が放射状に散乱していた。
ルディウスが「これは…」と驚愕しながら思わず口もとを手で覆う。
「成功したな!セツナ!」とロビン。
「成功だね!」とセツナ。
「今度、こいつを放つ時は、もっと広い場所で頼む。
耳が逝かれちまう」
レイダーが顔をしかめた。
するとルディウスが言う。
「これほどの威力とは…レイダーすまない」
「ま、倒せたからいいぜ!今度からはマジで気を付けてくれ!」とレイダー。
相当嫌だったようだ。
セツナは「ごめんよ…」と言いつつ、
「実は…氷魔法の安定した撃ち方も…」と別のメモを見せる。
「もー簡便してくれ!!」とレイダーが嘆いた。
すると出口の方からマルセル商会の男がこちらに駆けてきた。
「今凄い音してましたが!無事ですか!?」
するとレイダーが言う。
「…なんとか無事だ」
「そ。そうですか…ってコレ、炎麟のリザードマン!!」
足元に転がった遺体に気づいて数歩後に下がる。
ルディウスが言う。
「どうやらここ周辺の炎麟たちは片付けたようだ。
我々は下の階層にゆく。
君たちも注意しながら準備を進めてくれ」
「わかりやした…それじゃ」
マルセル商会の男は駆け戻っていく。
ルディウスがセツナに言う。
「セツナ。あの合唱魔法は威力は十分だが、レイダーの言う通り周りを選ぶ必要がある。
我々も今後は撃ちどころを慎重に選ぶとしよう」
「はいそうします。
ごめん…レイダー」
「いいぜ気にすんな。
スゲーもんを最前列で見れたからな!」とレイダーが笑う。
するとロビンが言う。
「でもよ、次使うにしたって、なんて呼びゃあ良い?
水と風と炎のアレ…じゃ場合によちゃ間に合わないぜ?」
するとルディウスが言う。
「呼び名は…そうだな…“三重奏・雷撃”(トリニティ・サンダー)と呼称するのはどうだ?」
「トリニティ・サンダー…
かっこいい…呼称はそれで!!」とセツナ。
そしてセツナがさらにこう付けくわえた。
「そうなると、氷魔法はトリニティ・アブソリュートって事になるね!」
「こいつ、さては懲りてねぇな?」
レイダーが苦笑した。




