表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/30

第二十四話:灼熱の大地

【第二十四話:灼熱の大地】

ランバルト大陸 港町クシュナール

 セツナたちは11日間の航海を終え、港町クシュナールを遠く眼前に捉えた。


この街はポスカ・ハルデロと比べ緯度がだいぶ低く、赤道付近にあるため、海上にいても吹いてくる潮風が暑い。


チラチラと太陽を反射するクシュナールの街並みは中東のような雰囲気だ。


街並みの奥には、大気の揺らめきで砂漠の山々が踊って見える。

船の縁ではルカが船酔いを抑えきれず、揺れる海面と睨めっこしながら嘔吐しており、せっかくの風景を見る余裕がない。


「お…俺…船は二度と乗らねぇ…ぅプっ!」


ユアラがルカの首元に、水魔法で精製した水を桶に貯めて、濡らした手拭をあてて冷やしているが、肝心の桶に張った水があっと言う間にお湯に変わってしまい、正直効果は薄い。


フィールも暑さでハッハッと口を開け、長い舌をデロンと伸ばしたまま呼吸しており少し辛そうだ。


船長が言う。


「そろそろ着岸する。船員は荷役の準備だ」


すると船員が慌ただしく作業を開始した。


ルディウスが船長に声をかける。


「ハリアー・テス殿、大変お世話になった。ありがとう。」


すると船長も言う。


「いや!こっちこそ!

幽霊船での対応に感謝している。

もしルディウスたちが居なかったら、今頃は俺たちが海を漂う屍になっていただろう。

おお、そうだこれは俺たちからの礼金替わりだ、受け取ってくれ」


するとハリアーは、積み荷の中にあった刀身が波打つように綺麗なロングソードをルディウスに手渡した。


「これは…」


「これは、本来ならクシュナールの武器屋に納品するフランベルジュだが貰ってくれ。

あと、他の方にも、ブレストアーマーが…この木箱の中に…」


船長は木箱を漁って、新品のブレストアーマーを人数分引っ張り出す。


「おお。あったこれだ…コイツをやるよ。

すまんが、今はこんな物でしかお礼できない」と船長。


するとルディウスはフランベルジュを構えると、ヒュン!ピュン!と素振りをしてみる。


「うむ。バランスの良い剣だ。有難く頂くとしよう」


するとレイダーが船長が並べたアーマーを見て言う。


「それ。一つ貰えるか?俺のアーマー、この前の戦闘でボロボロなんだ」


するとルディウスが言う。


「船長のご厚意だ。好きに選ぶといい」


こうしてアーマーが傷だらけだったレイダーとユアラ、そしてセツナが、ブレストアーマーを新調した。


ルカもブレストアーマーを選ぼうとしたが、体調が悪くてそれどころではなかった。


すると船長が、「それならこれを…彼女に…」と、ルカの代わりにユアラに綺麗な模様の入った短剣を船長室から持ってきて手渡す。


「こいつは俺の宝ものだが…やるよ」


「えっ?いいの…」


「こいつは魔法を詠唱する時に何か補助として使える、いわば魔法剣だ。

でも、俺が魔法を使いこなせないんで、どんな効果なのかも未だに知らん。

要するに宝の持ち腐れになってたんだ。

冒険者なら使いこなせるだろう」


ユアラはそれを受け取ると太陽にかざす。


その魔法剣は見る角度を変えると、赤色や緑色、青色のラインが波紋のように浮き出る短剣だった。


「綺麗な模様ね。

ありがとう!ルカは、今この状態だから、回復したら私から手渡すわね。

ルカ。それでいい?」


ルカは声を出さず、ハンドサインだけで“ありがとう”と伝えた。


数十分後、クシュナールの地に降り立ったセツナとユアラ。


石畳が敷き詰められた港に降り立つと、地面から太陽の照り返しによる暑さが容赦なく襲ってくる。


ユアラが言う。


「これじゃフィールが参っちゃうわね。どこか木陰に避難しましょ」


すると船を降りて来たレイダーが周囲を見回しながら言う。


「賛成だ。ここじゃ体が慣れる前にぶっ倒れそうだ。

そこの店の軒下に退避しようぜ」


するとロビンが、船酔いでぐったりしたルカをおぶって船を降りて来る。


「ロビン…暑い!」とルカ。


「我慢しろ」とロビン。


「んんっ…なんか臭い!…吐きそう…ぅプ」とルカ。


「おわ!ここで吐くな!!」とロビンが慌てる。


ルディウスが言う。


「ルカくんの容体が心配だ。

軒下で少し休憩したら、宿屋に移動するとしよう」


「おっし、いくぜルカ」とロビンがルカを背負い直す。


「…うぅ…ごめんよ」と弱々しく言うルカ。


一行は休憩の後、宿屋へ場所を移動した。


その頃にはルカの容体が悪化していた。


早速、回復士を呼びルカの容体を確認してもらう。


回復士とは医術と魔術の両方を扱う神官の役職の一つだ。


回復士の女性神官が言う。


「これは…危険な状態です。

この症状は船酔いではなく、重度の熱中症に加え、

蚊を媒体として細菌感染する熱風邪にかかっています」


するとユアラが聞く。


「熱風邪は回復魔法で対応できますか?」


「いえ、回復魔法はあくまでも外傷を直すもので、体内の細菌には効果がありません」


するとロビンが聞く。


「そりゃ。どうすれば治るんだい?」


「熱風邪の細菌には、私が処方する薬で対応はできます。…ですが…」


「ん?」


「今の高熱のままだと、効果が出ない可能性があります」


すると寝ていたルカがうなされて叫ぶ。


「置いていかないで!!」


ユアラが水に浸した手拭を頭に当てながら言う。


「大丈夫よルカ。置いていったりしないわ」


するとユアラが言う。


「熱を冷ますなら氷よね。

氷なら合唱魔法で造れるはず。

街の外で詠唱して氷を入手できないかしら」


すると回復士が難しい顔をして言う。


「そうなのですが、この土地での氷魔法は…」と言葉を濁す。


するとルディウスが言う。


「魔煙を大量消費すれば詠唱自体は可能だが、

我々の吸魔石では容量不足になるだろう。

それに加え、この土地は火の女神スラティマ様の影響力が特に強い地域だ。

対して氷魔法は水と風から成る合唱魔法。

風の男神コヒツィナ様はともかく、水の女神ツリョーセ様の影響力はここでは期待できない…せめて清らかな水源のある場所であれば、あるいは…」


するとレイダーが聞く。


「水源って海水じゃダメなのか?」


「海水だと水魔法は出来ても合唱魔法は失敗しやすいのです」と回復士。


するとセツナが言う。


「なら氷ではなく、水魔法で水を精製して、それで体を濡らして、風を当てるのは?」


すると回復士が言う。


「この地方はそれが一般的な熱の下げ方です…

ですが、ここまで高熱の場合、その方法では十分ではありません」


するとレイダーが苦笑しながら言う。


「ハハっ…神様の相性ってマジかよ…」


するとルディウスが言う。


「火と水は相いれない存在同士。

神様が女神と男神に分かれた理由の一つと言われているのは、詠唱の相性でもあるという事だ」


するとユアラが思い出して言う。


「確かにナッセと合唱魔法の練習をしていた時、同じことがあったわ。

地の男神ミツマヤの調べと風の男神コヒツィナの調べで合わせたら、

調べがぶつかって、音…リズムが乱れて濁った?っていうのかな。

結果的には合唱魔法が中空で四散しちゃったのよ」


「不思議な話だが、異性神同士は詠唱が共鳴しやすく和音になりやすい。

その分、魔煙の消費も少なく、合唱魔法による効果も増幅される」とルディウス。


するとセツナが言う。


「だとすると、何としてもどこかで氷を手に入れるしかないよね。

氷室とか、どこかの洞窟とかの奥に天然の氷とか無いかな」


するとロビンが言う。


「一か所だけ…心当たりはあるぜ」


「どんな?」とユアラ。


「こりゃ、以前にこの街に来た時に、酒場の冒険者から聞いた話なんだが。

この街の北西に地の神殿ってのがあって、

そこの最下層が天然の洞窟に通じているそうだ。

でな、その天然の洞窟には地下水が湧き出る場所があって、

さらにその奥には、何百年も溶けずに残った氷壁があるそうだ」


「ならそこ行こうぜ!」とレイダー。


するとルディウスがルカの様子をチラッと見る。


ルカはハァハァと胸で荒い呼吸をしている。


「この容体だと、どのくらいまでに氷を入手できれば良いだろうか?」とルディウスが回復士に聞く。


「水と風で冷やしてあげれば1日は…それ以上だと彼女の体がもたないかもしれません…」


その様子にルディウスが言う。


「ルカくんを見捨ててはおけない。

ここは多少強引だが、氷を入手すべきだと思うのだがどうだ?」


「おっしゃ!行こうぜ!」とロビン。


するとレイダーが言う。


「まーた洞窟かぁ。

ハルバードよりショートソードの扱いが上手くなりそうだ」


するとセツナがユアラに言う。


「ユアラはここに残ってルカの看病をしていてくれる?」


セツナに言われユアラの顔が曇る。


「えっ…と。

そ、そうよね…回復士さんだけではダメよね」


するとロビンが言う。


「なに。ちゃちゃっと行って直ぐに帰って来る。

その間。ルカの事。頼んだぜ!」


「わかったわ。ルカは任せて」


「それでは行こうか。早いほうが良いだろう」とルディウスが支度をはじめた。


するとユアラがセツナに言う。


「セツナ!…気をつけてね」


「ん?ありがと!行ってくる」


セツナはそう言うと、自分の装備を持って、ルディウスたちと宿屋を出て行くのだった。


港町クシュナール ギルドホール内

 セツナたちはまず、地の神殿の情報収集のために冒険者が集まるギルドを訪れた。


「お待たせしました。ご用件を伺います」とカウンターの女性スタッフが聞く。


するとロビンがすかさず言う。


「地の神殿の奥深くにある氷を取りに行きてぇんだ。

内部の最新情報があれば、教えてくれ」


するとスタッフは僅かに驚いた表情になって、ロビンたちにこう言う。


「氷壁の採取ですか。

…確かにあれはこの地域では希少価値の高い物ですが、今は入手困難だと思います」


するとレイダーが聞く。


「ん?それって、もう溶けちゃったって事かい?」


「いえ、あの氷壁はそう簡単に溶ける事はないです。

ただ…あの洞窟には、現在魔物が出没していて、安全に持ち返れないのです」


「その魔物ってのはなんだ?」とロビン。


するとスタッフが言う。


「リザードマンの亜種です。

炎麟のリザードマンの目撃情報が頻発しています。

現在ギルドではその討伐依頼を3日前から出していますが、

今のところ依頼を完了したという報告は受けておりませんので、

氷壁の入手は難しいかと…」


ロビンが思い出したように言う。


「あー…炎耐性があるアイツか…」


するとルディウスが顔をしかめてこう言う。


「水か氷魔法が一番効果的な相手だが…この地では厄介だな。

しかし妙だな。武器で倒せない相手ではないはず…」


するとセツナがスタッフに聞く。


「その依頼ってこれまで何人が受けたの?帰還者からの報告は?」


スタッフはセツナの問いあわせに少し困った顔になる。


「待ってくださいね…

ええと…昨日までに5組27名です。

帰還者もおらず、内部の情報がありません」とスタッフ。


するとレイダーが苦笑いしながら言う。


「それだけの人数に依頼して、完了報告どころか、帰還者の報告もないないって…結構ヤバくない?」


するとロビンが言う。


「3日か…その地の神殿の規模はそんなに広いのか?」


「いえ、本来であれば、どんなにかかっても1日あれば最下層まで行って帰れる程度です」


するとルディウスが言う。


「何か別の問題が発生しているのかもしれないな…」


セツナが言う。


「でも、ルカの容体の事もあるから、行くしかないんじゃない?」


「そうだったな。迷う時間も今は惜しい。直ぐに地の神殿に行くとしよう」


すると、セツナたちの話を聞いていた男が声をかけてきた。


「すみません。盗み聞きするつもりは無かったのですが、声が聞こえたもので。

私、この街で商会を営んでいる、マルセルです」


するとロビンが歩きだしながら言う。


「すまねぇな。商談の話なら後にしてくれ。今は忙しい」


するとマルセルが慌てて言う。


「いやいや、お時間は取らせません。

なんでしたら、地の神殿に向かう道中でも…」


するとルディウスが言う。


「悪いが急いでいる。要件があるなら手短に頼む」


するとマルセルが言う。


「もし氷壁を手に入れたら、運ぶ人員が必要でしょう?

人員と機材はこちらで手配するので、切り出した氷壁の半分を頂けませんか?」


レイダーがマルセルに言う。


「“他人の包丁を使う料理人の飯はくえない”って格言があるぜ」


「いえいえ。食材を捌くにもコツはいるので、そこを対価にいかがでしょう?」とマルセル。


するとルディウスが言う。


「判った…人員と機材の手配は任せる。

しかしそちらの身の安全までは保障できないが、

それでも良いか」


「そこのリスクも対価の内です」とマルセル。


こうしてセツナたちは地の神殿へと急ぐのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ