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第二十一話:甘い罠

【第二十一話:甘い罠】

ナセナル運河 河口付近 港町ポスカ・ハルデロ

 元領主の別荘であった洋館を孤児院として、騎士団と共同運営するかたちでルカ・フェブール財団が本格的に動き始めるのを見届けたセツナたち一行は、次の目的地である港町クシュナールを目指して、旅路の支度をはじめた。


するとユアラがルカを誘って買い物に行くと言い出した。


「ねぇ…他の仲間の買い出しついでに、ルカの服、今から買いに行きましょ。」


「あ、そうだよね、あたい服を借りっぱなしだった」


するとユアラの怪しい視線がセツナに向く。


「セツナ」


「ん?」


「今からデートしようよ!」とユアラがニヤニヤしながら言う。


セツナはユアラからの思わぬお誘いに「いいね!」と一つ返事でほほ笑んだ。


するとそれを横で「ふーん…」と見ていたルカが呼ぶ。


「おーい。おっさん!荷物持ち手伝って!」とロビンを呼んだ。


「おん?俺が?!」とロビン。


するとルカが言う。


「体大きいんだから当然でしょ!」とルカ。


「んなもん…セツナに…」と言いかけるロビン。


「あっそ。じゃルディウスに頼もうかな…」とルカが少し寂しそうに言う。


するとロビンが慌てて訂正する。


「行く!行きますよ!」と返事をする。


こうしてダブルデートと言う仮面をかぶった実質の荷物持ちパーティーが結成されるのだった。


 ポスカ・ハルデロを出港すると10日以上は海の上だ。


それ相応の準備が必要だった。


街中を歩きながら買い物リストに沿って次々と露店や市場を梯子してゆくユアラに、セツナが荷物を両手に抱えながら声をかける。


「買い物リストのレイダーの薬草はさっき通り過ぎた横丁にあったよ」


するとユアラが市場を物色しながら上の空で言う


「そうね。それもあるけど…あ!これかわいい!!」


露店に並んだイヤリングに足を止める。


するとルカも


「あ、こっちとかも、ユアラに似合うんじゃない?」


二人そろって露店に夢中だ。


「(なんで目的の店に直行しないのだろう…荷物ちょっと重いな…)」とセツナは思う。


それはロビンも思っていたようで、二人に声をかける。


「お二人さん。さっさと買い物済ませちまおうぜ」とロビン。


するとルカが言う。


「おっさん…それモテない男の禁句5選の一つだぜ」


「お…モテないってなんだよ…」とロビン。


するとユアラが少し暗い顔つきで「つまらなかった?…」とボソっと言った。


それを聞いてセツナが慌てて否定する。


「いや!全然っそんな事ないよ!僕はユアラと一緒なら楽しいよ!」とセツナ。


するとロビンも空気を読んで


「お…時にはこうフラ~っとするのも良いもんだな!ハハハ!」と笑った。


そしてセツナが言う。


「もし、それ気に入ったのなら記念に俺からプレゼントするよ!」


「(おい、そりゃ、どういう風の吹き回しだ…)」とロビンがセツナに耳打ちする。


するとセツナがロビンに言う。


「(俺たちは今、試されてるんだ…)」


「(なに?!)」


するとルカがフーンと不敵な笑みを見せた。


「いいなー…ユアラだけ…」とルカ。


するとロビンがとりあえずセツナに合わせてこう言う。


「ルカ。お前がそれでいいなら…買ってやるよ」


「やった!」とルカがはしゃぐ。


こうして、セツナはユアラに、ロビンはルカにそれぞれイヤリングをプレゼントする事となった。


イヤリングを買った後も、ルカとユアラが先行して街中をあっちこっち歩きまわる。


ロビンがセツナに耳打ちする。


「(おい、さっき言っていた“試されてる”ってなんだよ…)」


するとセツナが言う。


「(男として、女性への気配りができるかどうか…

ひいては彼氏としての素質が問われている)」


その言葉にロビンが慌てる。


「(なんだと!?)」


「(気を付けないと、パーティー解散もあり得る緊急事態だ)」とセツナ。


「(マジかよ…)」


「(ここは慎重に行こう…)」とセツナ。


しかし当のセツナ自身も、恋愛ゲームの中でしか恋愛をしてこなかったので、自信などなかった。


そして早々に二人に関門が立ちはだかった。


ユアラがふと足を止めたのは、ポスカ・ハルデロ名物のスイーツの喫茶店だ。


「あ!これ前から食べたかったのよね~」とユアラ。


するとルカが脇からのぞき込んで聞く。


「それ前からあったけど、どんな味なんだ?」


するとロビンが一言。


「昼飯にするには、ちょっとその量じゃ不足じゃないか?」


すると慌ててセツナが耳打ちする。


「(ロビン。そうじゃない。理屈じゃないんだ)」


「(なに!?)」


するとルカが言う。


「おっさん…禁句5選の二つ目だぜ」


「(やばいカウントダウンが進んだ…)」とセツナ。


そこでロビンがルカにこう言う。


「おらぁ…よくわからんが、ルカたちが食いたいなら、それ食ってみようぜ」


そこで一行は店に入る事にした。


席につくと早速名物のスイーツを注文する。


数分後に出てきたのは顔より大きなフルーツパフェだった。


地産のフルーツがまるで宝石を散りばめたように盛られ、少し黄色身を帯びたクリームがこれでもかと盛られている。


ユアラが、すかさずスプーンで口へと運び「んーうまい!!」と唸る。


ルカも食べるな否や「おおおお!!こんな味初めてだぁ!!」と昇天しかけている。


そしてロビンは当初こそ「実は、甘いの苦手なんだよな…」と言っていたが「うん…うまい」と小さく頷きながら立て続けに口に運んでいる。


セツナもスプーンでフルーツとクリームを合わせて口へと運ぶ。


鼻先にスプーンを近づけただけで、ふんわりと柑橘系のフルーツの香りが漂う。


口に入れると、クリームチーズのミルク感とチーズの酸味そしてほのかな甘みが最初にして、後から新鮮なフルーツの果汁が口いっぱいに広がった。


「これは…」


考えてみれば、この世界に来て初めて地球にあるモノに近い料理を食べたかもしれない。


セツナは思わず目が潤む。


「(あれ…地球に未練だの、望郷の念など無いと思っていたのに…なんで涙が出るんだろう)」


セツナは涙が頬に零れないよう「あー…これうまいわ」と天を仰いだ。


するとユアラが言う。


「本当よね!この店入って正解だったでしょ?」


「うん!ここ当たりの店だと思うよ」とセツナ。


するとルカも「ここ好き!」ともう一口、口に運ぶ。


ロビンも「これなら、また来てもいいな」と満足げだ。


 セツナたちは、そこで休憩を挟んだのち、本日のメインであるルカの服を買いに、服屋に足を運んだ。


店に入るなり、ユアラとルカは二手に分かれて服を探し始める。


「ルカ。どんな服がいいかな?やっぱり動きやすい服装がいいわよね?」とユアラがルカに聞く。


するとルカが悩みながらこう言う。


「あたい、服なんて買った事ないからさ。どんなのがあるか判らなくって…」


するとルカが両手に2種類のスカートを持って、少しはにかみながらロビンにこう聞く。


「ねぇ…どっちがいいと思う?」


するとロビンが慌てながらこう言った。


「お…どっちって…どっちもいいと思うぜ…」


するとルカがハーと深いため息をついて「あっそ…」と両方の服を元の棚に戻した。


するとユアラがセツナとロビンに提案する。


「それじゃ。私たち3人でルカちゃんのコーディネート勝負するのはどう?」


「なに!?」とロビン。


「え…勝負って?」とセツナ。


するとユアラが言う。


「3人でルカちゃんの服装を選んで、ルカちゃんに一番とビリを決めてもらいましょ。

それで、一番良かったコーディネートをした人には、ルカちゃんから何かご褒美をプレゼント」


するとルカが「ええ!?俺からプレゼントするの!?服買うの俺なのに?」と言う。


するとユアラが言う。


「ルカちゃんの服は、この際ビリに払ってもらいましょ。

その方が勝負の甲斐があるわ」


するとルカが少しうーんと唸った後、「それなら…ま、いいか」と了承する。


「セツナとロビンはどう?この勝負のる?」


セツナは一つ返事で返す。


「その勝負、受けて立つぜ!」


セツナには勝算があった。


「(地球ではそれなりに勉強していた。

いじめ脱却の一環としてファッション雑誌も定期購読して研究していた。

何より最新の恋愛ゲームイベントでは負けなしだ!

ロビンには悪いが優勝は頂きだ!!)」


一方ロビンは焦っていた。


「俺は…その…女物の服は詳しくないんでな…」


するとユアラが言う。


「ロビンが良いと思ったものを選べばいいのよ」


するとルカがロビンに言った。


「この前レッドドラゴンで見せた勝負根性はどこいった!」


「服選びと戦闘は違うんだ!」とロビン。


するとルカの表情が曇る。


「ちょっと!ロビン」


ユアラがロビンを睨む。


ユアラの圧に思わずロビンが頭を掻きながら言う。


「あーわかった!わかったよ。やってやるよ!!」とロビン。


こうしてユアラ、ロビン、セツナの3人でルカのコーディネート勝負をすることになった。


ユアラが慣れた手つきで次々と服を選んでゆく、その隣ではロビンがルカの身長を遠目にチラチラ確認しながら、裾の長さをどうしようかと四苦八苦している。


ロビンはどうやら冒険者としての機動性を損なわない服装を中心に選んでいるようだ。


一方セツナはシックに黒を基調に、白や赤を取り入れた渋谷系ファッションをチョイスしている。


そして数分後、三者三葉のコーディネートが出そろった。


そこで、ルカに一人ずつ、試着室で着てもらう事になった。


トップバッターはユアラだ。


試着室からルカの声がする。


「これ…かわいいかも…」


そしてジャン!!と言いながら試着室のカーテンをシャっと開ける。


するとそこには女性冒険者としての基本を抑えつつ、各所にリボンやフリルなどのワンピントが光る女性らしさと実用性を兼ね備えた服装だ。


ロビンが言う。


「おお、似合ってるじゃねぇか」


セツナも言う「さすがバランスいいね」


するとルカが言う。


「でもちょっとこれ…可愛すぎないか?俺…髪短いし…」とモジモジしている。


するとユアラが言う。


「そうか。ルカちゃんはもっとボーイッシュな雰囲気がしっくり来そうよね」


続いてはロビンが選んだものを試着してもらう。


試着室からルカの声が聞こえる。


「げ、これなんだ?これ披露するの嫌だ~」


なかなか披露しようとしないルカに、ユアラが強制的に試着室のカーテンをシャ!と開いた。


すると、短パンにへそ出しルックのルカが腹を両手で隠しながら恥ずかしそうに立っている。


顔を真っ赤にしながらルカが言う。


「おい!これはさすがに恥ずかしいぞ!なんでこうなったか説明しろ!」


するとロビンが慌ててこう言う。


「こ…これはその、戦闘中の動きやすさに重点を置いて、関節部はできるだけ布を避けてだな、防具の当たる部分は擦れないように布を当ててだな…」とゴニョゴニョ言い始める。


ルカが肩を震わせながら叫ぶ。


「却下だ!!」


その言葉にロビンが少しがっかりしたようだ。


そして最後、セツナの選んだ服装をルカに着てもらう。


試着室からルカの声が響く。


「うわ。なにこれ、どこに腕通すの?…ん…こうかな?」


そして試着室のカーテンがシャ!っと開く。


ルカが腰に手をあてて、微妙な顔つきで服を着ている。


するとロビンの口から言葉が零れる。


「それ…なんだよ…」


するとユアラも「まさか…こんなこと…」と口を抑える。


セツナはルカがボーイッシュであることを考慮し、黒を基調に白と赤をさし色に加えた渋谷系ファッションをチョイスしていた。


するとルカが切れ気味にセツナに言う。


「おい。新品なのに、わざわざぼろ布着をせるとはどういう事だ?」


「え!?」となるセツナ。


セツナはダメージの入ったシャツをインナーの上に重ね着させていたのだが、それがぼろ布に見えてしまったようだ。


するとロビンも言う。


「お?こりゃ勝負が見えてきたな!セツナ」とニヤニヤ。


ユアラも「今度、セツナに服選びしてもらおうと思ってたけど…やめようかしら」と反応が返ってくる。


「(なんだと!?ファッション雑誌を読み漁ってきた俺のチョイスが通じないだと!?)」


セツナはこの時、大いなる誤解をしていた。


この世界がエヴァージェントであるという事を…。


その後、ルカの口から結果が告げられた。


「第一回ファッションコーディネートの結果ですが…優勝は…」


ユアラとロビンが固唾をのんで待ち構える中、セツナだけはすでに肩を落としている。


「ユアラ!!」とルカが言う。


「やった!ふふん、どーよ!!」とユアラ。


ロビンはそれは聞いて「あちゃーダメだったか~」と目を覆う。


セツナは「くっ…」と悔しい顔をしている。


そしてビリをルカが発表する。


「さて、それでは今回のビリを発表しましょう…」


するとユアラとロビンの視線がセツナへと注がれる。


ルカが言う。


「セツナ!とロビン!」


「ひぇっ!?俺も?」とロビンから変な声が上がる。


するとルカが言う。


「ロビンのは機能性は良いけど、武骨すぎるんだよ。それに俺は肌の露出は好きじゃないんだよ。覚えておけ!」とルカ。


ロビンが「くそ~!」と悔しそうに言う。


「で、セツナのは俺的にはかっこいいとは思ったけど、新品として買うかって言われたら買わないかな」


ルカがセツナにすまんと謝る。


セツナも「完全に勉強不足だった…自信あったのに…」と天を仰いだ。


「ってことで同列ビリ二人という事でお支払いお願いします!」とルカが言う。


こうしてセツナとロビンでルカの服装を折半で支払う事となったが、ルカはこっそり、ロビンのチョイスしたスカートと、セツナのインナーを商品に混ぜるのだった。


ユアラが「あ、そういえば優勝者へのプレゼントだけど…」とルカに言う。


すると、ルカがユアラの頬に突然キスをした。


「なっ!」とユアラ。


するとルカが「俺のキスは貴重なんだぜ?」と得意げに言う。


しかし「なんだか胡麻化されてる気が~」とユアラ。


すると今度はルカがロビンの頬にキスをした。


「な!なんだ!?」ロビンは顔を真っ赤になりながらも嬉しそうだ。


よく見ると、鼻の舌が伸びている。


「な?」とウィンクするルカ。


するとユアラがルカの気持ちを察したのだろう、


「ま、それでいいわ。でも次はちゃんと物でプレゼントだからね!」と笑いながら言うのだった。


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