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第二十話:創設 ルカ・フェブール財団

【第二十話:創設ルカ・フェブール財団】

ナセナル運河 河口付近 港町ポスカ・ハルデロ 騎士団支部内

 ルカが回復した次の日、セツナたちは領主とロト商会の一件で、クレストフに騎士団支部に呼び出された。


「いや~急に呼び出してしまってすまない。

本来であれば我々からルディウスたちに会いにゆくのが筋だが、事態の鎮静化や、被害者への支援、犯罪人の移送手続き、色々と立て込んでいて、今回ご足労頂く事となってしまった。申し訳ない」


するとルディウスが言う。


「いや。クレストフが多忙なのはこちらも承知している。気に病むことはない」


「ルディウス。そして仲間の方々。この度は大変世話になった!

騎士団を代表してお礼申しあげる。ありがとう!!」と深々と頭を下げた。


するとルカが言う。


「それより、他の子供たちはどうなった?」


するとクレストフは笑顔でこう言う。


「領主とロト商会に拉致・監禁されていた子供たちは全員、騎士団が責任をもって保護しているから安心してほしい」


「じゃ…俺と同じ、街の子供たちはどうなる?」とルカ。


「それについては、すまない。少し時間がかかるだろう」とクレストフ。


「しかし、例の領主の館を没収したので、その館を改装し、子供たちのための保護施設として我々が運営する方向で検討しているので待って欲しい」と付け加えた。


その言葉に少し納得がいかない様子のルカ。


するとセツナがルカにこう言った。


「今はクレストフさんを信じようよ。

ルカの気持ちは判っているからさ」


「…ああ。判った。そうだよな。

クレストフ…さん。どうか俺だけじゃなく、子供たちも護ってやってくれ」とルカ。


するとクレストフが神妙な面持ちでこう返す。


「その気持ち、確かにこのクレストフ・アイバンが受け取った。

子供たちが夜空を見上げて眠る事がないよう全力を傾ける事をここに約束する」


クレストフは騎士団式の敬礼をルカにした。


するとレイダーが聞く。


「ところで、クレストフさんは何で我々を呼び出したんです?依頼?」


「あ、いや。今回の一件で、生け捕りとした中に賞金首が多数いる事が判った」とクレストフ。


するとレイダーが聞く。


「その分け前を俺たちに?」


「もちろん。そのつもりだ。

しかも賞金首の生け捕りの場合は掛け金の3倍のレートがかかる。

額にして128,760リンドルだ」※日本円換算で¥12,876,000


その額にレイダーがピューっと口笛を鳴らす。


「それに加えて、騎士団からの依頼料と謝礼が、各自に10,000リンドルとなるので、

総額188,760リンドルを受け取って頂きたい」


するとロビンが「マジかよ…」と言葉を漏らす。


しかしルカはピンとこないようで、隣に立っていたロビンに聞く。


「すまねぇ…それって飯がどんくらい食えるんだ?」とルカ。


「あ?…えーと。飯だと…一食10リンドル、いや5リンドルとして…」ロビンが指を折り数え始める。


すると見かねたルディウスが「少し豪華な食事をしていても、一年以上は食に困らないだろう」と補足する。


ロビンが途中で計算を諦めて「とにかく腹いっぱい食えるぞ!」と笑った。


するとルカの表情がにわかに明るくなったが、次の一瞬また暗くなる。


そして「その…俺はいらない」とルカが俯きながら言う。


「おめぇ…飯いっぱい食いたいんじゃなかったのか?」とロビン。


「そりゃ…そうだけど…」とルカ。


するとルディウスがクレストフに提案した。


「今回の功労者はここに居るルカくんなのだ。

ルカくんが辞退するのであれば我々も受け取る事は出来ないだろう」


「しかしそれでは、こちらの気持ちが…」とクレストフ。


するとルディウスがこう言う。


「ならば。騎士団からの依頼料と謝礼の10,000リンドルだけ頂き、残りは“ルカ・フェブール財団”を立ち上げ、貧困で苦しむ子供たちのために使うというのはどうだろうか」


するとルカが戸惑いながら言う。


「えっ。良いのかよ。俺だけ辞退するって言ってるんだぜ?」


するとユアラが言う。


「私たちは良いわよ。

ルカの気持ちは判るもの」


するとクレストフが言う。


「他の者たちもそれでいいか?」


「おう!」とロビン。


レイダーも「ま、子供たちを護るには金も必要だろうしな」と小鼻を親指で弾いて言う。


「良いね!ルカの願いでもあるしね」とセツナ。


するとクレストフが頷く。


「では、この資金はルカ・フェブール財団創設資金とする。

加えて領主の館は騎士団管理下のまま、ルカ・フェブール財団に運営を委ねる形にする」


「いいんじゃないか?」とレイダー。


するとルカが言う。


「ならそれでよろしく頼む!」


するとクレストフがこう付け加えた。


「では、私は軍直属の騎士団長の裁可権をここに行使し、財団運営の権限をルカに与える。

今後はルカの意思を最優先として私たちが運営を支えよう。

是非、ルカくんが主体となってこの財団を率いてくれ」


ルカが「え?」となる。


するとルディウスが言う。


「当然そうなる。

ルカ・フェブール財団の創始者なのだ」


「で、でも俺。どうしたらいいか判らないぜ?計算できないし…」とルカが動揺する。


するとルディウスが言う。


「そこは勉強と言いたいが、確かに全く知識がないのではキツイだろう。

当面は私やここにいるクレストフが運営の骨子や資金の流れをルカに提案するので、ルカくんが決めて欲しい。

子供たちのためにも、ルカくんがその手で護ってゆくのだ」


するとルカはしばらく床に視線を落とした。


「(…同じ苦しみは俺だけでいい…)」


「…わかった。俺、怖いけど…やるよ!

ルディウスさん、そしてクレストフさん。

どうぞよろしくお願いします」


「ああ!任せてくれ!」


クレストフが言うと、ルディウスもフっとほほ笑むのだった。


 しかしルカはこれにより、人生始まって以来のある種の地獄を味わう事となった。


当面の資金は今回の報酬で賄えるが、活動を継続するには安定的な資金源の確保が欠かせない。


早速、クレストフとルディウスがルカたちを取り囲んで、今後の方針を検討しはじめた。


「…うーむ」


ルカが頭から煙が出るのではと思うくらいひどく悩んでいる。


するとレイダーが言う。


「いきなり会社の運営って、だいぶハードル高いぜ?」


「だな」とロビン。


するとセツナが地球の慈善団体をベースにこう話し始めた。


「ならさ、パン。作らないか?」


「パン?」と一同。


「そう。子供たちにも遊びの範疇で少しだけ手伝ってもらうなら、パン作りが良いと思うんだ」


するとルディウスが「ほう…パンか」と感心する。


セツナが続ける。


「簡単に仕組みを話せばこうだ。

小麦や酵母などの材料を調達して、施設の子供たち全員でパンを作る。

そのパンをクレストフさんの騎士団に買い取ってもらい、資金を調達する。

この案どうかな?」


するとクレストフが言う。


「いいぜ!パンはいくらあっても足りない連中ばかりだ。

それに何より、軍としても安定供給できるルートが増えるのは願ったり叶ったりだ」


「ま、まあ最初からそんなに大量というわけにはいかないかもしれないけど、この事業が成長すれば、いずれはルカ・フェブール財団の資金確保の一翼を担えるようになるかもしれないよね」とセツナ。


するとルディウスが言う。


「名案だと私は思う。

子供の自立支援にもなるし、クレストフの管理であれば信用もおける。

クレストフ。協力してくれるか?」


「もちろんだ!」とクレストフ。


するとレイダーが聞く。


「となると…どこからその材料を仕入れるか…だな」


すると一同は思った。


『コメット若社長!!(だ!)』


「へっクシュン!!バーロちくしょうめ。誰か噂してやがんな…」とデッキで荷物の管理をしていたコメットがクシャミをした。


「ね!ね!それなら今からコメット社長に相談してみようよ!いいかな?ルカ!」とユアラ。


難しい顔をしていたルカは突然聞かれて「へ?」となる。


「え。あたいが決めるの?」とルカ。


「とーぜん」とユアラ。


「…んー…確かに他に宛てもないし…話してみるか」


こうしてルカたちは、パン作りのために、奔走するのだった。


ナセナル運河 河口付近 港町ポスカ・ハルデロ


「お!セツナたちじゃねーか。今日はどうした!」とコメット。


するとセツナが申し訳なさそうにこう言う。


「今日はコメット社長の胸を借りたくて来ました」


するとコメットが少しいぶかしがって聞く。


「なんでぇ…また面倒ごとかぃ?」


するとルディウスが言う。


「いや。今回は違う。一つ商談事の話をしに来た」


「お?…おおぅ…え商談?」と理解が追い付かないコメット。


するとルカが切り出す。


「お、俺…困窮している子供たちのために、事業を立ち上げたいんだ。

協力してもらえないだろうか。

頼む!力を貸してほしい」


ルカが深々と頭を下げる。


それを見て、コメットが言う。


「…どうやら本気らしいな。

わかった!まずは相談にのるぜ。

お遊びや慈善でなく、商談となればこっちも本気だ。

ま、中で話そうや」


その後、コメットに経緯を話すと、一つ返事で答えが返ってきた。


「おし!俺に任せろ!どこよりも安く買い込んで、良心価格で売ってやるぜ!!」


コメットはそう言うと、さっそく材料の仕入れ先に連絡をとる手はずを始めた。


 それから数日後…


簡単な改修を施した、旧領主の館で、保護した子供たちを交えて、パン作りが始まった。


パン作りを指導するのは、言い出しっぺのセツナと、ユアラだ。


意外な事に、ユアラはサンドールの町にあるルシオラ・レ・パンタを経営する髭爺さんに、長期保存しても硬くならないパンの作り方をこっそり伝授されていた。


生徒の子供たちに交じって、レイダー、ロビン、ルカ、ルディウスが腕まくりをして準備を整える。


「では早速始めたいと思います!」とセツナの号令がかかる。


するとユアラが慣れた手つきで、計量済みの材料をボールに放り込んでゆく。


「必要な事はサンドール特産のココルの実を入れ過ぎない事よ。

入れ過ぎると固くなりすぎちゃうからね!

判ったかな子供たち」


「はーい!」と子供たちが元気に応える。


その横ではロビンが豪快に混ぜている。


するとユアラが指摘する。


「はい!そこの生徒!!力任せにしてもダメです。

周りに溢さないように優しく混ぜなさい!」


「お…おう。でも力加減が…」とロビン。


するとユアラが言う。


「ロビン。犬を撫でる時、そんな力で撫でてるの?」


「あ…いや…それは…」


「じゃ、犬だと思いなさい!」とユアラ。


「は、はい」


その横ではレイダーがすでに捏ね上げた小麦粉でワイバーンの造形を作りだして、隣の子供と遊んでいる。


「そこ!レイダーくん。食べ物で遊ばない!」


ユアラに注意され。慌ててワイバーンを丸め込むレイダー。


一つ後ろの列ではルディウスが小さな花を模した芸術品を作って、隣の女の子にプレゼントしている。


「んもう!ルディウスまで!作ったやつは自分が最後に食べるんだからね!」とユアラ。


一方ルカを見ると一番悲惨だ。


そこら中小麦粉が飛び散っている。


ユアラは思わず頭を抱えるのだった。


 四苦八苦しながらなんとか体裁を整え、いざ焼窯へ。


数分後、焼窯から小麦の焼ける香ばしい匂いがしてきた。


火加減を調整していたセツナが言う。


「ユアラ。そろそろいいんじゃないか?見てくれよ」


「どれどれ…おお、完璧ね」


窯から取り出される個性豊かなパンたちを、一同が固唾をのんで見守る。


すると子供の一人が言う。


「これ!うんこ!?」


指を指した先には、何やら長細い茶色のパンがあった。


すると恥ずかしそうにルカが言う。


「…へび」


「ん?」と子供。


「だから。それはヘビなんだよ!!ほらちゃんと口もあるだろ!」


見ると確かにそれらしい切れ目が入っているが、膨らんだせいで解りにくい。


「ならうんこヘビだね!」とケタケタと笑う子供に思わずルカは「んもう!ならそれでいいよ!」とあきらめた。


するとレイダーが言う。


「お。俺のドラゴンかっけー」


すると周囲の男の子たちも「かっけー」と口々に言う。


「だろ!へへへ」とレイダーは自慢げだ。


ロビンは結局、まん丸に丸めたなんの変哲もないパンを作っていた。


ルディウスの可憐な花は、なぜかリアルに一凛咲いている。


それを見て一同は思う。


「(もしかして凄腕パン職人!?)」


子供たちも各々が面白いかたちのパンを焼いた。


ちなみにセツナはコッペパン風、ユアラは地元の髭爺と同じお手本形状を焼いた。


一通り作業を終え、食べてみる。


「あ、うまー」と言ったのは勿論ユアラだ。


「硬っ!」セツナのパンはどうやら硬すぎたようだ。


一番まずかったのはレイダーのドラゴンだった。


「俺のドラゴン、中が半焼けだぁぁ!!」とレイダーが嘆く。


意外だったのがロビンのまん丸パンと、ルカのうんこヘビパンだった。


丁度良い厚みだったようで、ユアラのパンにも劣らない出来だった。


その後、ユアラのパンやロビン、そしてルカのパンをベースにパン作りが本格的に始動するのだった。


ルカたちの焼いたパンをクレストフの兵舎へと届け、反応を見る一同。


すると以外にも好評で、中には故郷のパンを思いだして泣いている兵士の姿もあった。


そのパンはうんこヘビパンであった。


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