第十八話:盗人たちの輪舞 中編その2
【第十八話:盗人たちの輪舞 中編その2】
ナセナル運河 河口付近 港町ポスカ・ハルデロ
クレストフと別れた後、セツナたちは一旦作戦会議を開く事になった。
しかし、すでに太陽が西の彼方に沈みかけている。
一行は宿を借りるというもの考えたが、どこで誰が聞いているか判らない。
そこでセツナたちは今朝別れたコメットの船に頼み込んで一泊させてもら合う事になった。
「てやんでぃ!水臭いぜ旦那方!
恩義のある御仁の頼みぃ~ここで断りゃ…あ~名が廃る」
相変わらずの江戸っ子+歌舞伎口調で出迎えるコメット。
するとコメットがルカを見て言う。
「そいつは新入りかい?」
慌ててルカが「いや…俺は…」と言いかけたが、セツナがルカの肩に手を置いてこう言った。
「そうだよ」
「なら好きな部屋使ってくれ」
コメットはそう言うと、船員たちに指示を出しに仕事へと戻った。
ルカは緊張していた。
「(俺このままこの船で売り飛ばされる??)」
するとセツナがルカにこう言った。
「コメットって面白い若社長だろ?」
「…ん?若社長…あれで???」とルカが驚く。
それは無理もない。
するとコメットがルカの声を聞きつけて戻ってきた。
「おぅおぅおぅ!またかよ!俺が若いからって舐めんなさんな!」
「いや。だってまだ子供…」
「かー!これだから参っちまうぜ!見た目で判断するんじゃねぇ!」とコメット。
そしてこう付け加えた。
「それにおめぇさんだってそんな身なりしてるが、俺は騙されないぜ!」
その言葉にルカが慌てる。
「…な…何がだ」
「この船には俺たち自慢の風呂がある。
女風呂はこのデッキの一番奥の部屋だ!
洗うなら水は節約しろ!」そう言い放つコメット。
その言葉に一同は言葉を理解できず沈黙した。
そして次の瞬間「ええ!!!(マジかよ…)」とセツナたちの声が甲板に響いた。
「ち…ちが…俺は男だ!」
するとコメットがフーンと言いながら、突然ルカのまたぐらをムンズと掴む。
「キャ!!この変態やろう!!」
慌てて甲板にペタンとしゃがみ込むルカ。
「ほら、肝心な物がねぇ」とコメット。
するとユアラが素早くコメットに歩み寄るとバチン!!とコメットの頬を引っぱたいた。
「コメット!あなた何てことしてんの!!」とユアラ。
その情景に慄く男性陣一同。
するとコメットが自分の失態に気づいてすぐさま土下座した。
「す…すまねぇ!!簡便してくれ!つい…いや…悪かった!!」
するとルカが震える声でこう言う。
「お…お前いい度胸してんじゃねーか」
ルカの目が潤む。
ユアラがルカに言う。
「ごめんなさい!もっと早く言っておけばよかったよね。大丈夫?」
するとルカは動揺しつつもこう言った。
「こ…今回はユアラの姉御に免じて許す。
でも次はねぇからな!!」
この時一同は思った。
「(ルカが女? ってかユアラ…知っているなら、先に教えて欲しかった…)」
するとユアラがルカの手を持って立たせるとこう言う。
「さ、この奥でお風呂を浴びてさっぱりしましょ!」
そして男性陣を特にセツナを睨みつけてこう言い放つ。
「今後、ルカちゃんを雑に扱ったらどうなるか判るわね…」
「は…はい」「お…おぅよ」一同は短く返事を返した。
「(俺なにか悪い事したっけ?)(いや…セツナはしてないな…)」
ユアラとルカは手荷物を抱えると船室の奥にあるシャワー室へと二人で入った。
「服のサイズ合うと良いのだけど…」
ユアラが自分の服をルカに手渡す。
するとルカがはにかんで言う。
「あ…ありがと…」
「いいのよ。あいつらガサツでどんくさいでしょ?」とユアラ。
するとルカがボロボロの服を脱ぎながら言う。
「姉さんはなんであんな奴らと一緒に旅してるんだ?」
「ん?そうね…私たちの旅の目的は、こう見えて魔王討伐なのよ」
さらっと言ってのけるユアラにルカは自分の耳を疑った。
「え…ま…魔王?!」
「そう。クレス・ヴェイガルドで大神官様から直々に依頼を受けてね」
「(なんだよそれ…おもしれぇじゃねぇか…)」
ルカの目に光が一瞬宿ったが、またその光が消えた。
「それで…あんな連中と?」とルカ。
「そうね…最初はねセツナだけだったわ」
ユアラが遠い目をしながら言う。
それを見たルカが唐突に聞く。
「あの優男。姉さんの夫か?彼氏か?」
その言葉にユアラの顔が真っ赤になる。
「お…夫?は…まだかな…良い関係だとは思うけど」とユアラがルカの方を見る。
と、ルカはさらしをグルグル胸に巻いていたのを面倒くさそうに外していた。
さらしが解かれると、思わずユアラが目を背けた。
外見からは判らなかったが、ルカは相当な物をもっていた。
ユアラが思わず自分の物と見比べる。
「(ま…負けた?)」
「なんだよ…」とルカ。
「いえ。さ!お風呂に入りましょ!」
一方その頃、男性陣は円陣を組んで今後の動きを相談していた。
ルディウスが言う。
「明日、ルカをロト商会に潜り込ませる」
「なにか?ルカに潜入調査させようって事か?」とロビン。
「そうだ。ルカは元々この組織に詳しい。潜入するにはうってつけの逸材だろう」
するとレイダーが言う。
「でもよ?ルカは女…だぜ?一人で行かせて大丈夫なのかよ」
「おぅよ…心配だよな」とロビン。
するとセツナがこう切り出す。
「ルディウス。今回の作戦ルカには荷が重いんじゃないか?
もし、その…ルカだけでは不安であれば、俺も一緒に潜入するのはどうかな?」
一同から「おお!」と声が上がる。
するとルディウスが言う。
「いや…これは危険な任務だ…セツナには…」
するとレイダーが言う。
「ルディウス。見損なったぞ!ルカの姿見ただろ。あれじゃ何かあった時戦えないぜ!」
するとルディウスが訂正した。
「すまない。そうだったな…しかしセツナだけでいけるのか」
するとセツナが言った。
「やります!俺にやらせてください」
ロビンが思わず口笛を吹く。
「かっこいいな」とレイダー。
するとルディウスがセツナに言った。
「今回の任務は内部に潜入して、ロト商会と領主の癒着の証拠書類を持ち帰る事だ。
もしかするとルカくんを護らなければいけなくなるだろう。
セツナ。任せても大丈夫か?」
「ああ、任せてくれ」とセツナが応える。
するとロビンが言った。
「セツナ心配するな。万が一って時は俺たちが助け出すからよ!」
ロビンの言葉に一同は大きくうなずいた。
お風呂に浸かったルカとユアラは久々のお風呂に魂を抜かれていた。
「ヤベー…めっちゃ気持ちいい…」とルカ。
「ホントよね~」とユアラ。
するとユアラが質問する。
「ルカちゃんは、いつからここで生活していたの?」
「なんだよ。尋問か?…まいいや。
あたいは物心ついた時からこの生活だよ。
ユアラ姉さんも見ただろ?裏路地の子供たちを、
あたいもあいつらと同じ身の上さ」
するとユアラがさらに質問する。
「ユアラで良いわよ。
それでルカちゃんはいつからそのロト商会に?」
「あたいは…3年前、あるお屋敷に盗みに入ったんだ。
それが運の尽きさ。
取り囲まれて、フルボッコにされて、堕とされて、今じゃこのザマだ。
フっ…もうこれ以上堕ちる所はないと思っていたんだけど、まだ下がありやがった」
ルカが苦笑いを浮かべながら水滴の滴る風呂の天井を仰いで自分を皮肉った。
するとユアラが謝る。
「ごめんなさい。色々聞いちゃって…触れちゃダメな事もあるわよね」
「いいよ。ユアラにだけは本当の事話すよ」
するとユアラがルカに提案する。
「もし…もしこの件が無事に済んだら…一緒に旅してみない?」
「えっ!いいのかよ!」
ルカの目が輝きが思わずザバッと立ち上がる。
「私から提案するわ。あいつら案外いい奴なのよ。ガサツだけどね」
しかしルカの顔がまた曇る。
そしてお風呂に膝を抱えて座り込んでこう言う。
「どうせ…できやしないよ…」とルカ。
するとユアラがこれまでの経緯を話し出して聞かせた。
「でね。私は思ったの。
フォーグマ洞窟の死闘や水の神殿跡での戦いを終えてね。
ああ、このパーティーならどんな困難も乗り越えられるって」
するとルカが揺れるお湯を凝視しながらこう言う。
「ユアラは…まだ本当のこの世界の醜い部分を知らないから、そう言えるんじゃないか…
“生きる”ってそんなに上手く立ち回れるほど甘くはないぜ」
そこで慌ててルカが言う。
「…ごめんななんか…辛気臭くなっちまった」
するとユアラがルカを抱き締めた。
「確かに色々あったけど、今はこうして生きている。
私たちはきっと乗り越えられるわ。
ルカ。あなたにもその力はあるのよ。
自分が気づいていないだけ…」
ユアラのその言葉にルカは思わず両肩が小刻みに揺れる。
「あんだよ…離れろよ」
「離さない!ルカが本当の気持ちを言うまで離れない」とユアラ。
するとルカが大きく息を吸うと、涙声に変わった。
「…あたい。今の生活から抜け出したい!!」とルカ。
するとユアラがルカの目を見てこう言った。
「大丈夫!私たちがついてる。
それにね?優男って言っているセツナだけど、ああ見えて案外強いのよ」とユアラ。
するとルカが少しムッとして言う。
「なんだよノロケかよ?」
「ち!ちがうよ!」とユアラ。
ルカがユアラの胸を両手で掴むと言う。
「言え!あたいは正直に話したんだ!次はユアラの番だコノヤロー!!」
ユアラとルカは久々のお風呂を堪能するのだった。
風呂が終わりユアラ達がデッキに戻るとセツナたちがまだ作戦会議を開いていた。
「皆、お待たせ!」とユアラ。
「ユアラ丁度今作戦を…」
セツナがユアラの方を見て固まる。
ロビンが振り向くと同時に言う。
「あ…えっと…どちらさん?」
見ると、ルカがユアラの服装で立ていた。
思わずユアラの後ろに隠れるルカ。
「…たっく。だから嫌だったんだ」とルカ。
するとユアラがルカを全面に押し出しながら言う。
「はい!私の服案外ぴったりだったのよ!(胸以外は)どう?似合う?」
レイダーが言う。
「いいじゃん!様になってるぜ!」
セツナも「良いと思うよ」とほほ笑む。
ルディウスは「これは…」とだけ言った。
その中で一番オドオドしていたのはロビンだった。
「お…なんつーか…馬子にも衣…ウゴっ」と言いかけて、レイダーに肘鉄を食らう。
するとルカが思わず脱ぎだす。
「ほれ見ろ!だから俺はやだったんだ!!」
慌てて止めに入るユアラ。
「ま!ちょっと下着が…
男性陣!そのまま目を伏せろ!!」
「あ!はい!!」と一同。
どうにか服を着させ落ち着かせたユアラが男性陣に言う。
「表を上げてよし!」
見るとルカが真っ赤な顔して座っている。
「…なんで俺が…これだから男は…」とブツブツ言っている。
するとロビンが気まずそうに言う。
「あ、さっきはそのチャカしてすまねぇな。
…その服装かわいいと思うぜ」と言う。
思わぬ告白にルカの顔が真っ赤になる。
「舐めてんのかこの野郎!!」
ロビンに食って掛かる。
「ち。ちげぇって。褒めたんだよ。似合ってるって…」と慌てるロビン。
「それが舐めてるってんだよ」とルカ。
慌てて止めるユアラ。
「ま、まぁ落ち着いてルカ」
するとルディウスが咳払いしてから話を切り出す。
「お取込み中ですまないが。
明日の作戦を説明したいのだが…いいだろうか」
するとルカが反応する。
「あん?…作戦?」
その作戦とはルカとセツナでロト商会の中に入り、書類を盗み出すというものだった。
ユアラが止める。
「危険だわ!」
するとセツナが言う。
「ユアラ大丈夫。ルカさんの事は俺がちゃんと守るよ」
するとユアラが問う。
「じゃあセツナは誰が守るの?」
するとルカが面倒くさそうに言う。
「自分の身は自分で守る。
助けなんかいらない。
それとも俺が裏切るからお目付け役をつけたいってか?」
するとセツナが言う。
「信じてもらえないかもしれないけど、今回の作戦には危険が伴う。
一人で行かせてルカさんが死んでは意味がない」
するとルカがため息交じりに笑いながらボソッとこう言う。
「ハハ…どうせ、そこらへんに転がっている石より無価値な命だ…
守るならユアラを護れよ優男」
その言葉に思わずセツナが詰め寄ろうとした時だった。
ユアラがルカの頬をパシン!と引っぱたいた。
「どうしてそんな事言うの!
セツナがどうして、ルカのために命をかけてくれると思うの!
ルカ言ってたよね!この生活から抜け出したいって!
それなのになんで自分から先に諦めちゃうの!」と言うと泣き崩れる。
するとルカが痺れた頬を触り「ってぇ…」とつぶやく。
するとルディウスがこう言った。
「二人の間でどんな会話がされたかは詮索しない。
でも我々がこれからする事は、
ルカくんだけじゃなくて他の子どもたちも、
今の生活から抜け出させるための大切な作戦なのだ。
どうか他の子どもたちのために、我々に協力してほしい」
するとルカが言う。
「わかったよ!協力すりゃいいんだろ」
するとセツナが付け加える。
「ユアラが泣いている理由は、ルカさんにも判るよね?」
ルカがユアラをチラッと見て言う。
「…ああ」
「俺だけじゃない。ここにいる仲間がルカさんを護るから、最後まで諦めないでくれないか」
「…しつけぇな…わかったよ!」
するとユアラがルカに「ごめんね」と平手打ちした事を謝った。
ルカは頭を搔きながら「あーもう!調子狂うなぁ」と言うとルディウスに言う。
「で具体的には何を持ち返ればいいのさ!」
するとルディウスが明日の作戦を話し出した。
「まずパーティーを3班に分ける。
ロト商会に潜入するセツナとルカ班と、支援サポートするユアラとルディウス班、そして揺動と殲滅がロビンとレイダー班だ」
フィールにキレーヌ逮捕の時に荒くれの後を追わせていたので、ロト商会のアジトの場所は把握していた。
町外れにある、元領主の避暑地として使用していた大きな洋館が彼らのアジトだった。
するとルディウスが言う。
「人数は明日次第だが、全員相手する必要はない。あくまでも揺動だ。ロビンとレイダーには正面玄関でひと騒動起こしてもらう」
するとルカが聞く。
「で?俺らは裏から潜入するって事でいいんだな?」
「そうだ。ルカくんとセツナはロビンたちが正面で騒動を起こした隙に裏から洋館へ侵入する」とルディウス。
するとユアラがルカに言う。
「ルカ。支援は私に任せてね!」
「…お・おぅ」ルカは少しはにかんだ。
セツナが聞く。
「ルディウス。洋館の中に大勢人が居た場合はどうすればいい?
見つからずに済めばいいけど…」
するとルディウスが言う。
「ロビンたちの騒動に乗じて洋館の一部に私とユアラで火をかける。
セツナの話では丁度良い位置に倉庫がある、それを燃やす。
火が着いたら、セツナたちは洋館に入ってこう叫べ。
“火事だ!洋館に火が燃え移るぞ!”“消火を手伝え!“」
その言葉に一同は思た。
「(ルディウス。エグイって…)」
レイダーが言う。
「それなら盛大に暴れないとな!」
そしてルディウスが言う。
「セツナとルカには元締めの部屋。
ミゼット・ロブルの執務室に入り込んで、
領主アルフレド・フォン・バルトロとロト商会の癒着が判る書類を盗み出してもらう」
「盗みなら任せろ」とルカ。
「肝心なのは撤退のタイミングだ。
それについては、クレストフに一肌脱いでもらう。
火事を聞きつけてクレストフが兵士を連れて突入する。
その混乱に乗じて我々は撤収する。
ここまでで何か質問は?」とルディウス。
一同は「問題ない」と口々に言った。
するとロビンが手をみんなの前に突き出して言う。
「おうよ!じゃコレやっとこうぜ!」
「なんだよ…」とルカ。
するとセツナが補足する。
「みんなで力を合わせる時のゲン担ぎだよ。実際効果あるんだ」
ロビンが言う「お!判ってるじゃねぇか!おし!ルカも片手を俺の手の上に重ねてくれ」
「えー」とルカが嫌がりつつ手を乗せる。
「掛け声はオーだぞ。
準備いいか?
この街の子供を救うぞ!オー!!!」
「オー!」「…おぅ」
「違う!もう一度だ。
ルカ!恥ずかしがってねぇで腹から声出せ!手を退けるな!ちゃんと乗せろ!」
ロビンがルカの手を取って自分の手のひらにグイっと重ね直す。
「俺の後に続いてオー!だぞいいか?いくぞ!」
ロビンが改めてコールする。
「ルカたちをここから幸せにするぞ!!オー!!」
『オー!?!!!』というみんなの声が重なり甲板に響いた。
作戦会議の後、セツナがユアラを呼び止めた。
「ユアラ。明日の作戦に向けて一つ試したい事があるんだけど…」
「えっ!今から?何を試すの?」
するとセツナが胸にぶら下げた吸魔石を握りながらこう言った。
「…吸魔石を使わない魔法の詠唱」
セツナの言葉にユアラはびっくりしつつ、意図を理解してこう言った。
「じゃ、ここだと目立つから人気のない場所で確認しましょ」
二人は船を降りると、森の中へと歩いて行った。
港町ポスカ・ハルデロ 郊外 某所
作戦直前、セツナとルカは冒険者と判らせないために、容貌をまるで浮浪者のようにボロ布を身に纏い、泥の中で転げまわる。
するとルカが地面に落ちていていた動物のフンを掴んでセツナに手渡す。
「ん!」
「え、何?」とセツナ。
「これを頭に塗れ!」と言うなりルカがセツナの頭にグシャグシャと塗りたくった。
「うわあああ!」と悲鳴をあげるセツナ。
しかしルカは作業を止めない。
「お前は綺麗すぎる!暴れんな!!我慢しろ!」
そして数分後、見事に街に溢れた子供の風体になっていた。
「あ、その首から下げた吸魔石も置いていけ!俺たちには不要なものだ」
ルカはそう言うと、セツナの吸魔石を取り外す。
「…これでよし!だいぶそれらしくなったじゃねぇか!」と笑うルカ。
セツナは今にも泣きそうだ。
すると、ルディウスの声が耳もとに聞こえてくる。
「伝達魔法は良好だな?準備はいいか?」
「問題ないぜ」とロビン。
「…こっちは準備できた」とテンション低めに応答するセツナ。
「では行こうか」ルディウスの号令と共に作戦が開始された。
フィールが上空から洋館の外と中の人員と配置を確認する。
「門に2名、柵の中、中庭に表側8人、裏側5人、洋館の中にも1階と2階合わせて…25人いるな」とセツナ。
レイダーが人数を聞いてこう言う。
「表だけで15人、内部に25人って…なかなか多くない?」
「なんだぁ?自身無いのか?」とロビンがニヤつく。
「では手はずどおりに…作戦開始!」とルディウスが号令を送る。
港町ポスカ・ハルデロ 郊外 領主アルフレド・フォン・バルトロ邸前
ロビンがまるで飲んだくれのように洋館前にフラリと現れた。
あっちにフラフラ、こっちにフラフラと千鳥足状態で門衛に近づく。
もはや本当に飲んでいるかのような迫真の演技だ。
ロビンがフラついて柵にもたれる。
すると門衛の荒くれが声をかけた。
「おいおい。そこで吐くなよ!」
「でぇじょぶです!!お構いなく…」とロビン。
しかしとてもそうは見えない。
すると道の反対側からレイダーが歩いて来る。
そしてレイダーが門前を通り過ぎようとしたその時、ロビンがふら付いて、レイダーにドンと当たってしまった。
「ったく!朝からなにしてやがんだ!この飲んだくれ!!」とレイダー。
するとロビンがヒートアップする。
「なんだとぉ…このガキが」
ロビンがショートソードを引き抜く。
それを見て門衛が二人を止める。
「ここで喧嘩はやめろ」
しかし二人は止まらない。
「いいぜ…丁度むしゃくしゃしていたんだ」
レイダーもショートソードを引き抜き対峙する。
一瞬の静寂の後、二人は同時に動いた。
バキャン!!という剣同士がぶつかり合う音が周囲に響く。
するとその音を聞きつけて、中庭で暇を持て余していた荒くれどもがやってきた。
「おい!どうした!」「喧嘩か?」「なに!?喧嘩してんの?見ようぜ!」
ロビンとレイダーの剣技の前に、あっと言う間に柵の周りに衛兵たちが群がりだした。
するとロビンがわざとレイダーを門のある方向に向かって蹴り込む。
ズスン!という鈍い音と共に、レイダーが弾かれ、門を突き破って中庭に転がり込む。
「んのヤロウ…(ロビン手加減どうした?!)」とレイダー。
すると門衛が慌てて二人を止めようとするも、ロビンはその静止を振り切ってレイダーを追いかけて中庭に侵入してゆく。
さらにヒートアップして華麗な剣技を魅せつけるロビンとレイダー。
その剣技に魅了され、周囲の荒くれどもが騒ぎ出す。
「やれ!もっとやれー!」「負けるな若いの!!」
表の騒ぎを聞きつけて、洋館からも荒くれどもが一目見ようと駆け出してきた。
洋館の窓際に下着姿の女が立って外の様子を確認している。
部屋の奥から声がする。
「アトリア。朝から騒がしいな何があった?」
するとアトリアと呼ばれた女が部屋にいた人物に報告する。
「どうやら飲んだくれが喧嘩の勢いで敷地内に入ってきたようです。ミゼット様」
「さっさと摘まみだせ!俺はもう少しこの子たちと戯れる」とミゼット。
裸で広いベッドに寝転がったミゼットの横には、ボロ布一枚で首に鎖で繋がれた少女たちが、四つん這い状態で佇んでいる。
中庭での戦いはさらにヒートアップしていた。
数回切り結んだのち、間合いを取ったロビンがレイダーと倉庫が重なる方向に手をかざし魔法を詠唱し始める。
それを見て慄く周囲の荒くれたち。
「まて魔法はさすがにマズイ!」
周囲が止めに入る間もなくロビンから魔法が放たれた。
それをレイダーが寸前で回避する。
放たれた魔法が倉庫に向かって飛んで行く。
そして当たると同時に倉庫に火の手が上がった。
勿論その程度であれば燃えるはずが無い堅牢な倉庫なのだが、ユアラとルディウスが側面から炎魔法をぶち当てたのだった。
火事そっちのけで喧嘩する二人。
しかし荒くれどもはそれどころではない。
「そ!倉庫が燃えている!!」「火を消せ!!」
すると裏で警備していた荒くれも、騒動を聞いて表へと駆け付ける。
その隙をついてルカとセツナが柵を乗り越えて洋館へと突入を開始した。
倉庫には貴重品もあったようで、ミゼットも全裸のまま窓際に来て指示を出す。
「さっさと消せ!洋館に燃え移る!!
お前たちもさっさと消しに行け!」
そしてミゼットは慌てて執務室へと駆け出した。
セツナたちは窓をけ破ると、内部に侵入し、叫んだ。
「火事だ!!火を消せ!」
その声に促され、洋館にいたほぼ全ての荒くれが慌てて表に駆けだしてゆく。
「(今だ!)」
ルカとセツナは広い洋館の廊下を駆けだした。
執務室の位置は、クレストフからの情報で1階の一室にある事が判っていた。
ルカとセツナは素早くその部屋へ着くが、鍵がかかっていた。
するとルカが取っ手を前蹴りでガツン!とぶち壊す。
「さ、空いたぜ!」とルカ。
その物音に周囲を確認したが幸いだれもいない。
その部屋に入ると、窓が一切ない異様な密室で壁には天井に届くほどの本棚で埋め尽くされていた。
「ルディウスの話では、金の紋章で封印された茶色い巻物があるはず」
二人は手分けして片っ端から引き出しを漁る。
すると一か所だけ鍵のかかった引き出しがあった。
「セツナ!多分ここだ。俺の感がそう告げている。でも鍵がねぇ」とルカ。
するとセツナが「ちょっとどいて」と歩み寄るなり、胸に手を当てて目を瞑り集中しだす。
セツナの顔が少し険しくなり、顔をしかめ眉毛がピクッと動いた。
すると次の瞬間、セツナの胸から黒い靄が立ち込めてきた。
ルカが慌てる。
「ま、魔煙!?」
するとセツナが目を見開き、手を鍵のかかった引き出しにかざす。
『解け。英知の源泉よ、彼の秘め事をここに晒せ。』
するとセツナの足元から室内にもかかわらず水が湧き出て、静かに噴水のように水が隆起する。
隆起した水は頭をもたげた蛇のように鍵穴の前に静止すると、パクっと噛みつくように水で包み込んで、瞬く間にカシャン!と鍵を開けた。
「お、お前吸魔石隠してたのか!?」とルカ。
「ま、まぁな…(しまったルカには俺の事伝えてなかった)」とセツナ。
セツナが引き出しを開けると、そこにルディウスが言っていた巻物が複数あった。
「これだ。持ち返ろう」とセツナ。
素早く手に取ると、ショルダーバッグにねじ込む。
とその時だ、廊下を駆けてくる音がして、執務室の扉がガチャ!と開いた。
セツナたちが見ると、全裸の男が立っていた。
「キャァ!!」とルカが甲高い悲鳴を上げる。
するとその男も慌てて前を隠す。
「き!貴様らここで何している!!」
全裸の男が前を手で覆いながら狼狽する。
するとセツナの手に持った書類を見て慌てふためく。
「それはトロ商会の権利書!か、返せ!!」
男が突っ込んで来た。
するとセツナが間合いを一気に詰めると、男の伸ばした手首を握り、男の腰に身体を滑り込ませ、巻き込むように男を投げた。背負い投げだ。
ズダン!!という痛そうな音が室内に響く。
男は突然の事に何が起こったのか判らないまま、床で痛みに悶絶している。
「さ、今のうちに早く!」とセツナ。
すると男が這いずって、机の引出しの下に設置していたスイッチを押し込む。
その直後、扉の下の床がパコ!と開き、逃げようと扉に歩み寄ったセツナとルカを奈落へと落とした。
奈落に落ちるルカとセツナ。
地面は見えず、風の音だけがゴーと響く。
「わあああ」と叫ぶルカ。
するとセツナがまた胸に手をあて詠唱する。
『受け止めよ、猛き風のうねりとなり、我らの加護とならん』
その魔法はユアラがセツナを断崖から突き落とした時に使った魔法だ。
するとすぐさま足元から突風がブワっと吹き始めた。
そして石畳の床が迫る頃にはほぼ宙に浮いている状態になった。
するとルカが言う。
「お前って本当に強かったんだな」
二人が地面におり立つと落ちてきた天井を見上げた。
だいぶ深くまで落ちたようで、落とされた開口部から放たれた四角い光を、手のひらで覆うと隠れるほどの高さがあった。
「ここからは登れないか…別の道を探そう」とセツナ。
するとセツナがまた胸に手を当て、そして手を暗闇にかざして詠唱をする。
『灯せ。焦熱の光となり、我らを導け』
すると中空にポっと明るい光の玉が現れた。
これはフォーグマ洞窟でルディウスから教わった冒険者御用達の照明魔法だ。
周囲が明るくなり、周りを見回すセツナ。
そこかしこに石柱が規則正しく立ち並び暗闇へと消えている。
足元には白骨した人の骨があちこちに散らばっている。
「なんだかここ臭いな」
セツナが口元を手で覆う。
すると「ハハ。少なからず、お前の頭の匂いではないみたいだな」とルカが笑う。
ここはどうやら地下通路か、下水のようだ。
するとセツナがルディウスに言う。
「すまない、全裸の男に地下通路に落とされた」
するとルディウスより早くユアラが言う。
「無事なの?!」
「ああ大丈夫だ。ルカも無事だ」
するとルディウスが言う。
「確か、私の記憶が正しければ、200年ほど前までは、今の建物の下に地の神殿があったはず。
恐らくその跡だろう。
私もそこまで詳しくないが、風の流れに向かって歩けば、出口に通じているはずだ」
「わかった。
後ルディウス。例の物は手に入れた」とセツナ。
「よし。ではこちらも引き上げるとしよう」とルディウス。
ユアラが言う。
「セツナ!ルカ。気を付けて。
ここが片付いたら入口に私たちも向かうわ!」
「じゃ…進もうか」
セツナはルカを連れて風の流れてくる方へと歩きだすのだった。




