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第十六話:盗人たちの輪舞 前編

【第十六話:盗人たちの輪舞 前編】

ナセナル運河 河口付近 港町ポスカ・ハルデロ

 コメットと別れたセツナたちはその足で次の目的地、ランバルト大陸にある港町クシュナール行きの船を探していた。


港町というだけあって、至る所に木箱が積まれ、その脇には警備兵が槍を持って立っている。


街の中央にある市場では盛んに商い人の掛け声が飛び交っていた。


活気と喧騒が絶えない大通り沿いを見ていたセツナが言う。


「へぇ。クレス・ヴェイガルドの市場を初めて見た時は、すごく大きいって印象あったけど、それより規模が大きく感じるね」


すると右隣を歩くユアラが言う。


「当り前よ!ここ港町ポスカ・ハルデロは私たちが今いるアデリーナ大陸と、ランバル大陸同士を結ぶ数少ない水上交通の要所なんだから」


するとセツナの左を両手を頭の後ろで組んでのんきに歩いていたレイダーが言う。


「それより、フィール目立ちまくってね?」


気づけば通り過ぎる人たちが漏れなく二度見や凝視をしてくる。


警備兵も警戒しているようだ。


その理由は明白だ。


セツナを追ってノシノシ歩くフィールの存在感が半端でないからだ。


「この前よりまた大きくなった?」とユアラ。


「そりゃぁおめぇ…成長期ってやつだからな。


犬でも1年かけて大人へと成長するからな!」とロビン。


「犬ね…ロビンの犬の基準が知りたいわ」とあきれるユアラ。


するとレイダーがニヤっとしながら言う。


「案外こう見えて、フィールはドラゴンの皮を被った犬かもしれないぜ。

ほれ、今も飲食店の匂いに鼻先ヒクヒクしてらぁ」


見ると確かにフィールが飲食店の方を凝視しながら、長い舌で鼻先をペロりと舐め、鼻をヒクつかせている。


すると突然その飲食店の扉がびっくり箱を開けるようにバン!と勢いよく開いて、中から黒髪の少年が飛び出してきた。


「うわ!」思わず声をあげるセツナ。


飛び出した黒髪の少年は、路上で一回転すると、スタっと低い姿勢に移行する。


姿勢が整うや否や、クラウチングスタートを切り、こちらに向かって突っ込んできた。


が、目の前にはセツナたち一行が壁を作っていた。


「どいてどいて!!」


慌ただしくセツナとユアラの間に向かって突っ込む。


「おっと」


セツナとユアラがヒラリと道をあける。


しかしその先には大型犬並みのフィールが控える。


すると黒髪の少年が「うわ!ドラゴン!?」と叫ぶと同時に、フィールの頭上をヒョイ!と一足飛びで回避して抜けてゆく。


ロビンが思わず「良い反応してやがる」と笑った。


慌ただしいその少年は嵐のように去ってゆくと市場の喧騒に消えていった。


すると一足遅れて、また飲食店の扉がドン!と開く。


息を切らせて出てきたのは、身なりからすると店主のようだ。


「食い逃げ野郎め!!今日こそ、とっ捕まえてやる!!」


店主は飛び出した勢いに足をもつれさせながら、少年が走って消えた方を睨む。


そして逃走進路上のセツナたちを見ると「邪魔だ!どけ!道をあけろ!」と吐き捨てる店主。


それに呼応してセツナたちはまるで海を二つに分けたモーセの奇跡のようにザザっと道を作って両脇に避ける。


しかしフィールはそのままだ。


突如、道のど真ん中に出現したドラゴンに店主が叫ぶ。


「うわ!でっけえトカゲ!おっかねぇ~…」


店主はそう言うと、フィールの脇を重そうな足取りで走り抜けていった。


その様子を見てユアラが言う。


「治安…良くないって聞いていたけどホントみたいね」


「こんなに豊かなんだけどなー」とレイダー。


するとロビンが店の裏路地に視線を向けて言う。


「そりゃ。表向きは…だろうな…

あれみて見ろよ。一歩踏み込んだらあの有様だぜ」


ロビンの視線の先には人が一人やっと歩けるくらいの日陰になった路地があり、日の差し込まない冷たそうな地べたには、10歳にも満たない子供たちが、ボロボロの服で寝転んでいる。


するとルディウスが言う。


「昔はここまで酷くはなかったのだが、ここ数年で治安が急激に悪化しているようだ」


するとセツナがその光景を見ながら聞く。


「原因ってなんだろう?」


するとロビンが笑いながらこう言う。


「ま、原因は一つじゃないだろうが、おそらく一番の原因は領主様の管理がへたくそって事だろうぜ!ガハハ!」


するとその声に反応して3人の警備兵が駆け寄ってきた。


「おい!そこの冒険者!」


「おん?」


「貴様、今、アルフレド様を愚弄したな!」


「アルフレド?誰だいそりゃ?」とロビン。


「領主アルフレド・フォン・バルトロ様だ!」と警備兵。


するとこの騒ぎを耳にした周囲の住民たちが小さくつぶやいている。


「あいつらまたやってら…」「嫌だ嫌だ…関わりたくないね…」「不運だよなあいつら…」


するとルディウスが間に割って入ってこう言う。


「いや、いつも治安維持ご苦労さまです。

これ、良かったら今日の酒代にでもしてください」


そう言うと、路銀の一部を警備兵の一人の手に握らせる。


すると警備兵が一瞬ニヤついた。


「わかりゃいいんだ。今度から気をつけろ!」


そう言うと警備兵たちは立ち去ってゆく。


セツナが思わず何かを言いかけると、ルディウスがシー…と唇に人差し指を当てて静かにいさめた。


警備兵の姿が消えたあと、ルディウスが口を開いた。


「どうやら、ここでは大っぴらに話せる訳ではないようだ。

一度宿を探そう。話すならそこでも問題あるまい」


「だな」と気まずそうなロビン。


 セツナたちは早速宿屋を尋ねる。


「一泊一人朝食付きで、10リンドル50セシェルとなります。」


店主に言われ、セツナも自分のポケットから口座開設時に渡された通称“金(銭)管(理)証明(書)”を取り出そうとした。


「あれ…ない」とセツナ。


ポケットをいくら探ってもない。


「別のポケットとか?」とユアラが一緒にセツナの装備品を弄る。


するとレイダーがニヤつきながら言う。


「こりゃ…やられたなセツナ」


するとロビンが笑いながら言う。


「ガハハ。危機管理がなっちゃいないぜ。

冒険者なら一番最初に気をつけるのは魔物よりスリだかんな」


それを聞き「先に言ってよ~」と半泣きになるセツナ。


するとロビンが言う。


「仕方ねえここは俺が奢ってやるよ」


そう言うと、ロビンがポケットを探る。


「…ありゃ。

おっかしな…俺は船を出て…いや、まず朝トイレに…」


するとルディウスがため息をつきながら言う。


「どうやら相当手練れのようだな…探すしかあるまい」


セツナたちはまず一番可能性が高い黒髪の少年を探す事にした。


黒髪の少年とすれ違った飲食店前まで来ると、セツナがフィールを呼んで言う。


「フィール。この匂いでさっきの少年の居場所を探れるか?」


セツナはそう言うと、自分のポケットの布の匂いを嗅がせた。


フィールがフンフンとポケットの匂いを嗅ぐ。


そして首を上げて、空中の匂いを嗅ぎ始める。


するとロビンも言う。


「フィールちゃん!俺のもお願い」


ロビンはフィールの鼻先にズズイと自分の布を突き出す。


レイダーが言う「こりゃ犬…だな」


「あたぼうよ!」とロビン。


するとフィールはクシュン!とクシャミをした。


ボワ!っと口から炎が噴き出る。


「おわ!燃える!」ロビンが慌てて布を引っ込める。


それを見たレイダーが笑った。


「ハハハ!ロビンの匂いは強烈だったみたいだな」


「んなろうめ…」


二人の匂いを嗅いだフィールが早速行動を開始した。


その大きな翼を広げて空に飛び立つ!


と思いきや、フィールは地面に鼻を近づけて少年が駆けていった方向へと歩みを進める。


気配を追いかけて人込みの中をズンズン進むフィール。


するとある所でピタっと足が止まった。


そして首を持ち上げる。


飲食系の露店だ…シシケバブの肉の匂いが漂ってくる。


「あちゃー」とセツナ。


するとユアラがフィールに言う。


「それは後であげるから、先に困ったちゃん二人の金管証明を探してもらえる?」


「困ったちゃん…て」とロビン。


するとフィールは再び地面に鼻を近づけて歩きだすのだった。


 一方その頃、ある古びた小屋の中に黒髪の少年が本日の獲物を並べてほくそえんでいた。


黒髪の少年の変声期前の軽やかな声が荒れた部屋に響く。


「ふふふ。俺様ホント天才!

ああ我ながら才能が怖いなぁ~

でこいつにはどんだけ入っているのかな…」


黒髪の少年は両手をこねると、鼻歌交じりにセツナの金管証明を開く。


「うわ!こいつ金持ち~。

マジあったまくるわ~

でも大当たりを引いたって感じだわ」


そして今度はロビンの中身を見る。


「うわ!なにこれ…

酒代…食事代…仕送り…酒代…宿代…酒代…って、ほとんど飲み食いに使ってるじゃないか。しかも不健康の極み~こいつはハズレね。」


少年はウエーっとロビンの金管証明をわきに放り投げる。


そして少年は腕まくりをすると地面にセツナの金管証明を広げた。


「さーてさて…皆さまお立合い!ここからが俺様の本領発揮ですよ!」


調子よくそう言うと、少年がスッと集中しながら金管証明の上に手をかざして詠唱を始める。


『英知の根源たる水の女神ツリョーセよ。

我が声に応えよ。

ここに秘めたる彼の者の深淵を解き放て』


すると青白い光と共に魔法陣が金管証明に浮き出てパキンと亀裂が入った。


フィールの後を追い、裏路地を歩いていたセツナが急に「うっ!」と頭を押さえる。


「どうした?」とロビン。


「いや、今何か変な感覚が…」


するとルディウスが言う。


「どうやら金管証明の強力な魔法結界を解いた者がいたようだな…手遅れになる前に急ぐぞ」


 黒髪の少年はセツナの金管証明の魔法結界を解くと、手に持ってニンマリと笑った。


「これで大金持ちだぁ!」


するとそこに男たちが侵入してきた。


「そこまでだぜ!ルカ・フェブール」


ルカと呼ばれた黒髪の少年が慌てて金管証明を閉じながら吠える。


「なんだよ!俺の家に土足で上がるな!」


すると男の一人がルカに言う。


「お前、さっきその金管証明を解除してたよな?

それさっさとよこせ」


「なんでだよ!今月のみかじめ料は払ったはずだぜ!」


「んなもん基本料金だろ。

ここからは追加料金だ。

おい!もってけ」


男はそう言うなり両脇の男に顎で指示を出す。


「これは俺のだ!」


男たちは抵抗するルカを無理やり抑え込むと、セツナの金管証明をルカの手からむしり取った。


「触んな!このやろ!変態!」とルカ。


しかし男はルカの腹を蹴り飛ばす。


「うぅっ!」


ルカが腹を抱えて地面にうずくまる。


すると男が金管証明を見て笑う。


「こりゃ大当たりだ!ハハハ!」


「良い仕事したな。次も頼むぜ」


男たちは悶絶するルカにそう言い捨てると部屋を出て行った。


ルカが地面に顔を埋めながら言う。


「ちくしょう…いってぇ…」


しばらくその姿勢のままでうずくまっていたが、

ルカは仰向けになると鈍痛の続く腹を押さえて空を見た。


狭く囲われた部屋の屋根はほぼ無く、遠くに青い空と白い雲が見えている。


ルカは目の上に腕を乗せてつぶやいた。


「くそっ!…マジ死にてえ…」


そしてルカは静かに目を閉じるのだった。


それから数分後、今度はその小屋の外からフンフンという荒い息遣いが聞こえてきた。


そして次の瞬間、扉のない部屋に赤い何かが飛び込んできた。フィールだ。


フィールを追ってセツナたちが部屋に入る。


するとルカが不貞腐れた顔でセツナたちを見てこう言った。


「なんだよ…何見てんだよ。見世物小屋と間違えてねーか」


するとロビンが部屋の片隅に投げ捨てられた自分の金管証明を見つけ駆け寄る。


「あったぜ。俺の大事な金管証明」


するとルディウスがため息をついてこう言う。


「確定だな…

少年。盗んだもう一つの金管証明を返してもらおうか」


するとルカは寝がえりをうってこちらに背を向けると言う。


「んなもん…もうねぇよ…」


その態度にレイダーが歩み寄って「このクソガキ…」と少年の襟首をつかんで無理やり体を引き起こす。


そして「人様の物を盗んでおいてその態度はなんだ!」とルカの頬をパシン!と平手打ちした。


しかしルカは脱力したまま視線すら合わせずに鼻で笑いながらこう言い捨てる。


「フっ…殺せよ…殺したいならそうしてくれていいぜ…」


ルカの言葉にセツナの脳裏に殺したあの感触とシーンがフラッシュバックした。


するとそれを聞いたセツナがつかつかと素早く歩みよると、

ルカの逆の頬を平手打ちした。


「お前!簡単に死ぬとか言うなよな!!」


セツナらしからぬ行動を見て、レイダーが思わずルカから手をほどいて「まあまあ」とセツナの肩を押し留める。


するとユアラがルカに優しく聞いた。


「もうないって事は、今は誰が持っているの?」


すると「まとめ役の連中」と端的に応えるルカ。


それを聞いていたロビンが言う。


「それじゃオメー。

そいつらにボコられて、今日の取り分はこれだけになったってのか?」


ロビンが自分の金管証明をヒラヒラと揺らした。


するとルカが言う。


「おっさん…それは返す。悪かったな貧乏人」


「おっさ…おっさんじゃねぇ!それに貧乏人はお前の方だろうが!」


「うっせえ!残金見たけど、薄らボケーっとしたコイツの金管証明より相当少なかったじゃねーか!」


セツナを指差しながらルカが喚いた。


「んだとコラ!!」ロビンが顔を真っ赤にしてドシドシとルカに歩み寄る。


「待て。ロビン」とルディウスが止める。


するとルディウスがルカに歩み寄って静かに聞く。


「我々はセツナの金管証明を返してくれれば、それで良い。そのまとめ役の所在を教えてくれ」


するとルカは少し微妙な表情を浮かべる。


そしてこう聞いた。


「…お前たちよそ者だろ…」


「うん。そうだよ」とセツナ。


「…だからだ…」


「何が?」


「…だからそんな簡単に取り戻そうだなんて言えるんだ」


悲しげに視線を地面に落としたまま、そう語るルカの姿をセツナは見て思った。


「(ああ…このザラついた気持の原因はこれだ。

…まるであの頃の自分を見ているようだ…辛いよな)」


するとセツナがルカに対して優しくこう言った。


「…平手打ちして悪かったな。

でもそんな簡単に自分の命を投げ出すな」


「…な…なんだよいきなり気味悪いな」と戸惑うルカ。


するとセツナが言う。


「今の君と同じような状況に自分も一時期なっていなんだ。

今考えれば、今の君よりはだいぶ軽いほうだったけれど…

それでも僕も、死にたいって考えてしまっていた」


すると気まずそうにルカが言う。


「んだよ…知ったような事言いやがって…お前は神父か何かか?」


「違うよ。でも君のその気持ちがなんだか判る気がしているんだ」


するとルカが頭をグシャグシャっと搔きむしりながらこう言った。


「あーマジで今日はついてねぇ!この兄ちゃんキモいし、居場所もバレるし!」


「(あれ?俺今のキモかった?)」とセツナは内心動揺した。


すると心の声が「(大丈夫だ、気にするなセツナ)」とセツナに語り掛ける。


ユアラがルカにこう言う。


「確かに今のセツナの言い方はちょっとキモイわね。

でも君の事を心配している事は判るでしょ?」


「(ユ…ユアラまで…)」「(だから、気にするなって)」


するとルカがボソっと言う。


「…何が狙いだ…俺をその気にさせても、もう何も出ねーよ」


そまで言ったルカが、顔を赤らめて両手で肩を抱き締めながら言い放つ。


「まさかお前ら!俺のカラダ目的なのか!?」


するとレイダーが慌てて言う。


「んなわけあるか!俺らはお前が盗んだセツナの金管証明を取り戻したいだけだ」とレイダー。

ルディウスが言う。


「その、君が怯えている相手というのはどんな連中なんだ?」


ルディウスのその言葉にセツナたちは一応に同じ事を思った。


「(これは…面倒事の予感)」


するとルカが渋々こう言った。


「ロト商会っていう、表向きは商人の集まりだが、俺たちスリ集団の元締めだ」

するとロビンがルディウスに言う。


「…だとよ」


「あーまたかよ」とレイダーが頭をかく。


するとルディウスがセツナに聞く。


「セツナ。今回は君が決めていい…

稼いだ金は無くなるが、金管証明はまた発行すればいいし、諦める事もできるだろう」


するとセツナはゆっくり考えてから、小さく頷いてこう言った。


「取り戻そう」


するとロビンが嬉しそうに言う。


「そーこなくっちゃ」


レイダーも「だよな」と頷く。


「見過ごせないもんね」とユアラ。


ルディウスが言う。


「では君、その元締めの居場所に案内してくれ」


それを聞いてルカが酷く嫌な顔をするのだった。


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