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第十五話:第5神殿事変 後編

【第十五話:第5神殿事変 後編】

リンデンドルム城から5キロ ルーナシア大河上流地点

 ワイバーン部隊を率いルーナシア大河を上ってゆくヨーゼフ。

月あかりが水が引いた川床を照らしている。

「どこだ。どこで水を堰き止めている」

すると、前方1キロほど先に、森の中にキラキラと反射し、川の水が氾濫している箇所を視界に捉えた。

「あの先か!…各員周囲を警戒!」

するとほぼそれと同時に地上から複数の白いオーラを纏った矢がヨーゼフたちを襲った。

「この矢は…強化魔法!!」

ヨーゼフたちは中空でワイバーンの身を躍らせるように回避行動を取ると、発射地点を確認する。

「あれは第6神殿の聖騎士たちか!」

見ると、魔煙のオーラを身にまとったエルフの弓兵たちがこちらに矢じりを向けていた。

「回避しつつ各個に反撃!同胞でも構わん応戦せよ!」

ヨーゼフの号令と共にワイバーン部隊から次々と矢が放たれる。

まるで流鏑馬でもしているように、高速でワイバーンを滑空させながら、一人、また一人と木々の影に隠れた同胞を撃ち抜いてゆく。

しかし魔煙のオーラを身に纏った同胞も、洗練された聖騎士だ。

地上からでは勝負にならないと踏んだのだろう、飛行魔法でワイバーンと同じ高度まで一気に駆け上がってきた。

その動きは断崖を駆け上る山ヤギのように、タン!タタン!と空中に瞬間的に発生させた魔法陣を蹴って上がってくる。

「厄介な相手だ」ヨーゼフは苦笑いを浮かべた。


ランバルト大陸 エルフ族領 エルムンド王国 首都リンデンドルム城塞内

 エルオノーラは中央に設置された防護方陣発生装置のある薄暗い部屋に駆け込んだ。

入ってすぐ目に止まったのは床に転がった衛兵たちの死体だ。

「襲撃を受けた!?」

エルオノーラは衛兵を殺した敵の気配を探りながら、短剣を握り直す。

部屋の奥、分厚いカーテンの向こうに装置がある。

エルオノーラは音もなくカーテンの裏まで駆け寄ると一気に突入した。

するとそこには共鳴石を手に持ったミーティア・ファリカの姿があった。

「そこで何をしている!!」エルオノーラが短剣をミーティアに向けて構える。

「あの…違うんです!」

そう言ったと同時にミーティアの手から共鳴石が滑り落ちた。

パリン!と音を立てて割れる共鳴石。

「ああ!」と慌てて床の共鳴石を拾おうとするミーティアに対して、

エルオノーラは素早く間合いを詰めると、勢いそのままに蹴り飛ばした。

蹴り飛ばされ床に転がるミーティア。

「貴様!私はこの目でしかと見たぞ!この裏切者め!」

「ちが…違います私は」

エルオノーラはミーティアの眉間をガン!と蹴ると気絶させた。

装置には共鳴石が外されており、床にはさっきまでミーティアが持っていた共鳴石の欠片が散乱している。

「これの何が違うというのだ…」

そして共鳴石がポッカリと抜け落ちた防護方陣発生装置を見てつぶやく。

「直ぐには復旧できそうにない…か…」


リンデンドルム城から5キロ ルーナシア大河上流地点

 ヨーゼフは苦戦を強いられていた。

上空に昇った元聖騎士たちの攻撃は凄まじかった。

彼らは空中の至る所を蹴って、立体軌道を駆使し不規則な挙動をしながら四方八方から矢を放ってくる。

これに対し、ワイバーン部隊の動きは余りにも単調で鈍感で法則的だった。

強化魔法している弓の攻撃は辛うじて当たるが、単体魔法は掠りもしなかった。

当初、引き連れて来ていたワイバーン部隊の半数がこの攻撃に翻弄され、墜落していた。

「負担が大きいのだが…仕方ない」ヨーゼフはそう溢すと、詠唱を始めた。

『纏え。疾風となり、我が身と踊れ』

ヨーゼフは自身に風の支援魔法を付与する。

そして「すまん。愛する “ミニョルム”よ…少し付き合ってくれ」と言うと、

タン!とワイバーンの背中を蹴って立体軌道で突っ込んで来た聖騎士に飛び蹴りを見舞った。

ドン!と聖騎士の胸を蹴り、地面に叩き落とす、と、今度はそれを足掛かりに、近くにいた別の聖騎士に飛び掛かり、それも膝蹴りで地面に蹴り落とす。

そしてヨーゼフは空中で身を捻ると、蹴り落とし落下する聖騎士に向け、2本同時に矢を放った。

その矢はバランスを崩して落下する聖騎士二人を正確に射抜いた。

しかし彼らと同様に落下するヨーゼフ。

するとヨーゼフの愛馬ならぬワイバーン、ミニョルムがバッと滑空してヨーゼフを背中で受け止めた。

ヨーゼフはこの空中での近接戦闘を駆使し、魔煙付きの聖騎士たちを次々と地面に蹴り落としてゆくのだった。


ランバルト大陸 エルフ族領 エルムンド王国 首都リンデンドルム城塞内

その頃、防護方陣発生装置でミーティアを捕縛したエルオノーラは応援に駆け付けた兵士たちと共に、他にも裏切者がいないか城内を見て回っていた。

すると、7つあるうちの中央に鎮座する吸魔石の傍らにクリスティア・アトラの姿を発見した。

「クリスティアお姉様!ここで何を?」

するとクリスティアは黒々と魔煙の溜まった吸魔石に触れながら静かに口を開いた。

「エルオノーラ。私はこの世界の真実を知ってしまったのです」

「真実?なんの話ですか」

「見なさいこの吸魔石の醜い姿を…」

クリスティアが慈愛に満ちた眼差しでドス黒く渦巻いた魔煙を愛でる。

「これは無念に散った人の心そのものです。

私はこの心の牢獄から解放する事こそ、真理への道だと悟りました。

吸魔石は全て解放せねばなりません」

「なっ!何を言っているのお姉様!」

「可哀そうには思わないのですか?

別の世界で虐げられ、孤独になり、愛に飢えた人の思念。

苦しみから逃れるために死を選んだ人の無念、それらの想いを我々は嗾け、利用し、

彼らの苦しみに追い打ちをかけるように魔法を行使してきました。

エルオノーラは心の痛みを感じませんか?」

「待って!本当にわけが判らないわ、お姉様!」

すると城壁側の魔物の攻勢を膠着状態へと持ち込んだエルフリーデ女王が、

エルオノーラの報告を受けて駆け付ける。

「クリスティア・アトラ!その吸魔石から離れよ!これは命令だ!」

しかしクリスティア・アトラは動じない。

クリスティア・アトラはこう言った。

「女王陛下。魔王トワ・エンドモアはどのような人なのか?と陛下は私に問いましたね。

私はあなた達が彼を酷く誤解している事に悲しみを覚えました」

「離れろと言っている!」とエルフリーデ女王。

しかしクリスティア・アトラは優しい笑みを浮かべるとこう言った。

「トワは本当は心優しい方なのです。私はそんなトワを敬愛しています」

クリスティア・アトラはそう言うと不気味に笑った。

そして次の瞬間、彼女の身体から魔煙が噴き出した!

「なんだと!?」周囲にいた兵士たちの身体が強張る。

それを見てすぐさま簡易的な防護方陣を全面に張るエルフリーデ女王。

クリスティア・アトラはそのまま触れていた吸魔石に視線を向ける。

すると吸魔石の魔煙がまるで沸騰したかのようにボコボコと蠢き始める。

「やめろ!衛兵!ヤツを射殺せ!」エルフリーデ女王が周囲の兵士に指示を飛ばす。

「無駄です!」クリスティア・アトラは片方の手をエルフリーデ女王たちの方にかざした。

それと同時に衛兵たちから白い矢がクリスティアに向かって放たれる。

カキャン!!と矢が空中に出現した防護方陣によって弾かれる。

それはトワ・エンドモアが以前の戦闘で使用していた防護方陣と同じものだった。

クリスティアの傍らで荒ぶるようにボコボコと蠢く魔煙。

それは急速に吸魔石に溜まっている証拠だった。

すると不意に吸魔石がまるで深呼吸するかのように大きく身を震わせ始めた。

「いかん!」エルフリーデ女王が詠唱する。

『抱擁せよ。慈愛の原初よ、我らを護れ』

それはクリスティアがトワと戦った時に最後に使った広域防護方陣の魔法だった。

白い球体がエルフリーデ女王たちの立つ側を包み込むと同時に、

魔煙で満たされた吸魔石にピシ!バリバリ!!と音を立ててヒビが走りパキャン!!と粉々に散った。

ドウン!と魔煙が堰を切って城内に溢れ出る。

魔煙はエルフリーデ女王の広域防護方陣沿いに走ると、建物を抜け、瞬く間に城壁付近で戦っていた兵士たちの一部を怨嗟と共に飲み込んだ。

この魔煙を唯一防いだのは、エルフリーデ女王の広域防護魔法のみだった。

エルフリーデ女王の放った魔法により、リンデンドルム城塞の半分は魔煙を受けなかったが、残りの半分は魔煙の黒い水底へと沈んだ。


リンデンドルム城から5キロ ルーナシア大河上流地点

 ヨーゼフたちは魔煙付きの聖騎士たちとの空中戦を制し、川を堰き止めているロックゴーレムを発見した。

「各自、ロックゴーレムに向けて斉射!」

兵士たちから一斉に強化魔法を付与した白い矢が放たれる。

加えてワイバーンも火炎弾を浴びせかけた。

川を堰き止めるためのロックゴーレムたちはただの的だった。

次々と破砕され、数分後には大河は元の流れに急速に戻っていった。

周囲を確認したが、もう敵の気配は無かった。

ヨーゼフは木に引っかかった特に身なりの良い聖騎士に目が留まる。

滞空状態でワイバーンをその木に寄せると、その遺体からひときは精工なロングソードを引き抜いた。

それは第6神殿の聖騎士団長の遺体だった。

「ユリウス…お前の無念は、この剣と共に俺が引きついだ」

ヨーゼフはそう言うと「帰投する!急ぐぞ!」とヨーゼフが号令をかける。

と、その時だった、リンデンドルム城塞の方からワイバーン部隊の一人がこちらに高速で向かってきて叫んだ。

「大変だ!城塞が魔煙に呑まれた!!」

「なに!?」ヨーゼフの顔が一気に険しくなる。

「(エルオノーラ!エルフリーデ女王陛下!)」


ランバルト大陸 エルフ族領 エルムンド王国 首都リンデンドルム城塞内

 吸魔石を暴走させたクリスティアが濃い魔煙の中を平然と歩きだす。

エルフリーデ女王は歯噛みした。

迂闊に攻撃すれば、この防護方陣を解く事になるからだ。

防護方陣を解いたら最後、魔煙に呑まれるのは誰の目にも明らかだった。

「おのれ…トワ・エンドモア」

すると、城壁の方角から男性の声で詠唱の声が響いてきた。

『還ること叶わず。禍欲の闇となりて、虚無へ堕ちん』

そして次の瞬間、ズドン!!という落雷に似た音と共に、地響きと衝撃波が城塞全体を振動させた。

エルフリーデ女王の防護方陣がビビ!と微かにざわつき一瞬消えかける。

その感覚にエルフリーデ女王が言う。

「ヤツが来たのか…」

しばらくすると魔煙の中から一人の男が現れた。

「やあ。始めまして。僕の名前はトワ」

「貴様ぁ…」エルフリーデ女王が睨みつける。

「おいおいそんな怖い顔しないでよ」

トワは余裕の笑みを浮かべながらおどけてみせる。

するとエルフリーデ女王がトワに言い放つ。

「世界を混乱と恐怖に貶める者トワよ。貴様の狙いはなんだ!」

するとトワはゆっくりとクリスティアの横に歩み寄る。

そして、「よくやったね。素晴らしい働きだったよ」とクリスティアに優しくキスをした。

「貴様!聞いているのか!」とエルフリーデ女王が叫ぶ。

するとトワがエルフリーデ女王に向き直りこう言った。

「我々はここに宣言しようと思う」

「なんだと?」

「囚われた人たちの残滓を開放し、この世界を囚われた者たちの希望で満たす。

心して聞き、そして慄くがいい。

これは貴様たちにとっての制裁であり、虐げられ続けた者たちにとっての救済である。

これより各地への侵攻を開始する」

トワの正式な宣戦布告にエルフリーデ女王はギュッと手を握りしめる。

「開放だと?それはエヴァージェント全土に対しての宣言か?」

するとトワがあっけらかんとした態度で言う。

「そうだよ」

するとその時だった。

「女王陛下!!」

トワ頭上にワイバーンの影が舞った。

「ヨーゼフ!!」とエルオノーラ。

するとヨーゼフはワイバーンから飛び降り、

トワ目掛けてユリウスのロングソードを振り下ろした。

ガキュイン!!という金属のぶつかる音が響いた。

ヨーゼフの渾身の一撃はトワがノールックで放った地魔法のそそり立った岩の槍先によって弾かれた。

そしてヨーゼフの腹にも深々と岩の槍先が突き刺さっていた。

「いやあああ!!!ヨーゼフ!!」エルオノーラの絶叫が城塞内に響いた。

ヨーゼフが言う。

「お逃げ下さい!陛下!」

するとエルフリーデ女王が言う。

「ここは退くぞ!」

「いやあああ!」

絶叫するエルオノーラにヨーゼフは言う。

「お前が生きていれば、俺は全力で戦える」

するとエルオノーラの傍らに立っていた兵士がエルオノーラの腹を打って気絶させた。

エルフリーデ女王が言う。

「ヨーゼフ・ヨルムンド。貴公のその雄姿と決意。

このエルフリーデ・マクシファルがしかと受けとった!」

そう言うとエルフリーデ女王は生きている者たちを引き連れて城塞を後にした。

するとトワが言う。

「へえ…ヨーゼフ。なかなか魅力的じゃないか…」

「トワ・エンドモアよ。俺たちを舐めるなよ。

必ずお前を倒す!」

するとトワが笑いながら言う。

「ハハハ!それは楽しみだ。で?お前はここで干物にでもなるのか?」

するとヨーゼフが言う。

「言ったろ。エルオノーラが安全になった今。全力が出せるってよ…」

するとヨーゼフが詠唱をはじめた。

『消し去れ。虚無の理よ、卑しき者どもを無に帰せ!!』

その言葉と共にヨーゼフの周囲に半透明な球体が複数現れ、それがトワの頭上に打ち下ろされた。

ズムン!と飲み込んだ球体はその中に魔煙もろ共吸い込むように閉じ込めると、

一瞬にしてキュン!と小さくなりボン!という衝撃波だけを周囲に残して消え去った。

後に残ったのは床に転がったユリウスのロングソードとヨーゼフの大弓だけだった。

「寂しい…実に無意味だ…」

魔煙の中からトワの声が響くのだった。


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