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第十四話:第5神殿事変 中編

【第十四話:第5神殿事変 中編】

ランバルト大陸 アルデラ要塞より西に23キロ エルフ族領 エルムンド王国 首都リンデンドルム

 クリスティアたちが避難してきた夜。

城壁の上で見張りをしていた兵士にとってはいつも通りの風景に見えた。

夜空には所々に雲が連なっていたが、空には月がこうこうと輝いて緩やかに流れる大河にその姿を映し出している。

大河の先には森林が続いており、森林を蛇行するように舗装されていない道が遥かピッケルカ連峰へと連なる山々へと延びていた。

アルデラ要塞は視認できないが、その山道の先、遠くピッケルカ連峰の谷間にある。

月が流れてきた雲にかかり、それまで白々と明るく照らされた森に、フッと雲の影が落ちる。

数分くらいだろうか、雲が抜け、再び月明かりが森を照らした時だった。

森の影に無数の蠢く黒い影が広がっていた。

兵士の一人がその異変に気付いた。

「おい…あれ」

もう一人も森の異変に気付き、目を凝らす。

すると兵士の顔色が瞬く間に恐怖色に染まる。

「…あれは…ま、魔物の群れだ!!」

すぐさま兵士の一人が鐘楼を鳴らし始める。

カン!カン!カン!カン!という警鐘の音が、穏やかだった夜の街に響き渡った。

警鐘を聞きヨーゼフが寝巻のまま飛び起きると、衛兵のいる兵舎に繋がる受話器を手にとり叫ぶ。

「何事だ!」

その受話器は伝達魔法が付与されており、すぐさま連絡係の衛兵に繋がった。

「魔物の群れです!アルデラ要塞方面から魔物が押し寄せて来ています!!」

「魔物の群れだと…直ぐに向かう!全員たたき起こせ!」

すると背中から女性の声が聞こえた。

「ヨーゼフ。この警鐘は?」

振り返ると、ベッドのシーツを抱きかかえたエルオノーラが立っていた。

「魔物の群れがアルデラ要塞側から押し寄せた。俺は直ぐに出撃する」

「わかった。ヨーゼフの支度を急ぎます」

エルオノーラは下着姿のまま、淡々とヨーゼフの鎧の装着を手伝い始める。

「ヨーゼフの支度が終わったら、私も直ぐに支度して合流します」

そう言ったエルオノーラに、ヨーゼフが言う。

「いや。同行はしなくていい。

エルオノーラは女王陛下と共に、中央で情報収集と、後方支援を頼む」

ヨーゼフのその言葉に支度を手伝う手が一瞬止まり、顔が曇るエルオノーラ。

するとヨーゼフは向き直ると額にキスをしてこう言った。

「お前が安全であれば、俺は安心して戦える。

なに、無茶はしないさ」

ヨーゼフは支度を整えると、急ぎ足でワイバーン部隊の居る兵舎へと向かうのだった。


リンデンドルム城 城壁付近

 城壁の城門付近にはロングソードや戦斧、槍を持った兵士達が整列し、工作部隊が門を囲うように即席の柵を構築している。

その後方では騎兵が待機しているが、その手には弓が握られていた。

その上空ではヨーゼフたちのワイバーン部隊が塔を飛び出し始めた。

城壁の上では弓兵たちや魔法兵が整列し、森の影が次第に黒々とした魔物の影に染まってゆく姿を、緊張な面持ちで凝視していた。

見ると上空に魔煙を纏ったワイバーンの姿もある。

兵士の一人が言う。

「こんな数見た事ない…」

すると隣にいた兵士が言う。

「心配するな。みて見ろ、前面には母なるルーナシア大河。その川べりに沿って我らが誇るこの防壁がある」

兵士はそう言うと、足で地面を力強くタン!タン!と踏みしめてみせた。

「だとしても空はどうする…」と不安げな兵士。

すると兵士が笑いながら言う。

「ハハ。さてはお前新兵だな。ここは目には見えない防護方陣ってのが張り巡らされている。

理屈は知らんが、魔物系や魔法の類は絶対この防護陣を破る事はできない」

「でも。そうなると自分たちの攻撃も…」

「お前はホントに素人だな。

こっちが攻撃する時はちょいと防護壁に隙間が空くんだよ。

そこから射撃する。」

話していると上空からヨーゼフの声が響いた。

見るとワイバーンに騎乗し上空で待機した状態だ。

ワイバーンの翼の羽ばたく風が一部の兵士たちをよろけさせる。

「聞け!我がエルムンド王国の精鋭なる兵たち!

目前に迫る魔物たちは魔王トワ・エンドモアが本格的に進軍を始めた証だ。

だが恐れる事はない!

我らには防護方陣がある。

そして隣を見よ。我らには精鋭なる友がいる!

互いを信じ、助け合うのだ!

皆の者。その心に勇気の炎は燃えているか!」

ヨーゼフが大弓を天にかざすと、兵士たちから力強い「オー!!」という鬨の声が上がる。

ヨーゼフはさらにこう続ける。

「ここは我々エルフ族の女王陛下のおわす居城である!

調子にのり、女王陛下にたて突いたトワ・エンドモアの出鼻を、

この無敵の城塞で跳ね退け!

へし折り!

我らの強さをエヴァージェント全土に轟かせよ!!」

ヨーゼフの号令に大地すら揺らさんばかりの「オー!!!」という鬨の声が響き渡った。

 ヨーゼフはワイバーン部隊を塔の屋上に設置された待機所へと誘導すると、そこから指揮を取り始める。

ヨーゼフは魔法兵に指示を出す。

「照明弾用意!」

すると防護方陣の一部がフォーンという音と共に開く。

魔法兵が防護方陣の空いた穴に向けて杖を構える。

「放て!」

ヨーゼフの号令で一斉に照明弾を前方の森の上に向けて射出する魔法兵たち。

照明弾が通過すると即座に防護方陣の穴が塞がれる。

要塞側から強烈な光を放ちながら照明弾が飛来し、大河の対岸が昼間のように明るくなる。

するとそこには黒い波のように押し寄せる魔物の姿があった。

「この大軍をどこに伏せていた」

ヨーゼフは苦虫を潰したような表情を浮かべる。

ヨーゼフの位置から視認できる範囲で、敵の数はおよそ1万~1万5千。

おそらく森の奥にはその倍はいるのだろう、遠くの木々が至る所でユラユラと揺れている。

その陣容は様々で地上では魔煙付きのコボルド、オークに加え、城壁と同じ高さはあろうかというサイクロプスが森の至る所に顔を出している。

まだ距離はあるが、上空では魔煙付きのワイバーンが群れを成して接近してきている。

対して要塞内のエルムンド王国軍は8千だ。

「周辺緒国に援軍要請!」

ヨーゼフは通信士官に指示を出す。

すると、対岸の木々の影から先頭を駆ける魔物の姿を捉えた。

その姿を目視すると、ヨーゼフの指示が分隊長たちに飛ぶ。

「攻撃開始!」

すると各分隊長が号令をかけた。

「弓兵!川べりの敵に向けて一斉射!弓構え!」

その号令に城壁の上に2列横隊で並んだ弓兵隊が一斉に動く。

兵士たちが分隊長の合図で矢をつがえてギュっと弓を絞る。

ギチギチっと弓がその性能を限界まで溜め込む。

魔物の群れの先頭が大河にかかった大橋の袂に到達しこちらに突撃しはじめた。

「まだだ!堪えろ!」

大型のオーガやサイクロプスも大河の中に飛び込んで進み始めた。

次の瞬間、防護方陣が解放された時に響くフォーンという独特な音が鳴り響いた。

それを合図に分隊長たちの「放て!」という声が山彦のように現場に響く。

弓の弦が風を切るせわしない音と共に、一射目がまるで黒い帯のように上空を横切った。

そして一斉に先頭を走る魔物に降り注ぐ。

矢を受けて、先頭の魔物たちが地面に貼付けにされる。

ゴブリンやオーガはハリネズミ状態で地面に倒れ、サイクロプスは目を狙われ悶絶する。

突撃の勢いが削がれたところに、弓兵の後ろで待機していた魔法兵が杖をかざして追い打ちする。

「爆裂魔法!放て!」

魔法兵の分隊長たちの号令で一斉に炎が降り注ぐ。

魔物を捉えた炎は対象を吹き飛ばしながら周囲に炎をまき散らし、それらに触れた対象も炎が包み込んだ。

「ギャギャギャ!」と悲鳴があがり地面をのたうつ。

一部の魔物は大河に飛び込んで消そうとしたが、攻撃魔法として放たれた炎は、川の水程度では鎮火できなかった。

水に落ちても尚ボコボコとその身を燃やし続ける。

爆裂魔法の一斉射で川べりは瞬く間に魔物たちが燃える火の海と化していた。

この攻撃により突撃の勢いが削がれ前線が川岸まで後退したかに思われた時だった。

森の奥から地響きを轟かせながらロックゴーレムの群れが押し寄せてきた。

森の木々を踏み倒しながら、一歩一歩前進してくる。

ロックゴーレムの群れの背後にはショートソードと盾で武装したオークの一団が控えている。

それを見てヨーゼフの顔色がにわかに険しくなる。

「本隊が来たようだ…各員、ロックゴーレムの足を止めろ」

すると分隊長が指示を出す。

「弓兵!強化詠唱!ロックゴーレムの足に向けて一斉射!弓構え!」

兵士たちが矢をつがえてギュっと弓を引き絞ると同時に詠唱し始める。

「放て!」

兵長の号令と共に、一斉に矢が放たれた。

放たれた矢は、白いオーラを纏い、まるで翼を広げた猛禽類が滑空するかのようにロックゴーレムの足を目掛けて飛翔し収束してゆく。

ガガキュン!!と魔法で強化された矢がロックゴーレムの足に当たり、膝を突き砕いた。

ズン!と倒れ込むロックゴーレムたち。

しかし倒れたのもつかの間、その後ろに控えていたロックゴーレムが、砕かれて動けない足元のゴーレムを踏み越えて前進してくる。

魔法兵も貫徹性能の高い魔法を駆使し、ロックゴーレムの動きを封じてゆく。

しかしロックゴーレムの歩みは止まらなかった。

ロックゴーレムたちは大河にザブン!ドブン!と歩みを進めると、どんどん深みへと沈み込んでゆく、

その後を追うように、後方のロックゴーレムがまたザブンと入水してゆく。

「攻撃の手を緩めるな!放て!」兵長たちの声が響き、弓兵たちが一つ、また一つロックゴーレムを行動不能にしてゆくのだった。


リンデンドルム城から5キロ ルーナシア大河上流地点

一方時を同じくして、大河の上流では別のロックゴーレムたちが大河に入水していた。

そのロックゴーレムたちによって大河の流れに大きなうねりが生まれはじめる。

せき止められた川の水が岸部を乗り越えて森へと流れ込み始めていた。


リンデンドルム城 城壁付近

迫りくる魔物たちに向け、弓兵たちが必死の猛攻を加えている。

しかしその中でも、ロックゴーレムたちは淡々と自分の役割を果たしてゆく。

気づけば川の水位が下がり、川床が見え始めている。

「まずい!上流か!」

ヨーゼフはそう言うと、ワイバーン部隊に指示を出す。

「これより上流へ向かい、水を堰き止めている魔物を討伐する!

ここの指揮はエルオノーラに任せる」

「判りました」とエルオノーラ。

ヨーゼフが一瞬、エルオノーラにアイコンタクトを送る。

互いに頷くとヨーゼフたちは待機していたワイバーンに跨り、待機所から身を躍らせるように飛び降りながら滑空して空中へと飛び出してゆく。

そして開いた防護方陣の隙間から上流へ向けて出撃していった。

時を同じくして前線では水位が下がった大河の川床をロックゴーレムがまるで足場を築くように連なって迫っていた。

その上を別のロックゴーレムが前進して来る。

魔法兵たちが盛んに爆裂魔法や貫通魔法でロックゴーレムを砕いているが、

森の奥から次々と繰り出されるロックゴーレムの物量に押され、じりじりと城壁の目前まで迫ってきていた。

すると今度は上空から魔煙付きのワイバーンたちが急降下しながら突っ込んで来る。

「弓兵!強化詠唱!上空のワイバーンに向けて三連射!弓構え!」

弓兵の一部が上空から飛来するワイバーンに向け弓を絞る。

兵士の引き絞った手には矢つがえた矢の他に2本の矢が握られている。

「放て!」

その号令と共に1射目が放たれる。

そして立て続けに2射、3射と弓兵が放つ。

魔煙付きのワイバーンは最初の1射目はかわす個体が大多数であったが、2射目、3射目と放たれた波状攻撃の前に、地面に追い落とされる個体が出はじめた。

しかしワイバーンの一部はそれらを搔い潜って弓兵の目前にまで迫ってくる。

そしてワイバーンから火炎弾が射出された。

ズン!というくぐもった炸裂音が複数響く。

しかしその弾は防護方陣によって遮られ中空で四散した。

他の火炎弾もまるでシャボン玉のプリズムような輝きを放つ防護方陣によって遮られてゆく。

その間もロックゴーレムの行進は続いていた。

そして、その間隙を縫ってついに左翼の一部が陸続きとなってしまった。

「いけない!左翼に向け攻撃を集中!早く!」

エルオノーラの指示で左辺の一部がロックゴーレムに攻撃を集中する。

その時だった。

一匹が放ったワイバーンの爆炎が防護方陣に干渉されずに城壁に着弾した!

ボン!という破裂音と共に、城壁にいた兵士たちが吹き飛ばされる。

「なんで!?防護方陣は!?」とエルオノーラが叫ぶ。

するとそれまで防護方陣で遮られていたワイバーンの攻撃が次々と着弾しだした。

一瞬にして城壁の上は炎の海となった。

響き渡る怨嗟の声。混乱。そして高い城壁から叫びながら落ちてゆく兵士たち。

城壁にいた兵士たちの動きが一気に乱れる。

それに呼応するように左翼からゴーレムの背中を伝いオークたちが渡河しだす。

慌てて「ワイバーンの撃破を優先!弓兵は各個上空の敵を排除せよ!」とエルオノーラは指示を出すが、一度混乱した兵士たちは次々とワイバーンの爆炎に呑まれて散ってゆく。

上空から飛来したワイバーンの支援を受けて、反撃が弱まった魔物たちの戦列が城壁に迫る。

そして城門にドン!という衝撃が走る。

城門のすぐ向こうに魔物たちが到達してしまったのだ。

城門は分厚く魔法で強化されているため簡単には打ち破れはしないだろう。

しかし門に取り付いた魔物たちを排除できなければ、いずれ破られる。

時間の問題だ。

 するとその混乱の中、ひときは大きな詠唱がエルオノーラの背後から響いた。

『消し飛ばせ。暴風の怒りよ、心なき敵を散らせ』

すると上空に突如竜巻が巻き起こり、侵入してきたワイバーンの群れを次々と巻き込んで肉塊へと変えてゆく。

エルオノーラが振り向くと、そこにはエルフリーデ女王が立っていた。

エルフリーデ女王はさらに詠唱する。

『消し去れ。虚無の理よ、卑しき者どもを無に帰せ』

すると門前に迫っていた一団の上に突然半透明な球体が複数現れ、それが彼らの頭上に打ち下ろされた。

ズムン!と飲み込んだ球体はその中に魔物たちを次々と吸い込むように閉じ込めると、

一瞬にしてキュン!と小さくなりボン!という衝撃波だけを周囲に残して魔物ごと消え去った。

この魔法によって左翼から侵攻していた魔物の前線が瞬く間に消え攻勢だった敵の動きが鈍化した。

混乱していた兵士たちの間に一瞬、静寂が訪れ、そして瞬く間に歓喜へと変わる。

「エルフリーデ女王陛下だ!」

「女王陛下!ばんざーい!」

混乱していた兵士たちが一斉に声をあげる。

するとエルフリーデ女王が口を開いた。

「振るい立て!我らの強き同胞たちよ!

恐れてはならぬ!臆してはならぬ!自身の役割を全うせよ!」

エルフリーデ女王の言葉に士気が一気に上がった。

それを見て、エルフリーデ女王がエルオノーラに言う。

「防護方陣が何者かに破られた。

ここは我が直接指揮を取る。

お主は防護方陣消失の原因をつきとめ、これを速やかに解決せよ」

「仰せのままに!」

エルフリーデ女王から直々に命を受けたエルオノーラはすぐさま行動を開始する。

目指すは中央にある防護方陣発生装置の部屋だ。

防護方陣は城の中央の吸魔石か共鳴石を壊さない限り立ち消える事はないからだ。


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