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第十二話:決意の朝

【第十二話:決意の朝】

ナセナル運河西岸 トコル町 コメットの船内 客室

 セツナは微かに揺れる船内のベッドで目を覚ました。


「(ここは…船室?)」


何度か目を覚ましたような気もするが、記憶が朧気で覚えていない。

ロビンやユアラが近くに来ていた気もするが、いつの記憶かも判らない。


「(今日は何日だ…)」


周囲を見るとベッドの傍らの椅子の上には自分の着衣が綺麗に折りたたまれて置かれている。


テーブルの上には冷めきったスープとパンが置かれていた。


不意に視線の端に壁に立てかけられた短槍が写り込む。


次の瞬間、脳裏に槍で刺した時の感触がよみがえった。


「うわ!わぁ!!」


とセツナは頭を抱えて慄く様に叫んだ。


セツナの情けなく怯えた悲鳴を聞きつけて、慌ててユアラが扉を開けて入ってくる。


「大丈夫?」


ユアラは駆け寄ると、セツナの背中を摩りながら、胸元にかかった吸魔石を確認する。


眠っている間は無色透明だった吸魔石がどんどん黒ずんでゆく。


「落ち着いてセツナ。深呼吸…」


と、セツナは思わずベッドの上に吐いた。


セツナが声を強張らせながら、涙声で言う。


「…突然あの場面が…あの時の手から伝わる感触が今でも消えないんだ…」


セツナの告白にユアラも涙目になりながらそっと抱きしめる。


すると、そこにコメットが部屋に入ってきた。


「おぃ。起きてるか!ってゲロまみれじゃねぇか。

っとそんな事は後回しだった…」


コメットはそう言うなり、急にモジモジしながらズボンから垂れ下がったベルトを握った。


そして恥ずかしそうにこう言った。


「セツナ!その…なんていうか…その…

今回はお前に助けられた!

礼を言う。ありがとう!!」


コメットがセツナに深々と頭を下げる。


「…俺を…俺たちのために…こんなに…」


コメットは頭を下げたまま床に涙をこぼし始める。


「でもよ…セツナがこんなに苦しむなら…

俺…俺がもっと上手に殺せれば良かったよな…ごめんよ」


コメットのその言葉にセツナは思った。


「(違う。謝らないでくれコメット…)」


そしてセツナが絞り出すようにコメットに言う。


「…みんなは無事か?」


するとコメットが涙を腕でサッと拭うと、いつもの調子で言う。


「お。おう!セツナのおかげで助けられたぜ!

そうだ、もし元気になったらトコル町を案内するぜ!

じゃ俺、後片付けあっから。またな!」


コメットはそう言うと部屋を慌ただしく出て行った。


「(元気になったら?また?…俺にそんな未来はきっと来ない…)」


すると廊下をドカドカと掛けてくる音が響き、ロビンがやってきた。


「おう。セツナ。目が覚めたって」


ロビンは部屋に入るなり、手に持っていた花を適当なカップに差し込んでテーブルに置いた。


「ロビン…俺…」


セツナのげっそりした顔を見てロビンが言う。


「…ま、なんだ…あのー…あんま気にすんな。

自分が助けたいって思ったから、行動したんだろ?

ならそれが正解だ」


ロビンの言葉にセツナの目が潤む。


「なーに、めそめそしてんだよ…」


するとセツナが言う。


「俺は人を殺しました…」


するとロビンが言う。


「そりゃあ懺悔かなにかか…

俺は神父じゃないからどう言ったらいいか判らんが…

セツナの弁護が必要なら俺が全力で弁護してやるよ!

セツナお前は間違っちゃいない。

立派な事をしたんだ。胸を張れ!」


「(立派…人を殺しておいて立派…)」


そう言っていると今度はレイダーが入ってくる。


「セツナが起きたって?…って、ロビンその花、さっき町で買ってたやつじゃん」


するとロビンが顔を赤くしながら言う。


「こりゃぁ。あーなんだ。ほらここ殺風景だろ。だからよ」


「またまた、ロビンは素直じゃないな。

素直にセツナが心配だからて言えばいいだけじゃんか」とレイダー。


するとレイダーがセツナに言う。


「ロビン。あのあとセツナが心配だ、心配だってずっと言ってたんだぜ。


この図体でなハハハ」と笑った。


するとセツナも少しほほ笑んで言う。


「ロビン。ありがとう」


セツナのその言葉にロビンは「お、おう!」と短く返事をすると、

「ほいじゃ。またな!」と部屋を後にする。


部屋に残ったレイダーが口を開く。


「にしても、ほんと、強敵だったよな」


その言葉にまたセツナの顔が曇る。


「でも、セツナはスゲーよ。

俺が教えた以上に動けていたぜ。自信持てよ。」


レイダーはゲロがブチまかれたベットにお構いなしに座ると、セツナの背中をパシン!と叩いた。


「いっ!」セツナが思わず顔をしかめる。


セツナが言う。


「レイダー。俺。あれで良かったんだよな…」


「んなもん、あったり前だろ!俺たちはコメットたちを、いやおそらく、

いや間違いなくナセナル運河で生活している連中の未来を救ったぜ!!」


するとユアラも言う。


「そうよセツナ。

私もね、お礼を言わなくちゃって思っていたのよ」


ユアラはセツナの目を真っすぐ見つめてこう言った。


「実はね…私は人の命のやり取りをした事は無かったの…

だから、あの時、攻撃を避けるばかりで、一振りも反撃できなかった。

恐かったのよ。この一撃を加えたらきっと私は私でなくなるって…

どこかでそんな気がしていたの」


するとセツナが言う。


「僕はあの時、皆を護らなくちゃって気持ちで一杯だった…

僕より若いコメットがグラディウスを握って駆けこんで来た時そう思った」


するとユアラも言う。


「同じだわ…私もそうだったわ。

そして、コメットが殺されるのを見たくなかった。

だから私は飛び出したのよ。

その結果、背中に大きな傷を負ったわ」と苦笑する。


そして続けてこう言った。


「でもセツナ。あなたに私は救われたわ。

それは命もそうだけど、心も一緒に救ってくれたのよ。

だからセツナ。自分を責めないで。

でももしも、辛かったら今度は私があなたの心を救ってみせるわ!」


するとレイダーも言う。


「前にもルディウスが言ったが、自分を犠牲にし過ぎるなって。

俺たちはパーティーなんだぜ」


するとセツナの目に涙があふれた。


その後、食事を取ったセツナは、また一人、ベッドで眠りについた。


しかしその夜もセツナはうなされた。


何度も同じ攻撃を必死にかわして、殺すまでのあの場面を繰り返す。


「(逃げたい!なのに逃げられない…許してもらえない…)」


「うわあぁぁ!!」


セツナは自分の悲鳴で目が覚めた。


身体を起こすと、顎からドバっと汗がしたたり落ちる。


「はぁ!はぁ!…」下着もベッドのシーツもびしょびしょだ。


セツナはうずくまる。


「許してくれ…」


するとコンコン!と扉をノックする音が響いた。


「少しいいか?」とルディウスの声が聞こえた。


「…いいよ」とセツナ。


ルディウスは小さな明かりを手に部屋に入ると、セツナに歩み寄った。


「だいぶ、うなされていたな…」


「はい…」


「自分が手にかけた場面を思い出してしまったんだね」


「…はい。」


するとルディウスが大きく息を吸ってセツナに優しくこう語りかけた。


「セツナ。絶望するかもしれないが聞いてくれ。

きっとその感触は消えないだろう。

いつまでもセツナを苦しめ続けるだろう」


するとセツナが顔を伏せて言う。


「じゃあどうすれば…僕はどうすればいいですか!」


するとルディウスがセツナの肩に手を当てて言う。


「…聞いてくれ。

私も最初に人と戦闘をした時は今のセツナと同じ状態だった」


「え?…」


セツナがルディウスの方を見ると、ルディウスは小さな明かりに目を向けながらこう話した。


「今でもそうだ…最初に対峙した相手の顔を忘れる事ができない。

自責の念は今でも消えない」


するとセツナが聞く。


「じゃあどうやって生きているのですか?」


するとルディウスが苦笑いをしながらこう言った。


「どうやって生きているか…か…

私は、誰かを救う事で、この命にしがみ付いているのさ。

他人がいくら肯定してくれていても、自分自身が、自分を肯定できなければ、

苦しみ続けるだろう…そうだろ?セツナ」


「…はい」


「私は、私をそのまま受け入れている…」


「自分を受け入れる?」


「そう。不完全で脆い部分も含め、全ての自分を受け入れて私は歩いている。

だからセツナ。自分を嫌ったりするな。自分を否定するな」


するとセツナが言う。


「きっと…そんな簡単にできない…です」


するとルディウスが言う。


「そうだな…私も未だに時々嫌いになりそうになる…

セツナに聞きたい。

君はこのままどこにも進めないままベッドで寝ていたいかい?

それとも自分の足で歩けるか?

セツナはどっちの未来をゆきたいのだ?」


するとセツナは少し考えて口を開いた。


「歩きたい…です」


「そうか…それなら、今の自分を受け止めて立ち上がるしかない。少しづつでもいい、無理は禁物だ」


ルディウスが話していると扉がまたコンコンとノックされた。


「セツナ。着替え…持ってきたわ」とユアラは部屋に入ってくる。


ルディウスが言う。


「少々、言い過ぎた。許してくれ。だが、これだけは覚えておいて欲しい。

私たちはセツナの行動を否定したりしない」


するとルディウスは部屋を後にした。


部屋に残されたユアラとセツナ。


ユアラが下着を持ってセツナの横のベッドに座る。


「セツナ…服を脱いで」


「ん…ああ…」


するとなぜかユアラも服を脱ぎだした。


「えっ…」とセツナ。


するとユアラの背中が見えた。


鉤爪によってユアラの背中には3本の傷がうっすらと残っている。


「セツナも…」とユアラ。


「お…おう」


ユアラは両手で胸を隠しているが、セツナからは胸の大きさが丸わかりだ。


するとユアラが言う。


「背中の傷…けっこうひどいでしょ?」


「ああ…そうだね」


「触れてみて…」


セツナは震える手でユアラの背中の傷に触れる。


「っつ…」


「あ、ごめん!」とセツナは手を放す。


「いいのそのまま触れて…」


セツナは言われるまま、ゆっくりユアラの背中に触れる。


温かい、そして柔らかいしすべすべしている。


手からユアラの心臓の鼓動が伝わってくる。


小さな明かりの中でユアラの細い背中がチラチラと光っている。


「(こんな傷を負ってまで…)」


「僕は…」


するとユアラが言う。


「生きてるの判る?私はセツナにこうして生かされた…」


そう言うとユアラがセツナの方に向き直った。


ユアラの胸がさらけ出される。


ユアラは、セツナの手をとり、自分の胸に手を当ててこう言った。


「ね。私の鼓動、感じるでしょ?」


「ああ…」


「…この鼓動は怖い?」


「いや…怖くない」


するとユアラがほほ笑みながらこう言った。


「どんなに不安定で、恐がりでも、私はそんなあなたを愛しています!」


セツナはその言葉に思わずユアラを抱きしめた。


「わっ」とユアラ。


ユアラの柔らかな肌がセツナの肌とこすれ合う。


そしてセツナもユアラの耳もとでこう言った。


「僕もだユアラ…僕もユアラを愛している。ありがとうユアラ」


セツナの目から涙があふれていた。


その夜。セツナは白い回廊の中の夢を見た。


おそらくナッセなのだろう。


若い男が白い回廊に立っておりセツナにこう言った。


「(このままリタイアしたって、きっと彼らは許してくれるだろう。

そして、彼らはそれでも魔王を倒しにゆくだろう。

セツナはそれで良いのかい?」


「いや…でも今はまだ自分を許せそうにない…」


「そうだよな。

なら周りをみて、皆の声に耳を傾けてみろ…

なんで皆がこうして声をかけてくれていると思う?

君を心配し、愛しているからじゃないのか?」


「そうか…そうなんだ…」


「セツナ。セツナの心は私が半分請け負う。

だから前を向いて歩き続けろ。

ユアラとコメットたちを救ったように、セツナを愛してくれる人を救え。)」


朝の陽ざしが目に当たり、セツナは目を覚ました。


隣にはユアラが気持ちよさそうに寝ている。


「ユアラ…」


セツナがユアラを揺り起こす。


「ん…んー…お、おはよう」とユアラ。


「おはよう」


するとユアラがハッと我に返る。


「あっ…その!」慌ててシーツを胸元に手繰り寄せるユアラ。


セツナはユアラの額にキスをする。


するとユアラはセツナの唇を奪った。


そしてこう言う。


「元気になったね?」


「ああ、ユアラの…そして皆のおかげだ」とセツナはほほ笑む。


「さ、支度して皆のところに行きましょ」とユアラ。


セツナは壁に立てかけられた短槍を見ると、近寄って握る。


不意にあの怖さが心をよぎる。


「(怖い…でも決めたんだ。僕は歩みを止めたりしない…)」


セツナは自分の心の弱さを握り潰すかのように短槍をギュッと握る。


「ああ、行こう!」


こうしてセツナはユアラと共に、冒険の旅に繰り出すのだった。


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