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王子の婚約者である私ですが、ヒロインを全力で支援します  作者: 幸イテ(旧名:kouta)
責任の在処

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第三十七話 アーニャ旋風

いつもお読みくださりありがとうございます。ちょっと設定面で変更あったので、前書きに書かせてもらいました。

変更箇所はフランがウェンディに成り代わった時期です。これまではオルフの追放時期と合わせて五年前としておりましたが、同時期は流石にオルフが忙しすぎるとの事で、一年開けて四年前に変更させていただきました。

宜しくお願いします。


 子爵との交渉の場に颯爽と現れたのはホープ子爵家長女、アーニャであった。

 突然の彼女の登場に私達は目を丸くする。何せアーニャの学校でのイメージはとにかく存在感のない人であり、いてもいなくても分からない程だ。そんな彼女が血気盛んな様子で自分から意見している。そのギャップに私達はやられてしまったのだ。

「アーニャお前!」

「お父様の事ですから、もしもの時は自分だけ罰を受ける形にしたかったのでしょうけど、無茶がありますでしょう? 『あれ』はそれ程の禁忌ですわ」

 ホープ子爵は頭を抱えた。アーニャが『あれ』に言及したという事は、自分も知っていると答えたようなものだから。彼女は自ら退路を塞いだのだ。

「挨拶が遅れました。ホープ子爵家長女、アーニャですわ」

 アーニャは美しい所作で頭を下げる。しかしながらカーテシーではない。今の私達は貴族ではなくあくまで新人三人組だ。だからアーニャの行動は正しい。彼女はこの場がどういう場なのか正しく理解していた。


 なるほど、これがホープ家長女なのね。


「アベルだ。よろしく頼む」

「ナンシーよ」

「ソアナです」

 お互いの挨拶が終わって早々にアーニャは私達に問いかけた。

「まずは一つよろしくて?」

「なんだろうか?」

「ここに来るまではサンタナ商会の新人でよかったと思いますが、こうして交渉の場に新人がつくのは違和感があります。何か別の立場を用意するべきかと」

 ホープ子爵とはそのまま話し始めてしまったが、アーニャの言った事はもっともな話である。今後も継続的に会う事を考えると、サンタナ商会の新人とは別の立場が必要になってくる。

「何か良い案はあるか?」

 アルベルトは私達に問いかけるが、答えを出したのは私達ではなく、アーニャであった。

「それこそ、先に挙がっていたエリシア商会、その会長と重役など宜しいのではなくて? 手っ取り早いですわ」

「あなた、そこから話を聞いていたのね」

「いきなり突入して見当違いな事を話しでもしたら場が白けますからね。ドアの前から聞き耳立てて、しっかりと予習いただきましたわ」

 しれっと言うアーニャはなかなか良い性格のようであった。もしもエリシア商会の設定で行くとなると……

「会長はナンシーだな」

「そして私とアベルさんが会長補佐ですね」

 アルベルトとソフィアが私を見て言った。

「……まあ、そうなるわよね」

 エリシア商会はセイファート家の密偵達で構成されているのだから、セイファート家の私が会長になるのは当然の帰結である。それは受け入れよう。

 ただ問題は名前だ。その場しのぎでエルの名前を使ってしまったのが悔やまれる。だからといって今更護衛の名を使ったので変えたいですとは言いにくい。この重要な場でうっかりさんという、めでたくない称号は欲しくない。

 どうしたものかと悩んでいると、この場にいる四人の視線が私に突き刺さる。私の返答待ちだ。ここで無駄に引き延ばすのも良くないのは分かっていた。

 一つため息をつく。身から出た錆とはこの事だ。私は心の中でエルに詫びると、アーニャの設定を認めた。

「分かったわ。それで行きましょう」


 架空であるはずのエリシア商会が、実態を帯びた瞬間であった。



「さて、話を戻そう。アーニャ嬢は受けるという話だが、子爵としてはどうするつもりだ?」

「もう受けるしかないでしょう。娘が知っているとバレてしまってはね」

「お父様、そうこなくては!」

 こうなっては仕方ないといった様子であったが、私が思うにホープ子爵は元から受けるつもりではあったのだろう。即決しなかったのはアーニャ含め、他の家族達と一度相談するためだ。

 内容はそれこそ先ほどアーニャが語っている。子爵は自分以外は色の真実を知らない事にして、もしもの時の保険をかけておきたかった。失敗しても罰せられるのはホープ子爵だけで済むように。そんな親心を冗談じゃないとアーニャはぶち抜いてきたわけだが。

 子爵にとっては複雑だと思うが、私達としてはアーニャの思い切りの良さはありがたかった。

「ホープ家を守るには全面協力がベストですわ」

「どうしてそう思うの?」

 確信を持って言うアーニャが気になり、私は根拠を尋ねる。

「もしも例の疫病神が、何かの間違いで野心ある実力者と組んでしまったら、内戦に発展しかねませんから。国の危機はホープ家の危機でもあります。そして現状、疫病神が野放しになっている以上、そうなる可能性が一番高いですわ。だから私はこのまま隠れ続けるよりも、ホープ子爵家は表に出て動くべきと判断しました」

 アーニャの答えは明快であった。性格は違って見えるが、頭のキレに関してはこの親にしてこの子ありといったところか。

「よく見えているわね」

「そうせざるを得ませんでしたから」

 アーニャの声のトーンが明らかに下がったのを見て、私は彼女の憂いを感じた。

「私は諦めていたのです。『あれ』を抱えたまま表に出る事は出来ません。今回の出会いがなければ、私は卒業後領地に帰り、ひっそりと生を終えていた事でしょう。何もしない事が家を守る事に繋がるのですから、是非もありません」

 アーニャにはよく現実が見えていた。これ程の能力を持ちつつ、何も発揮出来ないで終わるしかない人生。私が同じ状況に陥ったらと思うとぞっとする。学校での彼女は存在を感じさせない程虚無であったが、それは演技だけではなかったのかもしれない。

「しかし今、私達はこうして出会えました。なんとも奇妙な縁ですが、良いではないですか! 皆様は『あれ』を知った私達を生かしてくれるとおっしゃる。それが私達にとってどれ程の救いか……」

 拳を握り締めて力説するアーニャは、熱い視線を私達に向ける。

「今までは辛酸を舐めてきましたが、ようやく運が向いてきました」

 きっとアーニャは絶望していたのだろう。そんな彼女が、ようやく見えた未来を全力で取りに行くのは当然の事だった。

「もしも今回の件を成功させたら、我がホープ家は数ある子爵家の中でも唯一無二の存在となります。見ようによっては大きなチャンスなのです。己の生命をベットするだけの価値はありますわ!」

 

 アーニャは今、羽ばたこうとしていた。


「全くこのじゃじゃ馬娘が!」

「今まで耐えていた事を褒めてくださいまし」

「それも今ので帳消しだ! 急に出てきおってからに……全く肝が冷えたぞ」

「お父様がじれったい事しているからです。私は背中を押したまでですわ」

 私は何も悪くないとツンとしたアーニャに呆れ返った様子のホープ子爵、二人の軽口の応酬を見るに、ホープ子爵家の親子仲は良好のようであった。

「ああ言えばこう言う!」

 これが女性だったら「きぃぃぃー!」と叫ぶところだろうか? ホープ子爵は行き場のない怒りを両拳に蓄えるが、どこにも発散する場所がない。物に当たり散らすのは子爵のポリシーに反するようであった。結局子爵は何をするわけでもなく、深いため息とともにがくっと項垂れる。アーニャはそんな父の背中をさすろうとして払いのけられた。申し訳ないけど少し笑ってしまった。

 でも結果としてアーニャの介入は良い方に傾いたのだろう。顔をあげたホープ子爵はどこか吹っ切れた様子で言った。

「もうぐだぐだ考える事はやめましょう。我がホープ子爵家がジリ貧だったのは確かです。ここで逆転を狙ってみるのも悪くないかもしれません」

 空気が良くなってきている。一体感が増しているとでも言おうか。あの事を聞くならココね。私は今の強い流れを信じ、切り込む事にした。


「一つ聞きたいのだけど、ホープ子爵はベルナール辺境伯と付き合いがあるのかしら?」


「……流石はエリシア商会の会長ですな。ご存じでしたか」

「『あれ』とは別にホープ子爵家は注目していたからね」

 偶然見つけた事は言わない。勘違いしてくれているなら、訂正はしなくて良い。その方がエリシア商会に対しての信用が増すのだから。

「細心の注意を払っていた辺境伯との事を知られていたのなら、『あれ』も時間の問題だったかしら」

 よし、アーニャの方も巻き込めた。偶然が強い力を生んでいる。しかしその偶然は日頃サボらずに情報を集めている密偵達が引き寄せたものだ。そういう意味では偶然ではなく必然だったのかもしれない。

「別に咎めるとかそういう事はないわ。ただアーニャの言った事が気になってね」

「ベルナール辺境伯に野心はありませんよ。あの方は辺境の地を愛しておりますから」

 すぐに察してくれるのは楽でいい。実力者という点ではベルナール辺境伯が筆頭。武力も政治力も優れている。ホープ子爵に接点があるのなら、必ず確認したい事であった。

「ただし」

「疫病神の方からすれば、実力者であるベルナール辺境伯は接触したいわよね?」

 私だって負けてられない。お返しとばかりにアーニャを先回りする。

「辺境伯を知っているのだとしたら、その可能性は高いですわ」

 にやりと笑うアーニャであったが、今この時が楽しくてしょうがないのだろう。しかし知っているのなら、か。その時ふと私はオルフは勉学に優れているという前提に立ってしまっていた事に気づかされた。まだまだ司教の息子という先入観を捨てきれていなかったらしい。

「そもそも知らないという可能性は想定していなかったわ。もしかしてアーニャは疫病神に会った事が?」

「ええ、お父様と一緒にね」

 私達は納得した。これまでのやり取りから判明したホープ子爵の性格なら、誰にも知らせず一人で『あれ』について隠し通すだろう。その場にアーニャがおり、一緒に知ってしまったからこそ、二人で隠し通す羽目になったわけだ。

「まさか司教様の息子から、あんな危険な情報をもたらされると思ってなく……一生の不覚です」

 アルベルトは子爵に尋ねた。

「話してもらえないか。疫病神は一体どんな性格なのか。司祭殿からも聞いているが、子爵の目から見た姿も知っておきたい」

 どこへ行ったかも気になるが、急がば回れだ。彼の性格を把握しておくのは絶対今後の役に立つ。

「分かりました。それでは話しましょう。ホープ家最悪の一日についてを」

 これから語られるのは子爵家の運命を変えた出来事、自ずと気持ちが引き締まる。私達が住まいを正したのを確認した後、子爵はおもむろに語り始めたのだった。



アーニャのキャラは書いてて楽しかった。次回は木曜日なんとか行けそうです。

時差ボケも抜けて体調も回復してきたので、これからストック溜めて行きたいですね。

それでは次回またお会いしましょう!

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