Log_1
新しい出会い、あるいは一時の別れ_│
空が青く澄んでいて、太陽が地面の草木を輝かせている。生暖かい風に当たって、自然と体が暖かくなる。
案外今日のような日はこのくらいの風が心地よく、穏やかな気持ちに……
「……」
「あ、おはよ~う」
おーい、と、こちらに話しかける心の声を無視することも出来ず、ありがとうございます。と一言い、抱えられていた腕から抜け出し地に足をつける。
一瞬の出来事であったが、何だか超次元的な移動法に自分は着いて来れなかったのか、意識はあったが、自我喪失していたらしい。
目の前にいる人2人…1人は、心さん。さっき自分を助けてくれた恩人で、何やらもう1人の人と話し合っている。相手の人は、パッと見では男に見えるが、肩にかかる位には長い髪をしており、背は平均くらいのイメージだ。少なくとも、高くは無いだろう。
2人と自己紹介をかわす前に、少しだけ周囲を見渡す。
(なんか、見覚えのある場所だな)
そう、完全に先程までいた場所ではなくとも、なんだか、どこかで見た事のある場所なのだ。
木、石、人の少ない道路。多少の違いはあれど、先程の場所とさほど変わりがないように見えた。
自然相手にそんなことを考えていたら
「初めまして」
相手から話しかけてくれた。
先程の考えをまとめている暇もなく、その声に思考が遮られる。
「あ、初めまして」
顔立ちは好青年。
やはり背はそれほど高くは無いが、全体的にスラッとした印象を受ける。
心と同じ様な服を着ているため、恐らく制服かなにかだろう。
「俺は篠原 諒。諒でいいよ。」
「岸 星煌です。好きなように呼んでください。」
「了解。…あー、なんだ、悪かったな、うちのが。」
「なんだぁ!保護者面して!」
諒さんの肩をポコポコ叩いて抗議している。さも自分は悪くないかのように。
「いえ、全然。助けてもらいましたし…」
まあ、それに関しては本当のことである。現に心さんがあの場に居なければ、私の命は無く、周りに被害が及んでいた。ここに連れてこられたのも、その救世の代価みたいなものだし。
そして心さんの顔はドヤ顔に変わっている。これは、自分は悪くないというより、良い事をしたと、言いたかったのだろう。
「まだここの事、なんも分からないだろ?
教えてやるからとりあえず…まあ、帰るか。」
「着いてきて、こっちだよ」
そう言って彼は踵を返し、道案内をしてくれる。''帰る''と言っていたので、おそらく家か、学校か、まあ何かしらスペースがあるのだろう。
警戒心を露わにしても、帰ってくるのは疑いなので、ここは有難く「はい」と言って着いていくことにした。
(まあ、他に行く宛ても無いし。)
(突然振り向いて銃でも突きつけられなければ良いな……)
なんて、高校生なのに中学生がやりがちである妄想をしながら大人しく、2人の後について行くのであった。
ーー回想、終わり。
まあそんな、とても一言では完結できない物語があったことにより、今私は……家?学校?がある門の前に立っています。
住宅街から少し離れた空き地に建っており、あまり清掃がされていないのか、周りには雑草が生い茂り、門は錆び付いて、建物も少し古臭く感じた。まあ、学校っぽいのでそこそこ大きくは見えるが。
「はい、ここが俺たちの……拠点?住処?みたいなとこ。とりあえず、入ってよ。」
相変わらず説明が簡素な諒さん。一足先に鍵を開けて門を開けている心。
心が開けている門はがたがたと揺れ、ギギギ、と鉄鉄がが擦り合う、決して愉快ではない音が聞こえてくる。
だが、それでも一応家?は家なので、「お邪魔します。」とだけ呟いて、その地に足を踏み入れた。
門をくぐってすぐ見えるのは学校のドア……と、相も変わらず地面に生い茂っている雑草。一応、道という道は出来ているのか、一直線にコンクリートが見える。
そこをゆっくり通りながら、前の人に着いていく。
そして、心さんが鍵を差し込み、古めかしい扉が開く。
「ただいまー!」
そう言って差し込んだ光は、思っていたよりも、
綺麗だった。
「さ!上がって上がって!」
心が手招きしながらこちらへ誘い込む。
「お邪魔します。」そう言い中に入ると、見えるのは思っていたよりも学校らしくなく、普通に綺麗な家だった。どうやら、外があれなだけで、中はまともにやっているらしい。
靴を揃え、先程と同じく、2人の後ろを歩く。
ここまで来るのにあまり時間がかからなかったため、特にこれといった会話はしていない。まあ、前の2人が訳の分からない会話をしていたが。
廊下を少し歩いた先の扉を開けた先には、大きなテーブル、ホワイトボード、テレビ……など、おおよそ一般家庭と変わらない程度の設備があった。
ただ、先程見た建物サイズはそこそこ大きく見えたため、この他にも部屋があると思われる。
「じゃ、色々説明するから適当に座ってよ」
諒さんがそう言うと、ホワイトボードを引っ張り出して、ペンを手に取る。
どうやら、ようやくこの世界に着いて説明してくれるらしい。聞き逃してはいけないと思い、カバンから持ってきたノートとペンを取りだし、メモの準備を始めた。
「じゃ、いいか?」
返事を言わず、頷きで返す。
「まず、この世界はーー」
そこからはまあ、長かった。
いちいち日記に全部書く訳にも行かないので、メモを参考に、一部を抜粋し簡潔に、箇条書きでまとめた。
・まず、恐らく私がいた世界とここの世界はそもそもの''世界''が違うこと。(名前は地球だけど)
・ここの世界では一時を境に、何かしらの超能力を持った人間が産まれているということ。(猫等はないらしい)
・ただ、能力を持てるのは子供のみ。つまり、20までの人間となる。それ以降は徐々に力が薄れ、ただの一般人に戻る。
(これについてはどうにかして延命できないのか、と偉い人?が考えているらしい。)
・そのため、上に立つ者、偉い人が子供に変わりつつある。ただ、能力が直接職に関連しない裁判官や、一般の会社等は昔(恐らく現の私の世界)と同じように大人が働いているらしい。
・この社会は偉い人順に、指導者(要はトップ。総理大臣)→連盟→協会→委員会→組合→一派閥
という社会になっている。(総理大臣とかは1回リセットされて無くなったらしい。)
・子供たちが社会と秩序を守り、大人が働き、社会に貢献し……という構図になっている。まぁ、この構図は割と最近できたものらしいが。
まあ、今大雑把説明されたのはこんなところだ。
ある程度のメモを終えたら、諒が突然隣に座り、面と向かい話しかけてきた。
「おい、今ので大体の仕組みはわかっただろ?」
相手は両腕を組み、指先でで机をトントンと叩いている。
「まぁ、お前が知りたいのはこの世界の事じゃなく、連れてこられた理由の方だろうな。」
返事も、思考もする間もなく、相手は淡々と説明を続ける。
「さっき、序列の話をしただろ?俺らが所属しているのは連盟から公式に指名されている''委員会''だ。」
…そういえば、そんな話もされた気がする。
上から4番目の委員会までは、国に認められた公式の組織であり、そこから下は非公式でやっている、公認されていない組織だと。まぁ、その組織が何をしているのかもさっぱりわからない訳だが……
返事を待っているのか、相手は先程と変わらず、鋭い目付きでこちらを見ている。
相手の言葉に頷きで返すと、また口を開いた。
「そして、委員会の名前は''時空間調査委員会''
お前が今から入る、人数2名、顧問1名の委員会だ。」
「……は?」
たった今判明したことだ。どうやら、私はその委員会とやらに確定で入らなければいけないらしく、「拒否権は無い。なぜなら、お前に帰る手段は残されていないからな。」
……帰れない、という新事実も今明らかになった。
「ごめんね!何せこんなイレギュラー初めてだし、あんまり目撃者を手放す訳にもいかなくてさ~……」
と、手のひらを合わせ謝ってくる心がこちらに近づいてくる。
「まあ別に、どうせ帰れないなら、いいですけど……」
実際、その通りであった。宛もなく彷徨う訳にも、そこら辺で野垂れ死ぬ訳にもいかなかったのだ。
「だってさ、心」
「やったね!人手が増えたよ!!」
……(やっぱりただの人手不足じゃないのか?)
カバンの中から持ってきたスマホを取りだしながら、そんな事を思ってた。
元の世界に帰れないと分かっても、不思議と絶望や不安を感じたりはしなかった。強いて言うなら、バイト先が人手不足なので、急にいなくなって申し訳ない気持ちがある。でももう私には関係ないので、大したことではなかった。
なんて、宛先のない思いを垂らしながら、ちょっとした、いやかなり大事なお話しが終了した。
ーー同時空 数分後
少しの歓談を楽しんだ後、ガチャッと、鍵の開く音、それに扉の開く音も聞こえてくる。
「あ、先生帰ってきた」
心がそう言うと、スマホを弄っていた手を止め、椅子から立ち上がる。
"先生''。と言っていることから、まあ文字通り勉学を教える人の立場だろう。
リビングのドアを開けると同時に、見慣れない人がそこに立っていた。
「ただいま~っと、お、心ちゃんありがと、ね……」
その者が中に入ってくる……と、同時に目が合う。
「……?」
「……」
……一応、こんにちはの意でぺこりと会釈をしたが、相手は何も分かっていない様子だ。
いや、初めましてとでも言えば良いのだが、横の2人が何か言ってくれるのを待った方が早いのだ。しかも今の状態で下手な事を言ったら空気を悪くしかねないし……。
「あ!先生気づいた?」
そんなことを思っていたら目を輝かせた心さんが間に入ってきてくれた。流石にこのまま一生睨めっこしてる状態にならなくて安心だ。
「流石の先生でもこれは気づくかな〜」
と、その先生とやらはゆるーく言葉を返してこちらへ歩いてくる。
私は慌てて席から立ち、伸ばしてくる手にそっと自分の手を重ねる。
「初めまして、お嬢さん。
……君、見た事ないけど、外の人?」
「?え、あ初めまして。外の…?」
「あぁ、ごめん。俺が説明するよ」
重ねた手を離す。また知らない単語が出たが、ここは諒さんに全てを任せるしかない。
心さんも一緒に説明してくれてるから、とりあえずは大丈夫だろう……相手はとても驚いているが。
「ごめんね、なんか随分とややこしい事になってるけど、とりあえず自己紹介するね。」
一通りの説明を終えたのか、相手がこちらに話しかけてきた。
「星煌ちゃんだよね?僕は照井 穹まあ、呼び方はなんでもいいよ。」
「よろしくお願いします。照井……さん。」
一瞬、先生と呼ぶかどうか迷ったが、それは関係が深まってからでいいと判断した。第1、委員会所属が説明されてなかったら戸惑うだろうし。
「よ~し!これで全員揃ったね!」
気まずく見つめ合う空気が変わった。
心がそう言うと、私の方に近付いてくる。
「ま~まだまだ説明しなきゃいけない事はあるけどさ!とりあえず委員会入ろ!ね!」
「でも、こいつ生命証明書持ってないやん。そもそもここの世界の人じゃないのに、そうポンポン入れて良いものなん?」
「ま~そこは先生が偽造して何とかしてあげるよ。そうすれば、買い物とかにも色々便利だしね。」
さらっとやってはいけないことをしようとしているが、そこはスルーでいこう。てかその先生はもう偽造の準備し始めてるし。
この反応を見るに、もう私のことは全部説明してくれたのだろう。
「よ~し!じゃあ制服とか、家具とか必要なもの色々取りに行こう!」
そう心が声を上げ、私の手を掴む
「は?今から……まあ、時間はなくも無いけどさ。」
「ま~いいじゃん!たまにはお出かけ!ほら!」「俺も行くのかよ」
だるそうにツッコミを入れつつも、ちゃんと準備をし始める諒……
「わざわざありがとうございます。」
「お~行ってら。先生の財布そこだから持って行っていいよ。」
(そんなポンポン渡して良いものなのか?)
「ありがとう!行ってきまーす!」
そして心に手を引かれ、そのまま扉が閉じる。
2回目の外の風は、さっきよりも穏やかに感じた。
「……まあ、偽造するのは簡単か。」
そう、1人の先生は思う。
この国は、生まれてすぐに''生命証明書''を作る。これは能力の診断をしたり、学校に入ったり、委員会に所属したり……そういった時に使用する、欠かせないものだ。
それを持っていない者は、主に外の人だ。
生まれが貧しく、作る余裕が無い者や、上に見られたくないからと、わざと作らない者。まあ、外の人はあまりいないが。
この証明書は、造られてから上に情報が行くため、逆説的に上が下のことを把握できるのだ。
……だから、上から確認されたら少し怪しまれるが、そもそも偽造なんて滅多にないから、まあ大丈夫だろう。
(……別の世界から来た人、ね。)
この委員会は上から直接作られたが、上はあまり干渉してこない。悪く言えば、放置されている。まあ、あまり興味が無いのだろう。
だから、星煌ちゃんの情報を登録しなくても、そもそも気付かないので問題ないのだ。
実際、私たちは何も分かっていない。継続的に出現する黒い穴も、そこから出てくる敵も。
(今回の事件で、何か変わればいいんだけどね。)
そんな事を考えていたら、証明書が作り終えた。パッと見では分からないし、細部もこだわったので、読み取りでもされない限り、大丈夫であろう。
ガチャ、と鍵の開く音が聞こえる。
「ただいまー!!」
この声は、心だ。相変わらず声が大きい。そして足音も大きい。
ドタドタとリビングに突っ込んでくるそれは、両手に大きな荷物を抱えていた。
「お~たくさん買ったね」
「そうだよ、こいつ、1番買わなきゃいけないやつよりも自分の方が買ってるからな。」
「まあ別に私は、私物もありますし」
人数が増えたからか、心なしか2人が明るくなった気がする。来た子は知らないが。
まあ、少しでも上手くいったら良いな、の意を込めてケースに入れた証明書を渡す。
「はい、これ。無くさないようにね。」
「ありがとうございます。大切にします。」
「おーすごい!完璧だ!!」
「普通にクオリティ高いな、これ。」
……なんて、わちゃわちゃ騒いでいる声を背に、珈琲を入れ始める。
他のことは、まあ明日説明すればいいし、とりあえず今日は
「……ねぇみんな、歓迎会でもする?」
「え!?する!する!!」
真っ先に食いついたのは心ちゃん。発言してから3秒しか経ってないのに、もう既に1人で盛りあがっている。
「……まあ、別になんでもいいよ。」
……まぁ、諒くんが割と雑なのはいつものことである。
「あ、私海鮮苦手です。」
さらっとがめついな、この子。
スマホで出前を取りながら、また席に着く。
お出かけをしたからか、先程より明るい空気になっている。心なしか、ブラックのコーヒーも甘く感じる程度には。
記録 1日目
初日だし、こんなものかな。
本当は彼女自身が日記をつけるように促せてあげれれば良かったんだけど。
自身に出会いや別れがあったとしても、周りは何も思わない。だから、君はそんなに冷静なんだね。byーー.
記録 星煌
編集 ーー
Q何買ったの?
A服。あと生活必需品。お菓子とか。
ーおい、お菓子は違うだろ。
返信︰星煌
コメント︰諒 ○日前




