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無題/日記  作者: 岸 星煌
一章『何もない、起きやしない日常の大切さについて』
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Log_25


例えば、だ。

よくある異世界漫画のように、トラックに跳ね飛ばされて異世界に行ったとする。


俺は最強チートキャラにに転生したが、その世界のことは何も知らない。言語も、種族も、ルールでさえも。

もしかしたら、花を摘み取るだけで即刻処刑なんてこともあるかもしれない。


そんな中、魔王討伐だのやり直しだのハーレムだの……そんなの、高望みが過ぎるだろ。

結局、重要なのは慎重さと賢さ。

お前の意見は分かる。確かに行動力も大事だけど、それは特定の所で発揮すればいい話だ。


……()はボードゲームをやりながらそう語った。サイコロで人生が決まる人生ゲームのような世界に転生しても、同じことを言うのだろうか。




外の扉を開きましょう。何も知らない自分を妬みましょう_│




「おはよぉ〜星煌!」

「。おはようございます」

「んふふ、星煌髪ボサボサだよ」

二人は朝早くに二階の廊下で出会った。心は星煌の鬣が面白かったのか、をわさわさと直し始めた。


「あらほんとだ……でも、アレよりマシじゃない?」

そうして二人が一階に下った時に見たのは、部屋の前で行き倒れている照井とそれを引っ張る諒だった。

「先生、起きてください。髪ボサボサですよ」

「、#いt@_s*d.i?どo+/y」

「はい?なんて?」

照井に早起きを求めてはいけない。朝はこういった言語化不能状態になってしまうので、いつも遅い時間に起きてくるのだ。

天才である諒でも未知の言語を解読はできない。法則性が全くもって存在しないからだ。


「たひかに、あれよりはね」

男同士で格闘してるのを横目に女二人は既に歯磨きを始めていた。

「朝ごはん作ります?行くま()()時間あります()

「や、かi.;で#a@?6oら……」

床に突っ伏しながら照井は答える。その背中の上でねこがふみふみし始めた。

「あぁ、出先で食べます?じゃあ作んないでおきますね」

「……なんで翻訳できるんだ」

「何となく()よ。合ってるかはわかんない」

こっちも大概眠そうな顔をしている。諒はそれを眺めて、すぐに視線を携帯にやった。


「先生ほら、顔洗うよ!」

「……」

「寝ないで!!」

そんなやり取りをしているうちに、照井は再び夢の中へと落ちてしまった。

心は二人を見て自分も翻訳してみたいと思っていたが、残念ながらその願いは叶わなかった。



「おはよ、みんな」

「おはようございます。やっと起きましたね」

髪がボサボサなのは変わっていないが、無事いつものへらへら顔に戻っていた。

「まあまあ、先生の寝起きが悪いのはいつもの事だよ!」

目を覚ますのにだいぶ苦戦したのだろう。二人が戻ってきた時には、既に星煌は準備を終えていた。


「会議について教えてくれるんですよね?何するんです」

「報告会みたいな感じかな。問題がないか確認しあって新しいことがあるか確認するだけだよ」

朝ごはん代わりの珈琲を入れながら照井は答える。会議と言っても、それほど重要な案件ではないらしい。

「……だからスーツ着てないんですね」

「うん。最初はみんなスーツ来てきたんだけど、わざわざ着替える時間が面倒って理由で廃止されたよ」

スーツが廃止されるほどの頭のゆるさ。平和ボケ。

委員会の会議ではは腕章さえ付ければよいとされている。連盟とかの会議はもっと真面目だと照井は聞いたことがあるが、自分には関係の無いことだった。

「会議ってどこでやるんです?」

「五線譜の本部の横っちょに、委員会のみんなが使える建物があるんだ。そこでやるよ」


「つまり、東京?」「東京!?!」

隣に座っていた心が突然大きな声をあげる。朝から元気なのは良いことだが、隣の人の耳も労わってくれ。諒は心の中でそう思った。


「ちょうど新宿に行きたい所があるんだぁ!帰りに寄ってもいい?先生!」

「いいよ。会議が終わるのが多分昼過ぎ位だから、時間もちょうど良いしね」


「そうだ忘れてた。星煌ちゃんはい、これ」

そう言って照井は、段ボールの中からあるものを取り出した。

「、腕章?」

それは、委員会に所属している証。時空間調査委員会と書かれた腕章が、そこに輝いていた。

「うん。発注したのが前届いたんだ」

「ありがとうございます」

彼女はそれを左腕へと着ける。こういった物を着けるのは、中学生以来だった。


「星煌ちゃんも、もう委員会の一員だからね」

「『もう』って。俺は最初からそのつもりでしたけど……」



突然飛び出したその発言に、一面は面を食らう。まさか諒が、そんな俺は仲間思いだぜ発言をするだなんて。


「……なかなか粋なこと言うね、諒くん」

「え」

本人もその自覚は無かったらしい。無意識に飛び出した言葉であるのなら、かえって恥ずかしいことになる。

「諒ってばぁいい男だね!」

「お前も散々家族だの仲間だの言ってだろ」

そう言って心と諒はギャーギャー騒ぎ始める。二人がこういった言い争いをするのは珍しくない。


「もしかして私が末っ子ですか?」

「その枠は心ちゃんかな」

次女から末っ子への転落を恐れたが、そうではない。性格的にも、彼女は真ん中の方が似合っている。

「そっかぁ。ふふ」

そう言って星煌は言い争う二人の顔を見つめた。こんな小さいことで、あんなふうに会話が出来るのは少々羨ましかった。

「……なんだよ」

諒が視線に気付く。なんだかニコニコして見つめてくるから、彼は少しドキリとした。


「なんでもないよ。準備しないの?あと三十分くらいだけど」

「ほんと!?私着替えてくる!!」

そう言って心は二階へと駆け上がった。どうせこの後、どちらの服が良いか聞きに来るのだろう。

「ふふ、やっぱり末っ子は心だね」

「何の話だよ……」

嬉しそうに話す星煌の姿に、諒は調子が崩された。靴下を左右履き間違えるくらいに。



「よーし、みんな行くよ〜」

「はーい!!」

あっという間に時間になってしまった。これから訪れる会議に、照井は憂鬱になりながら靴を履く。

他の委員会はここの事情……市民に公開でないという事情を知っているのにもかかわらず、時空間調査委員会だからといって毎回バチクソに叩かれるのだ。主に『予算を回せ』と。


玄関で靴を履きながら、星煌は記憶をフラッシュバックさせた。

今回のみ目的は会議。


だけど、みんなでこうして遠くまで出かけるのを……


「?、『」█』「」『()」!「』」


「ふふ、なんか前にもこんなことあったよね」

「あ、ぁ……はぁ?んなわけねぇだろ」

諒は肯定しそうになった返事を抑える。彼の記憶に、このような場面は存在していなかった。

「え、そうだっけ」

星煌は確かにデジャヴを覚えたはず。もしかしたら、存在しない記憶とやらかもしれない。


「うちも覚えてないな」

「あれ?」

極めつけに、こういった出来事はよく覚えている心まで覚えてないときた。

誰か一人欠けた状態で行くのはよくあるが、全員揃った状態で出掛けることは今までほとんどなかった。

「お前、それどっかと間違えてるだろ」

諒は記憶力が良かった。対して、星煌は記憶力が悪かった。この場面では、諒の記憶の方が説得力がある。

「そっか。まあ、そんなもんか」

「あ、ねこ忘れないでね」

星煌は勘違いを受け入れ、特に気にせず猫を抱き抱えた。



「私助っ席!!助っ席がいい!!」

外に出た心が真っ先にはしゃぐ。照井の車に乗れる機会は、今までそう多くなかった。

「運転席じゃなくていいの?」

「え!?乗れるの!?」

心が驚きで目を輝かせる。自身の常識が置き変わろうとしていた。

もしかしたら、星煌の世界では高校生から車が――


「乗れないよ」

「、……、!」

「ごめんごめん、いたい」

平然と紡ぎ出されるその嘘に、容易く騙される心。照井の才能を持っている訳じゃないんだから、彼女が嘘で一般常識を覆すことはできない。

(こいつ(星煌)、たまにこういう所あるよな……)

考えなくとも分かることを、と内心思う諒であった。


「ナビをセットして……」

「ねぇ、音楽掛けていい!?私が好きなやつ!」

「どうぞご自由に」

「私も。なんでもいいよ」

そう言って星煌は左耳に有線イヤホンを付けた。前席からは見えないので、バレる心配はない。諒以外には。

頭の冴えたやり方に、諒は直ぐに真似をした。


尚、照井からはミラーでバレバレである。中々面白い行動に、笑いをこらえるのに必死であった。



そうして、車は音を乗せて走り出す。

東京と言っても、神奈川からはあっという間だった。



「おー!!東京だぁ!」

心は遠くにあるスカイツリーを窓越しに見つめる。記憶をなくした彼女にとって、こういった都会は新鮮かもしれない。そりゃあはしゃぐわけだ。


「ねぇねぇ、ご飯どこで食べる!?」

「(某激安イタリアンファミレス)」

「(某有名チーズハンバーグファミレス)」

「それはどこでも食べれるじゃん!!」

星煌と諒はスマホの音楽を止める。心は後ろを振り向いて、こちらに身を乗り出してきた。


「心が決めていいよ。なんの気分?」

外食になる際、店舗は大抵心が決めていた。「なんでもいいよ」という度に心は「もっと自主性を持って!」と「ありがとう!」の狭間で揺れていた。


「うーん…………わかんない」

「わかんないのかよ。もう適当に検索して一番上に出たやつにしようぜ」

「適当!!もっとこう、東京でしか食べれないのとかあるじゃん!!」

具体的な案は思いつかないが、彼女が食べたいのは流行りのものだったり普段食べないようなものだろう。


「(某有名高級チョコレートブランド)とか?」

「なんで昼にチョコなんだよ。んでどこにでもあるし」




そういった、仲睦まじく喋る彼等を見て。

「……、……」

照井は現在、原因不明の病に襲われている。

彼等が笑う度に心臓が苦しくなる。いつもニコニコ飄々としている顔がふにゃふにゃしてしまうのを必死に抑える。

それは……愛情、庇護欲、それともキュートアグレッション?そんな言葉では表せないほど、複雑な感情だった。


これがポジティブな感情であるのは確かだ。ただ、『ポジティブであるが故』に、だ。彼の心には戸惑いが生まれしまった。


人間は自然である。だから彼は人間が好きだ。それは自分をよく知る前から分かっていたこと。

昔の仲間が話をして、笑うだけで、彼の心は大きく満たされた。

ただ今は、可愛いと思うだけで彼はこんなにも苦痛を受けなければならない。

昔はもっと、自然に受け入れられていたのに。


このような感情は初めてだった。『██』という感情は。



でも、それは悪いことでは無いのだ。照井はいずれ、真の美しさに気づくであろう。



「ね、先生もそこでいい?」

「……うん。みんなが良いなら、なんでもいいよ」

それは、いつも通りのなんだか怪しい表情。

「あはは!星煌と同じこと言ってる!」

「そんなこと言ったっけ」

「言ってたぞ」

頭を傾げる星煌を見て、諒は静かに病院を勧めた。珍しく怒りツッコミをする彼女を見て、諒は少し笑った。


(星煌ちゃんなら、何かわかるのかな)

唯一互いの秘密を交換しあった仲である彼女に、照井は解を求めようとした。


彼女がその解を一mmも知らないとは、それまた知らずに。



「ん〜!!美味しい!」

「ほら、俺の鑑識眼は間違ってなかっただろ?」

普段より少しお高めの、ちょっとしたお店。

(普段行ってるファミレスと何が違うのか分かんないな)

極度の貧乏舌。それを言ったら諒から引っぱたかれそうなのがわかっていた星煌は、その気持ちを心の中に留めておいた。


どっちにしろ美味しいことには変わりないのから良いのである。

「これ、隠し味はりんごと見たね」

いい感じのお店に来たのにも関わらずカレーを頼んだ照井はドヤ顔を決める。

「先生ほんと!?なんでなんで!?」

「勘!」

「なるほど、深いですね」

「別に深くもなんともねぇだろ」

繰り出される意味不明な会話に諒はツッコムノで精一杯だった。


どちらかと言うと、昔は彼もボケる側であったのに。



そうして少し時間を潰したあと、時空間調査委員会御一行は目的地へとやってきた。

目の前には高くそびえるビル。これが、この物語の軸になるだろう。


「ここが、俺らが入る……」

「……なんか普通のビルだね」

「もっとピッカピカに光るライトとかあると思ってた」

その想像力はともかく、豪勢なのを想像していた心は普通に会社を運営してそうな硬いビルに若干落ち込んだ。

「こらっ、心そんな事言っちゃいけません。あそこにいたらビルなんて見る機会ないでしょ」

正論である。時空間調査委員会の"市"は別に田舎というほど田舎ではないが、拠点の立地が終わっている。

外に出てもしばらく一面森。こんな簡素なビルでさえ見つけられないほどに。



「止まれ。どこの委員会だ」

突然向けられた剣に、星煌は思わず心の後ろに隠れてしまう。諒には堂々としろと背中を叩かれた。

「『時空間調査委員会』です。はい、入場許可証です」

「……確認できました。無礼な態度をお許しください。どうぞ」

「いいえー」

照井にとってはいつもの会話だ。開かれる門を眺めながら、嫌な音に耳を澄ませる。


「会議のフロアは四階になりますね。それじゃあ、お気をつけて」

「はーい。じゃ、行くよー……なにやってんの」

照井がひと目離した隙に何やら楽しそうなことをしていた。

「いや、諒が星煌を引っぱたいてたから」

「そっか。でも、絞め技までいく?」

諒が心にチョークスリーパーをかけられている。腕に血管が浮き出るほどに力を込めて。

星煌にはどうすることも出来なかったのか、レフェリー役をやっていた。

数秒でここまでコントが完成されるのは、むしろ褒めた方が良いのか。照井は少し悩んだが、まずはキツそうな諒を助け出すことにした。



「……なあ、お前」

「何だ。勤務中は話し掛けるな」

先程の門番の会話だ。門の両端に立つ二人が、少々雑談タイムに入った。


「いや、時空間調査委員会ってあんなに人いたっけ?」

短髪タレ目の不真面目男は話す。

「確かにそうだな。出席してるのは毎回顧問一人だけの記憶だ」

短いポニーテールの真面目男は答えを返した。


「びっくりしたわ〜あんなに可愛い子居たなんて」

「……次話し掛けたらぶっ飛ばすぞ」

「あ、ポニーテールの子ね。お前は短髪の子の方が好みそうだけど」



「痛った!!スネ蹴るなよ!!!!」

「黙らなかったらもう一発行くぞ」

「はいすみません集中します!」

そんなくだらない会話である。ああ、もちろん彼らの出番もここで終わりである。




「おぉ、ここが中の……」

そうして中へと入ってきた。仮にも公式なため、中には委員会らしき人達が忙しそうに歩き回っていた。

建物のシックな装いに心は思わず身が引き締まる。

隣の諒は「なにを絞め技までかけなくても……」とブツブツ呟きながら首をさすっていた。


「こんにちは。委員会定例会議に参加しに来ました。フロアは四階で合ってますか?」

「はい。その通りです」

窓口の人物は四人を見て書類を書き込んだ後、名札を箱から取り出した。


「これを人数分お配りいたしますので、首に掛けておいてください。侵入者防止のためなので、ご協力願います」

「はい!」

「良い返事です。お嬢さん」

「ありがとうございます!」

褒められた心は嬉しくなって二人にドヤ顔をした。星煌は右手でサムズアップをし、諒は哀れみの目で返した。心はまた絞め技をかけようとした。


「顧問は 照井 穹 でお間違いないでしょうか」

「はーい」

「『はい』は短くお願いします。こちらがカードキーになりますので、お帰り時に返却願います」

「わかりましたーーー」

中々の反抗精神だ。特に恨みがある訳でもない、ただ彼がそんな性質なだけだ。

「……まあ、良いでしょう。それでは、『今日も我らが、正しい道を歩めますように』」


そんな胡散臭い決まり文句を吐き返して、四人はエレベーターへと向かった。



「えっと、カードキーをここにやって……」

「……何回も出席してるんですよね?なんでそんな手間取ってるんですか」

「最近システムが変わったんだよ。大目に見て、諒くん」

壮大な扉の前でも、彼等はいつも通り軽口を叩きあった。星煌は緊張しているようだが。



「おはようございまーす時空間調査委員会の照井でーす」

慣れた手つきで引き戸を開ける。ズカズカと中に入り込み、会議長らしき人物に挨拶をした。


「あら、今日は時間通りに来たの、ね……」

だが、相手の反応は歓迎ではなかった。委員会のメンバーを見るなり固まってしまった。


「……一応、入れるのは顧問と委員長のみとしてあるけど?」

「え、なんか沢山居てもいいって書いてなかった?」

「それは支部があった場合よ。その支部代表の人は連れてきて良いけど、あなた達支部がない上にメンバーは"三人"しかいないじゃない。全員連れてきてどうするのよ」

彼女は後ろのメンツを指さして答える。顔を抱えて、ため息を着いた。黒く美しい長髪が、その手によって崩される。


「ごめんね。次回から気を付けるからさ、大目に見てよ。教育委員会とかいつも沢山連れてきてるじゃん」

「あれは支部が多いから……はぁ、まあいいわ。今回"のみ"特別に許可します」

来てしまったものは仕方ない。相手は折れて、星煌達の入室を許可した。セキュリティチェックの際に気付けなかったこちらも悪い。


「すみません。知らずに着いてきてしまって」

「いいのよ、この事をあなた達が知ってるわけないんだから」

会議の詳細は、顧問しか知らない。むしろ知っているのなら、そいつは何らかの罪を犯していると言えよう。

「だから、そんなに落ち込まないで、悪いのは照井だから」

目に見えて申し訳ない顔をする一人に、彼女は慌てて慰める。残りの二人は犯した過ちから今にも死にそうな顔をしていた。

慰めると表現すより、照井に正論をぶち当てているの方が正しいだろう。


「『委員長』はどなたかしら。前のリストには載ってなかったけど、もう決まってる?」

「……」

言葉に出さず、無言で諒を指さす三人。理由は違えど、心は通じあっているようだ。

「……俺です」

諒は仕方なく手を挙げる。ここの席は自分以外は座れない。彼自身も、そう思っていた。


「ありがとう、席はあそこよ。時間まであと数十分あるから、くつろいでてちょうだい」

そうして四人は奥の方の席に座って、誰が真ん中に座るかジャンケンをしていた。



席に着くこと数分。新たな人物が、会議室へと顔を出した。

「こんちわー!鍛造委員会です!」

声量とは真逆に丁寧に扉を開ける。その声は、聞き馴染みのなくとも、覚えのある声だった。


「あ、諒くんと星煌ちゃんだ!」

「名河さん!」

そこに居たのは、星煌が委員会外で一番最初に出会った人物であった。

星煌は挨拶をしようと駆け寄って、少しお辞儀をした。

「おぉ!久しぶりだね〜星煌ちゃん!なんか背伸びた?」

名河はそんな彼女の頭をわしゃわしゃと撫で、最初より明るくなった態度に安堵した。

「いえ、一cmも」

「それは良かった!」

「はい」

(それは良かったってなんだ)

きっと、背が伸びたら剣先の調整をしなければならない的な、専門的な理由が存在するのだろう。星煌はそう思う事にした。


「うちは顧問の中だと結構新米だからさ、よろしくね」

そう言って彼女は向かいの席へと行ってしまった。そこには既に委員会長らしき人物が座っており、仲睦まじく喋っている。

「最年少一歩手前か、大変だな」

「本当に新米じゃないですか」

諒はそれほどの実力者であることに驚くのと同時に、彼女が顧問であることを今になって知った。



それから続々と人が集まった。

時空間調査委員会は二十分程前に来たが、その時のメンバーは一人だけだった。

十分ほど前になると人が山ほどなだれ込んできて、入ってくる人は決まって必ず、時空間調査委員会のメンバーを見るなり驚いていた。


明らかに疲労困憊な人や、逆に元気な人。大量の書類を抱えた人まで入ってきた。


「一部人がいないけど、時間になったから予定通り始めるわ」

書類のまとめる音が聞こえる。その場の全員が席に座り、時計の針が秒針を刻む。


「『人事管理連盟』連盟長、『管 弦乃(すが つるの)』が会議長を務めさせていただくわ」


「それじゃあ、会議を始めましょう」

その声が終わるのと同時に、十三時のチャイムが鳴り響く。

人が詰まった会議室にて、壮絶な言い争いが始まろうとしていた。




「うおー!!ちょぉっと待ったー!!」

遅刻をしてきた、この委員会を除いて。



記録:記入 星煌

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