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無題/日記  作者: 岸 星煌
一章『何もない、起きやしない日常の大切さについて』
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何かをしようとするならば。それには、お金が必要である。

この仕事は好きだ。だが、それはそうとお金は欲しいのである。

だって、そうしなきゃ何もできないでしょう?


そうして彼女は、貯金箱の中身を確かめた。



地獄の沙汰も金次第?_|



「バイトがしたい!」

「……」

「バイトがしたい!!」

「わかった。わかったからそんな叫ぶな」

午後三時。珍しく星煌がお菓子作りをして、大量のパンケーキを振舞っていた時のこと。

そうして食事をしていた最中、突如として叫び始めた彼女。諒も一度は適当にあしらおうと聞こえないふりをしたが、その迫力に押し負けてしまった。

「星煌どしたの?そんなに叫んじゃって」

薄切りパンケーキを口いっぱいに頬張ばりながら心は首を傾げた。

彼女と隣にいる照井は相当な甘党だ。チョコソースがひたひたに掛かっていた。


「いや、お金が欲しくて」

「副業か......」

バイト漬けの生活を送っていた星煌にとって、お金が手に入らないのは相当な打撃だった。彼女は珍しく困った顔を見せながら、牛乳を一口飲んだ。困惑顔ならたくさん見せてきたのに。

「なぁに〜星煌。この仕事じゃ不満なの?」

「いや不満は無いよ。ほぼサボりだし」

穴を調査する必要がなくなったからというもの、星煌は後ろで照井と雑談をするだけの日々となっている。星煌が前線に出ずとも、少し目を離したらすべてが終わっているのである。面倒くさがり屋の星煌にとって、この仕事天職である。

これでお金が出たら最高だが、あいにく星煌はこの委員会の正式所属ではない。


「なんでお金が欲しいの?」

実はいいとこ出身な照井はお金に困ったことがないので、その思考が不思議で仕方がないらしい。

「なんでって……自分が好きなもの買えるし、貯金だってできるじゃないですか」

一般人代表である星煌は当たり前の意見を口にする。

働かざるもの食うべからず。星煌は怠惰だが、そこら辺は一般人らしく真面目に取り組んでいた。

「じゃあ、アルバイト?」

「そうなりますかね」

前の世界と同じ職場があるのだろうか。ここが一番近い世界線なら、スーパーなどいくらでもありそうだが。

星煌はレジ打ちの手さばきを思い出す。一番嫌いなことだった。


「でも、穴が出たら急遽退勤しなきゃいけないじゃない?」

心が珍しく至極当然のことを言ってきた。

「それは……心たちに任せる。頼りにしてるよ」

「ほんとぉ?仕方ないなぁ」

それを星煌は華麗にごまかす。その言葉を聞いた心は嬉しそうだ。普段から散々と頼っているが、改めて言われて嬉しいのだろう。

「てか、面接受かるの?」

「受かるんじゃないかな。『朝でも昼でも夕方でも毎日入れます!』って言えば」

面接側から見たら、星煌は貴重な存在だ。店長は喜んで毎日シフトに入れるだろう。



……彼女の世界なら。

この才能がはびこる世界で、チャームを持っていない人たちは中々職が見つからないのだ。

チャームがなくともできる仕事……コンビニやスーパーといった以前からある仕事は、倍率が非常に高い。

毎日出勤可能でどの時間帯でも可能であることが、最低ラインである。それほど、才能がない人たちの世界は厳しい。しいて救済点を挙げるのであれば、ほとんどが四、 五十代の中年で、既に元々の仕事があること。あと色んな保険が入ること。



「いやそもそも、世間一般的に見た時空間調査委員会の評価ってお前ら知ってるか?」

諒は根幹の話題を出してきた。時空間調査委員会という組織が与える印象を。

「知らない」

たくさんの委員会がある内の、一つ。

こんな討伐なんてよくわからないことばかりしているのを、世間は知っているのだろうか。


「掲示板見るか」

そういって諒はスマホを取り出す。

少しした後、『時空間調査委員会とかいう……』というスレッドを見せつけてきた。


「『なんか怖いことやってる集団』『存在意義is何処』『だれか潜入して来いよ』『HPにすら何もないの草』『こんなヤツらに金回ってんの?』『詳細一切不明』『廃部でいいよもう』」

諒がその文章を一つずつ読み上げる。その内容は様々でありながらも、大体同じようなものだ。中々な言われようである。


「こんな感じだな」

「え、一応日本守ってるんですよね?」

あまりのぼろくそ具合に星煌は自身が行っていることに不安になってしまう。まさか、こんなに印象が悪いとは思っていなかった。

「まあ、時空間調査委員会っていう名以外の全ての情報が()()()()()()()()()()からな」

「あ、そうなの?」

「うん。下手に話したら国民が混乱しちゃうからね。仕方ないよ」

突然『この世界穴空いてます。みんな気を付けてね』なんて言われても、国民はどうしていいのかわからず、混乱してしまうだろう。このやり方は賢いものである。珍しく諒も頷いて感心していた。


この委員会は、秘密裏に行われているものだ。一度は大々的に宣伝したものの、世間の興味のなさに指導者も諦め、今ではこんな山奥でひっそりと活動をしている隠居委員会になってしまった。

「そうなんですね……評判悪いのか。そっか」

「『時空間調査委員会に所属している』ってだけで落とされるかもしれないんだ。星煌、諦めろ」

諒は一口頬張って口をもごもごさせた。相変わらず興味がなさそうだ。


「……二人はよく入れたね。この委員会」

机と熱いキッスを交わしながら星煌はぼそぼそと口にする。彼女がここまで気分が沈んだ様を見せるのは珍しい。

「まあ、基本的に推薦だからな」

「うん!指導者さん直々に言われたんだぁ」

心はうれしそうに口にする。その甘い声色は、顔の周りにハートが浮かんでいてもおかしくない。

……そこら辺のことは覚えているらしい。記憶がないのは、はたしてどこからなのだろうか。


「俺は案内見て入ったけどな」

「そうね、諒くんは正式に入ってくる前に見学に来たよね~」

「その話何回するんですか……」

照井はその時のことをよく覚えている。当時のメンバーが諒必死に辞退を進めていたことを。

それを聞いても諒は意思を曲げなかったことを。


「そっか、そうなんだ、へぇ……」

自分から聞いたくせに、その話をほとんど聞いていない。こんな意味不明な委員会に連れ去られたこと、そしてお金が手に入らないその事実がよほどショックだったのだろう。声も元気がない。

「あからさまに落ち込んでるな」

先ほどから顔を上げない星煌の口にパンケーキを一欠け入れようとする諒。

心は元気付けようと席を立ち、その肩を揺さぶった。

「大丈夫だよ星煌!だってこのパンケーキ、すっごいおいしいもん!」

「フォローになってないぞ」

「いや、取り敢えず一旦いいよ……」

随分と論点の違った褒め方に、星煌は心の中で小さく笑って顔を上げた。ようやく起き上がった彼女は皿に残った一口を口に放り込んだ。



そんな星煌を見て、照井は少し情が浮かんだ。

「……そんなにお金が欲しいなら、星煌ちゃんを高校生にしてあげようか?」

あまりに突飛した発言に、全員が首を傾げた。


「そうすれば学生書も楽々手に入るし無駄に試験を受けなくとも」「まって、先生の偽造って、本当になっちゃうんでしょ?」

「そうだね」

唐突の静止に照井は少し驚いた。

というのも、彼から見た星煌は怠惰で意思がないちょっと人格がおかしい一般人なので、ちゃんとしている様を久しぶりに見たのだ。



「つまり、ちゃんと行かないと勝手に留年したり退学になったりするんでしょう!?」

その考察は筋が通っている。

仮に『岸星煌は○○高校に通っている』と発言した場合、すべてを無視して登録することは可能だが、その代わりちゃんと通わないといけなくなってしまう。


「うーん、わかんない」

照井は笑って口にした。バキバキに割れたモノクルがないからか、いつもより明るく見えた。


※「前言撤回だ。先ほどの記述は間違っているかもしれない」とのメモが見つかった。


「わかんないんですか!?」

星煌はいつもよりも一段階大きな声を出す。

「うん。こういった……『明らかに矛盾してる』ものだと、どうなるのかあんまり分からないんだ。均衡になるようにできるはずだけど……」

照井は考える。善意で言ったが、星煌はあまりうれしくないようだ。

「だから、"どこの組に配属されるか"とか、"欠席扱いになるのか"とか……嘘をついた"先"の事は全くわかんないんだ」

「あくまでも、その場を乗りきるために使うのがいちばんだからね」

彼はその才能を、割と人道的に使っている。内容はどうであれ、世界を揺るがすような噓はついていない。


「でも、それがダメならいい方法がある」

照井が騒がしく席を立ち、演説をするかのように堂々と宣言した。やはりモノクルが無いせいか、三人の目には彼がいつもよりもガキっぽく見えた。

「こういう時、いちばん良い方法があるんだ。根本を書き換えるんじゃない」

「というと?」

心が期待するように声を投げかける。いつの間にか皿の上は空っぽになっていた。

「『認識を書き換えちゃえばいい』んだよ、ふふん」


「題して、()()()()だよ」

「おー」

諒はやはり興味がないのか、静かに席を立ってパンケーキをお代わりしに行った。


「じゃあ行くよ?こほん」

「『岸 星煌が時空間調査委員会の所属であるということは、()()()()()である』」


「おー」

格好付けたが、諒には届いていない。目の前のパンケーキに夢中だ。

対して星煌は拍手でそれを迎え、心は「ヒューヒュー」と悪ノリなのか本気でやっているのか判別がしずらい。


「所属してるってことは、お金が入ってこないとおかしいでしょ?」

照井はどや顔で口にして、ふふんと人差し指を立てた。

「先生あったまいい!!」

心は本気で感心しているようだ。諒は( 最初からそうしろよと )内心思った。


だが星煌は、その噓の"先"に少し疑問を覚えた。

「お金はどうやって入ってくるんですか?」

「銀行だと思うよ。僕もそうだし」

「私の銀行口座は?」

「ないね」



「……?あ、そっか。ないじゃん」

どうやら、星煌が一応異世界人であることを忘れていたようだ。最悪の設定である。

「だめだ、この先生」

「星煌どんまい」

諒はそんな星煌に同情して彼女の左肩をポンポン叩いた。心は衝撃で体が固まっている。

「だってほら、僕たち家族でしょ?許して〜星煌ちゃん」

「先生、家族ならもっと上手くやってください」

申し訳なさそうに後ろから抱きついてくる照井。星煌はそれを気にせず軽くあしらった。

「はぁい。ごめんなさい」

彼は先ほどと違い、静かに席に座った。


「まあでも、これから一目で星煌が委員会所属だとわかるようになったのはいいんじゃないですか?」

「たしかに!いままで脱法所属だったもんね!」

折角の諒からのフォローを台無しにする心。実にいつも通りだ。

「これで、星煌ちゃんが指導者さんに会ってもバレないはず!」

「会う機会無いでしょ……」


「じゃあ、会議に一緒に連れて行くよ」

会議。先日照井がねこの引き渡し先として発言した物。

「は?会議に?」

その発言に思わず諒からタメ語がこぼれる。先ほどから突飛な発言が止まらない。

「?私も行っていいんですか?」

「普通は委員長と顧問の二人だけど、人数不問って前に言われた気がするから大丈夫〜」

「うちも?」

「うん。全員だよ」

どうやら、会議に出席するのは心も初めてらしい。

「、……不安です。とても」

「えぇ、酷いな諒くん」

諒がジト目で照井の顔を見つめた。

( 言いたいことはわかる )と、星煌は心の中で同意した。


「てか、会議に出席してる間に穴が来たらどうするんです?」

諒は不安要素を上げ始める。

たしかに、全員いない間に穴が来てしまったら一発ゲームオーバーである。

「あそっか。じゃあ代わりに依頼しよ」

そう言って照井は携帯から電話を掛けた。


「はい、もしもし」

「あもしもし?明日さ、諸事情で東京に行くことになったから穴が出たらお願いしていい?」

「……構わないが。あ「ありがと!じゃね」」

そう言って彼はすぐに電話を切った。

「迷惑電話……」

声が聞こえずとも星煌達にはわかる。この対応の仕方……相手は絶対に凛々である。


「色々は、明日話すよ。昼からだから〜……とりあえず八時位に起きて!」

「言われなくても早起きはしますよ」

毎日六時起きの健康優良児は答える。彼の生活に、寝坊という現象は存在しなかった。

「さすが諒くんだね」

「てか、起きれないのは先生では?」

「……早起きはできるよ、たぶん、早く寝たりしたら……」

照井穹という人物は、どうしてこうも諒を不安にさせるのか。

諒はため息をついて、最後の一口を飲み込んだ。




そんな会話をした昼。

すっかり暗くなったので、星煌は自室に帰ってきた。


日記が書き終わったのか、寝巻に着替えて前に買ったベットへと飛び込む。いつもより早い時刻にスマホのアラームをセットした。

「星煌おねーちゃん」

「わ、紡。びっくりした」

視界端から幽霊が顔を出す。星煌はビックリしてスマホを落としそうになった。

「寝ないのかなーって。明日、朝早いんでしょ?」

「うん。寝るよ……今は中々眠れなかっただけ。ありがとね」

「ふふん。一番弟子だからね」

「……妹枠じゃなくて?」

「それでも、可」

「ははっ、二枠も使っちゃったのね」

「ふふん」

そんな会話に紡はかわいい反応を見せる。星煌は三つ下の妹を思い出した。

「褒めてないよ。じゃあ、おやすみ」


そうして目を瞑った。いつも通り紡が電気を消してくれて、いつもの体制で。




「せい…… …ま… … ぞ」

「だ……じ… … な……… …る」



(なんだろう。視界がぼやぼやする)

(ここは……車?後部座席だ)

(隣に諒が居てなんか喋ってるけど、なんも聞こえないな)



「じゃ…… … …か………… てね」



「え、 」




ジリリリリ!!!!



「いっ、つぁ……」


うるさいアラームの音。地面へ身体をぶつける音。足音を鳴らしながら廊下を勢いよく歩く音。

全てが同時に鳴り響き、音楽を奏でた。


「おい、星煌!アラームうるせぇからとめ、ろ……」

廊下を騒がしく歩いていた犯人は諒だった。いつも通りの時刻に起きれたと思ったら、隣からアラームが鳴りやまなかったのだ。不快な音は、誰だって早く消してほしいものだ。


「……なんでベットから転げ落ちてるんだ」

怒りに来たのに、その感情は困惑に変わってしまった。


「、なんでもないです、あらーむとめますすみません……」

星煌はひっくり返った体を元に戻す。寝起きなせいで、声量がアラームに負けている。


車が急に曲がったせいで体制を崩したなんて言っても、彼には理解できないだろう。


その騒ぎを聞きつけ、心と照井も目を覚ました。

このお陰で無事、全員寝坊することなく起きれたのである。結果よければすべてよし、というものだ。




記録:記入 星煌

「……」

「先生、どうしました?」

「いや……なんでもないよ。明日は出かけようか、蒼穹」


迷惑電話後の再生にて。

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