Log_0
ここは、いくつもの才能が蔓延る世界。
およそ三十年ほど前から、それは輝きを持って生まれた。
始まりの日。突如として、各地から報告が出たのだ。
『うちの子が空を飛んだ』『目から光が出て眩しい』『足だけが異様に長くなった』など。その種類は多種多様だ。
子供だけではない。その時生きていた大人も、突如として異様な才能がその目に宿った。
その報告を受けた政府は、すぐに調査を開始した。その才能を持つ人を調べ、検査し、徹底的に。
だが、その十年で得られた物は少なかった。今はまだ"調査中"とだけ言い放って、実際は何もしていなかったのである。
彼らが成し遂げたことは、その才能を『チャーム』と呼称することだけ。
それによる虐待も、差別も何も解決させないまま。
でも、ある一人の人物が突如として頂点へと立った。
今では『指導者』と呼ばれるその人物。
彼女は日本の体制を変えた。各地に『連盟』と『委員会』を作り、才能を持つ者が生きやすい世の中を作った。
彼女はこの世界を救った英雄だ。間違いない。
そうだ。間違いはないのだ。
たとえ"どんな手を使おう"と、彼女は世界を平和にする。そう誓った。
……
人は時代を超えて、最高の知識を得る。
例えば、その才能で勝者の頂きに立つとか。
そして、その過程で色んな物を失う。逆に得たりもするが、それが出来るのはごく一部の人間だ。
その知識とは何か。それは人によって違う。
今回はそれが、正義という曖昧なものだっただけ。
彼等は得たのだ。『正義とはなにか』
その光の外側を目指すには、何が必要だったのかを。
これはそんな到達地点に至るまでの、物語。
才能が溢れる摩訶不思議な世界にやってきた、とある『異世界人』の。
Log___より 一部抜粋
「それでも結局、私は何も変わらなかった」
「そうでしょ?」
硝子片は鏡に向かって静かに問いかける。
その思考がどのような塊で出来ているのか、鏡には分からなかった。
「……そうかもしれないな」
暗い空間で自問自答を繰り返す。
性格は真反対な二人。世界線とは面白いものだ。こんなに似ていない二人の名前が同じなんて、██に言ったら笑われるだろう。
鏡はそう思って、重い質問を軽く受け止めた。
鏡が分岐点で割れた先の、ただの一部分。もしもの世界。
全ての世界の一でしかない、たったちっぽけで小さな存在。
硝子片にはそれが全てであった。その思考が、名前が存在が……価値を証明できなくとも、それは彼女を象徴するものになった。
「でも、救世主。その代価こそが、お前にとっての特別だったんだ」
全ての鏡である少女は答えを残す。全ての世界を覗き見る彼女であっても、その答えを知りえない。
彼女もまた、それを追い求めているから。
硝子片ただの一部分でしかなく、"だからこそ"出来た選択。
それは他の誰にもない『特別』であることを、彼女は自覚していないようだ。
「わかってるだろ?自分でも」
鏡は呆れたように口にした。
それを自分でも分かっているくせに認めないのは、硝子片の悪い所だった。
よく言えば、諦めが悪いというとこか。
……"誤魔化しが上手い"の方が彼女の性格としては正しいか。
「……そうだね」
硝子片は小さく頷く。
その表情から読み取れるのは、彼女は納得はしていないということ。理解はしている。だが、意地でもそれを認めたくないのだ。
その自己嫌悪は、彼女が明かしてる内、数少ない"分かりやすい性格"の内一つであった。
……
かくして、最後のページの一つの会話が終了する。
これは、主人公が『特別』が特別を目指す、在り来りな物語の一冊である。
log___より
結局こうなった。
正義とは人によって違うもの。それに意義なんて、私は求めない。
ただ、そこにあるだけで、人は盲信してしまうのだから。
正義を過信して、見誤って、落ちて……戻れないところまで来てしまう。
だから、『本当の正義』なんて決めない方が良い。
私はそう思っていたから、暗闇に深く、奥底まで落ちていく手を取る。
その手は血だらけで救いようがなかったが、拭き取るくらいなら私にもできた。
「やっぱり私は、正しくも善でも優しくも……何でも無いよ」
正義なんて、知らない。
私は、私が正しいと思う『選択』をするだけ。
そう言って硝子片は、特別の象徴である輝く瞳を写し出した。
Log_2より抜粋
……
これは、私 岸 星煌が体験した、
今のところ、八割が非現実的で、二割が現実的な。
ただの日記。あるいは遺書である。
記録 記入:星煌
序章 テーマ
『普通』『才能』『穴』




