↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オール・ライト 〜冒険者たちときっかけの女神〜  作者: 加藤貴敏


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/21

「零れ落ちたもの」

とある公園。ベンチに佇む1人の老人男性。天気は良いが、老人の表情は曇っていた。昼下がり、老人以外には誰もいないそこに、2人の男女がやってきた。

「あんたが、カルマンさん?」

「・・・あぁ」

「こんにちは。依頼をしてくれてありがとうございます。私は、エクレアで、こっちがタケミチです」

仏頂面の青年と、優しい微笑みの女性に、静かに頷くカルマン。

「もし良ければ、近くのカフェに行きますか?」

「いや、ここでいい。簡単な依頼だ。・・・アノン、という子を捜してほしい。どんな暮らしをしてるか、教えてくれ。それだけだ」

「・・・アノンさん。分かりました」

「それさえ知れたら、もう思い残すことはない。報酬は、全財産だ」

「・・・そ、それって」

「死ぬ気か?」

責めるような嫌悪感をぶつけるような声色のタケミチに、カルマンはしおらしく俯いた。

「どうせもう長くない。さっさと動け」

漂う緊張感。エクレアはタケミチの顔色を伺い、心を閉ざしている老人の隣に座った。

「依頼はしっかりこなします。でも、あなたの事、もっと聞かせてください。それが依頼の為でもあります。アノンさんと、あなたの関係は?」

「・・・孫娘だ。3つの時に分かれ、それきり。生きていれば33だろう」


――32年前。

カルマンは50歳。娘のアルマは25歳。アルマの夫、オーレイは30歳。3人は、良いチームだった。アノンはまだ1歳。カルマンの妻、セイリンにアノンを見てもらいながら、3人はそれなりに楽しくやっていた。1つ心配事があるなら、オーレイの家は、冒険に大反対ということ。それでもカルマンとアルマは、熟練の冒険者。冒険者1年目のオーレイが居ても上手くやっていた。大きな危険を冒さず、堅実に冒険をして、それなりに裕福だった。

1年後、アノンが2歳の時。アルマとオーレイだけで冒険に出る日も増えてきた。カルマンはアルマを信頼していたので、特に問題はなかった。ある日、アルマがもっと良い武器が欲しいと言うので、いつも徒歩の2人に、カルマンは移動手段として自分の車を貸した。それから、2人は帰らぬ人となった。警察の捜査によると、2人の死因は車ごと崖から転落したことによる、事故死だった。

カルマンはひどく落ち込んだ。自分のせいだ。それしか頭になかった。それからオーレイの両親が、カルマンを訴えた。車の整備不良のせいで2人が死んだと、裁判を起こされた。事故死の証拠はしっかりとあって、単に運転を誤った結果だという警察の説得により、訴えは取り下げられたが、それからオーレイの両親はアノンを引き取っていった。



第20話「零れ落ちたもの」



「オーレイの家とは絶交されて、アノンがどうしてるかは分からない。それで先月、妻が、先立った。死に際に言ったんだ。後悔しないでほしいって。30年経っても、アノンを忘れたことはない。だからオレも死ぬ前に、せめてアノンがどんな暮らしをしているかを知りたい」

「死ぬなんて、ダメですよ。アノンさんと会いたくないんですか?例えば、転生とか」

「転生したところでどうなる。オレは、もう・・・セイリンとアルマのところに行きたい」

それから街を歩くタケミチとエクレア。オーレイの家の姓はバートナウ。つまりアノン・バートナウで人捜しをすればいいという事。2人で適当にカフェに入り、一休み。

「アノン・バートナウでSNSでヒットしたよ。8件。この人は違う・・・この人も・・・ねえこの人じゃない?33歳の女性」

DMを送って、早速待ち合わせ。

翌日、高級住宅街の近くのカフェで待っていると、2人の前に1人の女性がやってきた。カルマンの面影が少しだけ伺える、キレイな人だった。走ってきたのか、息が荒かった。

「あなた達がタケミチさんと、エクレアさん?」

「そうです。こんにちは。本当にアノンさん?」

「はい。私がアノンです」

それからアノンはエクレアの隣に座って、アイスコーヒーをがぶ飲み。

「私、ずーーっと捜してたの。カルマンおじいちゃんの事。でもミハエルおじいちゃんが、どうしても教えてくれなくて。お母さんとお父さんが冒険者だってことも全然教えてくれなくて。だから私、冒険者になったの。自分で、自分のルーツを捜す為に」

「そうなんですね。反対はされなかったんですか?」

「いやもう大反対よ。ミハエルおじいちゃんは、とにかく冒険は野蛮だって、冒険が大嫌いなの。でも医者の妻って忙しくて、子供も2人いて、中々冒険にも行けなくて」

「え、でもペンダント、Aランクなんですね。すごい」

「まぁ、がむしゃらにやってきただけよ。それであなた達からの連絡が来て、もう本当にびっくりして嬉しかった。実は、大事な婦人会の小休憩を抜け出してきてて、本当は今すぐ会いに行きたいんだけど、夜にまた、8時に会えないかな?」

「いいですけど、カルマンさんから電話番号と住所教えて貰ってるので、教えましょうか?」

「うん、ありがとう!でも、1人だと、ちょっとなんか緊張しちゃうから、付き添ってくれる?」

「勿論いいですよ」

去っていくアノンを窓越しに見ながら、エクレアはホッと溜め息。

「良かったね。これで解決。せっかくだしなんか食べよ?」

「あぁ」

いつも仏頂面のタケミチ。でもその表情の小さな引っかかりを、エクレアは見逃さない。

「どうしたの?」

「いや。やっぱりエクレア、喋るの上手いなって」

「え、今更?ほらね?チームで良かったでしょ?こういうコミュニケーション担当をもっと大事にしないとダメなのよ?」

それから夜8時。カルマンの自宅の近くの公園のワープポートから、タケミチとエクレア、そしてアノンは姿を現した。公園から5分くらい歩いたところの一軒家。タケミチはその家のインターホンを押した。

「・・・・・え。何で出ないんだ?居ないのか?」

もう一度インターホンを押すタケミチのそばで、カルマンに電話をかけるエクレア。すると家の中から電話の着信音が鳴った。

「電気点いてるのに」

顔を見合わせるタケミチとエクレア。ふとアノンは妙な胸騒ぎに駆られた。一気に”仕事モード”の顔になる。それからアノンは勝手に玄関のドアを開けた。

「カルマンおじいちゃん?」

靴は1足。玄関はキレイだった。それからリビングに入ったその時。

「おじいちゃん!!」

駆け出したアノン。カルマンは倒れていた。

「おじいちゃん、分かる?」

カルマンは応答せず、アノンは頸動脈に指を当てて脈を測った。それからアノンは手のひらに出した小さな光から、聴診器、心電図計測器、AEDを取り出した。

「ごめん、救急車お願い出来る?」

「はい!まさかアノンさんて」

「私、実は外科医なの」

「すご」

それから注射器、点滴セットを取り出し、テキパキと作業していく。やがて救急車が来て、カルマンは病院に運ばれた。病室でまだ意識の戻らないカルマンの手を握るアノン。その後ろで、ただ立ち尽くすタケミチとエクレア。そこに1人の男性医師がやってきた。

「アノン」

振り返ったアノンは今にも泣きそうだった。

「行きつけの病院からカルテを取り寄せた。心臓の持病で、その発作だ。薬と魔法で何とか命を繋いでいるが、目覚めるかどうかは分からない」

「・・・せっかく、会えたのに」

「本当にどうにも出来ないのか?」

「いや、レイキドラゴンの細胞から出来る心筋シートがあれば、心臓の保護と、増強が見込める。このタイプの患者には一番有効だ。しかしそれは高価なもので、今は素材も切らしてる」

「だったら取ってくる」

「えっと、君達は」

「便利屋をやってる。カルマンさんの依頼主だ。アノンさんを捜してほしいと頼まれた」

「そうか。良かったな」

男性の言葉に頷くアノン。

「あ、オレは、アノンの夫で、セインだ。アノンがずっと、母方の親族を捜してるのをそばで見てきた。オレからも礼を言う。それと頼む。レイキドラゴンの素材を、どうか取ってきてほしい」

病院を出たタケミチ達。エイジとロナウザーに共有と報告メールをしながら、それからタケミチとエクレアは病院近くのワープポートに飛び込んだ。レイキドラゴンの名前の由来は冷気ではない。深い深い樹海にあるレイキという樹木、それがレイキドラゴンそのものでもある。冒険者にとって、樹海ほど危険な場所はない。景色がどこも同じで、目印を無くしてしまえば確実に迷子になる。でも今回は運がいい。欲しいのはレイキドラゴンの樹皮細胞であって、命ではない。

サンゼン樹海。その近くのワープポートで、タケミチ達はエイジとロナウザーと合流した。必要なのは、エイジの空飛ぶサーフボード。サーフボードの後方に延長用の大きな幅広いボードを取り付ければ、4人乗っても安心。それで一気に樹海の上空をひとっ飛び。レイキドラゴンは、基本的には樹海と同化していて簡単には見分けられないので、タケミチ達は樹海に降り立ち、よく目を凝らした。

「おいおい、ロン、あそこ」

エイジが指を差した先には、別に今は求めていない中型の肉食マテリアルの姿があった。しかしあっちはお腹が空いている様子。問答無用でやって来て、そして問答無用でロナウザーに麻酔弾を撃たれた。マテリアルのドサッと倒れた音に反応してか、地面が蠢きだした。次は何だ、そうタケミチ達はキョロキョロする。

「下だ!」

突然に地面が隆起した。タケミチ達はすぐに木に掴まる。自分達が立ってる場所が、本当はドラゴンの背中だと気が付いたのはそれからだった。レイキドラゴンはまるでずぶ濡れの犬のように、大きく、豪快に全身を揺らし始めた。サーフボードに乗り移ってる暇はない。必死に掴まり、振り落とされないように我慢するしかなかった。

「マジかよ。焦った」

大量の土や、根を張り切れていない木々がドサドサと落ちていく。やがて残ったのは、レイキドラゴンと同化している、数本のレイキだけだった。

「これか、レイキ」

レイキは、本当に地面に生えているものと、レイキドラゴンの背中から生えているものの2種類がある。今回の目的は、レイキドラゴン。レイキドラゴンの細胞と同化した、特殊なレイキの樹皮。タケミチ達は麻酔でレイキドラゴンを眠らせ、それから樹皮をペリペリと剥がしていく。

唯一の親族であるアノンの許可の下、手術をして、それからカルマンが目を覚ましたのは翌日の事だった。

「おじいちゃん・・・分かる?」

ゆっくりと、カルマンはぼやけた視界に1人の人影を見つける。ここがどこかも分からない。でも目の前にいる女性は、アルマにそっくりだった。

「・・・・・ア、ルマ、なのか?」

「・・・・・私、アノンだよ」

女性は涙ながらに応えた。カルマンは呼吸の度に、意識と記憶を取り戻していく。

「アノン・・・・・本当、に・・・アノンなのか」

涙を拭きながら頷くアノン。カルマンはゆっくりと手を伸ばした。まだ3歳だったアノンの頬に触れながら、カルマンは確かにぬくもりを感じていた。

「ごめんな・・・全部、オレのせいだ」

「そんな・・・そんなことないって」

カルマンは噛みしめていた。やっと、謝ることが出来た。ずっと後悔してた。これでやっと2人の下へ。

「母さんと父さんを守ってやれなかった。ずっと、後悔してた。ずっと謝りたかった」

「うん・・・」

「ごめんな」

「もういいよ。私、ずっとおじいちゃんを捜してたの。ずっと会いたかった」

「これでもう、思い残すことはない」

「え・・・」

「オレは、もう長くない。だからせめて死ぬ前に、お前の事が知りたいと思って、便利屋に、お前を捜してほしいって」

「うん。それで、タケミチさん達が、私に連絡くれたんだ」

「そうか。これでもう、オレもアルマ達のところに」

「えっと・・・・・私ね、医者なの」

「・・・そうか。まぁオーレイの家系はそうだからな、すごいじゃないか」

「うん。それで、おじいちゃんのカルテ見て、手術した。やったのは私じゃなくて、夫よ。夫のセインも医者で。ドラゴンの細胞から作ったシートで、おじいちゃんの心臓を保護する手術。他に目立った病気もないし、だからその、しばらくずっと、元気よ?」

「・・・・・え」

「私ね、いつかおじいちゃんに会った時の為にって思って、必死に勉強して医者になったの。それに見て。私、冒険にも行くの」

「そ、そうか・・・すごいな。はは・・・ははは、お母さんそっくりだ。でも、もうおばあちゃんも先立った。オレは1人だ。生き長らえたって」

「1人な訳ないじゃない!これから私と、夫と子供達と一緒に暮らすの!」

天井を見上げるカルマン。言葉では言い表しようのない感情が溢れてきた。それは涙となってカルマンの視界を遮っていった。

タケミチのスマホが鳴った。それはカルマンが目を覚ましたという、セインからの連絡だった。アノンもお礼を言いたいからと病院に呼ばれた。タケミチとエクレアが病院に到着すると、アノンはまた走って出迎えた。そしてエクレアを抱きしめた。

「本当にありがとう!本当にもう、いくら感謝してもしきれないわ」

病室で、カルマンは大人しくベッドの上で体を起こしていた。入ってきたタケミチ達を見れば、しおらしく戸惑った。

「元気になって良かったです」

「依頼だけじゃなく命まで救ってもらうとはな。本当に、ありがとう」

「私達にとっては、人助けは当然の事ですから。私達、元々は騎士だったので。助けられなかった人も沢山居ますけど、今回は間に合ってよかった」

「そうか・・・いや、騎士は心だ。お前達は、立派な騎士だ」

カルマンが退院した時にする予定のパーティーに、タケミチ達も呼ばれた。そんな約束をして、タケミチ達は病院を後にした。手を繋いで歩くタケミチとエクレア。アノンはぬくもりと愛に満ちた強い人だった。

「良かったね、カルマンさん達」

「あぁ」

タケミチの横顔に伺える小さな引っかかりを、エクレアは見逃さない。その表情はどこか満足げだった。

「何考えてるの?」

「いや、やっぱり俺って、騎士なんだなって。ただの便利屋として依頼を受けてきた。でも、カルマンさんに言われて、俺は、まだ騎士なのかなって」

「当たり前でしょ?私にとっても、タケミチはずっと騎士だよ。この仕事、好きなんでしょ?」

「好き・・・っていうか、この仕事以外、考えられない」

「そうだ、ねえ、Sランク試験受けてみたら?」

「え、何で」

「何でって、団長だって言ってたでしょ。鍛錬を怠るなって。私ももっと頑張りたい。実は、ちょっと考えてるんだよね。エンチャンター検定。なんかアノンさんって、やりたいこと全部やってて、すごいって思っちゃった」

偶然見かけたフードトラック。2人はジェラートを買った。近くのベンチに座り、一休み。

「騎士の心は鍛錬から。団長、元気かな?」

ふとタケミチは、騎士時代のとある記憶を掘り返した。助けたい人を助けられなかった。悔しさに打ちひしがれていた時、団長は言った。

「騎士も、医者も、命を救えない時もある。でも零れ落ちたものを数えるほど強くなれる。そうやっていつか、零れ落ちそうなものを繋ぎ止められるようになる。そうなったら、お前は立派な騎士だ」

読んで頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。