「食べて歌って戦って」
今日のライブは小さなホール会場。アイドルは大変だと思う事ばかりだけど、楽しい。続けたいと思う。小さなホールなら、席を埋められるくらいの認知度はあるし、たまに大型のフェスにも出れる。まだまだこれからだって思える分、充実してる。
「みんなお疲れ様です」
「お疲れ様です!」
「今日もすごく良かったよ。めっちゃ盛り上がってた」
アイラブのチーフマネージャーは普段は厳しいけど、ライブだけは褒めてくれる。今日は私的にも満足なパフォーマンスが出来たなぁ。
「反省会の前に、じゃあ先に嬉しいニュースから。結成3年目で、アイラブ、なんと、来月の超アイドルサミットに出ます」
「ええっ!」
「おお・・・すごい」
「といっても、本編じゃなくてオープニングアクトね。でもここで頑張れば、沢山の人に見つかると思うから、気合い入れていこう」
「はい!」
まさかスタジアムでパフォーマンスが出来るなんて、正直びっくりで、不安。いや、これは本当にすごいこと。超アイドルサミットは、3日間に渡って100組超のアイドルが出演する、アイドルの登竜門みたいなステージ。
「それと、クーナちゃん。クーナちゃんの事務所のマネさんから、報告を預かってます。前にドラマのオーディション受けたんだってね」
「え!はい、え・・・」
「・・・・・合格だそうです。良かったですね」
「はい!」
「え、何受けたの?主役?」
「『科捜研の養女』っていうドラマ」
「えーー!今度、シーズン18の?」
「3話のカフェの店員役」
「へー。おおう、まぁ良かったじゃん」
休みの日。レナは冒険に出ていた。メンバーはペロ、植物学系女子大生キョウカ、そして守り人のジュウゴ。
「実は、この魔法、使うの初めてなんだよね」
「ファンから貰ったっていう?」
「うん」
レナはイメージした。意識の手順、具現化の手順、明確な完成イメージ。それらがビシッと決まると、魔法となって現実に現れる。とは言え、それは目に見えるものとは限らない。でもレナはすぐに自分の体の違和感に気が付いた。
「あれ、なんか、すごく、体が軽い」
軽くジャンプしただけで3メートル跳び、普通じゃ持てるはずのない大きな石を片手でスッと持ち上げた。そんな様子にジュウゴはなるほどと頷く。
「それあれだ。エンチャント系の魔法なんだな。身体能力向上の魔法で、めちゃくちゃ戦いに便利、というか、強い奴はみんな使ってる」
「へーそうなんだ」
第21話「食べて歌って戦って」
今回狩猟したのはレベル5相当のマテリアル。それから静かな森の中でバーベキュー。
「これなんか、耐火性はめっちゃいい。これに防刃インナーを合わせれば、レベル5なんて余裕だ。でも動きやすさを考えたいなら、インナーは筋肉サポート系がいい。相手によって変えるんだ」
「なるほどね」
初めてきた森。キョウカはふと立ち上がった。
「ああ!」
「ん?どした?」
「何これ見たことない」
キョウカが見つけたのは、なんだか黄色と紫のグラデーションが可愛らしい、クラゲのような植物だった。スマホでパシャリ。角度を変えてまたパシャリ。それから熱心にメモに書き込む。その隣に座り込むペロ。手を伸ばすと、キョウカはそれを制止した。
「だめ。初めて見るものは簡単に触っちゃだめ」
「ああそうね」
「観察と分析。それが生死を分けるの」
「た、確かに見るからに毒っぽいしね」
キョウカとペロのやり取りを眺めながら、レナはなるほどと思った。
また後日、レナは初めて防具屋に入ってみた。洋服だけじゃない。防災グッズや、救難用、治療用のアイテムが揃っていた。なんとなく店内を見渡し、それから手に取ったのはフリーペーパー。表紙はマーメイドクイーン、リバナ。息を飲むほど美しい女性。私もいつかこんな風に。
「あれ?」
レナが振り返れば、そこに居たのはカグラだった。
「冒険、捗ってる?」
「んー、どうだろう。本格的に勉強したくて、でも、どうしようって」
「うん、そうか。もし時間あるなら、一緒にどう?」
集合場所に戻ってきたレナとカグラ。集合場所にはスポンサーの雑誌が置いてあって、レナは何となく開いていく。
「冒険で大事なことは、自分で選ぶってことだ。何がしたいか、何が欲しいか。でも安全な場所では意味がない。過酷な自然と対話してこそ、それが分かる。楽しい冒険だけじゃなくて、厳しくても意味のある冒険も必要だ」
しんみりと頷きながら、レナはとあるページに目を留めた。それは”パートナーマテリアル”という存在に関しての特集だった。人間とコンビを組んで冒険するマテリアル。助け合いながらも心強い仲間。レナはなんだか強く興味を惹かれた。
「これ、なんか面白そう」
「ん?」
「パートナーマテリアル。こういうのが居たら冒険も楽しいと思う。でも、ワイバーンとか、さすがに一緒に暮らせないし。実際問題、ハードルは高いなぁ」
しかしレナの隣で、カグラは目を見開いていた。ちょっと怖い眼差しで、レナは引いてしまう。
「こ、これだ!これだよ!オレが求めてたもの」
雑誌を手に取るカグラ。それから指を差してみせた。
「小型の龍、アセン。人を乗せて空も飛べる。ワイバーンほど大きくないし、しかも教えれば魔法も覚えてくれるって。オレ、決めた!こいつをパートナーにする」
「そんな簡単にパートナーに出来るの?」
「んー、どうだろう。龍は基本的にハイネティスにしかいないし」
「でしたら、ハイネティスに行ったらいいと思います。ハイネティスには、いくつものパートナーマテリアル養成所がありますから」
オリヴィアがそう言えば、カグラは驚くように笑みを浮かべる。
「さすがハイネティス。すぐ行こう!」
「どこの養成所がいいんだろう」
「ウツセミさんに聞いてみるか」
オリヴィアに頼んで、連絡を繋いでもらった。
「はい」
電話が通じて、スピーカーモードでウツセミの返事が聞こえてくる。スマホを囲っているオリヴィア、つむぎ、レナ、カグラ。カグラは固唾を飲んだ。
「突然の連絡すみません、カグラです」
「はい、どうかされました?」
「実は、折り入ってお願いが」
ハイネティスの田舎街、トクン。小さな空港のような、けど立派な建物を出て、カグラは思い切り深呼吸した。観光客が必ず買うと言われる、美味しいジュースを片手に。
「いやぁー楽しみだ。何気に初ハイネティスだ」
「なんか雰囲気は全然、あっちと変わんないね。そういえば、つむぎってどこで暮らしてたの?」
「わたしが暮らしてたのは、ミフォーレっていう港町。ここわたしも初めてだな」
「皆さま、お待ちしてました」
「ウツセミさん、急なお願いに対応してもらってありがとうございます」
「いえいえ、では行きましょうか」
のんびりと街を歩く。その道すがら、レナは犬や猫と、お喋りしながら散歩している人を見かける。ハイネティス特有種の犬や猫は、普通に喋る。おまけに龍も。のどかでファンタジックな、なんて良い国だ。やがて一行が辿り着いたのは牧場だった。でも優雅に過ごしているのは牛でも豚でもなく、小型の龍アセン。
「ここは、王宮もひいきにしてる、パートナーマテリアル養成所です」
カランコロンとドアベルが鳴れば、親しげにおじいさんがウツセミに手を挙げた。
「お久しぶりです」
「おお!女神やねーかー」
軽快にやって来るおじいさんに、カグラとレナは少し緊張が薄れる。
「こちらが施設長のアツガネさんです。この方々は、つむぎ様のチームの冒険者の方々です」
「おう」
「はじめまして」
まるで幼稚園で元気いっぱいに走り回る子供のように、アセンたちがはしゃいだり、アスレチックを登ったり。1歳だと小型犬くらいで、とにかく可愛かった。
「どれもちーこくてかーりんやろ」
「そうですね。出来れば、即戦力が欲しいんですけど」
「だいたい冒険に行けるようになるんは10歳からや。でも即戦力となると、そうやなー」
牧場を進むにつれて、少しずつ大きなアセンを見かけるようになってくる。人間でいう成人は10歳で、その頃になれば大人を乗せて空も飛べる。大きさは鹿やダチョウと同じくらいになる。10歳の群れを前にすると、さすがにレナもカグラも緊張してきた。
「メロハ」
アツガネが声をかけると、10歳のアセンたちを世話していた竜人の女性が顔を向けてきた。
「お客さんだ、即戦力が欲しいんやと」
客の人間に興味深々のアセンたち、一気に囲まれて、レナもカグラも固まった。それはオリヴィアに抱っこされてるつむぎもだった。
「どっちが欲しいん?」
「はい、オレです」
「ふーん。ランクは?」
「今はBです。今度、Aランク試験を控えてて」
「なるほど。そっちの人はいいん?」
パッと見てくるアセンたち。レナはふと、冒険してきた景色を思い出した。
「もうちょっと、考えてもいいですか」
「別に、好きなだけ考えたらいいよ。じゃあそっちの人、好きなアセン選び?人間と同じ、雰囲気や性格のフィーリングが合うほど、良いコンビになれる。何となくの直感で選んだ方が、案外いいパートナーが見つかるかもね」
「フィーリング・・・」
今この場にいるアセンは20頭ほど。でもすでにカグラに興味のないアセンは離れて歩き回っている。きっとフィーリングとは、お互いのフィーリングなんだ。そうカグラは自分の顔を伺う数頭のアセンを見渡す。パッと目が合った途端、離れていく数頭のアセン。それから最後に残ったのは、目を合わせた時に首を傾げたアセンだった。恐る恐る手を伸ばすカグラ。するとアセンの方もゆっくりと近づいてきて、カグラの手に頬を摺り寄せた。鱗がすべすべだった。
「・・・・・うん、こいつに決めた」
小さく頷くメロハ。特に笑顔は浮かべず、その眼差しは冷たかった。
「で、請求は?」
「ウツセミのとこやぞ。請求は王宮や」
「そっ」
それからアセンとの暮らしについてのレクチャーを受けているカグラを遠く見つめるレナ。ここに来たはいいものの、決断が出来なかった。そんな様子を、つむぎは見つめる。
「アセンじゃないパートナーも探してみる?」
「んー・・・なんか私、本当はどうしたいんだろうって。パートナーマテリアルは、きっと居てくれたら頼もしい。でもそれが本当に理想なのかどうか、なんか分からなくて。仕事もあるし。両立を考えると、もしかしたらもっといい形があるんじゃないかって」
「そっか。それでもいいと思うよ」
「沢山悩んでください。その先に、きっとレナさんに合った形が見つかりますよ」
「うん・・・決めた。もうちょっと考える」
レナが見上げた空は、良い天気だった。
それからディッセンディアに戻りながら、レナはカグラと冒険へ。カグラのパートナーのアセンは、モルトと名付けられた。岩肌がむき出しの山岳地帯にやってきて、カグラはモルトに乗り、レナはエンチャント魔法で身体能力を強化。ゴツゴツしたフィールドでも、2人はすいすいと移動していく。今回の目的は、”良い景色”。その山岳地帯には、穴場のスポットがある。誰でも行けるような、簡単な道ではない。安全でもない。
案の定、登山中に2人は凶暴なマテリアルに出くわした。レベル6相当の、熊のような原型をした、3メートルのマテリアル。その名はヴァウクゥーダ。カグラにとってはそれほど強敵ではなかったし、モルトが居れば尚更だった。レナはサポートに回り、翻弄、攪乱、死角からの強襲を担った。
「いや、すごいよレナ。サポートの立ち回りとか上手いね」
「これくらいは、何度かやってきたから」
息を整えるレナ。マテリアルの遺体を前に、ようやく茫然とした。本当に自分がこんな大きくて、強いマテリアルを狩れたなんて。
「今日の晩御飯は、良い肉が食えるよ。ありがとうな、モルト」
「ウェー」
体中の力が抜けていたレナはふっと失笑した。アセンって鳴き声可愛い。
それから穴場のスポットに到着した。テントを広げてゆったり出来るような場所ではないが、とにかく良い景色だった。
「良かったの?パートナーを見つけないで」
「・・・うん。何となく、思ったんだよね。今の私に必要なのは、なんか、頼もしい仲間っていうより、自分の弱さに向き合うことなんじゃないかって」
「そうか。素晴らしいと思う」
眼前に広がる広大な自然。木々は絨毯のように広がって、たまに見える岩山がなんだか面白い。そういうのを目の当たりにすると、いつも自分がちっぽけに思える。実際、ちっぽけだ。この広大な自然からすれば、3年目のアイドルなんて、未熟でしかない。答えなんて簡単に見つからない。けど、それがいいんだって思えてくる。
後日、レナはステージに立って、歌って踊っていた。ショッピングモールの小さなステージ。すべての人が足を止めてくれる訳じゃない。それでも笑顔でファンサをする。午前のミニライブを終え、ショッピングモールの控室で、アイラブの5人は昼食を取っていた。
「ねえ見た?これ、すごくない?」
ルクラが、クーナにスマホを見せる。
「レナのブログ、100万いいね超えてんの。めっちゃバズってる。すごくない?」
「レナ、すごいね」
「ありがとう」
「しかも、レベル6を狩ってるし。めっちゃ強いじゃん」
マリアがそういうと、レナは微妙な笑みを見せる。
「いや全然。冒険者の中じゃ、んー、中の下かな。それに今度私、Cランク昇格試験受けようと思う」
「え、今ってEでしょ?」
「Cまではね、現状のランクは関係なく、誰でも試験受けられるの」
「へー」
そんなところで、チーフマネージャーがやって来る。
「レナ、取材のオファー来たよ。来週、つむぎストライカーズの取材。カグラさんと一緒に」
「分かりました」
「あと、新しく発売される冒険グッズのポスターのモデル。あのブログ、結構話題になってるみたいね。この調子で冒険も頑張って」
「はい」
「いーなー。私も入ろうかな、つむぎストライカーズ」
「アンミ、冒険したことあるの?」
「ないけど。猫が好きなだけ」
笑い合うレナ達。
「それに、レナは文才もあるんじゃないかな?ここのところ。この広大な自然からすれば、3年目のアイドルなんて、未熟でしかない。答えなんて簡単に見つからない。けど、それがいいんだって思えてくる。私、なんか、すごくグッと来たんだよね」
「ほんと?恥ずかしい。でもありがとう」
「ねえ今度さ、みんなでつむぎに会いに行ってもいい?」
「えー行きたい!」
「うん、全然いいよ」
午後は、ミニライブの後にファンとのふれあいイベントがある。握手会と、2ショット写真撮影会。レナに並ぶファンは、冒険が好きな人が多い。自分も魔法使いですとか、この前あそこに行きましたとか、あのマテリアル美味しいですよとか、そういう会話が弾む。ちなみにマリアは5人の中で一番のモデル体型。だから美容の話をファンとよくしてる。無事にイベントが終わって帰り支度。レナは、心の中の小さな納得を感じていた。アイドルであり冒険者。未熟であり、でも時には充足感がなんだか嬉しい。
「お疲れ様でした~」
「今日も楽しかったね。ねえ、ラーメン食べいかない?」
「行くいくー」
読んで頂きありがとうございました。




