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転生ですか?…すみません ウチそういうの結構です   作者: ODN(オーディン)
第二章

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81.「なんでもするって言いましたよね?」

右手を掴まれ、背に手をまわされ、さらには片足まで絡め盗られつつある状況。

力ずくで逃げる、というのは不可能。木刀の軽い一振りで肌を切るほどの風圧を生む腕力と人間が5日かけて通った荒野を半日足らずで駆け抜ける脚力を持つエルフ。人間では全く相手にならない。

「仕方がない…」

魔術による悪あがきも意味はなし。であれば他の力で窮地を脱するしかない。

腕力も魔術も関係ない。変幻自在に地を跳ね、天へと這う体。相手に掴まれない体になってしまえばいい…。

「地の神様、お許しを!」

魔術の祈りとは関係のない許しを乞う言葉。

緊急事態につき地の大神への断りを一言いれて、鱗はアダルティーから逃れる体に変身する。

「あっ…スライム…」

意表を突いた隙にアダルティーの体をバネにして後方に大きく跳躍する。

「かえる」力の一端である【変身】の能力。イブキが仲間に加わってからは長らく使ってはいなかったが今回は円滑にスライムに変身することができた。自らのマナを世界に浸す魔力感知の修行の賜物か。自身のマナのみ(、、)を知覚することに慣れていたおかげで自身の器を容易に変えることができた。

(ナイスだ。私…!)

ガルーラでも修行を怠らなかった自分を褒めつつ、着水後に変身を解くと鱗は彼女の顔に向かって思いっきり湯をぶっかける。

「少しは目が覚めましたか…?」

避けられるとも思ったが呆けていたアダルティーはそのまま顔面に湯を受けて沈黙。それから自身の下腹部に目を下ろした後、警戒の視線を向ける鱗を見つめて…小さく溜め息をつく。

「残念(、、)…」

酔い(、、)が完全に覚めたわけでもなく、一旦落ち着きを取り戻すとアダルティーは再び湯に浸かって空を仰ぐ。寂しげに天を見上げる彼女の顔。それがあまりにも可憐で、儚げで…なんだか悪いことをしたような気分になってくる。

「さっきの七色のものがエルフの剣なのですか」

「七色…貴方にはそう視えるのね。」

もう視えないことを確認して尋ねるとアダルティーは普段と変わらない声色で答える。視線は交わさず天を仰いだまま、である。


「…私たちの「剣」はね。元は天地の母と繋がるためのものだったの。一人でも寂しくないように、って。だけど繋がりがあるぶん私たちは寂しさ(、、、)に弱い生き物になってしまった。退屈(たいくつ)を覚えると大人になってしまう私たちからすれば…これは危ういことなのに、ね。」

寂しいからまぐわう(、、、、)。心が寒いから温もりを求める…人間以上の存在であるエルフの弱さ。

生きとし生けるものは独り(、、)では生きていけない。種族も年齢も異なる彼女が見せた弱さから鱗は、その事実を再確認する。

「エルフは…その、人間と…?」

「ええ。できるわよ(、、、、、)。」

「じゃあ…アダルティーさんにも子どもが…?」

「いたわ。他にもいるかもしれないけれど…やっぱり一度でも顔を見ると辛さが勝るから。だから私は人間すべてを我が子として愛するって決めたの。」

会えるはずの我が子ではなく顔も知らない人間(わがこ)を愛する…。

人族の母たるエルフ族としての愛情ではなく、一時の肉親を経て行き着いた彼女の愛の形。

矛盾とも思われる彼女の愛情だけれど、きっと愛情そのものに間違いはない。

間違いがあるとすれば、その愛し方や距離感に誤(あやま)りが生じるだけだ。

「…寂しいのならば、そう言ってくれたら良いじゃないですか。」

自らが開けた距離を縮める。一歩踏み出す度に怖さが膨らんで「信じたい」という一鍼(いっしん)で膨らむ怖さを打って萎(ちぢ)ませる。弱さを見せてくれた彼女のことを今度は誤解(、、)しないように…。

「人との距離の詰め方が下手くそなんですよ。」

隣に座って、彼女の肩に頭を預ける。こんな事を言っておきながら自分だって、どう彼女と近づけば良いのか分からない。

前世ではうわべだけの関係しか作ってこなかったから。…だから本物(、、)の作り方なんて知るわけもない。

「全てを打ち明けてくれたあの夜から私はアダルティーさんと…友人になれたと思ってましたよ。」

…彼女は本当に「剣」のことを打ち明けたかっただけなのだろう。エルフにとっての剣とは繋がる(、、、)もの。今回は彼女の誤った距離感と様々な状況が重なっただけ…鱗が過剰になっただけだ。

「アダルティーさん…自分が思うよりも不器用なんですから」

「ええ…そうだったわね」

血を分けた…もとい愛(マナ)を分けた家族を愛するよりも全ての人間を我が子のように愛することを選んだ彼女。

「辛い」といって選んだ道が最も辛いことを彼女は知っているのか。

親としての愛情か。種族としての愛情か。愛情の優劣が生まれることを嫌った彼女は全てを愛することを決めた。

それは彼女が生来の人間好きだったから。親となるよりも先に人間という種を愛してしまったからに他ならない…。


          ・


「おかえりなさい。マスター」

「ただいま、イブキ。…身体はもう大丈夫?」

アダルティーを置いて先に浴場から戻るとマナの補給を終えたイブキが戻ってきていた。

浮かぶ彼女の足元に視線を落とし、それから顔色を窺って彼女の復調を確認する。

ガルーラの旅では一度は身体が消えかけるまでイブキに無理をさせた。それに続いて鱗の無謀な熱帯横断にまで付き合わせて…彼女には本当に負担をかけてしまった。

「イブキ、ありがとうね。ガルーラで頑張(がんば)ってくれて…」

「え・・・」

頭(あたま)を下げて御礼を伝えると戸惑うイブキの声。…流石に言葉が足りないだろ、と内心叱咤しながら鱗はガルーラの旅におけるイブキの功績を事細かに褒め称えていく。

 まずはガルーラ通過に要する日数調査。

これによって必要な食糧数が判明したのが大きかった。少なすぎるのは勿論のこと多すぎても食糧をダメにしてしまう。最適な食糧の数が分かったからこそ最速の準備でガルーラに臨み、そしてアサミの救助に間に合うことができた。

 次にガルーラでの空中探査だ。

これはアダルティーの助力を得たものであるが、これによって一日の進行速度の見積もりができたのが大いに助かった。

というのも鱗とアダルティーでは基礎体力が違うため、ガルーラを通ったことのあるアダルティーでも鱗たちを連れた状態では進行速度が分からない。速すぎても遅すぎてもいけない上に地形によっては等速で進めない場合も出てくる。おまけに昼は灼熱と化すガルーラだから途中進路を変えてでも岩陰の多い場所へと移動しなくてはならない。

一日でどこまで進み、その時間帯にどう進路をとるのか。計画的にガルーラを進めたのはイブキの活躍があってこそ。けれど彼女に無理をさせすぎてしまった結果、身体が消えかけるという危機的状況に陥ってしまった。

「———あの時は本当にごめん。」

「いえ。私も‥‥あそこまで天のマナが少ない地域だとは思いもしませんでしたから」

鱗も天の魔術を使ったからこそ分かる。

あの時、アダルティーに追いつくために使用した大空(スーリー)の浮遊魔術は十分な効果を発揮できなかった。

その理由は魔術の行使に必要な天のマナが少なかったため。

地を見捨て、天が避けるガルーラにおいて地の大神のマナを介する地の魔術はおろか天の魔術さえも大幅な制限を受ける。つまり生きた「風」であるイブキにも制限がかけられるというわけで…呼吸によって天のマナを補給するイブキはその影響を直に受けてしまった。

「気づいてあげられなかったこともそうだけど。私が本当に謝りたいのはイブキに気を遣わせてしまったこと。」

アキだって初めて出会った頃から緊急時にはマナ供給を求めてきた。そうしないと自分が消えてしまうと理解しているから。

だけど、イブキは違う。身体が薄れ、倒れてしまうまで彼女は不調を隠し続けた。鱗のマナに余裕がないことを彼女は視(み)て知っていたから…。

「あのガルーラの旅で私も余裕が無かったんだと思う。「イブキなら大丈夫だろう」って、勝手に思い込んで楽をしていた…」

イブキに謝りながらアダルティーのことを考える。彼女の負担も…もしかすれば鱗の想像以上のものではなかったのか。過剰になったばかりに彼女を振り払ってしまったことに鱗は罪悪感を連ねる。

「だから本当に辛いとき、助けてほしいときには言葉に出してほしい。頼りないかもしれないけれど、それが自由な「風(あなた)」にイブキという…か、形を与えた私の責任だから」

「枷」と言いかけて「形」と直す。

偶然生まれたアキの時とは違う。イブキは私の意志で人の器に閉じ込めたもの。「マスター」と尊敬してくれる純粋な彼女の気持ちを利用して旅に引き込んでしまったから。若槻鱗は可能な限り彼女の願いを聞き、叶える義務がある。

「もしも私に叶えられる事があるならなんでも(、、、、)するから言ってね。力にはなるから…」

「でしたら…その、マスター」

いつも少し宙に浮いていた彼女が地面に降り立つと鱗の間近に歩み寄る。鱗の頭一つ分大きな彼女が僅かに身をかがめ、そして流れるように抱きつくと、

「少し。本当に少しだけで構いませんので…「ふぅ~」してもらえないでしょうか?」

欲しがるような物言いで淑女はそっと耳元で囁いた。


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