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転生ですか?…すみません ウチそういうの結構です   作者: ODN(オーディン)
第二章

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74.「懐かしむのは未練からですか?」


「なんだろう…?」アダルティーを一人残して大岩から何とか地上へと下り、ソジェール家に戻ろうとすると鱗は深く掘られた地面を発見する。深さにして4ロットほどの塹壕(ざんごう)のように削り開かれた穴はアダルティーが掘ったものか。「掘った」というには規模がやや大きい気もするが、ともかく足を取られないよう慎重に穴の周囲の地面を蹴り崩して窪みを作り、穴へと入る。

「これがアサミちゃんの言っていた…木の根?」

割と早く発見できたのはソレを食べる人間が少なかったためか。ともかく鱗の目の前にあった植物は形に少しの差異あれど前世で見た食べ物と類似していた。太さにして鱗の親指ほど。地面の色を吸ったような焦げ茶色。葉や茎はなく根単体が地中に向かって一直線に伸びている。根には僅かにしなり(、、、)があるが雑に取ろうとすると簡単に折れてしまう。折れた根先をみると薄黄色の断面…芯には薄い黒輪が浮かび、ほのかに甘い匂いが香る。

「…本当に牛蒡(ごぼう)みたい…懐かしい」

慎重に根の周りの土を落としながら採取して観察すると濃い土の香りが鱗の鼻をつく。郷愁を抱かせる匂い。昔遊んだ砂場や園庭の土の匂いを思い出して、前世に食べた牛蒡の味噌汁を思い出す。きんぴらだの天ぷらだの…色々な料理があるはずなのに不思議と鱗は一番牛蒡の匂いを感じる料理を思い浮かべて、気づけば涙が一筋零れていた。

「いやいやいやいや…!」

たった一つの匂いから思いもよらぬ反応。感傷的な自分を振り払うように大声をあげて涙を振るい落とし、もう2本ほど木の根を採取してソジェール家へと戻ることにした。

「…ここの匂いのせいかな」

このガルーラに入ってから漂う匂い。生き物の死臭を溶かして慰めた潮のような香りが懐かしさを揺さぶるのか。気を抜くと無意識のうちに頭の中で過去(、、)が再生されそうになる…。

「それにしても…これ、どう食べるんだろう。」採った木の根を見つめる。アサミは確か木の根を「湯掻いて食べる」と言っていたが、どうやってコレを洗うのだろうか。このガルーラの土は水を弾いてしまうというのに…。


「マ~ちゃん!!マ~ちゃん!!!」


そんなことを考えているうちにソジェール家が見えてくると、その手前で大声を上げる幼女アキが鱗の元へ走り寄ってくる。まるで水たまりを避けるような怯えた走り方と焦るアキの表情から只事ではないと感じ取り、急いで駆け寄る。

…アサミの祖母の容態が急変したのだろうか。ずっと寝たきりだった上に約束の人であるアダルティーの来訪…心身ともに疲労していた彼女にとって負担が大きかったのかもしれない…。

「イブキが!イブキがきえちゃうよ(、、、、、、)!!」

ところが抱き止めたアキの口から出てきたのは全く予想外の言葉であった。

「イブキが‥‥消える?」

言葉の真意も分からぬまま鱗はアキを抱き上げて大急ぎでソジェール家へと駆け出す。

イブキが「消える」とは、一体どういうことか。アキのように小さくなって、元の風へと吹かれてしまうのか‥。

天地のマナを燃やして生きる「火」の化身アキ。けれど「風」であるイブキは違う。

魔術行使に際する天のマナの借り受けか呼吸によってマナを補給することができると彼女は言っていた。現に「風」からイブキを生んで以降、鱗は一度たりとも彼女にマナ供給をしたことはない。

「…ムリさせてたんだ」

扉のない戸口から白く長い足が覗いて見えた。アダルティーと同じく自らのマナによって衣服を編んでいたイブキ。長身の彼女に似合う美しき白のドレスは所々消えて…そして透(す)けた素足が露わになっていた。

「イブキ?イブキ聞こえる?」

倒れた彼女に触れる。透けた彼女の体は肉体の感触が曖昧で冷たく、軽い。そして彼女からの返答はない。

「ワカツキ様…?…ど、どうされたのですか。イブキ様は…」

そこで目を覚ましたアサミが目を擦りながら鱗を見つめ、その傍らで透けているイブキを見ると驚きの声を上げる。

「起こしてごめんね、アサミちゃん。大丈夫、だから」

アサミの祖母まで起こしてしまわぬよう声を抑え、自分に言い聞かせるようにアサミを落ち着かせる。

「アキと同じ…で良いんだよね」

軽くなったイブキの身体を抱き起こして彼女の耳元に口を近づける。アキのためにも多少のマナを残しておかなければならないが…半端なマナではイブキを救えない気がして鱗は可能な限りのマナをイブキへと吹き込む。

『ふぅ~』

「‥‥う」マナ供給の直後、酷い眠気が襲ってくる。食事節制による空腹に加え、先程の浮遊魔術で無駄にマナを消費したのが祟ったか。けれどもイブキの安全が分かるまで目を閉じるわけにはいかない。…自分が寝ている間に「もしものこと」があっては嫌なのだ。

「マ、マスター…」

抱き上げていたイブキの身体に重みと肉体の感触が戻ってくると彼女はゆっくりと目を開く。念のため足先まで観察すると…もう幽霊のように身体は透けてはいなかった。

「良かった。無事、ぶじで‥‥ああ」

トンと首筋を打たれたように頭がガクリと垂れて、そのままイブキの足の上に倒れ込む。空腹状態でのマナ供給がここまで過酷だったとは思わず、イブキの安否を確認すると留め具が切れたようにピタリと目蓋が閉じる。

「すみません。マスター——」

白の淑女の謝りの言葉。その次に続く言葉があるような雰囲気だったが既に意識は底へと沈み始めていた。

「むりしないで…」口にできたかも分からないまま言葉を唱えた気になって鱗は深い眠りへと落ちていった。



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