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転生ですか?…すみません ウチそういうの結構です   作者: ODN(オーディン)
第二章

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71.「継承」


「…人間の一生とは短く、記憶は時を重ねるほど色褪せて消えてしまうもの。ですから我々(われわれ)は罪を忘れぬよう努めました。初めはエルフ様と同じく記憶を失わない方法を模索しましたが不可能だと分かりました。大神の御子たるエルフ様だからこそ持ち得る御力ですから。…そして次に(わたし)たちは「魔法」に着目しました」

「魔法…」

かつてマユーを生み出したガルーラの村長と同じく、彼らも魔法を習得したというのか。目つきの変わった鱗を見ると、アサミの祖母は「勘違いさせてしまいましたね」と鱗の考えを透かしたように訂正する。

「魔法そのもの、というよりは魔法の遺伝(、、)について…というべきでしょうか。騎士家系の子どもが武芸に秀でた才を持ち、卓越した技術を持つ鍛冶師の子は幼いころから火を視る目を持ち、槌を振るう。…そうして魔法の域に至った者の子孫は生まれながらにして、その魔法を行使できる。魔法を修めるだけでも何世代に渡る鍛練と修学が必要だというのに…。

我々が日々当たり前のように扱う魔術にも言えることですが、これは本来ありえない(、、、、、)ことなのです。我々は学んだことだけを覚え、覚えた技術のみを扱える。それなのに私たちは幼いころから魔術を行使できた。それは何故か…と」

「それは…」遺伝子的な話をしようとしたところで鱗は口をつぐむ。

この世界と鱗の世界は別物。子を宿し、子を産むという仕組みが同じでも過程が異なる場合もある。

境界に線を引け。その線引きが曖昧だったからこそ若槻鱗は罪を犯したのだから。

「始祖様が天地両大神様のマナを継いで誕生されたように、(わたくし)たち人間の子どもも両親のマナが溶け合った存在————いえ、ここは分かりづらいですから両親の魔力が溶け合った存在としましょうか。」

龍からエルフに伝わった「魔力感知」より、龍族は体に宿るマナを自らの力として魔力(、、)と呼んだ。


「魔力には記憶が刻まれる(、、、、、、、)――と、私たちはそのように結論付けました。

勿論、全ての記憶が継がれるわけではありません。私たちが扱う魔術も先人らが行使し続けたからこそ魔力に刻まれたもの。騎士の剣技も鍛冶師の技術も時間を懸けて自らの魔力に刻まれたからこそ子に引き継がれた。」

そこでアサミの祖母が咳をすると傾注していたアダルティーが素早く水の入った皮袋を差し出す。

「ありがとうございます。アダルティー様」

(みず)を飲んで礼を述べると祖母は戸口から見えるガルーラの大地に目を向ける。まるで習慣付いたような目の動き。その視線の本当の意味を理解した鱗は数分前に抱いた淡い妄想を完全に打ち消す。

「この不毛の大地は私たちの罪の象徴。罪の記憶を刻み続けるには十分なものでした。ただ…それでも初めは確証が持てませんでしたから別の方法も並行して試みたのです。鍛練に励む騎士と同じく私たちが生きる上で必ず取る行動‥‥それは」

「食事、ですか」

戸口の外で正座していたイブキが口を開くと祖母は重たげに頷く。それから話の途中で眠ってしまったアサミの頭を撫でながら祖母は静かに「水です」と答えた。

「食事は木の根を食べていましたが水だけは天の大神様の御力をお借りしておりました。当初、魔術を扱える者は各自で水を補給していましたが、魔力と記憶の関連に気づいてからは親が発現させた水を子に与えるようにしました。親の魔力を少しでも摂取させるためです。」

「‥‥その結果が今の「アナタ」であり、アサミちゃんなのですね?」

「その通りでございます。ワカツキ様」

齢10にして年相応の反応を見せながらも時おり大人のような口調になるアサミ。

(わたくし)」「私たち」「我々」と様々な一人称で物語るアサミの祖母。

彼女たち…(いな)、ガルーラの民は罪を継いだまま現代まで生き続けた。口伝や書物といったものではなく完全な記憶を引き継ぐ自己を無視した罪の継承。ただ罪を忘れぬよう努めた者たちに対して若槻鱗は何も咎めることはできなかった。


「一つお聞きしたいのですが…その方法は貴方たちだけで考えついたのですか?」

鱗が尋ねたのは記憶継承の源泉について。ローヒ家に託された手記において「マユー」を生んだ長は専門的な魔術に通じた者ではなかったという。この世界の農学については鱗も未知数のため、もしかしたら住民の中に魔術に詳しい者もいたかもしれない。…ただ鱗には彼らの突発的な発想が、死の間際にマユーを生んだ長と重なって見えた。

「そう…とも言えますし、そうでなかった…かもしれません。マユーの件よりも以前から我々は突飛な発想で作物を育てておりましたから…」

徐々に表情を歪ませながらも、その言葉は浮き沈みする。「どうして、あんなことを」と不信と後悔が混ざったような声色。記憶はあっても動機が分からない、と困惑したような様子から鱗はローヒ家でも感じた疑問をぶつける。


「ガルーラの人たちは本当に罪を犯したのでしょうか?私には…アナタ達が悪い人には思えなくて—――」

「ワカツキ様。我々は確かに罪を犯したのです。マユーの熱に侵された我々は恥ずべき行いをしたのです。」

情け容赦は不要、と言葉の圧が鱗の追求を塞き止める。それに対して「そうですか」とも「すみません」とも本意でない言葉を並べるわけにもいかず鱗は当時の状況を知る方向へと話を移すことにした。


「…マユーが、作られたときの記憶は…残っているのですか?」

「覚えてる」と「残っている」で迷い、鱗は後者を選ぶ。

「ええ。我々の罪の大元となったものですから。父は(、、)‥‥すみません。()の記憶でも創始者様の様子は異常でした。土だけを触り続けた御方だったのに死を目前にして魔法の研究など…まるで人が変わったようでした。」

「きっかけは、無かったのですか?」

抱いていたアキの寝息が聞こえ、鱗は声を抑える。

「分かりません。ただ奇妙なことが一つ。マユーに関する記録を処分すべく父の遺品を整理していた時に分かった事なのですが、父は自らの知識だけで「マユー」を完成させたのです。」

「・・・はっ?」そこまで沈黙していたアダルティーが棘のある反応を示すと、祖母は僅かに身を強張らせながらも話を続ける。

「残されたのは父の残した大量の書き溜めだけ…それも乱雑な文字ばかりで私たちには読み解くことができませんでした」

「誰かが協力した可能性は?」

「いいえ。晩年は寝たきりの状態でしたから家族以外とは誰とも会っていません。私たち家族も魔術については日常生活を送る程度でしか扱えませんでしたし…」

当時の状況を思い返すように祖母は再び戸口から見える荒野を見つめる。そこで大きく深呼吸をすると何か噴き出たように一言「目が…」と口にした。

「目?」

「ええ。私たちの目は元々「黒」でした。ところが地の大神様の御怒りを受けて我に返った(、、、、、)とき我々の目は赤く(、、)変色していたのです。おそらくマユーを食べ続けた後遺症だったのでしょう。今でこそ黒と赤の混じった色に戻りましたが、あの頃の父の眼も一時赤黒(あかぐろ)く見えた気がしたのです。徹夜続きで血走っていたのか。もしくは私の勘違いかもしれませんが…けほっ、けほっ」

咳き込む祖母の背をアダルティーが擦ると「申し訳ありません、申し訳ありません」と破けそうな声で彼女は謝り続ける。当時の記憶を呼び起こしてしまったせいか。祖母の声はより悲痛なものとなって、寝ているアサミのことさえ目に入っていない様子だった。

「ウロコ。今夜はここまでにしましょう。彼女を…お願い」

自分の存在が余計な負荷を与えると考えたのか。鱗に後を任せるとアダルティーは逃げるようにソジェール家から飛び出してしまう。その際、戸口の外で控えていたイブキと危うく衝突しかけるも、イブキが身体を宙に浮かせて無事に回避する。

「…マスター。彼女を追いかけますか?」

避ける時に何かを見たのか。心配するような声色で尋ねるイブキ。あのアダルティーに追いつけるか…などと考えるまでもなく抱いていたアキをイブキに預け、鱗は荒野へと駆け出した。


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