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文化祭・11月【5】













 梛は遊園地にいた。先週は家族の墓参りだったので、今のところ毎週何かのイベントが発生している。夜に妖魔も狩りに行っている。さすがにちょっと疲れてきた。


 透一郎は、今まであまり遊びに連れていったりしなかった、と反省したらしく、晴季を連れて出歩いている。今日の行先が遊園地だったというわけだ。遊びに行くのも見識を広げる一つの方法だ、というのが透一郎の教育方針であるらしい。


「さて。どこから行こう」

「どこでも付き合うぞ」


 気前よく言ったのは祐真である。彼と姉の梛にはさまれた晴季は、機嫌よく言った。


「じゃあ、あれ!」


 いきなりジェットコースターか。だが、そこは梛と祐真である。何ら問題ない。何なら命綱なしで高層ビルから飛び降りることもできる。


「三人とも気を付けるんだよ。祐真、梛と晴季をよろしく!」


 晴季が梛と祐真の手を引いて走っていくので、背後から透一郎が叫んだ。透一郎のことは、もう一人の同行者の香江に任せてしまう。香江と祐真には不便も負担もかけるが、二人は笑って請け負ってくれる。強い人だな、と思う。それぞれの恋人が大切にしているものを、大切にできる人たちなのだ。


 休日なので人が多いうえに列も長い。まだ朝なので、晴季も元気いっぱいだが、夕刻になってくるとぐずるような気がする。

 多くのアトラクションは二人乗りだ。そのため、あえなく祐真は一人乗りである。梛と晴季が一緒に乗るからだ。

 透一郎の足が悪いので、これまでこうした人の多いところは避けてきた。そのため、晴季は遊園地に来るのが初めてだ。わがままもほとんど言ったことのない晴季だが、遊びに連れて行ってもらえる友人がうらやましかったのだと思う。ただでさえ特殊な家庭なので、透一郎も梛もできるだけ普通に過ごさせてあげたい。


 きゃー、と悲鳴を上げて喜ぶ晴季に、一人乗りで無の表情の祐真が「さすが透一郎さんと梛の弟だな」と言い出した。

「正確には、二人に育てられた子だ、という感じがする」

「結構豪胆だよね」

 梛は笑って祐真の背中を叩くと着ぐるみに興味津々の晴季の方に向かう。祐真が追ってきてふいに言った。

「梛、その格好、似あってる」

 アンシンメトリーのスカートを揺らして梛は祐真を振り返る。一瞬驚いたあと、目を細めて笑った。

「ありがと」

 ちょっとずれたところはあるが、祐真はこうしてほめてくれる。やはり、ほめられて悪い気はしない。


 とにかく勢いで五つほどアトラクションに乗ったが、さすがに疲れてきたのとお昼が近くなったので、休憩することにした。透一郎と香江を探す。最悪合流できなくても、勝手に昼食を取りに行けばいい。

 梛が連絡を入れると、すぐに返信があった。近くにいるようなので、合流する。

「兄さん、香江さん」

 晴季の手を引いて梛はベンチに座った二人を呼ぶ。二人は飲み物片手にまったりしていた。

「もー。兄さんも香江さんも遊びに来たんだよ!」

 晴季がむくれて訴えるが、透一郎も香江も笑った。

「パレードを見てたんだよ」

「遠くない?」

「フロートの上の方は見えたよ」

 うん、まあ、そうかもね……梛たちがジェットコースターに乗っている間にパレードがあったらしいことはわかっていた。

「ひとまず、お昼にしない? 私はお腹がすいた」

「僕もー」

 弟妹達が空腹を訴えるので、透一郎は笑った。

「元気だね、お前たちは。少し早いけど、食べに行こうか。いいかな、香江」

「もちろん。さっきおやつを食べちゃったけど」

 香江は笑ってそう言った。梛に手を借りつつ、透一郎が立ちあがる。これをだんだん香江に任せるようにしなければならないが、透一郎と香江の体格差がありすぎて、うまくやらないと二人してひっくり返る可能性が高いのだ。体重差が二十五キロ以上はあるし。


「……午後からは、透一郎さんと香江さんも一緒に回らないか。ジェットコースター系はほとんど乗ってしまったし、せっかく来たのだから楽しもう」

「お、いいね」


 祐真の言葉に、晴季とレストランを選んでいた梛はうなずいた。


「立ちっぱなしが厳しければ、別に休ませてくれるはずだし。せっかく家族で来たもんね。いつまでも三人みんなで来れるとは限らないんだから」


 晴季とここにしよう、と西大陸系の料理を出すレストランを選び、かがめていた腰を上げた梛はぎょっとした。

「兄さん、突然どうした!?」

「いや、ごめん。自分でも涙もろい自覚はある……」

 急に泣き出した兄に梛が驚く。一方晴季は笑って、年の離れた兄に手を差し出した。

「しょうがないなあ、兄さん。僕が手をつないであげる」

「ああ、ありがとう」

 透一郎も素直に年の離れた弟と手をつなぐので、梛たちは声をあげて笑った。
















 まだ昼食には早い時間だったので、レストランにはすぐに入ることができた。そして、やはり祐真がよく食べる。淡々と料理が減っていく。その割に体型が変わらないから、どこかで消費されているのだろうな……。


「さて。どこに行こう」


 デザートの段階になって梛がマップを広げて言うと、他の四人が覗き込んでくる。祐真がアップルパイをつつきながら言った。

「近場から行かないか」

「あ、汽車のりたい」

 と、割と近くにある鉄道のアトラクションを晴季が指さすので、とりあえずそこに行くことにした。

「待ち時間、十五分だって。どうする?」

 待ち時間が長いようなら、透一郎をどこかで休ませなければならないと思い、梛は尋ねた。透一郎は大丈夫、と答えたので、とりあえずその言い分を信じることにする。


 結果的に大丈夫だったので、梛は何も言わなかった。香江は「見極めが難しいわね」としかつめらしく言ったものだ。梛も見極めているわけではないが。

 晴季が端に座りたがったので、外がよく見える端っこに座らせる。透一郎、香江と並んで、梛と祐真は前の席に座った。両サイドが開放されている汽車で、横並びの席が縦に並んでいる。

 最近ではめっきり見ないSLタイプだ。外見は。外見というか、運転席だけ。パークを一周する汽車から外を眺め、晴季が透一郎に話しかけている。梛は携帯端末を取り出して、後ろを振り返った。


「三人とも、撮るよー」


 唐突だったが、三人とも拒否はしなかった。みんな笑って写真に写る。せっかく遊びに来たのだ。家族写真くらいあってもいいだろう。


「梛ちゃんと瀬名君も撮るわよ。貸して」


 香江がそう言うので、梛の携帯端末を差し出す。こっちの二人も笑顔で写った。

「後で五人の撮ってもらおう」

「うん」

 そうして、また風景を見る。まあ、見えるのはテーマパーク内だけど。


 汽車を降りたところでスタッフに写真を撮ってもらう。それから次は遊覧船に乗りに行った。こういうところの遊覧船は、小型で段差がある。汽車もそうだったが、少なくとも汽車は地面に接しているので固定されている。遊覧船は揺れる。


「祐真さん、先乗って。無理に受け止めなくていいから」


 梛がてきぱきと指示を出す。遊覧船に乗る案内役のスタッフが「慣れてますね」と笑う。顔が似ているので、妹が兄の介助をしているとわかっただろう。

「梛も無理に支えなくていいよ」

「もし支えられなければ、一緒に水に落ちるよ」

「お前……そう言うところだよ」

 文句を言われつつ、無事に遊覧船に乗った。落ちてこなくて祐真が明らかにほっとしていた。この面子だと、どうしても祐真が力仕事担当になるので。

「僕、本物の船に乗ってみたい」

「あ、私も。クルーズ船とか」

 遊覧船を降りた後に、弟妹がそんなことを言いだして透一郎は困ったように首を傾げた。

「梛は祐真に連れて行ってもらいなさい」

 名前を出され、祐真が「行くか?」と尋ねてくる。梛は「行ってみたくはあるね」と割と真剣に答えた。

「僕はー?」

「晴季は……そうだね。屋形船とか……」

「兄さん、いつの時代の人よ」

 思わずツッコミを入れた梛だった。たぶん、晴季が求めているのはそう言うことではない。香江がくすくす笑う。

「なんだかいいわね。こうして未来の話をするの」

「そうだね」

 透一郎も笑ってうなずく。突然、晴季が祐真の手を引いた。

「パレードしてるよ。祐真さん、肩車!」

「わかった」

 さすが末っ子。誰にねだればいいかわかっていらっしゃる。残った三人は顔を見合わせて笑った。こんな穏やかな日が、ずっと続けばいいのに。















ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


最後の話だけ文化祭ではなかったですが、文化祭に参加した皆さま。

【水無瀬梛】(19)

まだ1年生で特に研究室には入っていないが、専攻したい分野が近いため、物理学研究室のリアルTRPGに付き合うことになる。試しに参加してみて、どうやら運がよくないらしいということが発覚した。文化祭当日には、ミスコンではなくミスターコンに登録され、全体5位だった。ちなみに、職質をかけられたのは初めて。過剰防衛で怒られたことはある。ミスコンで依織に投票している。


【武宮律子】(19)

梛と同じく専攻したい分野が近いために、兄の研究室を手伝うことになる。進行役はほとんどせず、ほぼ受付にいた。梛や兄と同じくミスコンに勝手に登録されそうになったが、その場にいたので断った。ミスターコンでは兄に、ミスコンでは依織に投票している。


【武宮弘暉】(24)

所属研究室がリアルTRPGの出し物をするというので、裏方で手伝うことに。勝手にミスターコンに登録されていたが、基本的に佐倉には頭が上がらないので何も言えなかった。下の妹に恋人がいることについては、反対ではないが気になるので、結局にらむようになっており、翔に引かれている。20歳を過ぎたころからよく職質されるようになった。ミスターコンでは7位だった。一応、ミスコンでは依織に投票している。


【佐倉一華】(24)

弘暉の同級生。研究室内では弘暉より力がある。姉御。勝手に弘暉と梛をミスターコンに登録した人物。その時いないお前たちが悪い。リアルTRPGの発案者で、企画から実行までやってのけた。ミスコン、ミスターコンでは梛や弘暉以外の人に投票した。


【榊原明日香】(19)

写真サークルで参加。写真の展示と軽食販売をしていた。基本的に風景写真を撮っているが、たまに人物写真もある。物理学教室のTRPGは結構な好成績で攻略した。ちなみに、梛にミスターコンの投票を入れている。


【武宮双葉】(22)

結構文化祭を楽しんでおり、1日目は魔女の仮装、2日目は依織とゴシックファッションで双子コーデだった。サークルには所属していないので、ゼミで展示物をしていた。さりげなく実行委員だった。ミスターコンで兄に投票した。


【東海林依織】(22)

ゼミで短編ドラマの放映を行った。実は結構大変だった。双葉に仮装して行こう!と言われたので着ぐるみパジャマを着て行ったら怒られた。次の日とはともにゴシックファッションを着せられた。ファッションセンスがないことが判明した。ミスコンでは2位に入賞。梛もだが、表彰式には出なかった。


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