文化祭・11月【1】
梛たちが辻斬りに苦慮している間に、大学では文化祭の準備が進んでいたらしい。梛がそのことを聞いたのは、なぜか大学構内ではなく討伐当番の復帰戦だった。
「ああ、そうか。文化祭の時期か」
「そうなんだよ。お前いねぇから知らないだろうなって」
「うん。知らなかった。弘暉さんも言うタイプじゃないからなぁ」
「でもあの人の研究室、出し物するはずだぞ」
「あ、そうなんだ?」
弘暉は最高戦力として辻斬りにかかりきりだったので、自分が所属している研究室がそんなことになっているのも知らないのではないだろうか。梛は振り向きざまに鳥の妖魔を切り捨てた。
「……お前、後ろにも目ぇあんの?」
「ないよ。最近、千里眼の感度が上がってるんだよね」
巫女修行を始めたせいと、やたらと透一郎に鍛えられたせいだ。ちなみに、さっきから梛と会話をしているのが涼介である。彼は、大学が辻斬りに襲撃された際に遠巻きに見ていたらしいが、実力差がありすぎて介入できなかったらしい。それでいい。ちゃんと実力を計れている。
「お前それ以上強くなってどうすんの?」
「いや、式部君もなんか腕あがってない?」
「お前の兄ちゃんにしごかれたんだよ!」
透一郎はいったい何をしているのだろうか。たぶん、『陽炎』の実力の底上げをしたいのだと思うが。今は梛たちを含む数名の実力が突出していて、他がついていけていない。今、涼介が梛に合わせて動けていたが、訓練の結果だろうか。
「あんたたち、元気ね……」
本日の同行人・紺野が狙撃銃を担いで追い付いてきた。鳥の妖魔を追っていたので、梛と涼介が彼女を置いてきてしまったのだ。
「紺野さん。妖魔は倒したよ」
「でしょうね! もうあんたたち二人でいいんじゃないの?」
紺野はそう言うが、一応、規定で三人一組と決まっている。
「学祭とか、懐かしいわね。青春ね」
紺野が懐かしそうに言った。インカムから会話が筒抜けだったのだろう。
「紺野さんは松殿出身だっけ?」
「ううん。国防大」
国防大。その名の通り卒業後は国防軍に所属する者が多い。だが、たまに紺野のように別の就職先を見つける人間もいる。
「あたしらは訓練が学業の一環だったわけだけどさ。学生の時間なんて、長い人生の間では一瞬なのよ。楽しんでおいた方がいいわよ」
急に年上らしいことを言われて、梛と涼介を顔を見合わせた。透一郎と香江も似たようなことを言っていた気がする。
「じゃあ、お前も学祭参加でいい?」
「あ、うん。いや、行くけど」
提供する側にはなれない気がするが、参加する分にはいいだろう。弘暉は今頃、研究室の出し物に巻き込まれているだろうか。
「あんたたち、実力は可愛くないけど、可愛いわね……」
紺野が一人、和んだ様子でそんなことを言った。
文化祭は十一月の最初の土日に行われる。その前日は、講義もあるものの、みんな学祭の準備に大忙しだ。
「あたしはサークルの方で出し物してるよ」
「明日香ってどこのサークルだっけ」
「写真」
「ああ、展示?」
「ううん。軽食売ってる」
なんでも、サンドイッチなどを販売して、食べながら写真を見てもらうらしい。なるほど。
「梛は物理学研究室に巻き込まれたんだっけ」
「うん。一年生なんだけどなぁ」
律子も巻き込まれている。弘暉のいる研究室なのだ。昔ほどではないが、理系はやはり、女子学生が少ないので何かとお呼びがかかるのだ。
「何するの?」
「体験型RPGって言ってたけど」
完全に裏方なので、梛も詳しくは知らない。別の講義を受けていた律子が、「梛ちゃーん」と手を振った。可愛い。
「じゃあ、明日香。当日遊びに行くよ」
「オッケー。あたしも二人のとこ、見に行こうかな」
明日香とはそう言って笑って別れた。ちなみに、明日香は作品を提出してはいるが、ほぼ幽霊部員らしい。まあ、夜な夜な妖魔退治に駆り出されているし、そんなもんだろう。
律子と連れ立って会場となる棟のフロアに行くと、すでにほぼ準備が終わっていた。
「あら、いらっしゃい。一年生は講義が多いから大変ねぇ」
出迎えてくれたのは院生の佐倉だった。さばさばとした女性で、研究室に女性が少ないのでよく顔を出す梛や律子を可愛がってくれていた。
「こんにちは」
梛と律子が口々に挨拶すると、昼食にしようと思っていたの、とデリバリーのピザをさした。ほかにもスープやチャーハンなどが置いてある。
ありがたくご相伴にあずかることにして、律子が兄の隣に座る。梛は佐倉の隣に座った。ほかにも、学生たちが各々お昼休憩をしている。
「あ、そういえば、弘暉と梛ちゃん、実行委員会がミスターコンに登録したいって言われたから許可しといたわよ」
さらっと佐倉にそんなことを言われ、弘暉が噴出した。律子が「お兄ちゃん!?」と兄の背中をさすっている。梛は「ふぅん」とうなずいた。
「いや、お前が一番ツッコむところだろ! お前、ミスターコンに登録されて、それでいいのか!?」
「時代は性別なんて関係ないんだよ。ミスコンに女装男子が出ることだってあるんだから、ミスターコンに男装女子が出てもいいんじゃないの」
「おま……っ! 透一郎さんが泣くぞ!?」
いや、これくらいで泣かないだろう。確かに最近、涙もろくはあるが。
「というか、ミスコンに登録されましたって言うよりしっくりくる」
「……確かに、梛ちゃん、ハンサムですものね……」
「そうよね。九月の時の戦ってる姿、正直弘暉よりかっこよかったわ」
律子も佐倉もうんうんうなずいている。まあ別にいいではないか。少しくらいふざけたのが入っていても、どうせ大学の文化祭なのだ。
「お前の旦那もミスターに選ばれてたなぁ……」
あきらめたのか弘暉がそんなことを言った。
「旦那って祐真さんのこと? まあ、祐真さんは正統派美男子だよね」
「美男美女で結構なことだろ」
「でもまあ、祐真さんの顔を好きになったわけではないからなぁ」
きゃあ、と女性陣から悲鳴が上がった。と言っても、佐倉と律子しかいないが。弘暉は弘暉で、「そう言うところが男前なんだよな」とあきれている。
昼食を終え、最終確認をする。問題なさそうなので、誰かが試しに体験してみよう、ということになった。実証実験ということだ。
「まあ、弘暉さんか梛ちゃんじゃね?」
研究室所属の学生が言った。まあ、そうなるだろうが。
「戦力過多では」
律子が真面目な顔で言った。確かにそうかもしれないが、ワンフロアを使って行われるのは実体験型RPGである。一人でもグループでも入れるが、梛と弘暉は二人で入ることになった。
内部は迷路のようになっていて、五つのチェックポイントがある。それぞれで敵が待ち構えていて、サイコロを振って撃破できるかが決まる。まあ、たいてい撃破できる。通常、二時間以上かかるゲームを三十分以内で終わらせるためだ。
これを繰り返して、ゴールを目指し、それぞれのチェックポイントで、どのように撃破したかでポイントが付加される。最終的な合計で、参加賞がもらえるのだ。途中離脱も可能である。進行役が必要だし、回転率は悪いが結構楽しい。
「駄目だ。目が出ない」
「お前が来ないと、俺も進めないんだよ!」
主に梛の引きが悪すぎてゴールするのに時間がかかったが、佐倉は満足そうだ。
「こんなもんね」
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