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辻斬り・9月【10】















 辻斬りの注意が向いたのは、透一郎の方だった。というか、何でのこのこ出てきているのだ。


 いや、わかっていた。依織から辻斬りを倒す方法を聞いたときから、梛もそれを考えていた。


 刀は、かつて最強と言われた透一郎の無念をくみ取ったのではないだろうか。戦えない自分がもどかしい。自分も、強い相手と戦いたい。その心理が付喪神化した刀に影響を与え、実体化したのではないか。依織の推察は的を射ていたと思われる。

 梛が察したと言うことは、透一郎も察しただろう。絶対自分でけりをつけに来ると思った。梛でもそうする。彼が妹に前線指揮を任せたのは、自分の接近を気づかせないようにするためだ。この中では梛が気づく可能性が一番高い。

 千里眼・水鏡という索敵能力を持ちながら、彼女は戦況を見るのに精いっぱいで実際に気づかなかった。


 辻斬りが透一郎に向かって刀を一閃させた。いろんな意味で恐ろしい状況であるが、透一郎はうまくいなした。梛より腕力の強い透一郎だが、踏ん張りがきかないのだ。今は魔術で足を動かしているのだろう。だとしたら、持続力はあまりない。


「何……してんの!?」


 梛の怒気をはらんだ声に近くにいた津村がびくっとした。慌てて立ち上がるが、めまいがした。


 さすがに透一郎もうまく応戦している。体が動きづらいだろうが、技術は一級品なのだ。梛と同じで応戦することくらいはできる。

 さすがの透一郎も体勢を崩した。間に合わない、と思った梛は持っていた刀を投げつけた。梛の腕力では大した威力もないが、辻斬りは無視できなかったようで刀ではじいた。隙を逃さずに透一郎が上段から刀を振り下ろす。腕力だけでは辻斬りを斬れない。うまく右肩からきれいに剣戟が入ったが、それ以上切れないでいた。


「兄さんそのまま!」


 辻斬りが接近する梛に気づいて左手で刀を振るう。透一郎に正面から斬られているので動きが鈍い。左手で手首のあたりを受け止め、梛は透一郎が握っている刀の柄を握った。そのまま無理やり押し込む。梛の能力でそのまますっぱりと辻斬りは斬られた。ダメ押しとばかりに梛は透一郎の刀を奪い取ると、刀を真っ二つに折った。勢いで倒れこんだ梛を受け止めた透一郎も受け止めきれずに一緒に倒れこんだ。衝撃で透一郎が呻く。

 梛はぱっと体を起こした。辻斬りが消滅していく。比較的無事な弘暉が駆けつけてきた。

「お前ら大丈夫か!?」

「……辻斬りは?」

「消滅してるな」

 刀で辻斬りのいたあたりをつつく。服は残っているが中身はない。ちなみに、刀も折れたまま残っている。梛が折る気で斬ったので当然だが。


「兄さん、生きてる?」

「生きてる……ごめん、助かった」


 弘暉が梛と透一郎を引っ張り起こす。透一郎がまともに立てなかったので、その場に座らせた。


「おい!」


 多分、突然駆け出した透一郎に追いつけなかったのだろう。だいぶ遅れて依織たちが到着した。辻斬りがいないのを見て。

「……斬ったのか」

「斬ったよ。結界は解除して大丈夫。医療班連れてきたよね。兄さんとみんなを見てあげて」

 梛がてきぱきと指示を出す。同行していた土御門が指示を出しに行く。

「みんなは?」

「津村が見てるぞ。楢崎さんと四条は意識はあるぞ。祐真はそこでぶっ倒れてる」

 まあ、一番働かせたのが祐真だから仕方がない。依織は先に四人を見に行くことにしたらしい。


「弘暉も梛も、そこで透一郎さんを見ていろ。動くなよ!」


 依織がかけていくのを見ながら、梛は自分の左腕を見下ろした。手首が腫れている。たぶん、辻斬りの剣戟を左手で受け止めたときに折れたのだ。痛い。

「梛、大丈夫?」

 左手を見とがめたのだろう。透一郎が尋ねてくる。梛は「うん」とうなずいた。

「兄さんがその状態じゃなかったらぶん殴ってるくらいには元気だよ」

「いや……ごめん。なんて言ったらいいんだろう。たぶん、この辻斬りは私のせいだね」

「それ以上言ったら、本気で殴るからね」

 梛は左手をかばうようにしながら地面に座り込んだ。弘暉も座り込む。

「透一郎さん、さすがに俺もどうかと思うぜ。俺の妹がやってたら説教だぜ、説教」

「ああ……うん。いくらでも聞くから、とりあえず二人とも、治療を受けよう」

 弘暉は頭から血が流れたままだし、梛は折れた腕が腫れてきている。梛はぎゅっと唇を引き結ぶと、透一郎に抱き着いた。

「無事でよかったぁ。腕痛い……」

「うん。ごめんね」

 透一郎に背中を叩かれる。弘暉が呆れたように言った。


「透一郎さんも大概だけど、梛も大概ブラコンだな……」


 余計なお世話だ。
















 辻斬り討伐の事後処理が終わった後、梛は本当に透一郎と話し合った。

「ねえ兄さん。隠し事しないって約束したよね? 自分の手で討ちたいのなら、まず私たちを説得すべきだったよ。わかってる?」

「うん……ごめんね……」

 正座はできないので椅子に座っている透一郎だが、その目の前で梛が仁王立ちしている。怪奇対応機密局のレストルームの一つで、透一郎が目に見えてうなだれているので見物客が多い。

「まあ今回は? 私もなんとなく察してたのに言わなかったからこれ以上は言わないけど、兄さん、本当にいい加減にしないと、香江さんに泣かれるよ」

「うっ」

 一番痛いところをつかれたのだろう。透一郎が呻いた。自分も泣くし、弟妹が泣いても弱いし、香江が泣いてもうろたえる。大丈夫だろうか、と最近思う。マリッジブルーだろうか。

 でもまあ、たぶん、透一郎が泣かれてうろたえているのに気づいているのは梛だけだ。表情は変わらないから。


「梛ちゃんすげぇな。完全に透一郎と力関係入れ替わってるな」


 一番近くで見学していた楢崎がそんなことを言った。梛は「そんなことはないと思うけど」と苦笑する。

「ま、だてに十九年も兄さんの妹をやってないよ」

「それ聞くとすげぇなって思うよ」

 遠回しに透一郎がディスられている気がするが、深く突っ込まない。代わりに違うことを尋ねた。

「辻斬りの後始末は?」

「ついたぜ。あの刀が辻斬り化した原因は解析待ちだけど、おおよそ東海林の言う通りだな。強い相手と戦いたい、って思いが具現化したんだろ。あ、梛ちゃんが真っ二つにした刀は鍛えなおして寺に納めなおすってよ」

「あ、そうなんだ……」

 一応、折ってもいい、とは言われていたが、実際に刀を折ることができたのは梛くらいだ。あの言葉は梛に向けた言葉だった。楢崎がにやっと笑う。

「水無瀬兄妹、やらかしてるなぁ」

「うるさいよ、圭」

 復活した透一郎が楢崎に向かって言った。透一郎が復活したのを見て、みんながぱっと散っていく。


「たまには言わせろよ。最強の兄妹だよ、お前ら」


 最恐、の間違いでは、と思った。










ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


では、今回辻斬りと戦った皆様を、(設定上の)強い順で。


【武宮弘暉】(24)

大学院生。うっかり大学内で辻斬りと遭遇してしまったため、学友たちの前で戦闘を繰り広げることになった。この時点で、自分の剣術は辻斬りの相手に向かないな、と思ったがそこそこいい勝負だったやばい奴。この時点で手首の粉砕骨折、背中の打撲、上腕部裂傷、脳震盪などいろいろ怪我をしている。最後の戦いの際には、比較的無事だったが頭から血を流していた。

187センチ。76キロ。


【瀬名祐真】(23)

大学で弘暉と梛が遭遇戦をしているときに、最後の方で割り込んできた。実はほかにも剣士を連れてきていたが、祐真しか割り込めなかった。この時足の骨を折っているが、適切な指示を出している。実は、一番辻斬りと相性がよかったであろう人物。たぶん、一人で戦ってもそれなりに渡り合えたが、勝つことはできなかっただろうと自己分析。最後の戦いでは、正確な剣筋を正確な剣筋で叩いており、一番怪我がひどかった。腕が肩からちぎれるかと思った。

182センチ。69キロ。


【楢崎圭】(27)

透一郎のマブダチ。そんなに対人型戦が得意ではないのに、戦力に数えられて半泣きになっている。最後の戦いでは、後輩をかばい、頭を打って気絶。腕も折れていた。

179センチ。72キロ。


【水無瀬梛】(19)

大学での遭遇戦の際、弘暉と共に戦った猛者。眼がよかったのと、流派が同じであることでなんとなく次の攻撃が読めていたが、本人に自覚はない。少女ながら上から数えた方が強いくらいだが、膂力がないため腕力では斬れず、能力を乗せると察知されてかわされていた。さらに、辻斬りが兄の顔でぶちギレた。最後の戦いでは後方で指揮を執ったが、結局、彼女が辻斬りの本体の刀を斬るに至った。遭遇戦の際は一番重症で、肺に折れた肋骨が刺さっていたが、最後もそこそこ重傷で、手首が折れ、千里眼も悲鳴を上げていた。

168センチ。58キロ。


【四条隆宏】(21)

囮面子の中で一番最初に辻斬りに遭遇した人。わかっていたのに、辻斬りに手も足も出なかったのがショックすぎた。でも、無事に生還している。彼の辻斬りの表現は、なかなか的を射ていた。最後の戦いでは、自分が足を引っ張ってしまった自覚はある。

177センチ。68キロ。


【橘慎吾】(29)

今回の囮面子の中では最年長。大人で常識的。最後の戦いでは、辻斬りを所定の場所まで引っ張ってくる誘導役、その後、透一郎の元へ向かったが、後輩の透一郎を止められなくてショック。膝から崩れ落ちた。

185センチ。75キロ。


【津村颯太】(20)

梛たちと同じ大学に通っていたので、実は梛寄り少し遅れて遭遇戦の現場に着いていた。しかし、自分の腕では足を引っ張ると思い、参戦できなかった人。とりあえず、落ちてきた梛のことは受け止めた。最後の戦いでは、梛と組まされて半泣き。自分では善戦した方だと思っているが、両腕とも折れていた。

175センチ。65キロ。


【国生龍平】(24)

最後の戦いで橘と共に誘導係を務め、その後、透一郎たちの護衛に向かうが、自ら辻斬りの方へ向かって行く透一郎にあて身を入れられたかわいそうな奴。ちょっと引いた。

180センチ。72キロ。


【吉永亜矢】(21)

実は梛たちと同じ大学に通っているので、遭遇戦にも間に合っているが、津村と同じく手を出せなかった女剣士。訓練にも悲鳴を上げた。最後の戦いでは透一郎たちの護衛を務めていたが、責務を全うできずに梛に土下座し、引かれた。

174センチ。62キロ。


番外編。

【水無瀬透一郎】(27)

今回の騒ぎの原因となった人物。辻斬りのコピー元。彼の無念をくみ取り、強い相手と戦うマシーンとかしたのが辻斬り。その責任を感じて最後の戦いでは前に出てきたが、妹にめちゃくちゃ怒られた。ただ、対処方法としては間違っていない。

また、辻斬りは透一郎の全盛時(20~21頃)をもとにしているため、一対一で倒そうとしたら、国際魔法連盟の剣豪を連れてくるしかない。体が丈夫なら、一人でパワーバランスを崩しかねないやばい奴。

184センチ。72キロ。義手は丈夫だが軽め。


長くなりましたが、以上です。

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