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辻斬り・9月【6】














 辻斬りとの遭遇から三日後。ミーティングが開かれた。梛はまだ右腕を固定したままだったし、左目も魔眼の魔力が引かないので覆われたままだ。包帯から眼帯に変わったが、それだけの違いである。


「あの時の映像?」


 ミーティングが始まる前、梛は透一郎が座る椅子のひじ掛けに腰を下ろし、彼が眺めている端末を覗き込んだ。突然隣にやってきた妹を叱らず、透一郎は「うん」とうなずいた。

「撮ってた人、いたんだ」

「途中からだけどね。梛が抜刀するちょっと手前から。明日香ちゃんが撮ってくれてた」

「あ、そうなんだ」

 明日香と律子は、双葉と依織を招集した後、梛たちの元へ駆けつけてくれたらしい。被害が出ないように人を遠ざけてくれたり、気を利かせて辻斬りを撮影してくれたようだ。ちょっとぶれているが、許容範囲内だろう。

「今度お礼を言っておくよ」

「そうしておいて。お前のことをとても心配していたし」

「そっか……」

 良い友達を持ったものだ。律子は余計に気が気ではなかっただろう。何しろ、兄も辻斬りと戦って大怪我をしている。


 ミーティングの開始時間が近づき、続々と人が集まってくる。みんな透一郎とその隣の梛をチラ見するが、特に何も言わずに席に着いた。透一郎のいる前方部の席が空くので、梛と同じく包帯だらけの弘暉と、松葉杖をついている祐真が前の方の席に座った。


「梛もそろそろ座りなさい」

「はい」


 ひじ掛けから降りて、透一郎の隣の椅子に座る。反対の隣にいる祐真が声をかけてきた。

「大丈夫か?」

「怪我のこと? 大丈夫だよ。利き手が使えないのは不便だけどね」

「そうか……」


 うなずきながら、祐真はまじまじと梛を眺める。


「何?」

 尋ねると、祐真は首を傾げた。

「いや、なんだか既視感があるなと」

「はい?」

「はい、そこの二人。ミーティング始めていいかな」

 透一郎に声をかけられ、二人して「どうぞ」と先を促す。大きなモニターに戦闘の様子が映し出された。映像が終わってから透一郎が口を開く。

「聞いてると思うけど、弘暉と梛が辻斬りに遭遇した。二人でも取り逃がしてしまった」

「途中から祐真が参戦しても斬れなかったんだろ。何とかなるのか、それ」

 楢崎が手元の端末に送られてきた解析データを眺めながら言った。そう。弘暉と梛がだいぶ疲れていたとはいえ、祐真も含めて三人で取り逃がしている。


「最初から三人で戦っていたら勝てていたか?」


 橘がおおもむろに尋ねた。尋ねられた弘暉は「どうだろうな」とわずかに顔をしかめる。

「そんなレベルの剣士じゃなかったぞ。最初から三人でも、正直微妙だな。一人離脱したら負ける」

「いやあ、私が足を引っ張ったね。ごめんねぇ」

 思わず梛が謝りながら机に突っ伏すと、弘暉からツッコミが入った。

「お前、話聞いてたか? お前が離脱してたら俺も死んでたんだよ。本当はお前の抜刀が防がれた時点で下がらせるべきだったんだが」

「いや、あの時点で下がれって言われても私は下がらなかった」

「……ガチギレしてたもんな……」

 そのキレたのが千里眼・水鏡に負荷を与えた原因の一つなのだと思う。


「初見で私の抜刀が見切られるとは思わなかった……」


 梛の抜刀、もしくは居合術は通常の人間は目で追えない。透一郎ですら初見では不可能だと言っていた。不完全ながら千里眼・水鏡に近い『眼』を持つ透一郎に不可能ならば、他の誰にでも無理だろうという風潮がある。


 とはいえ、居合自体は来るとわかっていれば対処不可能ではない。だが、あの時は弘暉がうまく間をつないでくれたので、入ったと思ったのだ。


「せめて刀で受けてくれれば、二撃目の体勢を取れたんだけど」

「梛の攻撃が一つも当たっていないね。当たったものも、力不足で斬れていない」

「申し訳ございません……」

 弘暉や祐真の一撃は普通に食らって切れていたから、梛の単純な膂力が不足していたことになる。

「いや、つまり梛の能力で斬られたらひとたまりもない、ということだよ。弘暉と祐真、それに圭と隆宏を投入したら、梛は斬れる?」

「そこまでそろえるなら、弘暉さんか祐真さんが斬ったほうが早いよ。物理攻撃は効くんだから」

「それはそうだね」

 逃げる直前、祐真が辻斬りの左腕に刃を立てた。切り落とすことはできなかったが、斬撃は入っていた。あれなら、弘暉か祐真が斬ったほうが早い。

「私に斬られると縁が斬られるから避けてたんでしょ。体自体は本体じゃないんだし」

「そういえば、そんなこと言ってたな。傀儡ってことか?」

 戦闘中に軽く言っただけなのに、弘暉もよく覚えている。梛もすべてが分かるわけではないが。

「うーん……私、傀儡って見たことないんだよね。依織ちゃんの式と似てる?」

「そう考えて、能力的には、大差はないと思う」

 依織が言葉を選びながら言った。その言葉を受けて梛は言った。

「そう……なら、付喪神と言った方が近いのかもしれない。本体はあの刀の方だと思う」

「そう聞いて、私の方でも調べてみた」

 事前に透一郎には話してあったので、どうやら調査してくれていたらしい。手元の端末にデータが送られてくる。


「あの刀は、私が八月の頭に調査してきた刀だった。古いものだけれど、それほど希少性が高くなかったからそのまま寺に置いてきたんだけど……確認を取ったら紛失していることが分かった」

「それがこの刀ってことかぁ?」


 間延びした弘暉の声に、「鑑定してもらったから、間違いないね」と透一郎も苦笑気味だ。祐真も眉をひそめて。


「……それは、折ったらまずいのだろうか」

「折る前提なのが気になるけど、寺の住職からは折れても仕方がないと言うお言葉をもらってるよ」


 だが、できれば梛が辻斬りの肉体と刀を切り離してしまうのがベストだ。話が最初に戻っている。

「おそらく、実戦に使われたことのある刀なのだと思う。もっと戦いたいと言う思念がこびりついていて、それが実体を持った、と考えるのが自然だろうか。透一郎さんを模しているのは、透一郎さんが『最強の剣士』だったことが関係している。……と、思われる」

 依織も実際に手に持って調べたわけではないので、解析もあいまいだ。しかし、そんなに外れてはいないだろうな、とみんな思った。


「つまり、全盛期に近い透一郎と戦わされるってこと? ていうか、隆宏もどうして気づかなかったよ」

「えっ」


 楢崎の言葉に戸惑う四条。ちなみに、彼も全快している。


「仕方ないよ。年齢的に、剣士だったころの私と手合わせしたことがあるのは、弘暉や祐真の世代が最後だろうね。妹の梛だって、事前情報がなければ迷ったかもしれない」


 苦笑気味に透一郎がツッコミを入れる。梛が「そうだね」と同意したので、四条はほっと肩の力を抜いた。

「私も兄さんの最盛期をまともに覚えているわけではないけど、兄さんの動きとは微妙に違ったね。何というか……機械的? こう動いたらこう動きます、みたいな。たぶん、祐真さんなら問題なく相手になると思う」

「……俺に振らないでくれ……」

 祐真が若干青い顔で言った。透一郎を模している、という話になったあたりで、彼の往時の腕前を知っている者たちは全員引き気味だ。


「……まあ、絶対に剣術で打倒する必要性はないからね。足止めして狙撃してもいいわけだし」


 みんなの引いた顔に少し困った顔をしながら、透一郎が結構ひどいことを言った。しかし、辻斬りの方法に付き合う義理はない。


「あのー、でも、普通に狙撃しても防がれたんだけど」


 手をあげて発言したのは双葉だ。確かに、彼女の弓術はかなりの腕前だが、死角から射たにも関わらず、払い落されている。

「梛の見立てが正しいとしたら、双葉の矢も危険を察知して自動的に排除したことになる。仕掛けが分かれば対処は難しくないよ。辻斬りにだって、腕は二本、刀は一振りしかないんだからね」

 にこっと笑って言ってのけた透一郎に、双葉は「はあ……」と困惑気味だ。まあ、確かに対処方法がないわけではない。













ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


距離の近い水無瀬兄妹。


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