アンラッキーな男・6月【4】
パンケーキが出そろってから明日香にざっくり事情を説明した。それを聞いた明日香はざっくり。
「女難ってこと?」
と言った。まあ、大きくは間違っていない。明日香はおおざっぱで何も考えていないようにも見えるが、察しが良い。梛が実験中であることに気づいたらしく、余計なことは言わなかった。
「普通にセクハラだもんね。問題だよね~」
「うっ」
和田が明日香の直截な言い方に言葉を詰まらせた。明日香は気にせず梛と翔に尋ねた。
「そんな女の子相手だけに起こるように呪いなんて存在すんの?」
「呪詛者が意図的に引き起こすことは難しいんじゃないかな」
「僕もそう思う。呪詛した結果、呪詛者の思いが呪いとして現れた……んじゃないかな」
梛も翔も呪詛の専門家ではないので、そうとしか言えない。おそらく、宮本がモテなくなれ、とか、女に嫌われろ、などと思いながら呪詛を行ったのではないだろうか。
「宮本沙奈は和田君に告白を断られたの、根に持ってるってことねー。たぶん、断られたことがないんじゃないの」
パンケーキをほおばりながら明日香は言った。彼女が大学生になってまだ二か月。その間に、そう思うことがあったということだろうか。
「結構有名よぉ。彼女自身は文学部だったと思うけど」
「あ、うん。俺も文学部……」
そうだったわね、と明日香がうなずいた。ちなみに涼介は教育学部だし、柊は工学部だ。
「顔のいい男をひっかけて回ってんのよ。本人もまあまあ可愛いから、馬鹿な男が引っかかるのよね。和田君で三人目じゃないかな」
「前の二人はどうなったんですか?」
男性陣が絶句しているので、律子が尋ねた。明日香はマイペースにカフェオレを飲み、それから口を開いた。
「こっぴどく振られたらしいわよ。一人は休学中じゃないかな」
「……ネットにさらされたかぁ?」
「さらすって脅されているのかもね」
まあ、その慣れた様子から、少なくとも高校時代からやっていると思われた。これ警察に突き出してもいいものだろうか。
「ま、あたしも興味ないからあんまり詳しくないんだけど。これまで成功していたなら、怒って呪うくらいはするかもしれないわね」
明日香の総論を聞いて、梛は翔と目を見合わせた。
「どうしようか。鏡返し、してみる?」
「あっちが男にモテなくなるのか?」
「いや、女性に嫌われるんじゃないかな」
このまま返したら。すると、明日香がツッコむ。
「もう好かれてないから、あんまり意味ないわよ」
確かに。
「気をそらすのはどうだ? 俺や柊じゃ無理だろうけど、水無瀬なら」
「私かい」
涼介の提案に、梛は眉をひそめた。
「できれば遠慮こうむりたいけどねぇ」
確かに、この中で一番イケメンなのは誰、と聞くと、十人中九人が梛を指すだろう。涼介や翔も不細工ではないが、人並みの域を出ない。宮本が『顔のいい男』を狙っているのなら、少なくとも和田と同じレベルの顔面偏差値である必要がある。
「顔がよくて、おとなしそうな男ね。反論できなさそうな」
明日香の追い打ちに、和田は涙目でパンケーキをほおばった。食べる元気があるなら大丈夫だ。
「梛は駄目だと思うわ。きりっとして理知的でしょう。さわやかだし」
「おや、ありがとう」
さすがに明日香の初恋の人である透一郎とほぼ同じ顔をしているので、ほめてくれるようだ。しかし、梛も駄目なのか。
「祐真さん、召喚する?」
知り合いの中で顔がよくて気の弱そう、というか、おっとりしている人物の名をあげた。梛の婚約者だけど。
「釣れそうな気はするけど、それはいいの?」
「さすがに瀬名さんが可愛そうだと思います……」
明日香と律子にダメ出しを受けた。まあ、梛もちょっとどうかな、と思った。
「こういうのは本人が反省しなきゃ止まらないでしょ。手の打ちようがないじゃん」
明日香が冷静に言った。その通りである。
「結局、水無瀬がいったん縁を切ったほうがいいんじゃないかな」
翔がそう言った。梛もそんな気がしてきたが、これをさっくり切ってもいいものか。
「そうだな。だが、どんな影響が出るかわからない。明日でもいいか?」
「解決するなら何でもいいよ……」
和田の許可を得たので、今日は解散とした。律子は翔が送っていくと言うので、梛は明日香と一緒に帰った。
「明日にするのは、誰かに相談してくるの?」
「一応ね。陰陽師ならこういうことに詳しいだろうし」
依織か、土御門を捕まえられればいい。この二人以外にも陰陽師は所属しているが、特に親しくしているのがこの二人なのだ。そうだね、と明日香は笑い、家の近くについてからささやいた。
「実験結果、どうだったか教えてね。和田が梛を女の子だと認識したら、呪詛が発動するか」
「わかったよ」
興味津々の様子の彼女にそう答え、手を振って別れてから、梛は一旦家に帰り、それから怪奇対応機密局本部に向かった。
「あ、依織ちゃん」
「梛。どうした。今日はいやに男前だな」
歯切れよくそんなことを言う依織に苦笑しつつ、彼女の研究室に入れてもらった。
「ちょっと相談があるんだ」
「それはその格好に関係があるか?」
「まあ、なくはないね」
そううなずいてから、ざっくり和田の症状を話した。一応、依織に相談するにあたって和田に許可は取ってある。
話を聞いた依織は「うーん」とうなった。
「まず、梛が縁を斬ることは問題ないだろう。おそらく、呪詛自体はそれほど強いものではないと思う」
「まあ、所詮素人だからね……しかし、結構強固に影響が出ている気がするんだが」
「それは本人の思い込みによるところが大きいな。おそらく、何度か女性に対してセクハラまがいのことが起こって、それから呪詛という話になったから、呪詛の影響を受けている、と思い込んでいるんだ」
「つまり、彼が女性相手に発動する呪いがかかっている、と思い込んでいることが原因なんだね。じゃあ、彼が『女性』と認識している相手に起こる、というのも、あながち間違いではないわけだ」
「そう言うことだろうな。まあ、明日、女装で会ってみろ。はっきりする」
「そうだね」
依織の見解も聞き、何とかなりそうだな、と思う。確かに、宮本の呪詛がそれほど強力とは思えない。おそらく、最初のきっかけはあっただろうが、和田の思い込みだと考えるほうが自然だ。
「それでどうにもならないのなら、返すしかないな」
できるだろう? と言われ、梛は曖昧にうなずいた。できるにはできるが、あまりしたくないなぁと思った。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
梛は美人だけど、雰囲気イケメンに近い。




