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あなたを愛している・4月【6】













 結局、透一郎たちには被害はなかったらしい。たどり着く前に術の効力が切れたのだろう。おかげで、埴輪が散乱しているが。


「へえ。あの舞台、奉納神事に使われてるんだ」

「うん。途絶えたって話は聞かないから、まだ続いてるんだとは思うけど」


 埴輪を片付ける梛と祐真を眺めながら透一郎はうなずいた。作業者は梛と祐真しかいないが、念動力を使っているので作業は早い。超心理学的に分類すると、梛はESP、つまり超感覚が強いため、PKに分類される念動力はあまり強くない。しかし、術に昇華してしまえば、ある程度は使えた。それで行くと透一郎の方が念動力が強かったりするが、うっかり倒れられても困るので梛が作業している。淡々と作業している祐真は埴輪を宙に浮かせてまとめてから隅に寄せた。


「その神事は何に対して奉納されているんだ」

「四月に行う春祭りだって聞いたけど、言われてみれば不自然だよね。だって、この周りには山も田もないからね」


 春の祭りは、豊穣を願う祭りが多いので、近くに山や田畑があることが多いというイメージがある。もちろんその限りではないが、ここでの出来事を考えると、ちょっと不自然にも思える。透一郎の言う通り、このあたりに農地はないし、木々は生い茂っているものの山はない。そもそも、人里ではないのだ。

「兄さん、実習に来た時に詳しく聞かなかったの?」

「そうだね……実地調査に来たわけだからね。大学の専門とは違うわけだし」

 この場合、宗教史や文化史に入るのだろうか。確かに、兄の専門は戦史だったような気はするが、まあ、大学の授業で来た、という思いが強かったのだから、仕方がないのかもしれない。


 埴輪の片づけが終わったころ、香江が晴季の手を引いてやってきた。朝から資料館に話を聞きに行っていたのだ。

「あの神社、今は宮司がいないんですって。五年前に急死して、別の社の宮司が兼ねてるみたい」

「それで神事の内容が変わっちゃったのかな。でも、神楽舞を舞うのは近所の集落の巫女さんじゃなかった?」

 透一郎が首をかしげている。確かに、宮司が変わっても神楽巫女が同じなら神事の内容が分かるだろうに。すると、香江も小首をかしげた。

「それが、前の巫女さん、結婚して引っ越しちゃったらしいの。今は別の女の子が神楽を舞っているそうだけど、指導するおばあさんも数年前に亡くなっているらしくて、見様見真似らしいのよ」

「ああ……うん」

 透一郎が何と言っていいのかわからない、という表情で微笑んだ。梛と祐真もベンチに腰かけている透一郎の側に行く。

「そこで神事の内容が変わってしまったんだね。おそらく、岩禰比古を封じるための儀式だったのだろうね、春の神事は。それが正常に作動しなくなって、封印が緩んだんだ」

「じゃあ、その岩禰比古がなぜ封じられることになったか調べなきゃならないねぇ」

 なぜ封じられることになったのか。その原因があるはずだ。そのせいで現状に至っている。やはり、夜の方が力が強いらしく、少なくとも朝から昼にかけての活動は見られない。だから透一郎も香江と晴季を二人で行動させていたのだ。


「何をやらかしたんだろうな……」


 祐真も腕を組んで言った。正統派美男子はそんな仕草も様になる。

「……やっぱり、私が夢の中で探りましょうか」

 香江がそう提案するが、やはり梛も透一郎も祐真すら駄目だと言う。晴季と手をつないだ香江は眉をひそめた。

「でも、そんな古代のことなんてわからないわ」

「梛の千里眼は?」

「水鏡では過去の事象は視えないんだよね」

 祐真の提案に、梛は苦笑を浮かべた。考え込む様子だった透一郎がようよう口を開いた。

「推察することはできる。少なくとも、香江とその女性の霊の相性がいいんだ。性質が近いのか、似たような運命をたどっているのかはわからないけど」

「性質はわからないが、たどった道は似ているんじゃないか。その女性の霊も、副島さんも、男を引き留めようとしている」

 水無瀬兄妹の視線が祐真に向いた。おっとりと言い切った彼は、「あ」と再び口を開く。


「していた、だな」

「うん……いや、うん。そうじゃなくて」


 梛が何とかツッコミを試みるが、途中であきらめた。

「梛、ツッコミを放棄しないでくれ」

「なら、兄さんもボケないでよ」

 兄にはツッコミやすいのだが。祐真は天然でやらかすのでツッコみにくい。

「いや、まあ、話を戻すけど、確かにそう言う意味では一緒なのかもね」

「でも、それだと梛ちゃんも当てはまらない?」

 香江に言われて、梛は岩禰比古に言われたことを思い出した。

「いや、私は結局止めなかった。むしろ兄さんに復讐のための力を与えたことになる。……そうか。だから駄目なのか」

「自己完結しないでほしいけど、確かに梛との相性は悪そうだね。口寄せができればいいんだけど」

「母さんは優秀な巫女だったけど、私にはちょっと無理だね」

「私もだ」


 梛と透一郎の母・桐花は名実ともに巫女だった。十三歳で母を亡くした梛だが、母から巫女修行を受けたことがあるので、それは知っている。母がいれば即解決だったような気もするが、現実として桐花はいないのだ。やっぱり依織を連れてくるべきだったのではないだろうか。

「ひとまず、神社に話を聞きに行こう」

「宮司がいないのではないのか」

 梛の手を借りて立ち上がる透一郎に、祐真が尋ねた。杖をついて歩き出そうとした透一郎は祐真を見て微笑んだ。

「それでも神社を管理する人間がいるんじゃないかな。いなければ、兼任している宮司に電話すればいい。それから、神楽巫女の話も聞きたいな」

「そうだね。今年の巫女を調べておこうか」

 梛も真面目に応じる。香江が顔をしかめた。

「梛ちゃんまで真剣になると、見分けがつかないわ……」

 声音は違うけど、と香江。確かにまじめな表情が一番似ている、とは言われる。

「梛は透一郎さんよりも表情が豊かだからな。それがなくなるからだろう」

 祐真がそう応じたが、まるで透一郎が鉄面皮だと言っているような物言いである。まあ、他意はないのだろうけど。


 木々に囲まれたその神社は、それほど大きな社ではなかった。しかし、ちゃんと管理されているので澄んだ気配がある。

「何か視える?」

 問われ、梛は首を左右に振った。神社であるのだからご神木かご神体があるはずだが、と梛と祐真は本殿を開けようとするが、さすがにカギがかかっていた。

「誰もいないわね……」

「電話かけてみようか」

 梛が携帯端末を取り出して社務所に貼ってある電話番号にかけ始めた。どうやらここの神社の宮司を兼ねている宮司の、本来の所属神社の社務所につながったようだ。直接宮司にも話を聞けたが、さすがに詳しいことはわからないようだ。


『この神社は厄災を封じるために作られたのだ、とは聞いていますが』


 とのことだった。何分、元の宮司は急死し、他に神主もいなかったので詳しいことはわからずじまいなのだそうだ。

「やっぱり封じているんだね……」

 透一郎が檜舞台に触れながら言った。梛は舞台を千里眼で眺めるが、後付けで作られたこれは、何も映し出さない。過去視は本当にできないようだ。

「資料館に行こうか」

「……唐突に? 話を聞きに行くの?」

 突然言い出した透一郎に、梛が疑問を口にする。透一郎は「うん」とうなずく。

「それもあるけど、昨日の埴輪が焼きあがってるころじゃないかな」

「ああ……」

 梛は香江と顔を見合わせた。あのへんな形のあれを取りに行かねばならないのか……。まあ、置いて行くわけにはいかないから仕方がない。

「そうだね」

 晴季だけが喜んでいた。













ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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