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あなたを愛している・4月【4】













 資料館で透一郎たちと合流する。梛は鞄の中に入れていた魔力緩和用の眼鏡を取り出し、かけた。本格的に術師の修行を始めてから、明らかに千里眼・水鏡が強くなっている。


「おや、何か視えた?」

「視えなかったね。跳ね返ってきた」


 梛が端的に返すと、おや、と透一郎はかすかに目を見開いた。

「感度をあげれば視れるような気もするけど」

「やめろ」

 今回の引率者である透一郎ではなく、祐真から駄目出しがあった。やっぱりダメか。

「そうだね。せめて、安全性が確認されてからにするべきだね」

 情報のすり合わせは後にして、資料館を見て回ることにした。なお、晴季は詰まらなさそうだ。


「よし。じゃあ、体験コーナーに行こう。晴季は埴輪づくり体験と土器づくり体験のどっちがいい?」


 梛が晴季の手を引っ張って言った。まだ小学三年生の晴季は土器と埴輪の違いなど判らないが、写真を見て埴輪づくり、と言った。梛と香江も一緒に体験することにした。職員に透一郎と祐真も誘われていたが、二人は断った。透一郎は片腕が義手だから仕方がない。祐真はなぜか、隣で火起こし体験を始めた。もはや意味が分からない。


 晴季は土いじりが楽しかったようだ。梛と香江はなかなか前衛的な埴輪に仕上がった。梛は馬、晴季と香江は人型の埴輪にしたのだが、どれも何なのかわからない。

「晴季の方がまだまともだね」

「不器用なのよ……」

 透一郎の言葉に、香江がむくれた。隣では祐真が火起こしに成功していた。その原始的なやり方で成功したらしい。職員が驚いていた。

「一晩焼いて、明日お渡ししますね」

 職員がそう言って謎の物体となった埴輪を預かる。


「皆さんおきれいですねぇ。ご家族?」


 手続きをしている梛に、職員がにこにこと尋ねた。梛と透一郎はどうあがいても兄妹にしか見えないので、兄妹がそれぞれの配偶者を連れてきていると思われているだろうか。晴季は透一郎の息子か。

「ええ。まあ」

 梛は苦笑して簡単に答え、手続きを終えた。すでに夕方なので、夕食を食べに行こうということになった。透一郎が正座をできないので、椅子のあるレストランにした。

「少なくとも、あの古墳が霊的な場であることは間違いないと思う。出なければ、私の千里眼が跳ね返される道理がない。祐真さんも耳鳴りがしたんだっけ」

「……ああ」

 少し返答に間があったのは、祐真が我関せずとばかりに食べていたからだ。本当にマイペースだな。しかも、結構な量が彼の前で消費されていく。

「耳鳴りか……梛は?」

「私は何も。千里眼が跳ね返ってきただけだね」

 香江が心配そうに梛と透一郎を見比べる。二人ともいつもの笑顔のポーカーフェイスではなく、真面目な表情なので余計に不安なのかもしれない。


「副葬品に呪具があったのかな。梛の千里眼については、古墳にかかっていた術が古代のものであるとすれば納得がいくけど」


 千里眼は古い魔法の一つだが、古代の魔法はもっと強固だったらしい。見られまい、と跳ね返ってくるのは、ある意味当然なのだ。

「でもそれだとやっぱり、祐真さんの耳鳴りの説明がつかない」

「……近くに幽霊がいると耳鳴りがするって言わない?」

 香江が晴季にパスタを取り分けてやりながら言った。梛は首を左右に振る。

「すると今度は、私が視えなかった理由が説明できない」

「あ……そうね」

 というか、話題の中心である祐真、何か言ってくれ。と思っていたら、口を開いた。

「……おそらく、古墳に組み込まれた術式に反応していたのだとは思うが……梛に見えなかったのなら、『存在』していなかったのだろう」

 祐真が分かるようなわからないようなことを言う。透一郎はわかったようで、その曖昧な言葉にうなずいた。

「なるほど。つまり、霊が出る前段階だったということだ。香江に呼びかけていることからみても、『何か』が『起きよう』としているのは間違いないしね」

「兄さんたちが大学生の時に調査に来たってことは、七、八年前は何ともなかったんだよね。その間に何かあったのか……?」

「ああ……うん」

 なぜか透一郎が微妙な表情を浮かべる。香江も衝撃を受けたような表情になる。梛は「何」と眉を顰める。


「いや……自分の大学時代がもうそんなに前なんだなと衝撃を受けただけだよ」

「そうよね……あの小さかった梛ちゃんが大学生だものね……」


 透一郎と香江が遠い目で言った。まあそもそも、梛と透一郎で八つ違うのでそんなものだろう。

「そういえば、古墳の中で楽器のような音が聞こえた。ずれてた」

 不意に祐真が言った。思い出したから言っただけだろうが、とりあえず梛は突っ込んだ。

「うん。ずれているのは祐真さんだね」

 おっとり首を傾げられた。ちょっとかわいいと思ってしまった。











 場所を移し、ホテルの部屋である。一応男女に分けて部屋を取ってあるが、男子部屋に集合していた。


「で、結局あの古墳には誰が埋葬されていたの?」


 すよすよ眠る晴季を起こさないように、ベッドに腰かけた梛が尋ねた。端のベッドで寝かせており、明かりも落としてあるので暗い。

「当然、この地域の支配者だね。墓の規模からして王を名乗っていたと思う」

「棺の痕、二つあったんだけど」

「ああ……梛がそう言うのなら、やっぱりそうなんだろうね。八年前に科学調査をした時にも二つの痕跡があって、物議を醸したんだよね」

 透一郎が梛と向かい合って言った。

「違う年代の棺が置かれていたのかと思ったけど、そうでもないようなんだよね……」

「あ、私も覚えてる。夫婦で埋葬されてるんじゃないかって」

 香江も思い出したように言った。梛は片膝を抱えて膝に顎を乗せる。

「確かに同年代についた痕に見えたね。数年は前後するかもしれないけど」

「梛も同じ見解か」

「ていうか、私の目はレントゲンじゃないからね?」

 千里眼・水鏡には過去視の能力があるわけではないと、透一郎もよく知っているだろうに。彼女の目に映ったものがすべて正しいとは限らない。


「古墳の被埋葬者が二人である事例は皆無ではない。彩桜塚古墳に埋葬されているのは、岩禰比古だと言われている。ともに埋葬されているのは妻だと言う見方が強いけど、妹や娘だとする説もある。資料が少なすぎてわからないんだ」


 梛は首を傾げた。古代史に詳しくない梛だが、その一緒に埋葬されていたと思われる女性がカギだとわかる。香江に訴えかけているのはこの女性だろう。


「……近くまで来たし、夢の中で会話ができるんじゃないかと思うんだけど……」

「却下」


 水無瀬兄妹に同時に言われ、香江は眉尻を下げた。祐真も首をかしげて「俺も賛成できない」とおっとりと言った。香江、四面楚歌である。しかし、『夢』に接触できるのは香江だけで、彼女は自分の身を守る術がないのだ。止めるのも当然だと思ってほしい。

「やっぱり依織ちゃんを連れてくるべきだったんじゃない?」

 もう言っても仕方がないが、梛は苦笑して言った。透一郎も目を伏せた。

「連れていかれないように気を配るしかないね」

「まあ、兄さんと香江さんの縁に期待しよう。……香江さん、私は危ないと思ったらたたき起こすし、その女性との縁を切り捨てる。いいね?」

「わかったわ」

 梛の提案に香江はうなずいた。梛にも自信があるわけではないが、集中すれば香江と女性のつながりを断ち切ることはできると思う。

「それじゃあ香江、無茶なことはしないように。梛のこともよろしく」

「……はい」

 香江が透一郎の言葉に微妙な表情でうなずいた。立ち上がった梛も苦笑した。

「梛」

「ん?」

 透一郎は梛にも声をかけた。振り返り方が妙に男前だった妹に、透一郎は苦笑を浮かべた。

「お前の裁量が及ばないところまで背負う必要はないからね」

 梛は何度か瞬きしてから笑った。

「わかってるよ」

 ではお休み、と梛と香江は隣の部屋に戻った。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


なんちゃって古代史なので、生暖かく見守っていただけると助かります……。


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