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力の限り【3】












「はっ!?」


「ああっ!?」


 お互いに驚きの声が上がった。上段から斬りかかろうと地を蹴った梛に視界に、炎が渦巻くのが見えた。


弘暉ひろきさん!?」

「何してんだ梛!」


 二人とも術を出していたので止まらず、あえなく斬りあいとなった。術同士がぶつかり、水蒸気が立ち上がる。仕留めきれなかった。梛は風を出して水蒸気を払った。すかさず律子と弘暉が魔獣を斬った。

「お前、危ねぇだろ!」

「弘暉さんが見えなかったんだよ!」

 背後の妖を切り捨てながら言い返す。律子がおろおろと梛と弘暉を見比べる。

「つーか、祐真はどうした!?」

「中等部の方へ行った」

「ああ、こっちはお前がいるもんな」

 怒鳴ったら冷静になってきたらしい。律子があからさまにほっとする。今更になってオペレーターが『弘暉さんがそちらに向かっています』と言った。いや、もう着いているよ。

「『陽炎』の第二陣は?」

『十分後、到着予定。四名です』

「了解」

 少ないが、梛と弘暉がいるのでこんなものだろう。大学院から直接来たのだろう。弘暉はインカムをつけていない。

「いつ来るって?」

「約十分後。それまでに殲滅できるかもしれないね」

「だなぁ」

 簡単に事務連絡を取り合い、妖魔退治に戻る。というか、どこからこんなに湧き出てくるんだろう。今更ながらに思った。どこかに境界があるはずだ。

「弘暉さん、ちょっとこの辺を任せていいか? 境界を斬ってくる」

「相変わらず意味わかんねぇな、その能力。わかった。行ってこい」

「ありがとう」

 梛は一度戦線離脱した。妖魔の走ってくる方向に、彼らが湧き出てくる境界があるはずだ。梛の千里眼・水鏡なら見つけられるだろう。そして、見つけた。校門のあたり。普通の目には見えない裂け目が視える。しかもこれは、自然にできたものではない。人工的に切り裂いたものだ。


 私と同じ能力か?


 そう思ったが、考えてみれば、梛は概念が成立していればおおよそのものを斬ることができるが、そこから妖魔を出せるわけではない。これは召喚系魔術に近いだろう。そう思いながら、梛は刀を振るって境界を斬った。妖魔の出現は止まった。中等部の方が気になるが、そっちは祐真に丸投げしておく。


「梛!」


 唐突に低い声で名を呼ばれ、はっとした。弘暉が梛を呼ぶなど、相当のことである。とにもかくにもそちらに向かって駆けだしながら、状況を見る。

 狒々、のようにも見える。しかし、体毛がなく体がうろこのようなものに覆われた人型の妖魔。しかし、長身の弘暉よりもさらに一回り以上大きい。腕は鋭い槍のようで、何といえばいいか。気持ち悪い。

「斬れねぇ!」

「了解!」

 弘暉が律子を抱えて後ろに下がったところを、入れ替わるように梛が両手で刀を握り、いかずちをまとわせて振りぬいた。……いや、ふりぬけなかった。

「ふざけてるんじゃねぇ!」

「いやいや、大真面目だ。それより律子ちゃん、大丈夫?」

「う、うん」

 一度下がり、梛は律子をちらりと見た。左腕を押さえている。どうやら、あの鋭い腕に貫かれたようだ。大きな目に涙が浮かんでいる。

「おい。お前、どうやってでもあれを斬れ」

「もちろんだ。ただ、弘暉さんと私なんだよな……」

「水魔法はなしだ」

「わかってるよ」

 梛と弘暉は、魔法の相性が超絶に悪かった。剣だけに絞ればそんなことはないのだが、刀だけでは切れない以上、魔法を使う必要がある。だが、水行の梛と火行の弘暉ではお互いの魔法を打ち消しあってしまう。だから、梛は木行系の雷や風を使うことになる。こちらは威力が大きいが、繊細な動きがまだ難しい。梛自身が技の威力に引っ張られている気がするのだ。


 とはいえ、そんなことを言っている場合ではない。梛と弘暉はそろって刀を構える。切っ先を前に向けて高いところに構える弘暉に、切っ先を後ろに向けて中段で構える梛。本来なら梛が支援型なのだが、今回は彼女がメイン攻撃手だ。

 弘暉の剣戟とともに炎が舞った。梛がその攻撃の間隙を縫って腕を切り落とした。炎にまかれることはないが、弘暉は全体的に攻撃が大振りだ。よく言えば、力強い。

「弘暉さん、私を斬るなよ!」

「お前が間合いに入るな!」

「無茶を言うな!」

 どうしてもこの妖魔を倒すのに、弘暉の間合いに入る必要があった。肉くらいは斬られる覚悟で、刃に雷をまとわせた。力強く踏み込み、刀を一閃させた。残ったほうの腕が梛の二の腕を切り裂いた。弘暉が梛を斬らないように刀の軌道を変えたため、牽制しきれなかったのだ。


 妖魔の体がずれた。上半分がずり落ちる。妖魔を切り裂いた梛は振り返って妖魔が活動を停止したか確認する。

「おい、大丈夫か?」

「弘暉さんに斬られたほうが痛くなかったかもしれない」

 えぐられるように傷ついた左の二の腕を見ながら、梛は言った。ハンカチでとりあえず止血する。


「梛ちゃん、お兄ちゃん!」


 律子が駆け寄ってくる。梛は弘暉を見上げた。


「お兄ちゃん」

「やめろ」


 半笑いで言う梛の頭を弘暉がはたいた。さほど痛くはなかったが、はたかれたところをさする。律子は目に涙をためて尋ねる。

「大丈夫? 痛くない?」

「大丈夫だよ」

「心配すんな。そいつは殺しても死なねぇよ」

「いや、流石に殺されたら死ぬしかないさ」

 ドライに言い切った梛の頭を、弘暉が再び叩く。律子が泣き出したからだ。弘暉が律子をなだめにかかった。一応言い足しておくと、この二人は異母兄妹である。

「全員無事だ。大丈夫だから泣き止め。な?」

 こいつこんなに優しい声も出るんだな、と梛は目を細めた。今更『陽炎』が駆けつけてくる。中等部側から回ってきたらしく、祐真も一緒だった。

「梛……怪我をしたのか。大丈夫か」

「ああ、ちょっと油断してしまった。そちらは?」

「片付いている。……というか、あの子、お前の友達だよな……?」

 祐真が律子を見て言った。ああ、と梛はうなずく。

「同級生の律子ちゃん。弘暉さんの異母妹」

「ああ、例の弘暉が父親をぶん殴ったという」

「そう、それね」

 ちょっとふらふらしてきた。千里眼の使い過ぎだ。傷は大したことはない。

「梛~。鞘!」

「ああ、ありがとう」

 明日香が投げてよこしたどこかで落としてきていた鞘を、祐真が受け取った。梛の右手は刀を握り、二の腕をえぐられた左腕がうまく持ち上がらなかったのだ。ついでに刀を納めてくれた。

「ありがとう」

「いや」

 左手に刀を持つ。後始末を始めた『陽炎』と『朧』を見ながら、祐真が言った。

「お前、調書書かなきゃならないんじゃないか」

「たぶんね……千里眼・水鏡も使ったし、境界も切っちゃったからね」

「やっぱりお前だったか」

 途中で妖魔が湧き出なくなったから不思議だったんだ、と祐真。ちゃんと気づいていたらしい。


 ふと、梛の右手が動いた。その手は祐真の腰の刀に伸びる。柄をつかんだかと思うと一気に引き抜き、祐真の顔のあたりに向かって突き出す。彼はそれを首を傾けることでよけた。

「何してんだ、お前ら!」

 慌てたように弘暉が叫び、律子がその隣でドン引きしていたが、梛が祐真の刀で突き刺したものを見ると眉をひそめた。

「……烏?」

「妖魔か……?」

 律子と弘暉の言葉である。よけなければ婚約者に突き刺されていたであろう祐真は、彼女が初めから自分の背後の烏を狙っていたことをわかっていた。

「使い魔や式に近い気がするな。東海林しょうじならわかるんじゃないか」

 祐真が言うので、『朧』に渡しておくことにする。

 梛は気づいたのだ。あの烏は『視て』いた。一連の戦闘も見ていただろう。そのうえで、祐真ではなく梛を狙っていた。心当たりはないわけではないが。


「おーい、全員、明日本部に出頭だってさ!」


 『陽炎』の隊員に言われ、梛も祐真も弘暉も、いやそうな顔をした。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


律子兄・弘暉参戦。

ちなみに、梛は制服のスカートにシャツにスニーカーで刀持ってます。ネクタイとブレザーはなしです。個人的に洋装に刀の組み合わせは好きですが、女子・制服・刀と来ると、「BLOOD+」と「刀使の巫女」でしょうか。残念ながら、梛さんはセーラー服ではありません。ていうか、セーラー服が壊滅的に似合わなさそうです。


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