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力の限り【2】











 梛が晴季を初等部に送り届け、高等部の方へ回り込むと、何やら風紀委員が男子生徒と言い争いをしていた。よく見ると、涼介だった。

「おはよう。どうかしたの?」

「ああっ。水無瀬さんも!」

 そう言って風紀委員が指をさすのは梛がしょっている竹刀袋である。二人とも剣道部ではない。つまり。


「真剣ですよね? さすがに持ち込み禁止です!」


 いや、確かに校則ではそうなっていた気もする。覚えてないけど。

「だから許可が出てるんだって! 水無瀬もなんか言え!」

 助けを求めて涼介が梛を呼ぶが、まあ、風紀委員に許可証を見せても困るだけだろうな、と思った。誰か先生を呼んできてほしい。


「ちょっと待てぇええ!」


 梛の願いが通じたのかわからないが、後者の方から教師が一人かけてきた。白衣を着た物理教師の古澤(ふるさわ)である。彼は風紀委員の肩に手を置くと、言った。


「いいから、この二人、そのまま通してやって。じゃないと、俺が死ぬ! まじめに! 過労死するから!!」


 先生が言うとシャレになりません、と風紀委員はツッコミ、不承不承ながらも梛と涼介を通してくれた。古澤はほっとしたように言う。

「いや、よかった助かった。水無瀬がいてくれないと、俺が指揮とらないといけないんだよ」

「しれっと私に押し付けようとしてません?」

「『陽炎』での立場はお前の方が上だろ。いやー、助かった……」

 重倉さんに感謝! と、古澤は梛と涼介がうっかり殺意を抱きかけた重倉に感謝をささげていた。


 古澤は物理教師であるが、『陽炎』の隊員でもある。涼介と近い予備役で、最近は休みの日などに駆り出されることもあるらしく、まさしく過労一歩手前なのだそうだ。

「おはよう……」

 なんとなく朝から疲れを覚えた梛は、がらっと教室のドアを開けた。おはよう、と帰ってくる。

「校門でやりあってたね」

 明日香が面白そうに言った。律子も首をかしげて「古澤先生が走って行きましたけど」と言う。

「やりあってたわけではないけどね。真剣持ち込み不可だってさ」

 と言いながら梛は刀の入った竹刀袋を下ろす。明日香がええ~と机に伸びる。

「許可出たの? いいなぁ。あたしも槍を持ち込みたい!」

 明日香も『陽炎』の予備役ではあるのだが、まだお呼びがかかっていないらしい。涼介と比べれば、確かにちょっと危ない感じはする。

「でも、盗まれませんか?」

 律子がちょっとずれたところを心配している。物珍しさに手を出す人間はいるだろう。しかし。

「盗難上等。すべて刀の情報が登録されているから、質にでも流れたら一発でわかるからね」

 このご時世なので、武器類はちゃんと管理されているのだ。盗難・紛失・破損はすべからく始末書行きである。


「でも、真面目な話、それだけ危ないってことだよね。律子、早く帰らないとだめだよ」


 明日香の言葉に、律子が不安そうな表情になる。

「この前、姉が腕の骨を折って帰ってきたんです。兄も、連日出動しているし……梛ちゃんも、無理しちゃだめです」

「うん。ありがと」

 梛は微笑んでうなずいたが、明日香は「え、何の話?」と首をかしげている。そういえば、彼女は予備役で、直接かかわりがないから知らないのか。

「律子ちゃんの家、有名な某剣術道場だからね」

「剣術? 待って、武宮……って、そうなの?」

「あ、はい」

「何それ行きたい」

 明日香が真顔で言った。武宮家は、ちょっと名の知れた剣術道場である。『陽炎』の隊員を多く輩出しているという意味で。

「ええっと。今度遊びに来ますか」

「行く行く! ね、梛」

「そうだね。お邪魔しようかな」

 明日香と梛が言うと、律子はほんわりと微笑んだ。


「遊びに来るって、なんだかお友達みたい」


 その言葉に、同時に「友達でしょ」と返したところで、予鈴が鳴った。















 梛や涼介が真剣を持って登校するようになって数日。すでに二人=真剣しょってるみたいな感じで慣れてきた。だが、一つ言う。平日の夜に連日妖魔を追って、朝起きて授業を受けて魔法実習を行うのは、結構きつい。『朧』に早くこの妖魔大量出現の謎を解いてもらわねば。


 午後の授業、半分眠りかけていた梛だが、急に目を見開いた。古典の授業だったのだが、先生も気づいたようで説明をやめた。

「どうしたのかしらね~」

 のんびりと古典教師が言った。窓側の席にいた梛はおもむろにしゃがんで竹刀袋から刀を取り出す。そのまま教室の後ろのドアに向かうと、足でドアを開けて抜刀した。踏み込みが浅くて、そこにいた四足歩行の魔獣を倒せなかった。代わりに梛の背後から術による斬撃が飛んできて、ひらりとよけた。それは梛が斬り切れなかった魔獣の首を落とす。

「ありがとう、柊君」

「こ、これっきりだからな! たまたま目について、僕の目の前だった、それだけだからな!?」

 半泣きでツンデレのようなことを言われた。その奥で古典教師が「避難するので、ついてきてね」と言っている。あまり混乱がないのは、こういう事態を一応想定していること、そして、この魔法学校に入学するような人間は、おおむね肝が据わっているものが多いからだ。泣いている翔や怖がっている律子も、やるとなればちゃんと動ける。

 結局、翔は避難しなかった。廊下で魔獣を斬っている梛についてきて、途中の非常階段で別れた。ここは二階だ。梛は窓から飛び降りる所存だが、翔はさすがに無理だと階段を駆け下りていった。

 手近の窓をがらりと開けると、顔を突っ込もうとしてきた妖犬を蹴り飛ばす。そのまま二階から飛び降りた。飛び降りた先は高等部の校門前だ。車が乗り入れられる、広めの空間となっているそこで、すでに数人が妖魔と戦っていた。


「遅いぞ、水無瀬!」


 やっぱり白衣姿の古澤が両手に双剣を持ちながら叫んだ。うん。

「先生はそのままお願いします。二人以上で対処して。基本的に校舎に背を向けて戦って」

 てきぱきと梛はお互いを斬りあわないように指示を出す。それから自分も妖魔を斬りにかかる。数だけ多いが、それほど強くはない。そうしていると、裏からジャージ姿の涼介がやってきた。体育の授業中だったらしい。

「水無瀬、なんだこれ、どういうことだ!」

「いや、私が聞きたい」

 後で調査してもらうしかない。今はとにかく、襲ってくる妖魔を倒す。それだけだ。


 ガァ、と首の三つある大きな犬のような妖魔が火を吐いた。とっさに梛は水の斬撃を繰り出す。続いて別の首が嵐のような風を吐き出し、体重の軽い梛はあえなく吹っ飛んだ。身構えたが、地面にぶつかる前に止まる。

「大丈夫か?」

「あ、祐真さん」

 『陽炎』が到着したらしく、ジャケットを羽織った祐真が梛を受け止めていた。ありがとう、と礼を言って離れる。

「悪いが、俺たちはこのまま中等部の方へ回る。すぐに第二陣が来るから、それまで耐えてくれ」

「了解した」

 事務連絡を済ませ、祐真からインカムだけ受け取るとそこで別れた。インカムを装着してスイッチを入れる。オペレーターの声が聞こえるが。

「何? 雑音がひどい!」

 梛が叫ぶが、オペレーターに通じない。よし、後で祐真を殴ろう。ちゃんと確認してからもってこい。


 気づけば、明日香や律子が参戦していた。やる気のある明日香より、若干挙動不審な律子の方が危なげがない。だが、二人一緒にいる限りは大丈夫だろうと判断し、梛は先ほど仕留め損ねた三つ首の犬を倒しに行った。

「なーぎー!」

 明日香の声だ。彼女と律子が援護とばかりに両側から突きを放たれる。梛はその隙に二つの首を落とした。

 と、着地した瞬間梛は振り返ってその剣をはじいた。制服を着た生徒だ。ネクタイの色が違うので、同級生ではなさそうだが。


「待って待って、違うんです!」


 という割には梛に斬りかかってくる。操られているのだろうか、と目を凝らした。糸などで操られているようではない。動きが妙なので、本人の動きをトレースしているわけでもなさそうだが。

 ひとまず、みぞおちに掌底を入れて吹き飛ばす。背後から振りかぶられた槍をさばき、身をひるがえして腹に剣の柄を叩きこんだ。二人とも地面に伏す。

「水無瀬!」

「こちらは大丈夫だ。任せろ」

 そう言いながら梛は向かってきた相手に裏拳を叩きこんでいる。声をかけた涼介は、これは大丈夫だな、と思った。むしろ自分のことで精いっぱい。生徒をかばいながら戦っている梛の方がおかしいのだ。再び背後から襲われそうになり、梛は刀を構えた。

「ぎゃあ! わざとじゃないから斬らないでぇ!」

 同級生が悲鳴を上げた。今まさに梛を斬ろうと腕を振り上げていた。梛は右手で刀を振るった。峰打ちである。さすがに衝撃で気絶した同級生の背中のあたりに目を凝らす。千里眼の感度を上げれば、『縁』のようなものが見えた。刀を振るい、それを斬る。手ごたえがあった。


「……なるほど」


 物理的につながっているわけではないが、『線』はつながっているようだ。電波のようなものだ。普通は斬れない。だが、梛なら切れる。というか、彼女以外に斬れるという人間に会ったことがない。概念上成立していれば、大体のものが斬れる。それが梛の能力の一つである。この能力が原因で、国際魔法連盟に連れて行かれそうになったこともあるくらい珍しいらしい。

 原理に気づいたのでさくさくと斬って回ったが、再び結ばれると動き出すのできりがない。大元を斬ったほうが早い。一人の操られている先生の『線』をたどって。

「……あいつか」

 ちょうど、明日香と律子が相手をしている、短足四足歩行の魔獣だった。明日香と律子がうまく気を引いているので、ここで梛が斬れば一発だ。ただ、胴が太いので術を上掛けする。構えられた刀に水流が現れ、それが魔獣に打ち付けられようとした。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。



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