女神のささやき・12月【8】
今日は祐真視点です。
祐真に抱きしめられたまま眠りに落ちた梛を見て、弘暉が尋ねた。
「那樹姫の記憶、だと思うか」
「おそらく」
うなずいたのは依織だ。祐真は布団に梛を寝かせてやりながら尋ねる。
「では、梛が鳴山城跡で聞いた『警告』は那樹姫のものか?」
「それは……どうだろうな」
依織が難しい表情で腕を組んだ。
「雷が落ちた、という証言がある以上、あの山にいわゆる『女神』がいるのは事実だと思う。那樹姫と呼ばれる姫君が、その山の女神である可能性はないではないが、どちらかというと、女神の加護をもつ人間のように思える」
ということは、梛が聞いた『警告』は、女神が発したもので、見た夢は那樹姫のもの。依織の推測が正しければ、那樹姫と女神は波長が近く、どちらかが梛に干渉できるのなら、もう片方も干渉できて不思議ではない。梛は精神干渉系の攻撃に耐性があるから、干渉を受けたということはよほど相性が良いのだろう。実際、祐真にも聞き取れなかった音を聞いている。
「女神がどうやって大蛇を封じたのか不明だが……那樹姫は榊を振るったんだったな。それも、梛と相性がいいだろうな」
神木に数えられる榊。海は水の集まり。どちらも梛と相性がいいだろう。
「大蛇か……性質としては木行に近いか? ただ、海にいることから考えると、龍神に近い存在なのかもな。だとしたら、水行か」
「どっちにしろ、私たちとは相性が悪いわねぇ」
弘暉と双葉は火の力が強いため、蛇神と相性が良くないだろう。山の女神はもちろん、封じることに成功している那樹姫も、その名から木行の力を持っていたと思われる。
「それに関しては、私と梛、瀬名さんで何とか出来る……かなぁ?」
珍しく依織が不安げな声を上げた。眠ったまま涙を流している梛の頭をなでながら、祐真は息を吐いた。
「生きながら食われたんだったな、那樹姫は。当時の巫女の力を持つ女性なら、俺たちより神力が強かっただろうに、そこまでしないと封じられないのか」
足を食いちぎられ、腕を食いちぎられ、頭からかぶりつかれ。それでも那樹姫は大蛇を封じることに成功している。歴史上では、大蛇を封じて力尽きたことになっているが、そうではなく、死ぬことによって完成する封印だったのだと思われた。
精神力には定評のある梛が悲鳴を上げるほどだ。怖かっただろう、痛かっただろう。そして、それくらいしなければ、大蛇を封じることができない。
「……とりあえず、朝になったら透一郎さんに報告しようぜ。あのシスコンが飛んでくるかもしれねぇけど」
「そうだな……ああ、あと、『お隠れ様』を見に行ったと言う学生も探さなければならないんじゃないか」
祐真が言うと、弘暉が思い出したように、あー、と声を上げた。
「そういえばそんな奴いたな。町ん中に住んでんだったか」
「というか、ここは町中ではないのか」
「繁華街を町中とは言わねぇだろ」
「……なるほど?」
依織が分かったようなわからないような口調で言って首を傾げた。弘暉の言うことも微妙である。横田さんが言っていた町中とは、いわゆる旧商店街があるようなところだろう。
「明日も二手に分かれるか……」
弘暉がつぶやいたときだった。眠っていたはずの梛がおもむろに身を起こした。
「梛、どうし……」
声をかけようとした祐真を。依織が押しとどめた。キン、と高い音の耳鳴りがした気がして、思わず耳を押さえる。
「嵐の日、彼は海から現れる。私の声が届くなら、どうか私の願いを聞いてほしい」
梛の声を使っているが、梛の言葉ではない。何かが憑依している。四人は梛から距離を取り、様子をうかがった。
「捕食の瞬間、ほんの一瞬、動きが止まる。彼は水の力を持つが、光に弱い。闇に生きるもの、闇の中でしか生きられない」
大蛇の化け物の話……だろうか。そういえば、梛の夢も、夜の出来事のようだった。
「闇が光に転じるとき、祈りを込めて首を切り落としなさい。体は海に流せば、いつか黄泉の国へたどり着く。頭は祈りの炎で焼きなさい。いつか、この日が来ることを」
そこまで言って、梛は目を閉じて布団に倒れこんだ。全員が梛の顔を覗き込む。祐真の眼には、ただ眠っているように見えた。
「……大丈夫そうか?」
弘暉が心配そうに尋ねる。依織は梛の顔を覗き込み、印を切って再び顔を覗き込む。
「……大丈夫だ。今は何も憑いていない」
ということは、本当に何か憑依していたのだろう。残した言葉から考えると、那樹姫か山の女神と思われるが。
「どちらかというと、『おつなき様』かしらね」
「おそらくは」
双葉の言葉に、依織がうなずいた。祐真と弘暉も同意見だった。梛の性質を考えると、その可能性が高い。
「嵐の日、彼は海から現れる、だったか? 大和海側の冬だろ? 嵐が多いんじゃないか?」
「ああ……明日の夜から嵐ね。もう今日かしら?」
双葉が兄の疑問に答える。真夜中を越えているので、今日、でいいだろう。
「夜か……闇の中でしか生きられない、と言っていたな。今日の夜、大蛇が目覚める……のか?」
祐真が確証なさげに言うと、依織が「言葉通りなら」と応えた。
「闇が光に転じるとき、は夜明けを指すんだろうな」
「夜明けまで粘れってことか……」
「俺と弘暉なら行けるか?」
祐真が弘暉を見ると、彼は顔をしかめた。
「どうだろうな。粘れるかもしれないが、さっきも言った通り、俺は大蛇と相性が悪いだろ」
「ああ……そうか。双葉もだな」
依織が気づいたように言った。大蛇は恐らく、水の気を持つが、弘暉と双葉の兄妹は火の力を持つ。これは、梛と組むときも問題になっているが、水剋火により、通常火の力は水に負けるものだ。
「……実質、私と梛、瀬名さんでやらなければならないか」
「……それは難しいんじゃないか」
思わず口をついて出た。今より霊力の強い時代に那樹姫が文字通り全身全霊でやっと封じた相手だ。どうしたものか、と思っていると、双葉が腕を組んで首を傾げた。
「でも、『祈りの炎で焼きなさい』的なこと、言ってなかった?」
「ああ、頭の話だな。体は流せって言ってたか?」
「つまり、お前たちの力もなければ倒せないと言うことなのだろう」
祐真が締めくくるように言うと、しばらくの沈黙が降りた。依織があくびをする。そういえば、深夜を過ぎているのだった。
「……寝ないか」
「同感。おい、祐真は梛を抱えて寝ろよ」
弘暉に言われて祐真はさすがに眉をひそめた。この状況でなぜ添い寝しろという話になるのか。
「ああ、それがいいかも。梛に神が降りた直後だからな。連れて行かれるかもしれない」
「……そう言うことなら」
依織の言い分は納得できたので、祐真は了承した。だが、聞いておきたいこともある。
「ちなみに、梛を抱えていても、俺に影響はないんだよな?」
梛のことは好きだし、抱えておくこともやぶさかではないが、それとこれは話が別なのである。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
少年陰〇師で主人公に高龗神が降りていた感じ……と言ってもわかる人は少ないか?
梛は巫女さんの素養があるので、神降ろしができる。




