↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/156

女神のささやき・12月【7】

通算100話!

ですが、内容がグロい!

















 夜、夕食を取ってからわざわざ出かけたのに、怪奇現象は何も起きなかった。肩透かしを食らった気分である。


「梛、マークされてない? タゲ外しってどうやればいいのかしら」


 まじめな表情で双葉が言う。夜中だが、せっかくなので女子三人で温泉に入っていた。


「いや……ゲームじゃないんだから。まあ、何か起きたら、できれば助けてね……」

「善処はする」


 こちらも真面目な表情で依織が言った。今回は本格的に神が相手のようなので、何があるかわからない。神降ろしの才能はあるものの、実際に神を降ろしたことなどない。

「ま、今は温泉でのんびりしましょ。さすがにここで神に乗っ取られないでよね」

「難しい相談だね」

 ちなみに、露天風呂だ。寒い。雪はまだ積もっていないが、時間の問題だろう。見上げると下弦の月が見えて、雪があればそれなりに風情があるだろう。寒いけど。


 依織は静かなものだが、双葉が騒ぐので梛もそれを相手にする。温泉にありがちな体重計に乗ったら、梛が一番重かった。いや、仕方がないのだが。

「梛もそう言うの気にするんだな」

「依織ちゃんみたいなほっそりした子、うらやましいと思うよ。でも、刀が振れないと困るからさ」

「理想より現実とってるわけね。でもいいじゃない。梛はシェイプアップされてる感じで」

「双葉ちゃんもでしょ」

「まあ、ありがと」

 双葉自身は弓矢使いであるが、家は剣術道場だ。剣術ができないわけではないし、午前中の山登りを見るように体力もある。今回の調査メンバーで、体力がないのは依織だけだ。


 浴衣の上に半纏を羽織る。梛と依織は袖の長さが足りていない。双葉が二人を見上げて言う。

「私、そんなに小さいわけじゃないんだけどなぁ。二人といると小さく見えるんだよね」

 双葉も女性の平均身長以上の身長があるのだが、梛と依織が長身過ぎた。依織はモデルか、というほどのスタイルである。さらに弘暉と祐真も長身なので、双葉は余計に小柄に見える。

「目の錯覚だね」

 梛は苦笑してそう言った。泊る部屋に戻ると、すでに男性陣は戻ってきていた。二人とも浴衣姿である。そして、夜食に出されたおにぎりを食べていた。

「よく食べるわね」

 双葉が兄たちを見て言った。もう深夜近い。女性陣は食べるのをやめた。水だけ飲む。

「布団、お前らが奥の部屋な」

 入口から入ってすぐのこの部屋は、布団が二組敷いてある。奥のふすまで仕切られた部屋に三組敷いてあるのだろう。双葉が「はぁい」と言って奥に向かう。

「ひとまず、今日は寝よう。私が眠い」

「賛成。作戦会議は明日でお願いします」

 間髪入れずに梛が言うと、「お前はまだ大丈夫じゃないか」と祐真が首を傾げた。

「寝られるときに寝ておく。今すぐに怪物とやらが襲ってくるなら考えるけど」

「……なるほど?」

 祐真は首をかしげてうなずいた。確実に透一郎の教えが身についている。


 どの場所で寝るかでもめた、修学旅行みたいなノリになりつつ、結局五人とも就寝した。ちなみに、梛は真ん中である。



 ふと目を覚ますと、一人で寝ていた。しかも部屋が違う。起き上がって周囲を見渡すと、時代劇で見る城の内部のようだった。寝床から出ると、単衣姿だった。衣文掛けにかけられた羽織を羽織る。


「姫君、姫君!」


 女性の声がして、口は勝手に「なんだ」と返した。戸が開く。

「か、怪物が……! 海から!」

「わかっておる。もう遅い」

 淡々と彼女は言った。動揺する――おそらく侍女だ――が目を見開いて自分の姫を見る。

「で、ですが、姫君なら……!」

「誰もわたくしの言うことを信じなかった。その結果であろう」

 そう言いながらも、姫君は怪物退治の指示を出し始める。

「あの怪物は海の生き物だ。水から離れてはさほど行動できぬ。父上のお抱え術師がいただろう。お越し願え。足止めくらいにはなるであろう」

 淡々としているが、的確な指示だ。侍女に手伝ってもらい、着替えた姫君は廊下に出る。足早に父の元へ向かうと、父にあれこれと聞かれる。


 いまさら何を、と思わないでもないが、放っておけないのも事実だ。両親も兄弟も家臣団も、誰も姫君の言うことを信じなかった。彼女は何度も警告したのだ。

 刀が通らず、矢も刺さらない。どうすればいいのだ、と慌てだす父に、姫君は言った。

「何とか、海まで押し戻してください。退治できずとも、押し戻すことは可能なはずです」

「退治できなければ意味がなかろう!」

 父――どうやら城主だ――が叫ぶが、姫君はどこ吹く風で。

「海に押し返せれば、後はわたくしが何とかいたしましょう」

 そう宣言して、姫君は明け方の海に向かった。岩場から海を眺める。

「さすがに、寒いなぁ」

 雪はまだとはいえ、冬の始めの明け方だ。寒いに決まっている。荒れた海を船で渡り、しめ縄のある大岩に乗り移った。ここまで送り届けてくれた下男が心配そうに姫君を見ている。その下男に向かって、姫君は言った。


「祠の女神を、大事に祀れ。何があっても壊したりせず、丁寧に扱え。必ず私たちを助けてくれる」


 下男は驚いたようだが、姫君が軽く手を振ると、岸の方へ船が向かって行く。彼はこれで大丈夫だろう。そばに、大きな蛇の姿がある。父の家臣団とお抱え術師は、うまく海まで誘導してくれた。


「さて」


 姫君は大蛇に向き直る。


「お前の相手はわたくしだ」


 持ってきた榊を振る。鈴もついていないのに、りん、と音がした。


 りん、りん、りん。


 榊が降られるたびに音が鳴り、清浄な気が満ちていく。そして、大蛇がこちらに気づいた。


 そう、こちらに来い。


 大蛇が大きな口を開けながら近づいてくる。大きな波が姫君を襲い、海水を飲んでしまった。冷たい、苦しい、息ができない。


 ここからは我慢比べだ。必ず、この大蛇を封じなければならない。


 さんざん、予言を否定された。馬鹿にされることもあった。父やほかの人たちに、恨みがないと言えばうそになる。それでも、彼らを見捨てることは、姫君の良心が許さないのだ。

 冷たい海水につかりすぎて感覚が麻痺してきたが、その痛みはわかった。大蛇に足を食いちぎられる。左腕が食われて、片腕で榊を振る。大蛇も体が薄れてきている。封じられようとしている。それが分かるから焦っているのだ。










 そして。









「ああぁぁぁああっ!」


 梛は悲鳴をあげながら飛び起きた。すぐに双葉が布団をはねのけて半身を起こす。

「どうしたの? ちょっと、依織!」

「……うん」

 依織は反応が鈍いが、さすがに起きたようだ。ふすまの向こうから、「大丈夫か!?」という弘暉の声が聞こえる。梛は荒い呼吸を繰り返し、自分の浴衣の胸元をつかんだ。

「大丈夫、大丈夫だ。それはお前ではない」

 依織がそう言って梛の背中をさする。双葉が男子部屋に通じているふすまを開けた。

「どうした?」

「や……なんか急に、梛が悲鳴を上げて」

 飛び起きた双葉だったが、状況を理解しているわけではなかった。祐真が梛の側に膝をつく。

「梛」

 梛ははっと顔をあげて、彼に抱き着いた。祐真も強く抱きしめ返してくれる。

「大丈夫だ、梛。俺が必ずお前を呼ぶ」

「……うん」

 梛は少し落ち着いたが、彼女の悲鳴を聞きつけた仲居さんや周囲の客室の客が集まってきたようで、弘暉と双葉が説明に出ている。落ち着いてくると、やっちまったなぁ、感がすごい。

「適当にはぐらかしといたからな」

 弘暉がそう言って戻ってくる。双葉が「一番下の子が怖い夢を見て、って説明したの」と苦笑する。当たらずとも遠からずである。


「それで、何があったか聞いても大丈夫か?」


 尋ねたのは依織だった。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


通算100話まで来てしまいました…よもやよもやですね。

梛ちゃんは今回のキーパーソンというよりは、ただの影響を受けまくっている人です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。