女神のささやき・12月【5】
通算100部ですけども、間に2回人物紹介が入っているので、正確な100話は2話後でしょうか…。
封印の大岩『お隠れ様』を見上げ、それから、梛は鳴山城跡の方を見た。千里眼で見れば、祠がこちらを向いているのが分かる。というか、思ったより距離があるな。
それから、梛は『お隠れ様』を振り仰いだ。こちらも大きい。しめ縄をして、よく見れば大岩に文字も書いてある。封じの文言のようだ。だが。
「……ここにはいない」
ぽつりとつぶやいた梛の声を、依織が聞きとがめた。くるりとその顔が梛の方へ向く。
「そうか。では、どこにいる?」
「すぐ近くに」
自分がしゃべっているのに、自分ではない感覚。勝手に言葉が出てくる。依織は「そうか」ともう一度うなずき、梛の肩を二度叩いた。すっと何かが抜けていくような感じがして、梛はバランスを崩した。見守っていた祐真が危なげなく支えた。
「ごめん。ありがとう」
「嬢ちゃん大丈夫か? 酔ったか?」
小さい船だからな、と横田が心配そうにするので、ちょっと罪悪感。船酔いではない。
「すみません。大丈夫です。ちょっとぼーっとして」
「そうか? あ、もしかして嬢ちゃん、霊能者ってやつか?」
「近いけど違います」
霊能者ではない。それに近い能力はあるので、完全否定できないが。
「ねえ横田さん。最近、私たち以外にも、そばでこの大岩を観たいとか言った、奇特な人間がいる?」
「いるぞ」
あっさりとうなずかれて、逆にぎょっとした。梛は依織と祐真と顔を見合わせる。
「それ、どんな人?」
「地元の子だよ。家はもっと町ん中だけどな。都会の大学でなんちゃらっていう研究をしてるんだって言ってたな」
大事なところがあいまいであるが、怪しい奴はわかった。誰だそいつは。
船が船着き場に戻る。お礼を、という梛に、子供からの礼は言葉だけでいい、と横田は言った。さっきから思っていたが、梛、子供だと思われている? いや、一行の中では一番年下ではあるが。
また何かあったら声をかけてくれ、と言って、横田は漁の仕込みに行ってしまった。なんだろう。普通にかっこいい。
「どうだった?」
双葉が依織に尋ねる。
「何かが封じられていたのは確かだ。けど、梛は『ここにはいない』と言ったな」
「ああ……言ったね」
勝手に口が動いた感じなので、何ともいえないが、確かに言った。
「声は梛のものだったが、響きはお前のものじゃなかったな」
「またわけのわからんことを言ってるな。つまり、何かが降りていたのか? 梛を操るってのはほぼ不可能だからな」
祐真の言葉に弘暉がツッコミを入れつつ、梛と依織に確認する。
「うーん、口が勝手に動いてる感じはしたけど」
「私も漠然と、梛ではないなと思ったんだが……」
「依織ちゃん、普通に私に話しかけてたもんね」
「梛も普通に返事をしてたな」
外野から見ていた祐真はその会話に違和感を抱かなかったらしい。だが、依織の会話の相手は『梛』ではない、とは思っていたそうだ。
「何が降りてたのかしら。『おつなき様』? それとも那樹姫かしら」
弘暉と祐真によると、那樹姫は少なくとも霊力を持っていたはずだから、名の近い梛に降りていても不思議ではないと言う。まったく縁もゆかりもないはずなのに、この辺の事象は梛と相性がいいな。
「兄さんを連れてくればよかったかな」
「まあ、城郭だの神話だの、透一郎さん向きの調査ではあるよな。ま、いないもんは仕方がない」
「そうだな……いったん宿に行かないか。状況を整理したい」
依織の提案にほか四人も賛成した。泊まるのは老舗旅館で、泊れる客数がそんなに多くない。しかし、ほぼ満室なのだそうだ。男二人に女三人の、しかも年齢にばらつきのある妙な一行が一部屋に泊まるとあって、完全に不審だったが、女将たちは笑顔で案内してくれた。訓練されている……。
「とりあえず、梛、これを」
「数珠……」
依織に渡されたのは、水晶の数珠だった。呪具の一種で、身を守る作用があるのだと言う。
「お前なら大丈夫だと思うが、念のためだ」
「……ありがと」
いろいろ言いたいことはあるが、梛のことを思ってのことなので、口をつぐんだ。浴衣を借りに行っていた双葉がそれを見て言った。
「瀬名さんと縁をつないでおいた方がいいんじゃない? 念のため」
「なるほど」
というわけで、梛と祐真で持ち物交換である。簡単な縁のつなぎ方だ。梛と祐真のブレスレット型の認識票を交換した。
「これ、取り違えられないか?」
「体格で分かるだろ」
「惨殺死体になってたらどうなるの」
「お前たち二人がそうなるとは思えない」
弘暉と依織の二人に言われ、なるほど、となった。まあ、何かあっても弘暉たちが証言してくれるだろう。たぶん。
夕食の時間までまだ時間がある。調査用のタブレットや資料を出して、状況を整理する。
「神話系と歴史系の二種類があるが、この地を襲う怪異があったこと、それを鎮めるための人柱があったこと、怪異を封じた女神もしくは姫君がいたという事実がある」
依織の言葉に異論はないので、うなずいた。多少の差異はあるが、おおむね似たような流れだった。
「鳴山城にいるのは、この女神ないし姫君。怪奇現象は、このどちらかが忠告を発しているものと私はとらえたんだが」
「封じられたはずの蛇神だか怪物だかがいないんなら、そうなんだろ」
弘暉が代表して言った。封じがはずれたことを察して、女神か姫君が警告を発しているのだ。土産屋のお姉さんが見た雷は、どちらかが降臨した証。この場合は、女神だろうか。
「その蛇神と怪物は同じものか? 女神が倒さず封じたのなら、俺たちにも倒せないな……」
祐真がおっとりお茶を飲みながら言った。その通りだ。鳴山城の怪奇現象は、警告を発している。襲われるぞ、怪物がよみがえったぞ、対策をしろと言っている。だが、普通の人にはそれが読み取れない。
「私たちはまんまとその女神様におびき出されたってわけね」
双葉が部屋に置いてある茶菓子の和紙を開きながら言った。梛も「そうだね」と苦笑する。
「知った以上、放っておけねぇしな……」
「だけど、私たちはその蛇神を確認したわけではない。私も視ていないし、祐真さんも認識してないでしょ。そう簡単に判断していいものかな」
「お前に言われると痛いな」
そう言って弘暉が苦笑した。神降ろしができ、概念的な『遠く』を見通す梛に言われると、考えも揺らぐようだ。
「だが、あの大岩には蛇神も怪物もいない。だが、封じられていた形跡はある。なら、少なくとも何かが自由になったはずだ」
「それは……そうだね」
依織の真剣な言葉に、梛はうなずく。少なくとも、自由になった何かがいるはずで、怪奇対応機密局の性質上、それを確認しない限り、帰ることができない。
「そのついでに、鳴山城のことも調べる。というか、那樹姫がどうやって怪物を封じたのか、具体的に知りたいな……」
調査リーダーの依織の決定に従う。まあ、梛もここまで調べて放り出したくはないのでうなずいた。
「わかった。依織ちゃんに従う」
「よし。では、透一郎さんに意見を聞いてみよう」
「は?」
「鳴山城がどういう城で、どうやって廃城になったのか、詳しいことを知りたい」
「ああ、そう言うこと」
いきなり透一郎に丸投げするのかと思った。透一郎なら知っていれば知恵を貸してくれる。それに、妹がいるから、という理由もあるだろう。透一郎はなんだかんだで梛に甘い。
その前に、夕食の時間が来た。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
私の作品で100部続いたのって初めてでは、と思っております。
文字数的には、初期の『LOST SPELL』が一番長いですが。




