生体なんとかシステム
スカウトライン本社を発って二日。
バート達は、宇宙海賊のアジトを目指し宇宙を飛び続けていた。
きっかけはユキの言葉である。
「バート、この機体はいつになったら頂けるのでしょうか」
「……え?」
スカウトライン本社の検問をジンの話術(と顔)で通過し一息ついたころで唐突に尋ねられバートは思わず聞き返す。
「機体、え? これ?」
「あなたの先ほどの戦闘で分かりました。あの加速感、射撃威力、姿勢制御。さぞ改造されたのでしょう。データベースのジャガーMkⅡのスペックとは比べ物になりません。私に使われるに値します」
「いや、使われるに値するって……え?」
「それで、いつ頂けるのでしょうか」
一方的に話すユキ。
無機質な声質と合わさり若干怖い。
真剣な表情を見ると冗談でないのが分かりなお怖い。
バートは顔が引きつるのを抑えられなかった。
「悪いがこいつは何度も命を預けた相棒だから「私の方が上手く使えますよ」やる訳にはってえ?」
何回間抜けに「え?」って言うんだよとバートは自分に突っ込むが、ユキを相手にしていると何故か頭が弱くなってしまう。
これも人形としての機能の一つなのだろうか。
話をする相手をバカにさせる能力って何の意味があるんだろうか?
そんな現実逃避の思考を進めるバートに構わずユキは続ける。
「私なら機体を自分の身体のように操れます。貴方より効率的な戦闘が可能ですよ」
淡々とした口調は自分の意見の正しさを疑っていないようであった。
この発言にはバートも現実に引き戻される。
「傭兵稼業で飯を食べてる人間を前に随分言ってくれるじゃないか」
思わず相手が自分より年下の少女だということを忘れ言い返してしまう。
しかしユキは怯むどころか
「事実です。不満なら証明して見せましょう」
と言い放つ。
「そういえばユキちゃん、ここから少し行ったところに宇宙海賊のアジトがあるから潰してほしいって依頼がスカウトラインに来てたよ」
並走していたジンの機体から面白がったような声が通信されたことで、一行の進路は決まったのであった。
ピピッ。
登録されていない機体からの通信を知らせるウィンドウがモニターに表示される。
ユキはバートが何か言うよりも早くその通信を許可して、開口一番に
「賊の方ですよね?」
と尋ねる。
「は? あ、あぁそうだ。俺はこのあたり一帯を仕切る『流星団』のもんだ。分かってんなら「では貴方にも流れ星になっていただきましょう」金をってえ?」
やっぱり「え?」って言っちゃうよね。
バートが名も知らぬ相手に共感している間に、ユキは機体を敵機の目前まで近づけ殴りかかっていた。
更に敵機の顎に回し蹴りを叩きこみ頭部を吹き飛ばす。
もちろん相手も反撃を試みているが、そのことごとくをユキは受け止め、回避していた。
堪らず相手は距離をとり立て直そうとしたが、逆にそのスペースを使い加速したジャガーMkⅡの蹴りでコアを砕かれ吹っ飛んでいった。
「流れ星一丁あがりです」
慣性でどこまでも飛んでいく敵機を眺めたユキがいつもと全く変わらない調子で言った。
ブースターに頼った直線的な動きではない、滑らかな動きで相手を圧倒したユキ。
(……自分の身体のように、か)
一連の操縦を見て、バートの傭兵としての冷静な部分は既にユキの力量とそのカラクリを察していた。
「ユキ、ジンと闘ってみてくれないか」
頭のスイッチが入ったバートは、先ほどまでより静かな、低い声で言う。
ユキは一瞬何か言おうとしたが、続くバートの言葉に言葉を詰まらせる。
「ジンは遠距離戦が専門だ」
「……」
うつむき黙り込むユキ。
「あれ、ユキちゃんどうしたの?」
ジンが再び通信してくる。
パーティー登録されたジンの機体には、こちらの会話が筒抜けなのだ。
「恐らくユキは、機体の情報処理回路に直接アクセス出来るんだ。そうだろ?」
バートはユキに尋ねる。
「……」
沈黙を肯定と受け取ったバートはジンへの説明を続ける。
「ユキの身体には無線モジュールが搭載されているんだろう。俺たちがレバーやらなんやらで伝えてる命令を、ユキは直接コンピュータに流し込めるってわけだ。その結果、ユキには機体が自分の身体のように感じられるって寸法さ」
「それであの動きか。あんな人間らしい動きををするBAは初めてみたよ」
「だがこのシステムは万能じゃない。さっきユキがお前との対戦を避けたのは」
「待って!」
そこでユキはバートの言葉を遮った。
「私から言います。このシステム――生体電子操縦システムといいます――は私を育てた研究機関で開発されて、試験的に私に搭載されました。メカニズムの大枠はバートの言った通りです。そしてこのシステムは機体の操作性を高めるだけで、パイロットの操縦技術そのものに干渉しているわけではありません。つまるところ、私に出来ないことを機体にさせることは出来ません」
「? それがどうして僕との対戦を避ける理由になるんだい?」
「お前馬鹿か?」
少女にさえ口調を変え優男を気取るジンに若干キレながらバートが言う。
「馬鹿ってなんだよバート」
「お前一般人が宇宙で離れた相手に弾当てられると思うか」
「まさか。ほんの少しの角度のズレも宇宙じゃ大きな距離になるから相手に当たるコースで撃つだけで一苦労だ。まともに銃撃戦が出来るようになるのは傭兵でもBランクからってバートも知ってるだろ」
「じゃあ相手の撃った弾避けるのはどうだ」
「実弾ならともかくビーム兵器は無理だろ」
「……なんでユキがお前と闘えると思ったんだよ」
「確かにwww」
何だこいつ。
ジンの性格が最近読めなくて困惑するバートは、一旦ジンを放置することに決めた。
パーティー設定を解除し、通信を閉じる。
「それで、何でこんな事言い出した?」
生体……なんとかシステムの限界はユキ自身が最もよく理解しているはずだ。
そもそも自分に助けを求めてきた時点で、ユキの戦闘能力がバートたちより劣ることは明らかだ。
あの格闘技術は大したものだが、本職のバートに及ぶようなほどではない。
バートには正直、ユキの意図が全く分からなかった。
「……」
ユキが小さく何か言う。
聞き取れなかったバートが首をかしげると、今度はもう少し大きな声で
「三時の方角……敵中隊……」
「なにっ!」
慌ててレーダーを確認すると、確かに幾つもの光点がこちらに接近してきていた。
よく見ればジンも武装の展開を進めていた。
うかつに通信を切ったことを後悔しながらも、バートも戦闘準備を始めた。
「敵は例の流星団だろう。せっかくの機会だ。俺が頼りがいのある男だってことをしっかり見せつけてやろう」
「俺たちが、な!」
バートが許可したことでジンの機体と再び通信がつながる。
(ユキの気持ちを確認するのはあいつらを片付けた後だ)
バートはブースターを吹かし敵集団に突っ込んでいった。
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字等見つけられた方は、お知らせくださると幸いです。
明日から学校行事がありpcに触れなくなってしまいます。
なんとか時間を見つけてスマホで執筆してみますが、明々後日まで投稿できないかもしれません。
ご迷惑をおかけしますが、お待ちいただけると幸いです。




