「残された道」
装置の中枢は静かに沈黙していた。
蓮たちは崩れかけた壁の隙間から外の様子を窺った。
「保安部隊、完全に撤収したみたいだな」
クロが言った。
「妙な話だ」
ゼノンが険しい表情で呟いた。
「あの仮面の人物が去った途端、全員が引いた」
蓮は険しい表情で辺りを見渡した。
「まるで命令が撤回されたみたいな引き際だった」
「命令、というか」
クロが呟いた。
「あの仮面の人物の存在自体が絶対的な命令みたいなものだったのかもな」
ルシアが端末で周囲の状況を確認しながら言った。
「今のうちに離脱しましょう。いつまた戻ってくるかわからない」
「そうだな」
蓮は頷いた。
蓮はカインを見た。
「これからどうするつもりだ」
「わからない」
カインは静かに答えた。
「評議会に逆らった以上、私はもう安全な立場にはいられない」
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ルシアが兄の隣に座り込んだ。
「一緒に来て」
「お前たちの敵だった男をそう簡単に受け入れられるのか」
カインが聞いた。
「敵だったのは過去の話よ」
ルシアは静かに言った。
「今は同じものと戦おうとしている」
蓮も頷いた。
「お前の力が必要になる場面がこれからあるかもしれない」
カインはしばらく黙り込んだ後小さく息を吐いた。
「妙な誘いだな」
彼は静かに言った。
「だが断る理由もない」
ゼノンがその会話に加わった。
「俺も同じだ。もう戻る場所はない」
「随分と潔いな」
カインは彼を見た。
「あなたに言われたくない」
ゼノンは短く答えた。
その言葉にカインは小さく笑った。
「違いない」
蓮はその様子を見ながら静かに思った。
かつての敵同士が、今は同じ場所に立っている。
その光景に、確かな希望を感じた。
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一行は装置の中枢を後にし、来た道を戻り始めた。
崩れかけた通路を進みながら蓮は静かに考え込んでいた。
評議会という存在の輪郭が確かに見え始めていた。
だがその正体はまだ深い霧の中にあった。
「父が守ろうとしたもの、少しずつわかってきた気がする」
彼は低く呟いた。
ルシアが隣で頷いた。
「私たちの父も同じ道を歩いていた」
二人はしばらく無言のまま歩き続けた。
背後を歩いていたクロがカインに声をかけた。
「怪我はないか」
「意外だな」
カインは僅かに目を細めた。
「お前に心配される日が来るとは」
「敵でも味方でも、怪我人を放っておく趣味はない」
クロは短く答えた。
カインは小さく笑った。
「変わった連中だ、本当に」
その声には皮肉ではなく確かな安堵が滲んでいた。
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隠れ家に戻ると灯たちが真っ先に駆け寄ってきた。
「無事だったんですね」
灯は涙ぐみながら兄に抱きついた。
「心配かけたな」
蓮は妹の頭を撫でた。
エマが緊張した面持ちでカインを見た。
「彼は」
「事情がある」
蓮は静かに説明した。
「今は味方だと思ってくれ」
タクマが驚いた表情を浮かべたがすぐに冷静さを取り戻した。
「詳しい話を聞かせてください」
ローレンが医療キットを持ってきた。
「怪我の確認をさせてください。全員」
「頼む」
蓮は答えた。
ローレンは一人ずつ丁寧に確認していった。
「幸い、大きな怪我はないようです」
「よかった」
灯が安堵の息を漏らした。
ミナが遠くから様子を窺っていた。
「お兄ちゃん、無事でよかった」
彼女は静かに歩み寄った。
ゼノンは小さく頷いた。
「心配かけたな」
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その夜全員が円卓に集まり装置中枢での出来事を共有した。
タクマが険しい表情で言った。
「評議会が蓮さんの父親を『均衡を乱す個体』として監視していたということですね」
「そういうことになる」
蓮は答えた。
エマが端末を確認しながら言った。
「今後、評議会が直接動いてくる可能性が高いということですね」
「その通りだ」
ゼノンが低く言った。
「あの使者の力、正直計り知れない」
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ジェイクが装置から回収したデータを展開した。
「装置は完全に停止しました。ですが評議会側のバックドアが残っている可能性があります」
「対策は」
蓮が聞いた。
「時間をかけて解析すれば、遮断できるはずです」
ジェイクは答えた。
灯が静かに全員を見渡した。
「これで少しは休める時間ができるでしょうか」
『油断はできませんが一つの区切りにはなったと思います』
ミオが静かに言った。
エマが険しい表情で付け加えた。
「それに、私たちにはもう一人の元関係者が加わりました」
彼女はカインを見た。
「装置を知り尽くした人間の視点は、貴重な戦力になるはずです」
カインは僅かに苦笑した。
「元敵に、随分と期待するものだな」
「使えるものは使う。それだけです」
エマは淡々と答えた。
その言葉にカインは小さく笑った。
「悪くない考え方だ」
蓮は仲間たちの顔を見渡した。
ルシアがカインの隣に座りながら静かに言った。
「これから、父の残した証拠を一緒に探しましょう」
「証拠、か」
カインは静かに繰り返した。
「私も、その存在については聞いたことがある」
蓮は身を乗り出した。
「本当か」
「詳細は知らない」
カインは首を振った。
「だが評議会が今も探し続けているものがある、という話は聞いたことがある」
「その証拠が、評議会にとって都合の悪いものだということか」
蓮は低く呟いた。
「おそらくな」
カインは答えた。
タクマが真剣な表情でメモを取った。
「新たな手がかりですね」
「少しずつ、着実に前進している」
蓮は静かに言った。
ローレンが端末を閉じながら言った。
「今夜はゆっくり休みましょう。明日からまた忙しくなります」
「そうだな」
蓮は頷いた。
灯がそっと兄の隣に来た。
「今日は、本当に無事でよかったです」
「心配かけたな」
蓮は妹の頭を軽く撫でた。
「明日からも、よろしく頼む」
灯は微笑んだ。
「はい」
新たな戦いの始まりを確かな覚悟と共に迎えようとしていた。
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第93話 完




