「中枢の攻防」
警報が鳴り響いた。
天井の照明が赤く点滅し始めた。
「侵入者を検知したようだな」
カインが静かに言った。
「増援が来る」
その言葉と同時に周囲の通路から保安部隊が姿を現した。
「囲まれたか」
クロが武器を構えた。
「数は」
「十を超える」
ゼノンが冷静に前へ出た。
「俺が抑える。お前たちは制御盤を頼む」
クロが隣に並んだ。
「一人じゃ無理だろう。俺も残る」
「助かる」
ゼノンは短く答えた。
二人は背中を合わせるように構えた。
「蓮、ルシア、行け」
クロが叫んだ。
「制御盤はあっちだ」
蓮は頷きルシアと共に構造物の奥へと走った。
保安部隊の一部が追おうとしたがゼノンとクロがその進路を塞いだ。
「ここは通さない」
ゼノンが低く言った。
保安部隊の隊員の一人が叫んだ。
「ゼノン隊長、なぜ我々に刃を向けるのですか」
「お前らを傷つけたくはない」
ゼノンは静かに答えた。
「だが、俺の道はもう決まった」
隊員は戸惑いながらも武器を構え直した。
「命令には従うしかありません」
「それも、一つの生き方だ」
ゼノンは低く言った。
「だが俺は、もう命令だけでは動かない」
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ルシアが端末を接続し操作を始めた。
「起動している。急がないと」
蓮はカインへ向き直った。
「装置を止めさせてもらう」
「止められるものならな」
カインは静かに答えた。
彼は動く様子を見せなかった。
「戦わないのか」
蓮が聞いた。
「戦う意味があるとは思えない」
カインは低く言った。
「私が止めようと止めまいと、評議会の意思は変わらない」
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保安部隊が一斉に攻撃を仕掛けてきた。
ゼノンが前に出て応戦した。
「かかってこい」
彼の動きは以前より鋭さを増していた。
クロもその隣で武器を振るった。
「加勢する」
二人は連携しながら次々と敵を無力化していった。
蓮はカインに向き直った。
「なぜ抵抗しない」
「抵抗したところで結果は変わらない」
カインは静かに答えた。
「評議会の力は、私が想像していたよりも遥かに大きい」
蓮は険しい表情でカインを見つめた。
「それでも、俺たちは止めに来た」
「止められると、本気で思っているのか」
カインは静かに聞き返した。
「思っていなければ、ここには来ない」
蓮は答えた。
「勝算のない戦いに飛び込む男か」
カインは僅かに口の端を上げた。
「勝算は自分たちで作る」
蓮は静かに言い切った。
その言葉にカインはしばらく沈黙した。
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ルシアが制御盤に向かって声を上げた。
「アクセス、成功したわ」
画面に複雑な回路図が展開された。
「でも、外部からのロックがかかっている。これを解除しないと」
「時間はかかるか」
蓮が聞いた。
「わからない。慎重にやらないと暴走させてしまう」
ルシアは真剣な表情で作業を続けた。
カインがその様子を見つめていた。
「無駄なことを」
彼は静かに呟いた。
ルシアは手を止めずに答えた。
「無駄かどうかは、私が決める」
彼女は画面に集中しながら続けた。
「兄さんに指図される筋合いはない」
カインは僅かに眉を動かした。
「随分と強くなったな」
「あなたがいなくなってから、強くならざるを得なかっただけよ」
ルシアは静かに言い返した。
その言葉にカインは何も答えなかった。
蓮は二人のやり取りを見ながら静かに口を挟んだ。
「兄妹喧嘩は後にしてくれ。今は装置を止めることが先だ」
「わかっている」
ルシアは端末に集中したまま答えた。
カインが小さく息を吐いた。
「相変わらず、口の減らない妹だ」
「あなたに似たのかもね」
ルシアは画面を見つめたまま短く答えた。
その軽いやり取りに、蓮は僅かに緊張が緩むのを感じた。
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「無駄かどうかは、やってみないとわからない」
蓮は言った。
彼はカインに向かって一歩踏み出した。
「お前は本当に、それでいいのか」
「何が言いたい」
カインが聞き返した。
「評議会の言いなりになるだけの人生で、満足なのか」
カインの表情が僅かに揺らいだ。
「お前に何がわかる」
彼は低く言った。
「私は最初から、選べる立場になかった」
蓮はその言葉に何かを感じ取った。
「詳しく聞かせてくれ」
彼は静かに言った。
カインはしばらく黙り込んでいた。
「幼い頃から、私は評議会の監視下に置かれていた」
彼はやがて口を開いた。
「拒否権など、最初から与えられていなかった」
「それが、装置を作った理由か」
蓮は聞いた。
「装置は私が望んだものじゃない」
カインは静かに答えた。
「命じられて作らされた道具に過ぎない」
その告白に蓮は言葉を失った。
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背後で戦闘の音が激しさを増していた。
ゼノンとクロが敵の数を減らしていく中、新たな増援が奥から現れた。
「まだ来るのか」
クロが息を切らしながら言った。
ゼノンが鋭く周囲を見渡した。
「終わりが見えない」
蓮は焦りを感じながらもカインから目を離さなかった。
「選べなかった、というのはどういう意味だ」
「今は説明している時間がない」
カインは静かに言った。
彼の視線が装置の奥へと向けられた。
「時間がない、というのは本当だ」
ルシアが叫んだ。
「起動シーケンス、始まってる」
蓮は振り返った。
「止められるか」
「わからない。でもやるしかない」
ルシアは端末に向かって必死に指を動かした。
装置全体が低い唸りを上げ始めた。
床が微かに振動した。
「急げ」
蓮は叫んだ。
背後で戦闘を続けるゼノンとクロにも緊張が走った。
「様子がおかしいぞ」
クロが振り返りながら言った。
ルシアが端末に向かって叫んだ。
「ロック解除まであと少し。持ちこたえて」
「わかった」
蓮は答えカインへともう一度視線を戻した。
「お前が命じられていただけなら、今からでも協力してくれ」
「今さら何を」
カインは低く言った。
「命じられて生きてきた人生の途中で、抵抗する術など私は持っていない」
「それでも、まだ選べるはずだ」
蓮は言った。
「装置を止める手伝いをするだけでいい」
カインはその言葉にしばらく沈黙した。
装置の光がさらに強さを増していた。
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第91話 完




