「出発前夜」
装備の最終確認が終わったのは深夜近くだった。
ローレンが工房の明かりを落としながら言った。
「これで全員分揃いました」
「よくやってくれた」
蓮は答えた。
明日、装置の核心部を目指す最後の作戦が始まる。
ゼノンの案内があれば、これまで届かなかった深部にも到達できるはずだった。
「メンバー編成を確認しよう」
蓮は円卓に地図を広げた。
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「潜入班は俺、クロ、ゼノン、ルシア」
蓮は言った。
「タクマとジェイクは通信解析を継続しながら後方支援。エマとローレンは装備と補給を担当する」
「灯とミオは」
灯が尋ねた。
「お前たちには国際仲裁機関との連携を頼みたい」
蓮は静かに言った。
「装置が本当に起動した場合、外部からの対応も必要になる」
灯は少し不満そうな顔をしたがすぐに頷いた。
「わかりました」
『私たちもできる限りのことをします』
ミオが静かに言った。
エマが通信機材を確認しながら言った。
「連絡は常時繋げておきます。何かあれば即座に共有してください」
「頼りにしている」
蓮は答えた。
ローレンが装備箱を一つ一つ確認した。
「静音装備、防振材、光学迷彩、全て予定通りです」
「ありがとう」
蓮は頷いた。
タクマが端末を見せながら付け加えた。
「装置周辺の最新の警備データもまとめておきました。侵入経路の参考にしてください」
「助かる」
蓮は資料に目を通した。
準備は着実に整いつつあった。
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タクマが険しい表情で口を開いた。
「装置のエネルギー値、依然として上昇を続けています」
「時間はどれくらい残っている」
蓮が聞いた。
「正確にはわかりません。ですが猶予は多くないと思われます」
「明日決行だ」
蓮は言った。
「一日でも遅らせるべきじゃない」
クロが頷いた。
「異存ない」
ゼノンも静かに頷いた。
「奥までの経路は俺が把握している。任せてくれ」
ルシアが地図の一点を指した。
「装置の核心部、ここまで到達できれば起動を止める手段が見つかるかもしれない」
「手段とは」
蓮が聞いた。
「制御システムへの直接アクセス。上手くいけば、外部からの命令を遮断できるはず」
ルシアは静かに続けた。
「確証はないけど、試す価値はある」
ジェイクが頷いた。
「俺もその案に賛成だ。データ上、制御系統には物理的な接続端子が残っている」
「よし」
蓮は地図を見つめながら言った。
「その方針で行こう」
タクマが最後に一つ質問した。
「もし止められなかった場合の想定も、しておくべきでしょうか」
会議室が一瞬静まり返った。
「そうだな」
蓮は静かに言った。
「起動してしまった場合は、灯とミオに任せる。国際仲裁機関を通じて世界中に警告を発してもらう」
灯が真剣な表情で頷いた。
「わかりました」
「最悪の想定をしておくことも、必要な備えだ」
蓮は静かに続けた。
「だが、俺たちは止める前提で動く」
全員がその言葉に強く頷いた。
会議は静かに終わった。
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夜が更けた頃蓮は一人外に出た。
星の見えない夜空を見上げていると足音が近づいてきた。
灯だった。
「兄さん」
彼女は静かに隣に立った。
「眠れないのか」
「兄さんこそ」
灯は微笑んだ。
「明日のこと考えていたんですね」
「ああ」
蓮は正直に答えた。
「今度の相手はこれまでとは違う。装置だけじゃなく、評議会という得体の知れない存在もいる」
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「怖くないんですか」
灯が尋ねた。
「怖いさ」
蓮は静かに答えた。
「でも退くという選択肢は俺にはない」
灯はしばらく黙り込んだ。
「私もいつか兄さんの隣で戦えるようになりたいです」
「今も十分戦っている」
蓮は言った。
「お前の言葉がどれだけ多くの人を動かしてきたか。それも立派な戦い方だ」
灯は目を潤ませた。
「ありがとうございます」
二人はしばらく無言のまま夜空を見上げていた。
「明日、必ず戻ってきてくださいね」
灯が静かに言った。
「約束する」
蓮は答えた。
「戻ったら、また一緒に食事をしよう。何も気にせず、普通の話をしながら」
「楽しみにしています」
灯は微笑んだ。
その笑顔が蓮の胸に温かく染み込んだ。
ミオがそっと二人に近づいてきた。
『蓮、少しだけいいですか』
「どうした」
蓮は振り返った。
『装置の中枢に近づいた時、私の力が何か役に立つかもしれません』
ミオは静かに言った。
『レイヤー・ゼロで得た感覚が、まだ残っています』
「頼りにしている」
蓮は答えた。
「だが無理はするな。灯と一緒に、後方の守りを固めてくれ」
『わかりました』
ミオは頷いた。
「行ってくる」
彼は静かに呟いた。
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翌朝出発の時間が来た。
隠れ家の前に全員が集まった。
「絶対に無事に戻ってきてください」
灯が三人を見送った。
「約束する」
蓮は答えた。
ルシアが静かに彼の隣に立った。
「行きましょう」
「ああ」
クロが軽く肩を回した。
「今度こそ決着をつけるぞ」
ゼノンが先頭に立ち隠れ家を出発した。
「案内する」
彼は静かに言った。
「今度は俺が先を照らす番だ」
蓮たちはゴーストタウンの薄闇の中を進み始めた。
浮遊居住区へと繋がる道の先にこれまでで最大の試練が待っていた。
歩きながらクロが静かに口を開いた。
「緊張しているのか」
「少しな」
蓮は正直に答えた。
「お前は」
「俺も似たようなものだ」
クロは小さく笑った。
「でも、お前と組んでいれば何とかなる気がする」
ルシアが二人の会話を聞きながら微笑んだ。
「頼もしいコンビね」
「伊達に長い付き合いじゃない」
クロは答えた。
ゼノンが前方を見据えたまま静かに言った。
「無駄話はここまでにしよう。ここから先は集中が必要だ」
一同は表情を引き締め歩みを進めた。
決戦の朝が静かに幕を開けようとしていた。
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第89話 完




