「解読された手紙」
翌朝ジェイクが目を血走らせながら全員を集めた。
「手紙の解読が終わった」
彼は端末を掲げた。
「差出人はわかったのか」
蓮が身を乗り出した。
「イニシャルだけだが『K・K』とある」
ジェイクは慎重に言った。
「工藤という名字、それに蓮の父親の下の名前は」
「賢一だ」
蓮は答えた。
「工藤賢一」
ジェイクは頷いた。
「一致するな」
ローレンが端末を覗き込んだ。
「宛先はヴェスパー氏、差出人が蓮の父親。二人の間に確かな交流があった証拠ですね」
「思っていた以上に深い関係だったみたいだな」
クロが呟いた。
タクマが慎重に付け加えた。
「手紙の日付を見る限り、亡くなる直前まで頻繁にやり取りしていたようです」
蓮はその日付を見つめた。
自分がまだ幼かった頃の記憶と重なる時期だった。
「父がそんなことをしていたなんて、想像もしていなかった」
彼は静かに呟いた。
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ルシアが息を呑んだ。
「じゃあ、これは本当に蓮のお父さんが書いた手紙だったの」
「ほぼ間違いない」
ジェイクは答えた。
「内容を読み上げる」
彼は静かに手紙の文面を映し出した。
「『ヴェスパー殿。評議会の監視網について、ようやく理解が及んできた。彼らは均衡を口実に都合の悪い研究や存在を排除しようとしている』」
蓮は拳を握りしめた。
「父は評議会と対立していたのか」
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ジェイクは次の一文を読み進めた。
「『私は娘のために抵抗する道を選ぶ。息子にはまだこの重荷を背負わせたくない』」
灯が息を呑んだ。
「娘、というのは私のことですか」
「おそらくな」
蓮は静かに答えた。
「父は俺たちを守ろうとしていた」
タクマが低く言った。
「ですが結果的にお父様は亡くなってしまった」
「カインに殺された」
蓮は険しい表情で言った。
「評議会との対立がその理由の一つだったのかもしれない」
エマが険しい表情で言った。
「もし本当にそうなら、あなたのお父さんは危険を承知で戦っていたことになります」
「そうだな」
蓮は静かに頷いた。
「そして俺は、その戦いの続きを知らずに生きてきた」
灯がそっと兄の隣に立った。
「知らなかったのは、兄さんのせいじゃないです」
「わかっている」
蓮は答えた。
「でも今は知ってしまった。だから、続きを引き継ぎたい」
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ルシアが震える声で言った。
「私の父も同じように動いていたのかもしれない」
「二人は共に評議会に抵抗しようとしていた、ということか」
蓮は言った。
ジェイクがさらに別の手紙を表示した。
「もう一通ある。日付はもっと後のものだ」
彼は文面を読み上げた。
「『カインが評議会の使者と接触した。もう時間がない。証拠を残しておく』」
蓮は険しい表情でその文字を見つめた。
「証拠、というのは」
「わからない」
ジェイクは首を振った。
「手紙自体にはそれ以上の詳細は書かれていない」
ルシアが日誌のページを再確認した。
「破られたページ、もしかしたらその証拠に関する記述だったのかもしれない」
「あり得るな」
蓮は頷いた。
「だとしたら、誰かが証拠の存在を知られたくなかったということになる」
タクマが慎重に言葉を選んだ。
「カイン自身が処分した可能性もあります」
「あるいは評議会の手の者か」
クロが低く呟いた。
「どちらにせよ、証拠が今も残っているとは限らない」
蓮は険しい表情で言った。
「それでも、探す価値はある」
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エマが腕を組んだ。
「その証拠とやらを探せば、評議会の正体にもっと近づけるかもしれません」
「屋敷にはもう他に手がかりはなさそうだった」
クロが言った。
「別の場所を探す必要があるかもしれない」
タクマが端末を確認した。
「父の研究データが保管されていた施設、いくつか心当たりがあります」
「頼む」
蓮は言った。
「並行して調べてくれ」
ミオが静かに口を開いた。
『装置の起動が近いなら、証拠探しと並行して居住区への作戦準備も進めるべきです』
「その通りだ」
蓮は頷いた。
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その日の午後マリアから連絡が入った。
「国際仲裁機関としても評議会に関する情報を独自に集め始めています」
彼女の声には緊張が滲んでいた。
「ただ、正直なところ手探りの状態です。これほど大きな組織が水面下に存在していたとは」
「俺たちも同じです」
蓮は答えた。
「情報は共有します。お互いに協力しましょう」
「ありがとう、蓮さん」
マリアは静かに言った。
「あなたたちの動きが世界の均衡そのものを左右するかもしれません」
その言葉の重みが蓮の胸に深く刻まれた。
通信を終えた後蓮はしばらく端末を見つめていた。
「世界の均衡、か」
彼は静かに呟いた。
灯が心配そうに彼を見た。
「重すぎませんか、その言葉」
「正直、重い」
蓮は正直に答えた。
「でも、逃げるつもりはない」
ミオが静かに寄り添った。
『一人で背負う必要はありません。私たちがいます』
「ああ」
蓮は小さく頷いた。
「わかっている」
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夜になり全員が装備の最終調整に取り掛かった。
ローレンが装備箱を開けながら言った。
「新しい防振材、無事に間に合いました」
「ありがとう」
エマが受け取りながら答えた。
ゼノンが自分の装備を確認しながら言った。
「今度こそ、居住区の奥まで案内する」
「頼りにしている」
蓮は答えた。
ルシアが静かに彼の隣に立った。
「父の手紙、まだ信じられない気持ちもある。でも同時に少しだけ救われた気もする」
「救われた?」
蓮は聞き返した。
「父も無意味に諦めていたわけじゃなかったから」
ルシアは静かに言った。
「あなたのお父さんと同じように」
蓮はその言葉に静かに頷いた。
真実が少しずつ形を持ち始めていた。
決戦の時は確実に近づいていた。
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第88話 完




