「均衡の記録」
隠れ家に戻った四人をエマたちが迎えた。
「無事で何よりです」
灯が真っ先に駆け寄った。
「収穫はありましたか」
「予想以上にな」
蓮は答えた。
タクマが持ち帰ったデータを端末に展開した。
画面には無数の図表と文字列が並んでいた。
「解析を進めます」
ジェイクが即座に作業に取り掛かった。
ローレンが撮影された機械室の映像を確認した。
「マナ均衡観測室、という名称が気になります」
「均衡という言葉、随分と頻繁に出てきますね」
エマも画面を覗き込んだ。
「単なる研究施設の名前とは思えません」
蓮は険しい表情で腕を組んだ。
「何かの思想か理念のようなものかもしれない」
「思想を掲げる組織、というのは厄介です」
タクマが静かに言った。
「利害だけなら交渉の余地もありますが」
「理念となると話は違ってくる、ということか」
蓮は低く呟いた。
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しばらくしてジェイクが画面を指した。
「均衡、という言葉が繰り返し出てきます」
彼は資料の一部を拡大した。
「『均衡の維持こそが評議会の存在意義である』とあります」
ルシアが息を呑んだ。
「父の日誌と同じ言葉だわ」
「偶然じゃないな」
蓮は険しい表情で言った。
タクマが別の資料を示した。
「これを見てください。世界各地のマナ濃度と知性体の活動を常に監視しているようです」
「監視の目的は」
エマが尋ねた。
「均衡を崩す要因を早期に察知するため、と読み取れます」
タクマは静かに続けた。
「つまり俺たちのような存在もその監視対象に含まれているということです」
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ローレンが険しい表情で言った。
「監視対象に俺たちの名前があったんですよね」
「灯の名前もあった」
蓮は静かに言った。
灯の表情が強張った。
「私も見られているんですね」
『心配しないで』
ミオが灯の隣で静かに言った。
『どんな目的があろうとあなたは一人じゃない』
灯は小さく頷いた。
「ありがとう、ミオ」
蓮は妹の肩に手を置いた。
「必ずお前を守る」
「兄さん」
灯は目を潤ませながら微笑んだ。
タクマがさらに画面を操作した。
「他にも監視対象のリストがあります。国際仲裁機関の関係者や各国の要人も含まれているようです」
「かなり広範囲な監視網だな」
クロが呟いた。
「世界規模、というべきかもしれません」
タクマは静かに続けた。
エマが険しい表情で言った。
「これが本当なら、評議会は一企業を遥かに超えた存在ということになります」
「想像していたより大きな相手のようだ」
蓮は低く言った。
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ジェイクがさらに解析を進めた。
「気になるデータがもう一つあります」
彼の表情が険しくなった。
「装置の内部エネルギー値、この二日間で緩やかに上昇しています」
「起動の兆候か」
蓮が身を乗り出した。
「断定はできませんが可能性は高いです」
ジェイクは頷いた。
「休眠状態から抜け出しつつある、ということかもしれません」
タクマが慌てて自分のデータと照らし合わせた。
「観測室で見た記録とも整合します。マナ濃度の変動が装置周辺で顕著に見られました」
「外部からの働きかけ、ということか」
蓮は低く呟いた。
「評議会がカインの装置を動かそうとしている……?」
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ルシアが青ざめた表情で言った。
「もしそうなら、悠長に構えていられない」
「時間との勝負になってきたな」
クロが険しい表情で言った。
ゼノンが腕を組んだ。
「カインの様子も気になる。奴自身が望んで動かしているのか、それとも別の意思に従わされているのか」
「どちらにせよ」
蓮は言った。
「俺たちが止めるべき対象は変わらない」
エマが端末を操作しながら言った。
「マリアさんにも至急連絡します。国際仲裁機関としても動いてもらう必要があるかもしれません」
「頼む」
蓮は頷いた。
ルシアが日誌を取り出しページをめくった。
「父の記述にはもう一つ気になる部分がある」
彼女は該当箇所を読み上げた。
「『均衡を乱す個体は排除の対象となる。工藤の息子は特に注視すべきだ』」
蓮は息を呑んだ。
「俺のことか」
「生まれた時から、あなたは既に評議会に目を付けられていたのかもしれない」
ルシアは静かに言った。
「無能者として育てられたのも、もしかしたら」
彼女は言葉を濁した。
「評議会の目から逃れるためだった、ということか」
蓮は低く呟いた。
胸の奥で何かが繋がっていくような感覚があった。
父が能力を封じた本当の理由。
それは単なる庇護ではなく、もっと深い意味を持っていたのかもしれない。
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タクマが疲れた表情で椅子に座り込んだ。
「休む間もありませんね」
「悪いな」
蓮は言った。
「いや」
タクマは首を振った。
「俺もこれが終わるまでは休むつもりはありません」
ローレンが飲み物を配りながら言った。
「無理はするなよ。倒れたら意味がない」
「わかっています」
タクマは苦笑した。
ミオが静かに全員を見渡した。
『装置が動き出す前に私たちが動かなければなりません』
「その通りだ」
蓮は頷いた。
「次の作戦を練ろう。ゼノンの協力があれば、居住区の奥まで届くはずだ」
ゼノンは静かに頷いた。
「今度こそ、最後まで付き合う」
クロが装備箱を運びながら言った。
「準備は俺たちに任せろ。お前は情報の整理に集中してくれ」
「助かる」
蓮は答えた。
ローレンも頷いた。
「装備は最速で仕上げます。二日あれば十分でしょう」
「頼む」
蓮は仲間たちの顔を見渡した。
それぞれの表情に確かな決意が宿っていた。
夜が更ける中、隠れ家には新たな緊張感が満ちていった。
灯がそっと兄の隣に座った。
「兄さん、大丈夫ですか」
「ああ」
蓮は静かに答えた。
「色々と繋がってきた気がする。でもまだ全部は見えていない」
「一緒に見つけましょう」
灯は微笑んだ。
「どんな真実でも、兄さんなら向き合えると思います」
蓮はその言葉に少しだけ肩の力を抜いた。
「頼りにしている」
均衡という言葉の裏に潜む真実へ一行は確実に近づいていた。
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第87話 完




