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「旧発電所」

旧発電所は廃墟のように見えたが地下には確かな気配があった。


蓮とルシア、クロ、エマの四人が排水路から侵入した。


「センサー、生きてるな」


エマが小型端末で確認した。


「間隔を見極めれば抜けられる」


四人は暗闇の中を慎重に進んだ。


ラムから提供された図面が頼りだった。


「この先に管理区画があるはずです」


ルシアが小声で言った。


---


管理区画の扉は電子ロックで守られていた。


クロが解析端末を接続した。


「少し時間がかかる」


「見張りは」


蓮が周囲を警戒しながら聞いた。


「今のところなし」


エマが答えた。


やがてロックが解除される音がした。


「開いた」


四人は音を立てずに中へ入った。


内部は簡素な収容施設のようだった。


並んだ扉の奥に人の気配があった。


壁には管理番号が並んでいるだけで名前の表示はなかった。


「非公式施設らしいやり方だな」


クロが小さく舌打ちした。


エマが端末で電力使用量の記録を確認した。


「使用中の部屋は三つだけ。絞り込める」


「急ごう」


蓮は言った。


ルシアが図面と照らし合わせながら先導した。


「この区画の奥、二番目の扉だと思う」


四人は足音を殺しながら進んだ。


途中でクロが足を止めた。


「待て、何か聞こえる」


全員が動きを止めた。


微かな話し声が壁の向こうから聞こえてきた。


「見回りの職員だ」


エマが小声で言った。


「人数は」


蓮が聞いた。


「二人、いや三人か」


クロは耳を澄ませながら答えた。


「奥の部屋に用があるみたいだ。こっちには来ない」


しばらく待つと声は遠ざかっていった。


「今のうちだ」


蓮は言った。


四人は再び慎重に進み始めた。


---


「ここです」


ルシアが一つの扉の前で立ち止まった。


小さな窓から中を覗くと若い女性が座っていた。


「間違いない」


蓮が緊張した声で言った。


「ゼノンの妹だ」


クロが扉のロックを解除しようとした瞬間警報が鳴った。


「まずい。センサーに引っかかった」


「急げ」


蓮が言った。


扉が開き女性が驚いた表情でこちらを見た。


---


「あなたたちは」


彼女は警戒した声で言った。


「兄の知り合い、と言えば信じてもらえますか」


ルシアが優しく言った。


「時間がありません。助けに来ました」


女性は一瞬迷ったが頷いた。


「わかりました」


四人は彼女を連れて通路を戻り始めた。


だが警報を聞きつけた警備兵が集まり始めていた。


「囲まれる」


エマが叫んだ。


「別ルートだ」


蓮が別の通路を指した。


---


走る途中で一つの人影が立ちはだかった。


「ゼノン」


蓮が息を呑んだ。


彼は警備兵たちの前に立ち塞がっていた。


「お前たち、ここで何をしている」


ゼノンの声は鋭かった。


「お前の妹を助けに来た」


蓮ははっきりと言った。


「妹の名前はミナ、だろう」


その名を聞いてゼノンの表情が固まった。


「なぜそれを」


「調べた。お前が誰にも言えなかった事情も知っている」


蓮は静かに言った。


「もう一人で抱え込む必要はない」


---


ゼノンは背後にいる妹を見た。


「ミナ」


「お兄ちゃん」


彼女は震える声で言った。


「私は大丈夫。この人たちが助けてくれた」


ゼノンの目に迷いが浮かんだ。


背後で警備兵たちが武器を構え始めていた。


「どうする」


クロが低く聞いた。


ゼノンはしばらく沈黙した後警備兵たちに向き直った。


「お前ら下がれ」


「ゼノン隊長、しかし」


「命令だ」


彼の声には有無を言わせぬ強さがあった。


---


警備兵たちが戸惑いながら道を空けた。


「今のうちに行け」


ゼノンは低く言った。


「時間は稼ぐ」


「お前はどうする」


蓮が聞いた。


「俺はまだここに残る」


ゼノンは短く答えた。


「妹が安全な場所に行くまでは動けない」


ルシアが口を挟んだ。


「連絡先を渡しておくわ。準備ができたらいつでも合流して」


ゼノンは一瞬躊躇したが小さく頷いた。


「考えておく」


四人はミナを連れて脱出路へと走った。


背後でゼノンが警備兵たちを引きつける声が響いていた。


暗い通路を抜けながらミナが小さく声を上げた。


「足が」


「大丈夫か」


蓮が振り返った。


「捻っただけです。動けます」


彼女は歯を食いしばりながら答えた。


クロが彼女の腕を支えた。


「無理するな。俺が支える」


「すみません」


ミナは小さく頭を下げた。


「気にするな」


クロは前を向いたまま答えた。


四人は速度を落としながらも歩みを止めなかった。


途中エマが後方を確認しながら言った。


「追っ手は」


「今のところない」


クロが答えた。


「ゼノンが本当に抑えているみたいだな」


ルシアが息を切らしながら言った。


「あの人、根は本当に真面目なのよ」


「今わかったよ」


クロは短く答えた。


蓮は前方を見据えたまま走りながら呟いた。


「早く安全な場所まで連れて行かないと」


「もう少しよ」


ルシアが答えた。


「排水路の出口まであと少し」


ミナが息を切らしながら口を開いた。


「兄は昔から、そういう人でした」


彼女は静かに続けた。


「自分を犠牲にしてでも、周りを守ろうとする」


蓮はその言葉に何も返さず前を見据えたまま走り続けた。


排水路を抜けると外の空気が一気に流れ込んできた。


---


地上に出ると夜明けが近づいていた。


「無事に出られたな」


クロが息を吐いた。


ミナは震えながら周囲を見渡した。


「本当に、助かったんですか」


「大丈夫」


ルシアが優しく肩を抱いた。


「もう安全な場所に連れていくから」


蓮は振り返り旧発電所の建物を見つめた。


ゼノンがまだあの中にいる。


「あいつ、ついてきてくれるといいが」


「時間をかけてでも」


エマが言った。


「信じて待つしかないな」


ルシアがミナに向き直った。


「ひとまず安全な場所に案内するわ。それから、お兄さんのことも一緒に考えましょう」


ミナは深く頭を下げた。


「本当にありがとうございます」


「礼はゼノンが合流してから聞く」


クロが小さく笑った。


「まだ肝心なところが残ってるからな」


蓮は静かに頷いた。


朝日が廃墟の街を薄く照らし始めていた。


エマが端末を確認しながら言った。


「隠れ家に連絡しておきます。医療キットの準備も頼んでおいた方がいいですね」


「ミナの足のことか」


蓮が聞いた。


「念のためです」


エマは端末を操作しながら答えた。


ミナはクロに支えられながら小さく笑った。


「皆さん、本当に手際がいいんですね」


「慣れているからな」


クロは短く答えた。


新たな希望と共に一行は隠れ家への道を急いだ。


---


第84話 完

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