「痕跡を辿れ」
隠れ家の空気は重かった。
カインとの通信が切れてからしばらく誰も口を開かなかった。
「まずは情報を整理しよう」
蓮が沈黙を破った。
「評議会。カインの父との因縁。ゼノンの妹。手がかりは三つある」
タクマが端末を開いた。
「評議会については社内記録の断片しか見つけられていません」
彼は画面を全員に向けた。
「役員会議の議事録に一度だけ名前が出てきます。『評議会の承認を得るまで計画は保留』という一文だけです」
エマが眉を寄せた。
「それだけ?」
「それだけです」
タクマは頷いた。
「承認する側の存在があるということは、カインより上位の権力構造がある可能性が高い」
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ジェイクが別の端末を操作しながら言った。
「装置の制御系統を解析した結果を報告する」
彼は画面にログを表示した。
「外部との通信履歴が複数見つかった。宛先は暗号化されているが定期的に発信されている」
「頻度は」
蓮が聞いた。
「一定間隔だ。まるで定時報告のように」
ジェイクは腕を組んだ。
「誰かに、あるいは何かに、状況を報告している可能性がある」
ローレンが静かに口を挟んだ。
「報告先を突き止められれば評議会の実体に近づけるかもしれません」
「時間はかかるが試す価値はある」
蓮は頷いた。
「暗号方式は」
「独自規格だ」
ジェイクは首を振った。
「市販の解析ツールでは歯が立たない。時間をかけて総当たりするしかない」
「どれくらいかかる」
「早くて三日、遅ければ一週間」
彼は肩をすくめた。
「並行して別の手も探ってみる」
タクマが付け加えた。
「装置の設計図には妙な余白がある。物理的な拡張スペースのようなものです」
「拡張スペース」
蓮が眉を寄せた。
「まだ何かを組み込む余地があるということか」
「断言はできませんが可能性はあります」
タクマは真剣な表情を浮かべた。
「装置がまだ完成形ではないとしたら厄介です」
蓮は険しい表情で腕を組んだ。
「もし本当に拡張の余地があるとしたら、何を組み込むつもりだったんだろうな」
「想像したくない可能性もあります」
タクマは声を落とした。
「例えば、より広範囲に作用する仕組みだとか」
エマが息を呑んだ。
「それは、最悪のシナリオね」
「あくまで可能性の一つです」
タクマは慎重に付け加えた。
「断定はできません。だからこそ、早く実態を掴む必要があります」
蓮は頷いた。
「引き続き頼む」
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ルシアが窓辺で腕を組んでいた。
「父の遺品を調べてみる」
彼女は振り返った。
「父は評議会について何か知っていたはず。書斎に残された資料があるかもしれない」
「危険じゃないか」
蓮が眉を寄せた。
「屋敷はもう企業の管理下にあるだろう」
「表向きはね」
ルシアは薄く笑った。
「でも私名義の私室だけは手つかずのはず。父が生前私に残した場所だから」
「一人では行かせられない」
蓮は言った。
「クロと一緒に行ってくれ」
クロが軽く頷いた。
「異存ない」
「二人とも気をつけて」
灯が心配そうに言った。
「屋敷の警備状況、事前に調べられる範囲で調べておきます」
タクマが申し出た。
「助かる」
ルシアは頷いた。
「表向きの警備配置は把握しているけど、最近の変更点までは分からないから」
タクマは端末を操作し古い巡回記録を呼び出した。
「これを参考にしてください。多少は役立つはずです」
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灯がタクマの隣で資料を覗き込んでいた。
「ゼノンの妹のことも調べないと」
彼女は静かに言った。
「彼、ずっと苦しんでいたはずです」
タクマは頷いた。
「企業の人事記録には彼女の名前がない。つまり非公式に拘束されている可能性が高い」
「非公式ということは」
「表に出せない場所にいるということです」
タクマは端末を操作した。
「ジャンク・ギルドの伝手を使えば非公式の収容施設の情報も追えるかもしれません」
ミオが静かに言った。
『ラムに協力を頼めば道が開けるかもしれない』
蓮は頷いた。
「よし。手分けしよう」
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灯は端末を握りしめたまま少し俯いた。
「ゼノンさんは私たちを何度も見逃してくれました」
彼女は静かに言った。
「今度は私たちが助ける番だと思います」
タクマが穏やかに頷いた。
「同感です。彼がいなければサナは今頃どうなっていたか」
「恩を返す、というやつだな」
蓮が小さく笑った。
「悪くない動機だ」
ミオが灯の隣で静かに続けた。
『ジャンク・ギルドの流通網なら非公式施設の物資搬入記録も追えるはず』
「ラムに連絡してみます」
灯は端末を操作し始めた。
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役割分担が決まった。
ルシアとクロは父の遺品調査へ。
タクマとジェイクは評議会の通信解析とジャンク・ギルドとの連携。
灯とミオは国際仲裁機関との対話継続とゼノンの妹に関する非公式情報の収集。
蓮とエマ、ローレンは居住区侵入の再計画を担当することになった。
「カインは次の潜入がこれまで以上に困難になると言っていた」
蓮は言った。
「準備は入念にやる必要がある」
エマが頷いた。
「装備の見直しから始めよう」
彼女は倉庫の棚を開けた。
「静音仕様のブーツは前回で消耗した。新しい素材を試したい」
「ローレン、心当たりは」
蓮が聞いた。
「ジャンク・ギルドの倉庫に使えそうな部品があります」
ローレンは端末で在庫リストを表示した。
「防振材と光学迷彩の欠片。前回よりも滞在時間を延ばせるはずです」
「入手できるか」
「ラムに頼めば」
ローレンは小さく笑った。
「借りは多いが、まだ貸しもある」
エマが腕を組んだ。
「侵入経路も変える必要がある。同じ保守用通路は警備が固められているはず」
「別の経路を探す」
蓮は頷いた。
「ルシアが戻ってきたら屋敷の資料と合わせて検討しよう」
ローレンが装備箱を運びながら言った。
「今回は予備の通信機も多めに用意しておきます。前回は途中で電波状況が不安定になりましたから」
「頼む」
蓮は答えた。
エマが装備リストにチェックを入れながら言った。
「防振材が届き次第、すぐに組み込みます。時間との勝負ですね」
三人は黙々と装備の点検に取りかかった。
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会議が終わりそれぞれが動き出した。
蓮は一人窓の外を見つめた。
「あの男、というのは多分あなたのお父さんのことよ」
ルシアの言葉が頭から離れなかった。
父の記憶は多くが封じられたままだった。
無能者として育てられた日々の裏に何が隠されていたのか。
カインとの因縁とは一体何なのか。
「焦っても仕方ない」
彼は自分に言い聞かせた。
「一つずつ潰していくしかない」
窓の外ではゴーストタウンの廃墟が夕闇に沈み始めていた。
新たな戦いの輪郭が少しずつ見え始めていた。
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第81話 完




