「中枢への道」
隠れ家に戻った三人をエマたちが出迎えた。
「無事で良かった」
灯が真っ先に駆け寄った。
「兄さん、肩の傷は」
「かすり傷だ」
蓮は答えた。
「心配ない」
エマが医療キットを取り出し手早く手当てを始めた。
「詳しい状況を聞かせてください」
蓮は装置の映像とゼノンとの遭遇について、順を追って説明した。
灯は真剣な表情でその話に耳を傾けていた。
「ゼノンさんの妹さん、そんな事情があったんですね」
「知らなかった」
蓮は答えた。
「知っていたら、もっと早くに違うやり方があったかもしれない」
ローレンが腕を組んだ。
「今から動いても遅くはない」
「そうだな」
蓮は頷いた。
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「装置は休眠状態、か」
ジェイクが端末に情報を打ち込みながら言った。
「持ち帰った映像データ、詳しく分析してみる」
クロが撮影した映像を全員で確認した。ジェイクは装置の構造を細かく解析していった。画面には複雑な回路図が次々と展開されていった。
「妙な点がある」
彼はしばらくして呟いた。
「装置の制御系統、単独で完結していない。どこか外部と繋がっている痕跡がある」
「外部とは」
蓮が身を乗り出した。
「わからない。だがカイン一人の意思だけで動いているとは思えない構造だ」
ローレンが画面を覗き込んだ。
「通信履歴も残っていますか」
「ある」
ジェイクは頷いた。
「暗号化されているが、定期的に発信されているログが見つかった」
「解析にはどれくらいかかる」
蓮が聞いた。
「独自規格のようだ。時間がかかる」
ジェイクは首を振った。
「だが手がかりとしては十分に有力だ」
エマが端末を操作しながら言った。
「発信のタイミングを見ると、何かの報告のような規則性がある」
「定時報告、ということか」
蓮は険しい表情で呟いた。
「そう考えるのが自然だと思う」
エマは答えた。
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タクマが自分の端末を開いた。
「実は俺も気になっていたことがあります」
彼は資料を並べた。
「企業の意思決定に関する記録を調べていた時、時々出てくる言葉がありました。評議会、という単語です」
「評議会?」
エマが聞き返した。
「カインより上位の存在、ということか」
蓮が険しい表情で言った。
「断定はできません」
タクマは慎重に答えた。
「ですがカインでさえ従っているような記述が断片的に残っていました」
彼は資料の一部を拡大表示した。走り書きのようなメモに「評議会」の文字が確かに刻まれていた。
「これが本当なら、俺たちの相手はカインだけじゃないということになります」
蓮は険しい表情でその文字を見つめた。
「奥が深そうな話だな」
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ルシアがその言葉に反応した。
「その話、聞いたことがあるかもしれない」
全員の視線が彼女に集まった。
「父が生きていた頃、時々口にしていた。自分たちの上にも更に大きな意思がある、と」
「詳しく聞かせてくれ」
蓮は言った。
「詳しくは知らない」
ルシアは首を振った。
「でも兄が誰かに報告しているような素振りを見せたことは何度かあった。相手が誰なのか、私にもわからない」
蓮は腕を組んだ。
「厄介な話になってきたな」
エマが険しい表情で端末を操作した。
「評議会という組織について、これまでの取材でも一度だけ聞いたことがあります。ただ噂の域を出ませんでした」
「もう少し詳しく調べられないか」
蓮は尋ねた。
「リチャードたちにも協力を仰いでみます」
エマは答えた。
「今回の件、国際仲裁機関にも共有すべきかもしれません」
「マリアさんにも伝えておこう」
蓮は言った。
ローレンが心配そうに口を挟んだ。
「評議会が本当に上位の存在だとしたら、下手に刺激するのは危険じゃないか」
「その通りだ」
蓮は頷いた。
「だからこそ、まずは正体を見極める必要がある」
エマが真剣な表情で言った。
「情報を集める段階では慎重にいきましょう。相手の全貌が見えないうちに動くのは無謀です」
「同感だ」
蓮は答えた。
「焦って動いて足元をすくわれるのは避けたい」
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「装置を止めるだけじゃ、終わらないかもしれないということですね」
灯が不安そうに言った。
『それでも一つずつ進むしかありません』
ミオが静かに言った。
『目の前の敵から確実に対処していきましょう』
蓮は頷いた。
「そうだな」
彼はルシアを見た。
「ゼノンの妹の件、調べられそうか」
「あなたたちの情報網を借りられれば」
ルシアは答えた。
「私の記憶にある管理システムの特徴と照らし合わせれば、絞り込めるかもしれない」
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「ジェイク、頼めるか」
蓮は聞いた。
「任せろ」
ジェイクは頷いた。
「ルシアの情報とこちらのデータベースを突き合わせてみる」
タクマも協力を申し出た。
「俺も心当たりのある施設リストを提供します」
彼は端末を開き記憶にある限りの情報を書き出していった。
「完全な記憶じゃありませんが、少しでも役に立てば」
「十分だ」
ジェイクは答えた。
「情報は多いに越したことはない」
灯がそっと飲み物を用意して回った。
「休憩も必要ですよ」
彼女は微笑みながら言った。
「ありがとう、灯」
タクマが受け取りながら答えた。
「こういう時こそ根を詰めすぎないようにしないとな」
ミオが静かに付け加えた。
『無理をして倒れては、元も子もありません』
「わかってる」
ジェイクは苦笑した。
「だが、この機会を逃す手はない」
ルシアも自分の端末に手がかりを整理していった。三人は夜遅くまで作業を続けた。
クロが差し入れの飲み物を配りながら言った。
「無理するなよ。倒れたら元も子もない」
「わかっている」
ジェイクは短く答えた。
作業は夜遅くまで続いた。少しずつだが装置の向こうにある大きな謎の輪郭が見え始めていた。
蓮は窓の外、遠く霞む浮遊居住区の光を見つめた。
「奥は深そうだな」
彼は静かに呟いた。
「だが退くつもりはない」
灯がミオと共に蓮のそばに来た。
「兄さん、今日はもう休んでください」
「もう少しだけ」
蓮は答えた。
「明日からのことを考えておきたい」
灯は心配そうな表情を浮かべた。
「無理はしないでください」
「わかっている」
蓮は微笑んだ。
『装置の謎も評議会の謎も、必ず私たちで解き明かします』
ミオが静かに言った。
灯もその言葉に頷いた。
「一緒に乗り越えましょう」
蓮は二人の顔を見て、少しだけ肩の力を抜いた。
「ああ。頼りにしている」
新たな謎が絶対者との対決の先に横たわっていた。それでも一歩ずつ、確実に真実へと近づいていた。
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第79話 完




