「評議員代表」
数日後ローレンの工房に一台の古い車両が横付けされた。
護衛らしき数人を伴い一人の老人が降りてきた。仕立ての良い上着を纏い杖を突いている。だが足取りは力強かった。白髪は短く刈り込まれ眼光には長年の経験を感じさせる鋭さがあった。
「工藤蓮さんだね」
老人は静かに言った。
「私がラムだ」
蓮は身構えたまま彼を見つめた。
「評議員代表本人が来るとは思わなかった」
「使いを立てるだけでは伝わらないこともある」
ラムは答えた。
「特にこういう込み入った話はな」
護衛たちは車両のそばで待機した。工房の中に入ったのはラム一人だった。
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工房の円卓を挟みラムと蓮が向き合った。クロとローレンが背後に控えていた。
「単刀直入に言おう」
ラムは口を開いた。
「ジャンク・ギルドの中に企業と密かに手を組む一派がいる」
「やはりか」
蓮は低く言った。
「規模はどれくらいだ」
「決して小さくはない」
ラムは重い口調で答えた。
「深層の物資流通を握る一部の商人たちだ。企業との取引で利益を得てきた者たちが今回の対立激化を快く思っていない」
「利益のために俺たちを裏切るということか」
クロが忌々しげに言った。
「裏切りというほど単純でもない」
ラムは首を振った。
「彼らにとっては生活がかかっている。企業との取引を絶てば糧を失う者も出る」
ローレンが腕を組んだ。
「人の生活を人質にしているという点では企業のやり方と変わらないな」
「厳しい見方だが否定はしない」
ラムは静かに答えた。
蓮は彼の表情を注意深く観察した。嘘をついている様子は見受けられなかった。だが全てを話しているとも思えなかった。
「あなたも、板挟みなんだろうな」
蓮は静かに言った。
ラムは僅かに目を見開いた。
「わかるのか」
「立場は違うが似たようなものだ」
蓮は答えた。
「大切なものを守るために苦しい選択を続けている。それだけは伝わってくる」
ラムはしばらく黙り込んでから小さく笑った。
「若いのに、よく見えている」
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「では代表はどちら側なんだ」
蓮は率直に聞いた。
ラムはしばらく沈黙した。
「私はギルド全体の存続を第一に考えている」
彼は静かに答えた。
「企業の独占が続けばいずれギルドも飲み込まれる。それは避けたい」
「だから俺たちに協力すると」
「協力とまでは言わない」
ラムは慎重に言葉を選んだ。
「だが少なくとも妨害はしないと約束しよう」
蓮はその言葉の重みを測るように彼を見つめた。
「内部の一派についてはどうする」
「私が抑える」
ラムは答えた。
「時間はかかるだろうがこれ以上の暴走は許さない」
クロが低く唸った。
「言葉だけなら誰でも言える」
「その疑いは当然だ」
ラムは頷いた。
「証明する機会をくれれば見せよう」
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「一つ聞きたい」
蓮は続けた。
「その一派を率いているのは誰だ」
ラムの表情が僅かに曇った。
「まだ確証がない」
「確証がなくても疑いはあるはずだ」
蓮は食い下がった。
ラムは長い沈黙のあと口を開いた。
「評議員の中に内通している者がいる可能性がある」
「評議員……」
ローレンが息を呑んだ。
「あなたの側近の中にか」
「そうだ」
ラムは苦々しく認めた。
「だからこそこの話は慎重に進める必要がある。証拠もなく糾弾すればギルド内部が分裂する」
「それで俺たちに何を求める」
蓮が聞いた。
「時間をくれ」
ラムは言った。
「私自身の手で内部の問題を片付けたい」
エマが端末に記録を取りながら尋ねた。
「私たちにできる協力はありますか」
「今はまだない」
ラムは答えた。
「動きが見えた時に、また頼ることになるだろう」
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蓮はしばらく考え込んだ。
「わかった」
彼は答えた。
「だが手遅れになる前に必ず動いてくれ」
「約束する」
ラムは頷いた。
彼は杖を突きながら立ち上がった。
「もう一つ伝えておきたいことがある」
彼は蓮を見据えた。
「あなたたちの戦い方悪くないと思っている。力ではなく言葉で世界を変えようとする姿勢は私も見習うべきものかもしれない」
「買いかぶりすぎだ」
蓮は答えた。
「まだ何も終わっていない」
「それでもな」
ラムは微かに笑った。
彼は懐から小さな端末を取り出し蓮に手渡した。
「緊急時の連絡手段だ。私の直通回線に繋がる」
「助かる」
蓮はそれを受け取った。
彼は護衛を伴い車両へと戻っていった。車両が走り去る音が工房に静かに響いた。
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車両が去った後クロが長く息を吐いた。
「食えない爺さんだったな」
「食えないが嘘は言っていない気がする」
ローレンが言った。
エマが端末に会談の内容を記録しながら呟いた。
「評議員の中に内通者という話は見過ごせません」
「監視を強めるしかないな」
蓮は答えた。
タクマが円卓に近づいた。
「俺もジャンク・ギルドの内部事情については詳しくありません。ですが企業との闇取引に関する噂なら少し耳にしたことがあります」
「詳しく聞かせてくれ」
蓮は身を乗り出した。
タクマは記憶を辿りながら語り始めた。深層の物資流通の一部が企業の資金で密かに動かされているという噂だった。関わっているのは複数の評議員だという話も含まれていた。
「これもマリアさんのチームに伝えるべき情報だな」
蓮は言った。
灯がその様子を静かに見つめていた。
「世界は思っていたより複雑ですね」
『単純な敵と味方の図式では語れません』
ミオが答えた。
『だからこそ一つずつ丁寧に見極めていく必要があります』
灯は小さく頷いた。
「私も、もう少し勉強したいです。政治や交渉の仕組みについて」
「一緒に学んでいこう」
エマが微笑んだ。
「私が知っている範囲でなら教えられます」
ミオも隣で頷いた。
『私も一緒に学びます。知性体としての知識だけでは足りないことが増えてきました』
灯は嬉しそうに微笑んだ。
「二人で頑張りましょう」
タクマもその輪に加わった。
「俺も企業の内部事情なら教えられることがあります。お互いに知識を持ち寄れば強くなれるはずです」
「良いチームだ」
クロが満足そうに言った。
ジェイクがラムから受け取った端末を分析していた。
「本物の緊急回線だ。妙な仕掛けは見当たらない」
「信用していいということか」
クロが聞いた。
「完全にとは言わないが少なくとも今の時点で悪意は感じない」
ジェイクは端末を蓮に返した。
蓮はそれを大切に懐へしまった。
「使う日が来ないことを願うがな」
彼は呟いた。
ローレンが窓の外を見つめた。
「ジオフロントジャンク・ギルド企業知性体。関わる勢力が増えるほど、糸が絡み合っていく」
「それでも一つずつ解きほぐすしかない」
蓮は答えた。
彼は円卓に広げられた資料の山を見渡した。証拠の数々と交渉の記録が積み重なっていた。
会合の日が、また一つ近づいていた。
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第68話 完




