「決着の刻」
「レイヤー・ゼロの中には絶対に入れさせない」
ゼノンの声が通路に響いた。彼の背後に二十人を超える保安隊員が並んでいた。全員が臨戦態勢を取り武器を構えている。
「入り口を守れ」
蓮は即座に指示を出した。彼の声には迷いがなかった。
仲間たちも即座にそれぞれの持ち場へと動いた。
「ローレンとタクマは灯とミオを連れて先に進んでくれ。俺たちで時間を稼ぐ」
「わかった」
ローレンが頷いた。彼はすぐに装備を確認し直した。
灯が蓮を見た。
「兄さん――」
「行け」
蓮は短く言った。
「お前の役目はあそこだ。俺の役目はここだ」
灯は唇を噛んでから頷いた。その目には涙が浮かんでいた。
「必ず戻ってきてください」
「約束する」
タクマが灯とミオの前に立った。
「俺が必ず守ります」
彼の声には決意が込められていた。
「頼んだ」
蓮は短く答えた。
エマが端末を構えたまま蓮の隣に立った。
「私も残ります。記録係が必要でしょう」
「危険だぞ」
蓮が言った。
「わかっています。それでも、この瞬間を見届けたいんです」
エマは引かなかった。
蓮はしばらく彼女を見つめてから頷いた。
「絶対に無茶はするな」
「約束します」
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ローレンたちが光の奥へと消えていくのを見届け、蓮はパイルバンカーを構えた。
「クロ、エマ、ジェイク」
「いつでもいい」
クロがワイヤーグローブを構えた。
エマがスタン・デバイスを取り出し、ジェイクが機械腕を展開した。
「かかってこい」
蓮が低く言った。彼の視線はゼノン一人に据えられていた。
ゼノンが右手を上げた。
保安隊員たちが一斉に動き出した。
激しい戦闘が再び始まった。
蓮はパイルバンカーで先頭の隊員を無力化し、クロはワイヤーで複数を絡め取った。ジェイクの電磁パルスが隊列を乱し、エマの閃光が視界を奪う。
四人は連携しながら次々と隊員を無力化していった。だが敵の数は減る様子を見せなかった。
だが隊員の数は多かった。
じりじりと四人は追い詰められていった。
「くそ……きりがない」
クロが息を切らした。
「数を減らすことより、時間を稼ぐことに集中しろ」
蓮が叫んだ。
「向こうが目的を達するには、まだ時間がかかる」
ジェイクが電磁パルスを放ちながら答えた。
「了解した」
エマも閃光弾の残数を確認した。
「あと三発。使いどころを見極めます」
「頼む」
蓮は短く答えた。
蓮とゼノンは再び刃を交えた。
「この状況で、まだ抗うか」
ゼノンが低く言った。
「装置は止まる。お前が何をしようとな」
蓮は答えた。
「口だけは達者だな」
ゼノンが鉄片を振るった。
刃と刃がぶつかり火花が散った。蓮は僅かに体勢を崩したが即座に立て直した。
「まだまだ、こんなものじゃない」
彼は歯を食いしばりながら言った。
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その時――
岩壁の奥から光が溢れ出した。
『――止まりなさい』
ミオの声が空間全体に響いた。だがそれはいつもの声ではなかった。より深くより大きな何かと重なっていた。
保安隊員たちの動きが一斉に止まった。
「な……体が動かない」
ゼノンが驚愕の声を上げた。
『知性体がこの場を守っています』
ミオの声が続いた。
『この先にあなたたちを通しません』
蓮はその声に光の奥を見た。
ミオと灯が寄り添うようにして、立っていた。二人の周囲に結晶と同じ色の光が渦を巻いていた。光は次第に空間全体を満たしていった。
タクマとローレンが二人を守るように立っていた。
「二人とも、大丈夫か」
蓮が叫んだ。
『はい』
ミオが答えた。
『でもこの力を長くは保てません』
「急ぐ必要がある」
灯が言った。
エマは震える手で端末を構えその光景を撮り続けていた。
「こんな光景、誰も見たことがない」
彼女の声には涙が滲んでいた。
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その瞬間――
浮遊居住区の方角から巨大な震動が伝わってきた。
「装置が……起動した」
ジェイクが計器を見て、青ざめた。
『いいえ』
ミオの声が否定した。
『起動は失敗しています』
「失敗……?」
『知性体が装置への接続を拒みました。灯さんが鍵になることをはっきり拒否したからです』
灯が震える声で言った。
「私はあなたたちの、道具にはなりません」
彼女の言葉に力が込められていた。
その声が空間中に反響し保安隊員たちの体から力が抜けていった。
ゼノンが片膝をついた。
「馬鹿な……カインの、計画が……」
彼は歯を食いしばった。
「終わりだ」
蓮は低く言った。
「今日のところはな」
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保安隊員たちは戦意を失い、後退していった。ゼノンも悔しげな表情のまま、部下たちと共に闇の奥へと消えていった。
去り際、彼は一度だけ蓮を振り返った。
「次に会う時は、俺も違う覚悟で来る」
その言葉だけを残し彼は姿を消した。
戦場に静寂が戻った。
蓮は光の奥にいるミオと灯のもとへ駆け寄った。
「大丈夫か」
『はい』
ミオが微笑んだ。額には玉のような汗が浮かんでいた。
『知性体が力を貸してくれました』
灯も大きく息を吐いた。顔は青白かったが目には確かな光があった。
「私、ちゃんと拒めました」
「よくやった」
蓮は彼女の頭にそっと手を置いた。
タクマが安堵の息を吐いた。
「守り切れました」
「お前のおかげだ」
ローレンが彼の肩を叩いた。
クロが結晶の光を見上げた。
「この存在が、俺たちに力を貸してくれたということか」
『そのようです』
ミオが答えた。
『あなたたちを、信じてくれたんだと思います』
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その時エマの端末が鳴った。
「国際機関からです」
彼女は画面を見て、目を見開いた。
「藤原灯氏のインタビュー映像と今回の事件の記録――世界中に配信されています」
蓮は驚いて、彼女を見た。
「どういうことだ」
「リチャードたちが独自の判断で動いたようです」
エマは震える声で言った。
「世界が今、真実を知りました」
灯は呆然とした表情でエマを見た。
「私の……声が、世界に」
「はい」
エマは頷いた。
「これで世論が動くはずです」
ジェイクが端末で反応を確認した。
「既にコメントが殺到しています。数字はまだ動いていませんが、時間の問題です」
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深層の奥、コアの光の中で八人は互いの顔を見合わせた。
長い戦いの、一つの区切りがそこにあった。
だがそれは終わりではなく、新しい始まりだった。
世界はこれから大きく動き出す。
『皆さん』
ミオが静かに言った。
『ありがとうございました。ここまで一緒に来てくれて』
蓮は頷いた。
「まだこれからだ」
彼はコアの光を見上げた。
その輝きは穏やかで、まるで長い眠りから覚めたばかりの生き物の呼吸のようだった。
「これから、お前はどうしたい」
蓮はコアに向かって静かに問いかけた。
答えるように、光がわずかに強く瞬いた。
灯がその光を見つめながら呟いた。
「まだ、言葉にはならないみたいです。でも、確かに何かを感じます」
『きっと、これから少しずつ伝わってくるはずです』
ミオが言った。
クロが額の汗を拭いながら周囲を見渡した。
「これで、この戦場は一区切りついたということか」
「一区切りだ」
蓮は答えた。
「終わりじゃない」
タクマが結晶の光を見上げた。
「これからは、俺も違う形で戦えるということですよね」
「ああ」
蓮は頷いた。
「お前の戦い方は、これからもっと必要になる」
ローレンが全員を見渡した。
「ひとまず、ゴーストタウンに戻ろう。休息が必要だ」
「賛成だ」
クロが答えた。
新たな戦場の、次の局面が静かに幕を開けようとしていた。
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第62話 完




