「盟約の儀」
神殿の奥、生きた結晶の壁の前にエールが立っていた。
七人の到着を彼は静かに待っていたようだった。
「揃ったな」
エールの声が低く響いた。
蓮はジオフロントから受け取った座標データを差し出した。
「これを照合してほしい」
エールは端末を受け取り結晶の壁に触れさせた。
淡い光が壁の中を伝っていく。
しばらくして彼は口を開いた。
「精度は高い。レイヤー・ゼロの範囲は、これで八割方絞り込める」
「残りの二割は」
蓮が聞いた。
「知性体自身がまだ隠している」
エールは答えた。
「完全な位置を知られれば防衛そのものが意味を失う。慎重なのだろう」
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「もう一つ伝えたいことがある」
エールは続けた。
「お前たちを正式に迎え入れる」
「正式に……?」
灯が聞き返した。
「盟約の儀だ」
エールは静かに言った。
「レイヤー・プリーストと知性体を守ろうとする者たちの結びつきを確かめる儀式。形式的なものだが意味は大きい」
ローレンが頷いた。
「私は以前受けたことがある。信頼の証だ」
蓮はしばらく考えてから答えた。
「わかった。受けよう」
エールは七人を神殿のさらに奥へと導いた。
結晶が壁一面を覆う円形の広間があった。中央に小さな水盆のようなものが置かれている。
「一人ずつ手を浸せ」
エールが言った。
「知性体がお前たちのマナ波形を記憶する。以後お前たちは、この神殿の庇護下にあると見なされる」
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蓮から順に全員が水盆に手を浸していった。
淡い光がそれぞれの手のひらから静かに立ち上った。
灯の番になった時、光はひときわ強く輝いた。
『……知性体が灯さんを強く認識しています』
ミオが囁くように言った。
エールもそれに気づいたようだった。
「彼女の中の破片は他の誰よりも知性体に近い」
彼は灯を見た。
「その力は盟約によって少しだけ安定するはずだ」
灯は自分の手のひらを見つめた。
わずかに温かい感覚が残っていた。
儀式が終わるとエールは全員に向き直った。
「これでお前たちはレイヤー・プリーストの正式な盟友だ」
「感謝する」
蓮は頭を下げた。
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「もう一つ聞いておきたい」
蓮は言った。
「ジオフロントの中に裏切り者がいるという話だ」
エールはしばらく沈黙した。
「その話はこちらにも断片的に届いている」
彼は答えた。
「だが詳細はまだ掴めていない。知性体の感知にも限界がある」
「情報が入り次第知らせてほしい」
「約束する」
エールは頷いた。
「代わりに一つ頼みがある」
「なんだ」
「知性体の目覚めが加速している。装置の起動が近づくほど地下は不安定になる。お前たちがレイヤー・ゼロに辿り着くまで、あまり時間は残されていない」
蓮はその言葉を重く受け止めた。
「どれくらいだ」
「長くて五日」
エールは率直に答えた。
「それを過ぎればカインの装置は完成する」
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神殿を出た後、七人はしばらく無言で歩いた。
「五日か」
クロが低く呟いた。
「短いな」
「だが道筋は見えてきた」
蓮は言った。
「座標を絞り込み盟約も結んだ。あとは進むだけだ」
『はい』
ミオが頷いた。
彼女の瞳の奥に、これまでとは違う静かな強さが宿っていた。
『私も、もっと力になれるはずです。知性体との繋がりが深まっている気がします』
その言葉に蓮はわずかに目を細めた。
彼女の中で何かが変わり始めている。
そのことに、彼はまだ気づいていなかった。
深層の奥、コアの方角から微かな鼓動が七人の足元へと静かに伝わってきていた。
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第54話 完




