「奇襲」
ゴーストタウンに戻った蓮は座標データを全員に共有した。
ホログラムに浮かぶ数値の羅列をジェイクが読み解いていく。
「レイヤー・ゼロの位置はまだ確定できない。だが範囲は絞れる」
「エールに照合してもらおう」
ローレンが言った。
「今日中に神殿へ向かう」
『内部の裏切り者の話が気になります』
ミオが低く言った。
『もし本当なら私たちの動きは既にカインへ伝わっているかもしれません』
「だとしても止まる理由にはならない」
蓮は装備を確認しながら答えた。
「行くしかない」
七人は装備を整え直し神殿への道を歩き出した。
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境界域を過ぎ第八十層の岩肌が続く通路に入った時だった。
空気が唐突に張り詰めた。
灯が体を強張らせた。
「この感じ……」
『はい』
ミオが即座に反応した。
『電磁の波形。強い』
蓮は前方を見据えた。
「ゼノンか」
岩壁の陰から白いコートの男が姿を現した。
肩の傷は既に完治していた。
「待っていたぞ」
ゼノンの声には以前よりも深い執念が滲んでいた。
「情報を売った奴がいてな。お前たちの経路を教えてもらった」
やはり内通者は本物だった。蓮は奥歯を噛んだ。
「今日は全員まとめて片をつける」
ゼノンの右手が上がった。
周囲の岩肌の鉄分が一斉に震え始めた。
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「散開!」
蓮が叫んだ。
七人が同時に動いた。
無数の鉄片が飛来する。クロがワイヤーグローブでそれを絡め取り軌道を逸らした。
「一人じゃないぞ今回は」
クロが吠えた。
ジェイクの機械腕から電磁パルスが放たれゼノンの集束を乱す。
エマがスタン・デバイスで援護しローレンが灯とミオの盾になった。
蓮はパイルバンカーを構え距離を詰めた。
「お前の相手は俺だ」
「上等だ」
ゼノンが応じた。
激しい打ち合いが始まった。蓮の一撃一撃は確実にゼノンの動きを削っていく。だがゼノンの反撃も鋭さを増していた。
その時――
灯が両手を掲げた。
『合わせます』
ミオが囁いた。
二人の意識が共鳴する。
灯の周囲に広がったマナ場が蓮とクロを覆いゼノンの鉄片を弾き返した。
「これは……」
ゼノンの表情に初めて動揺が走った。
「二人分の力か」
「まだ終わらない」
蓮はその隙を逃さず踏み込んだ。
パイルバンカーの先端がゼノンの右膝を捉える。
行動を封じる一撃。致命傷ではない。
ゼノンの体が崩れた。
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「くそ……」
ゼノンは片膝をついたまま蓮を睨んだ。
「今日も殺さないのか」
「ああ」
蓮は静かに答えた。
「お前を殺しても何も終わらない」
ゼノンはしばらく沈黙した後、低く笑った。
「お前の妹は思ったより強いな」
彼は灯へと視線を向けた。
「今日のところは退く」
「待て」
蓮が呼び止めた。
「内通者について、お前が知っていることを話せ」
「知るか」
ゼノンは立ち上がりながら答えた。
「情報屋を使っただけだ。名前までは聞いていない」
彼はきびすを返し闇の奥へと消えていった。
戦いの余韻が通路にゆっくりと沈んでいった。
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「怪我人は」
蓮が全員を見渡した。
「軽い擦り傷だけだ」
クロが答えた。
灯はまだ息を切らしていた。
「大丈夫か」
蓮は彼女に歩み寄った。
「はい。少し力を使いすぎました」
灯は膝に手をついた。
『でもうまくいきました』
ミオが灯の肩に手を添えた。
『共鳴は確かに機能します』
灯は小さく微笑んだ。
「ミオさんのおかげです」
「二人の力があれば心強い」
ローレンが頷いた。
「だが内通者の件は放っておけない」
「神殿に着いたらエールにも伝えよう」
蓮は言った。
「今は先を急ぐ」
七人は再び歩き出した。
新たな戦いの気配が深層の奥から静かに近づいていた。
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第53話 完




